先週末、中国の『環球時報』が、戦略上重要な航空機の試験飛行が間近に迫ってきたと報じた。これを受けて、中国初のステルス爆撃機、通称「西安H-20」が間もなく公開されるのではないかという予測が相次いで出てきた。これが本当なら、非米国製のステルス爆撃機として世界初の公開となり、戦略航空戦力の競争で新時代を切り開くことになる。
現在、世界で唯一のステルス爆撃機は、1989年初飛行し、1997年運用開始したノースロップ・グラマンB-2スピリットだ。その他ステルス機と異なり、全翼機設計により、高周波低周波両方のレーダー帯での探知を制限する効果がある。その結果、やや古く、かなり大きいB-2スピリットは、最新鋭ステルス戦闘機F-35よりも探知・追跡が困難な場合が多い。
F-35 (top) and B-2 (bottom). (U.S. Air Force photo)
F-35、F-22、J-20、Su-57の各ステルス戦闘機は、高機動飛行の物理的要件で制限を受け、低周波レーダーアレイに検出される垂直尾翼など設計要素を廃止できない。しかし、レーダーは、実際のターゲティングに必要な忠実性に欠ける。つまり、ステルス戦闘機が近くにいる場合、その存在を知ることはできても、確実に撃墜する能力はない。だがステルス爆撃機が上空を飛行していても誰も気づかないはずだ。
アメリカが20年以上にわたり独占してきた重装備、深部侵入、ステルスの爆撃機技術は、終焉を迎えようとしているのかもしれない。しかし、アメリカの次世代ステルス爆撃機、ノースロップ・グラマンB-21レイダーは開発の後期段階にあり、H-20は同等の性能を有する機体になるのか、それともアメリカの過去の低観測性機と同じ程度の性能に過ぎないのか?
PLAリクルートビデオの画面キャプチャ。
中国がステルス爆撃機を開発中という噂は、2000年代初頭に出始めた。1999年にユーゴスラビア上空で撃墜されたF-117ナイトホークの残骸を中国当局が入手したとの報道と関連している。ロッキードF-117と同じような角ばったデザインの低視認性攻撃機を開発しているという噂が、その後の10年間絶えなかった。
2005年、B-2スピリットの推進システム開発に携わったノースロップ・グラマンの設計技師ノシール・ゴワディア Noshir Gowadiaが、爆撃機計画に関する情報を中国政府に売った罪で逮捕・起訴された。ゴワディアは最終的に有罪判決を受け、武器輸出管理法違反で32年の禁固刑を言い渡された。
B-2 Spirit in flight (U.S. Air Force photo)
2009年になると、中国が開発中のステルス戦闘機計画の詳細が明らかになった。このプログラムで2017年に就役した成都J-20マイティドラゴンを実戦配備した。中国がF-117に見られる初期のステルス設計要素をスキップし、F-22に匹敵する戦闘機の開発に注力するとの予測が高まる中、攻撃専用のナイトホーククローン機の噂は衰退し、B-2の流れをくむ中国のステルス爆撃機が新しい懸念材料になった。
2013年、ドイツの作家で中国航空の専門家アンドレアス・ルプレヒトAndreas Rupprechtが、中国のステルス爆撃機の基本設計と思われるレンダリング画像や模型の写真を発表し、噂の信憑性が少し増した。この双発機は、ステルス戦闘機と爆撃機の境界線を少し曖昧にしているように見え、ノースロップのB-2スピリットと、F-22の競合機だったYF-23とデザインを共有している。
この設計はB-2のような大型機ではなく、むしろ中距離戦闘爆撃機をめざす別のステルス機であることを示唆している。それでも、中国が次世代爆撃機にステルス設計要素を組み込もうとしているのは明らかだ。
Andreas Rupprecht via the Aviationist.
また当時、中国の理論的なステルス爆撃機の主翼形状は、2009年から開発されていたロシア独自の高度低観測爆撃機プログラムPAK DAのアーティストレンダリングに似ているように見えた。
2014年7月になると中国のステルス爆撃機開発のベールがはがれ始めた。国営新聞「中国日報」に、中国軍の発展を強調する特集が掲載された。そこで強調されていたのが、「敵防空網を突破できる大陸間戦略爆撃機」の開発だ。
兵装10トンを搭載し、無給油で最低8000キロ(4970マイル)飛ぶ爆撃機が必要だという。グアムの米軍事施設なら空中給油なしで十分届く範囲にある。
Artist rendering of the H-20. (Chinese internet)
2015年、中国の別のステルス爆撃機計画とされるアーティストレンダリングが、西側メディアに登場した。画像は、2013年のモデルや画像と酷似しており、中国におけるステルス爆撃機開発が成熟していることを示唆した。
中国が開発中の中距離ステルス爆撃機のレンダリング。
2016年、中国人民解放軍空軍司令官の馬暁天大将 General Ma Xiaotianは、新世代の長距離爆撃機を開発する国家取り組みを正式発表した。米国防長官室が実施した2021年評価では、この取り組みは、H-20と呼ばれる中国のステルス爆撃機の開発に言及したものであると思われる。
同評価書はまた、この新しい爆撃機はおそらく第5世代ステルス技術を採用し、「少なくとも8500km」(5281マイル)の航続距離、「少なくとも10トン」の積載量、および核兵器運搬能力を実現すると述べ、中国が2014年の『中国日報』のコラムで説明した目標の達成に成功したことを示唆している。同じ報告書では、H-20を「全翼機ステルス爆撃機 」とも表現している。
2018年、中国は、近々登場するH-20ステルス爆撃機が、アメリカ自身のB-2スピリットを彷彿とさせる全翼機形状を活用することを確認した。中国航空工業集団(AVIC)が公開した動画では、全翼機がドロップクロスの下にあり、ノースロップ・グラマンがB-21レイダーをフィーチャーしたスーパーボウルCMと驚くほど酷似した演出がなされていた。
ノースロップ社のB-21のティーザーが上、中国のH-20のティーザーが下。
中国のビデオはステルス爆撃機についてあからさまに論じてはいないが、H-20をアメリカの新型ステルス爆撃機に対する中国の回答として仕立て上げようとする意図的な努力のように思われた。
中国の「Modern Weaponry」誌に掲載されたH-20のレンダリング画像。
中国のH-20ステルス爆撃機について、現時点で明確に言えることはほとんどないが、ある程度の確信を持って断言できることがある。第一に、アメリカのB-2スピリットと同様の全翼機設計であることはほぼ間違いない。これは、ステルス性で大きな利点がある。先に述べたように、このステルス設計のアプローチは、Xバンドまたは同様の高周波数帯を活用する標的レーダーだけでなく、早期警戒低周波レーダー帯にも有効だ。
H-20は核搭載可能で、陸上ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル、長距離核戦略爆撃機からなる中国独自の核三本柱を確固たるものにすると予想されている。核三本柱は相互確証破壊(Mutually Assured Destruction)を確実にする手段と考えられる。相手国が一度の攻撃で自国の核兵器を一掃する能力を制限されるからだ。
トーマス・ニューディックThomas NewdickがThe Warzoneに寄稿した、H-20の分析では同機はアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーを搭載し、内部の回転式ランチャーで亜音速巡航ミサイルなど長距離ミサイルの搭載に特化するかもしれないと強調した。
米空軍B-52ストラトフォートレス機に搭載される共通戦略回転式ランチャー。(米空軍)
H-20の潜在的な航続距離に関する情報評価が正確であると証明されれば、巡航ミサイルはH-20とB-2の間の航続距離のギャップを埋めるのに役立つだろう。国防総省は、B-2の約7000マイルに対し、H-20の航続距離は「少なくとも」5281マイルと考えている。アメリカ本土は中国沿岸から7,200マイル以上離れており、太平洋上に給油機が存在すれば、アメリカの防衛に注意を促す可能性が生まれる。しかし、長距離かつ観測性の低い核巡航ミサイルは、距離を補い、空からの信頼性の高い核兵器運搬手段として、中国で役割を果たす可能性がある。
ノースロップB-21(上)、H-20(下)のレンダリング画像。
中国は、ステルス戦闘機1機種を配備し、2機種目を就役させるなど、軍事組織の近代化を急速に進めている。しかし、現在まで、中国は米国のような極端に低い観測性プラットフォームの能力を示していないように思われる。
中国の現在のステルス戦闘機J-20は、正面からのレーダー断面積(RCS)が非常に小さいとされているが、機体自体はアメリカのステルス戦闘機よりも観測しやすいというのが大方の見方である。専門家の評価では、J-20のRCSは0.5m2から3m2であり、F-22の0.0001m2やF-35の0.0015m2と比較される。ロシアのSu-57フェロンよりも発見されにくいが、J-20のステルスプロファイルは、同世代のステルス戦闘機と同等ではないようだ。
また、中国が小型で高ステルス性能のB-21レイダーに対抗するため、B-2の低観測能力を凌駕する機体を実現しているとの証拠はほとんどない。実際、H-20はB-2と同等のステルス性能を発揮できない可能性があると考えるのが妥当だろう。ミッションプランニングはあまり議論されていないが、実はステルス運用で最も重要な側面だ。
B-2コミュニティでは、「ミッションプランニングは主要な戦術で、ミッションプランニングの質が我々を際立たせています」と、DVIDSインタビューで第393遠征爆撃飛行隊司令官のB-2パイロット、クリストファー・コナン中佐は語ってる。
というわけで、アメリカのステルス爆撃機独占はまもなく終わるかもしれないが、そのステルス支配はまだ終わらないようだ。■
H-20: What we know about China's stealth bomber - Sandboxx
Alex Hollings | July 13, 2022
Alex Hollings
Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.
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