第12章
アードモアはフランクから、通信監視員に切り替えた。「大祭壇の制御盤を写してくれ!」。
それは目に入ったが、アードモアが見たのは当直オペレーターではなかった。代わりにいたのはカルフーンだった。制御盤の上にかがみこんでいる。オペレーターは頭を右に向けて倒れていた。アードモアは、すぐ接続を切り、ドアに飛び込んだ。
トーマスとブルックスは2位を競い、部下は絶望的に劣勢に立たされた。4番目だ。3人は最大加速度で重力シュートを駆け上がり、神殿の床に叩きつけられた。祭壇は目の前、100フィート先にあった。
「フランクに担当させていたんですが」とトーマスが言おうとした時、カルフーンが祭壇の上のレールから頭を出した。
「そこを動くな」
みんな動けなくなった。ブルックスは小声で言った。「大型投射機で私たちに照準を合わせています。気をつけてください、少佐!」。
アードモアは口の片側から言葉を漏らしながら、「わかっている」と認めた。咳払いした。「カルフーン大佐!」。
「われは偉大なるモタ卿なり。口の利き方に気をつけよ!」
「はい、もちろんです、モタ様。でも、汝のしもべに告ぐ、カルフーン大佐は汝の属性の一人ではあるまいか?」
カルフーンはこのことを考えた。「時にはな」と答えた。「そうだ」。
「ではカルフーン大佐とお話ししたいのですが」 アードモアは数歩前進した。
「動くな!」 カルフーンは投射機の上にかがみ込んだ。「白人どもにに雷を落とすぞ、気をつけろ!」
「気をつけてください、隊長」 トーマスがささやいた「奴はあれで全部を吹き飛ばせるんです」。
「知ってるよ」アードモアは声もなくそう答えると、言葉の綱渡りを再開した。しかし、何かがカルフーンの注意をそらした。振り向くと、急いで重い映写機を振りかざし、両手で操作している。すぐに頭を上げ
映写機を調整し直したようで、また操作部を押し込んだ。ほぼ同時に、何か重い体が彼にぶつかり、彼はレールの後ろに倒れた。
祭壇の床の上で、彼らはカルフーンがもがいているのを見つけた。しかし、彼の腕は押さえつけられ、足は
背の低いずんぐりした茶色の男、フランク・ミツイの手足に挟まれている。フランクの目は生気のない陶器のようで筋肉は硬直していた。
カルフーンは4人がかりで即席の拘束衣を着せられ、病室に運ばれた。「私が思うに......」トーマスは、作業員が精神病患者を下ろすのを見ながら言った。「カルフーン博士は白人を殺すように映写機を設定していた。最初の爆発はフランクを傷つけず、彼は制御をリセットするために停止しなければならなかった。それで助かったんだ」
「そうだ。でもフランクは」
「2回目の爆発は、彼が実際に空中にいるとき起こったに違いない。腕に触れたか?ゆで卵のように瞬時に凝固したんだ」
しかし、ミツイの悲劇的な生涯の幕引きに浸っている暇はなく、さらに数分が過ぎた。アードモア一行が急いで事務所に戻ると、参謀長ケンディグが冷静に通信を処理していた。アードモアは、口頭で簡単な報告を求めた。
「少佐、やつらはナッシュビルの寺院に原爆を投下しようとしました。ニアミスでしたが、市の南は壊滅状態です。ゼロアワーを設定しましたか?教区から問い合わせがありました」。
「まだだがもうすぐだ。データがないんだったら、A回路ですぐに最終指示を出す」
「はい、先にしてください」
A回路の準備ができたと報告が入り、アードモアは咳払いをし急に緊張した。「20分後に行動だ、諸君。計画の要点を確認したい」と言い出した。
偵察車両12台は、12大都市に1台ずつ割り当てられた。いや、ほとんど同じリストだが、パンアジアの軍事力が最も充実している12都市だ。偵察車による攻撃は、その地域で地上攻撃の合図となる。偵察車は例外を除いて、話している間にも、目的地上空の成層圏に待機している。
偵察車に搭載された重投射機は、地上の軍事目標、特に兵舎や飛行場などに、可能な限りの速やかな損害を与える。神官は、ほぼ無敵の存在である。神殿の投射機同様に、地上ではほぼ不死身の神官がこれを補う。そして信徒の「部隊」が、嫌がらせや狩りをする。「疑わしきは撃て」。そして、先に撃てと。相手の白目が見えるまで待つな。基本的な武器は何千回も使える。白人を傷つけることはない。動くものはすべて撃て!
「また、変なことがあっても警戒しないように言ってくれ。もし、不可能なことに見えたら、我々の仲間の一人が原因だ。奇跡を起こすのが我々の専門だ。
「以上、狩猟の心得だ」
最後の注意は、ウィルキー、グラハム、シェーア、ダウナー4人の特別任務のことであった。ウィルキーは、グラハムの芸術といえる協力を得て、特殊効果に取り組んでいたのだ。戦場での任務は4人のチームを必要としたが、通常の計画には含まれていなかった。ウィルキー自身、それがどのように機能するかは知らなかったがアードモアは彼らに偵察車両一台を割り当てた。
話している間にも、ストライカーはアードモアにローブを着せていた。ターバンを定位置に据えた。通信室とのパララジオ接続を確認し、ケンディグとトーマスに別れを告げようとした。トーマスの目つきがおかしいことに気づき、首が赤くなるのを感じた。「どうしたんだ?
行きたいんだろう、ジェフ?」
トーマスは無言だった。アードモアは、「もちろん、俺は嫌なやつだ。わかってる。でも、パーティーに行けるのは一人しかいない。それは俺だ!」
「勘違いされているようですが、隊長、私は殺しが好きではありません」。
「それで?" 俺だって同じだよ。 ただ、フランク・ミツイの帳簿は俺が片付けてやる」。二人と握手をした。
トーマスは、アードモアがパンアジア首都に到着する前に、実行の合図を出した。パイロットは、首都で戦闘が始まった後、神殿の屋根に彼を降ろした。そして、自分の任務を遂行するため、機体を切り離した。
アードモアは周囲を見渡した。神殿近くは静かで、神殿の大きな投射機がそれを示しているのだろう。パンアジア巡洋艦が着陸中に墜落するのを見た。しかし、任務中の高速で小さな偵察車は、それに気付くことができなかった。彼は神殿の中に降りた。
閑散としている。神殿の床に停まる二輪車のそばに、一人の男が立っていた。彼は近づいてきて、「ブライアン軍曹です」と告げた。「神官が、つまりロジャース中尉からあなたを待つようにと言われました」。
「よし、行こう」。車に乗り込んだ。ブライアンは小さな指を唇にあてて口笛を吹いた
「ジョエル」と叫ぶと祭壇の上から一人の男が頭を出した。「出発だ、ジョー」 その頭は消え、神殿の大きな扉が開いた。ブライアンはアードモアの横に乗り込み、尋ねた。
「どこに行きましょうか?」
「戦闘員が一番たくさんいるところを探してくれ、いや、パンアジア人だ、たくさんいるだろう」
「同じことですよ」。車は広い寺院の階段を下り、右に曲がってスピードを上げた。
通りは茂みのある小さな円形園路にぶつかった。茂みの向こうに4、5人の人影があった。茂みの奥にしゃがんでいる人影と、地面に突っ伏している人影があった。車がスピードを落とすと、アードモアはボルテックス・ライフルかピストルかわからないが、鋭い銃声を耳にした。その時、しゃがんでいた人物の一人が驚いて倒れた。
ブライアンが耳元で「あいつらはあそこのオフィスビルにいます」と怒鳴った。
ブライアンは自分の杖から細い楔状のビームを放射するようセットし、ビルの上下にビームをあおった。ピンという音が止んだ。アジア人がまだ手をつけていないドアから飛び出してきて、通りに逃げた。アードモアはビームを切り、別のセッティングにして細い明るい光でその人物を狙った。光は男に当たり、鈍く重い音がして男は消えた。その代わりに大きな油のような雲が発生し、膨張して消えていった。
「ジャンピング・ユダ! 今のは何ですか?」ブライアンは叫んだ。
「コロイド爆発だ。体細胞の表面張力を解放したんだ。この日のためにとっておいたんだ」
「しかし、何が爆発したのですか?」
「細胞内の圧力だよ。数百ポンドにもなる。行こう」。
次の数ブロックは、死体以外はなかった。しかし、アードモアはプロジェクターをオンにしたまま、スピードが許す限り、通リすぎる建物をくまなく観察した。その隙に本部に電話した。「報告はあるか、ジェフ?」
「まだ何もありません、隊長。まだ何も。早すぎる」。
ブライアンがどこに連れて行かれたかを理解する前に、開けた場所に出た。それは街のはずれにある州立大学キャンパスで、今は帝国軍兵舎に使われている。敷地に隣接する陸上競技場とゴルフ場は、空港にされていた。
ここで初めて、アードモアは、パンアジアを撲滅しようと武装したアメリカ人が、いかに哀れなほど少数であるかはっきり認識した。右側には小競り合いの列があるようだ。アジア人の犠牲が目に見えた。その数は数千にも及び、その数はアメリカ人を飲み込むのに十分だった。畜生、どうして偵察車はここを減らさなかったんだ。災難にあったのだろうか。
彼は、偵察車の乗組員が航空機に忙殺され、兵舎を掃除する暇がなかったと判断した。今にして思えば、都市ごとに、使える偵察車は全部使って、一団となって戦えばよかったのだ。無線が妨害されていると信じ、そのようにできた。もう手遅れなのか?今さら?そうだ。ゲージを投げて、国中で戦いが始まっていたのだ。今は戦わなければならない。
彼はすでに、問題を揺さぶるためにスタッフとともに忙しくしていた。アジア人の列に切り込み、主効果を全開にし、満足な量の殺戮を行った。そしてコロイド爆発モードに変更した。遅くて不器用だが、士気への効果が有利になるはずだ。
より神秘的にするためにガイドレイは省略し、キューブの深い穴で照準した。そこだ! ネズミの一匹が煙に包まれた! 射程に収めた2! 3匹!4!もう一度、何度も何度も...12体以上。
東洋人には無理な話だった。勇敢で熟練した兵士だったが、理解できないものとは戦えなかった。分断され走り、兵舎に戻った。散り散りになったアメリカ人たちから、本物の反乱軍の雄叫びに似た歓声が上がった。人影が立ち上がりアジア人の後を追った。
アードモアは再び本部に電話した。「A回路だ」。
数秒遅れで、「了解 」と返事が来た。
「全将校、注目! 有機爆発をできるだけ多く使用しろ。やつらに地獄を味あわせてやれ」 彼はメッセージを繰り返し、回路を解放した。
ブライアンに建物の近くへ行くように指示した。ブライアンは車を縁石にぶつけ、木々の間を縫うように走った。車は数フィート宙に浮き、横倒しになった。アードモアは体を起こし、立ち上がろうとした。その時、彼はどうにかして自分の杖が無事であることに気づいた。
上の扉が詰まっていた。彼は杖で切り開き、よじ登って外に出た。彼はブライアンを振り返った。「怪我はないか?」
「大したことはありません」 ブライアンは体を震わせた。「左の鎖骨にヒビが入っただけです」。
「ほら、手を握れるか?杖につかまるんだ」。彼を連れ出した。「君を置いていかねばならん。基本武器はあるか?」
「はい」
「よし、幸運を祈る」。彼はクレーターをちらっと見て、離れていった。よくぞ彼はシールドをオンにしてくれていたものだ。
数十人のアメリカ人が建物の間を用心深く移動しながら、銃を撃っていた。アードモアは、先に撃てと言われた兵士たちに2度発砲された。いい子だ。動くものは何でも撃て動くものはすべて撃て!
パンアジア航空機が低空飛行でキャンパスの端をゆっくり横切った。飛行機は、黄色い霧をまき散らしていた。ガスだ! ほんの一握りのアメリカ人を殺すため、自国の軍隊にもガスを浴びせたのだ。霧はゆっくりと地上に降りてきて、彼のほうに流れてきた。突然気づいた。
これは、自分にとっても他人にとっても重大なことだと。シールドは、ガスに対してほとんど防御にならない。空気を通す必要があるからだ。
しかし、彼は自分の出番が来たとばかりに、機体の位置を確認しようとした。だが、その前に機体が揺れ、墜落してしまった。やはり、偵察車の仕事だった。よかった。
ガスがかかってきた。迂回して走れるか?いや、息を止めて、中を走れるかもしれない。盾を頼りに走り抜けることができるかもしれない。それは無理だ。
無意識の奥底にある答えが、「変成」だった。数秒後。杖を広い円錐形に放射するようにセットし、彼は致命的な雲に穴を開けていた。まるで演奏するように、円錐を前後に振り回した。すると、霧のような粒子は無害な酸素に変わった。
「ジェフ!」。
「はい、隊長」
「ガスのトラブルは?」
「かなりあります。で...」
「気にするな。 これをA回線で放送しろ 杖を...」 その最も無形の武器と戦う方法を説明し続けた。
偵察車が上空から降下し、ホバリングし、兵舎担っている寮の上を往復しはじめた。キャンパス内は急に静かになった。そのほうがいい。どうやら、パイロットは一度にたくさんをやりすぎたようだ。アードモアは急に孤独を感じた。ガスに対処する間に、戦いは終わってしまったのだ。他の街の戦闘をチェックするために、乗り物を探した。困ったものだ。このクソ戦闘の厄介なところは、まとまりがないことだ。それは仕方がない。問題の本質なのだ。
「隊長ですか?」 トーマスからの電話だった。
「続けてくれ、ジェフ」。
「ウィルキーがそちらに向かっています」
「よかった 運が良かったのかな?」
「そうですね、でも待っててください。カンザスからの映像を見ましたが、 今はそれだけです」
「O.K.」 彼は、再び交通機関を探した。ウィルキーが到着するとき、生きたパンアジア人たちのそばにいたかった。キャンパスから1ブロックのところに、一輪車が放置され立っていた。彼はそれを利用した。パンアジア人が宮殿近くにたくさんいることを発見した。そして、戦いはアメリカ側にあまり楽しいものではなかった。彼は杖の力を借りて、個人を選んで爆発させるのに非常に忙しかった。ウィルキーが到着したとき、彼は人物を選んで爆発させるのに非常に忙しかった。
巨大な、信じられないような、完全な黒のガルガンチュアン男のような姿-高さ1000フィート以上-が、闊歩してきた。足が通りを埋め尽くし、ビルを闊歩していた。まるで、エンパイア・ステート・ビルディングが
が散歩しているかのようだ。
声がする。
その声は雷鳴のごとく、何マイルも明瞭に響いた。「立ち上がれアメリカ人!その日は近い! 弟子が来たのだ!立ち上がり、マスターを打ちのめせ!」。
アードモアは、車中でどうやってこの騒音に耐えられるのか、また、自分たちが投影の中を飛んでいるのか、それとも上空を飛んでいるのか、不思議に思った。
声は、パンアジア語へ変化した。その言葉を理解できなかった。大まかな流れはわかっていた。ダウナーは、軍の首領たちに復讐を誓った。自分の黄色い皮を守りたい者は、すぐに逃げたほうが賢明であると。彼は、もっと強調し、細部に気を配り、やつらの心理的弱点を熟知した上で、伝えていた。
グロテスクでおぞましい擬似生物は、宮殿前の公園で立ち止まり、身を乗り出すと逃げ惑うアジア人に巨大な指を触れた。男は姿を消した。もう広場に汎アジア人はいなくなった。
戦闘は何時間も散発的に続いたが、それはもはや戦闘というより害虫駆除のようだった。東洋人の一部は降伏し、多くは自らの手で死んだ。しかし、そのほとんどは、亡くなった農奴の手に殺された。トーマスからアードモアへの統合報告書は全国の掃討作戦の進展度合だったが、通信兵が中断した。「首都神官から緊急連絡です」
「繋げ」
続けて第二声、「アードモア少佐ですか?」
「はい、お繋ぎします」
「皇太子を捕らえました...」
「なんだって」
「はい、閣下。処刑の許可をお願いします」
「今のは何ですか、閣下?」
「いや!聞こえただろう?本部で会う。本人に何も起こらないよう注意するんだ」
アードモアは髭を剃り、制服に着替えてから皇太子を連れてこさせた。ついにパンアジアの支配者が目の前に立つと、顔を上げてこう言った。
「命を救えるそちらの国民は、すべて積み込んで、元の場所に送り返す」
「ご親切なことですな」
「もうお分かりでしょう、そちらは科学に騙されたのです。あなた方の文化では太刀打ちできないのです。
あなた方はいつでも自分たちを全滅させることができた、ほとんど最後の最後まで」。
東洋人は無表情なままだった。アードモアは、その冷静さが表面的なものであるように切に願い、続けた。「私があなたの仲間について言ったことは、あなたには当てはまらない。あなたを普通の犯罪者として逮捕する」と続けた。
皇太子の眉がつり上がった。「戦争したからですか?」
「いや、米国領土で大量殺人を命じたからだ。『教育的』教訓だ。あなたは他の犯罪者と同じように陪審員により裁かれる。そして首吊りの死刑にされることだろう。
「以上だ。連れて行け」
「お待ちを」
「なんですか?」
「宮殿で見たチェス問題を覚えておられるか?」
「それがどうしたというのか?」
「4手の解答をお願いできますかな?」
「ああ、あれね」。アードモアは心の底から笑った。「何でも信じるんだね。解決策などなかったんだ。ハッタリだよ」。
皇太子の冷たい自制心にヒビが入ったことは一瞬にして明らかだった。
彼は裁判を受けなかった。翌朝、依頼していたチェス盤上で頭を抱えて倒れているところを発見された。
(第12章おわり)
(SIXTH COLUMN完)
以上SIXTH COLUMNはいかがでしたでしょうか。第一章からあらためてまとめておきます。いわれるほどレイシストとの印象はなかったのですが、いかがでしょうか。ウィルスなどすでに人種別に効果が異なる「生物兵器」が出現していますからね。出版のお話があればぜひ当方までご連絡ください。 なお、次のプロジェクトとして同じハインラインのSTARSHIP TROOPERSの訳出を進めます。同作は新旧翻訳版が出ていますが、自分の手でやてtみたいためです。サンプル版を近日中に掲載しますので、ご感想をぜひいただきたいです。
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