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SIXTH COLUMN 第4章 軍事作戦から宗教活動へ意外な展開がハインラインらしい

 第4章 

それから2日間、アードモアは自室で食事をとり、簡単な面談以外は拒否し、ほとんど独りで過ごしていた。自分の過ちをはっきりと認識できた。他者の過ちが大虐殺を招いたことに象徴的な罪悪感を感じていた。

 しかし、問題は残っていた。第六列を作ることにしたのは正しかった。第六列!表面的には支配層が作り上げたパターンに合致しながら、最終的に支配層を崩壊させる手段。何年かかるかわからないが、直接行動という悲惨な間違いは繰り返してはならない。

 彼は、トーマスの報告書のどこかに、自分が必要とするアイデアがあると直感的にわかっていた。何度も聞き返したが、暗記しているにもかかわらず、どうしても理解できなかった。「あいつらはアメリカ的な文化はすべて排除している。学校はなくなり、新聞もなくなった。英語で何かを印刷すると重罪になる。ビジネス文書全点を自国語に翻訳する制度を早急に確立すると発表しました。それまでの間、郵便物はすべて必要に応じて承認されなければならないんです。宗教的な会合を除いて、すべての集会は禁止されました」。

 「インドでの経験の結果だろう。奴隷を黙らせるためだ」。彼自身の声だった。再生すると不思議に聞こえる。

 「そうでしょうね。歴史の事実として、成功した帝国はすべてその土地の宗教を容認してきたのではないでしょうか」

 「そうだね。続けて」

 「やつらのシステムの本当の強さは、登録方法にあると思います。彼らはどうやらそれを実行する気満々で、他の事柄を差し置いて、それに邁進したらしい。その結果、米国は一つの大きな収容所になり、看守の許可なしに移動したり、連絡を取ったりすることはほとんど不可能になってしまいました」。

 言葉、言葉、そしてもっと言葉!。何度も繰り返すうちに、意味がわからなくなった。

もしかしたら、報告書には何もないのかもしれない。

 ドアをノックする音に反応した。トーマスだった。「皆から話して来いといわれました」トーマスは気まずそうに言った。

 「何について?」

 「ええと皆、談話室に集まっています。少佐と話したがっています」

 また会議か、しかも今回は彼が選んだわけではないのだ。まあ、行くしかないだろう。 「皆に伝えてくれ、すぐ行く」

 「了解しました」

 トーマスが去った後、しばらく座っていたが、引き出しに行き、サービス用のサイドアームを取り出した。誰かが自分の許可なしに総会を招集したという事実そのものに、謀反の匂いがした。バックルで締め、スライドを試したが、すぐベルトを外し、引き出しの中に戻した。この騒ぎでは役に立たない。

 彼は談話室に入り、テーブルの前の椅子に座り、待った。

「あの」

 ブルックスが周りをちら見して、他に答えたい人がいないか確認し、咳払いをしてこう言った。

「あの、私たちが従う計画があるのかお聞きしたいのです」。

 「まだない」

 「あります!」カルフーンだ。

 「はい、大佐?」

 「ここで手をこまねいていても意味がない。こっちには世界最強の武器がある。それを操作する者が必要だ」

 「それで?」

 「ここを出て南米に行く!そこで、高性能兵器に関心を持つ政府を見つけるんです」

 「それで米国にどんな利益が生まれるのですか」

 「それは明らかです。帝国は間違いなくこの半球全体に勢力を拡大する。予防戦争に関心を持たせるんだ。あるいは、難民の軍を立ち上げることもできるだろう」

 「だめだ!」

 「残念ながら、あなたはどうすることもできないのです、少佐」その口調には悪意ある満足感が漂っていた。

 彼はトーマスに向いた。「君はこの件に賛成するか?」

 トーマスは不満そうな顔をした。「もっといい提案かと思ったのですが...」

 「ブルックス博士は?」

 「そうですね...実現可能に聞こえます。自分はトーマスと同じように感じています」

 「グラハム?」

 男は沈黙で答えた。ウィルキーは顔を上げて、また目を逸らした。

 「ミツイ?」

 「外に戻ります。 仕事が残ってるのです」

 「シェーア?」

 シェーアの顎の筋肉が震えた。「隊長についていきます」

 「ありがとう」 彼は他の者に向き直った。「『ためだ』と言ったんだ、本気だぞ。君たちの誰かがここを去れば、宣誓に違反することになる。それはトーマスも同じだ!この件に関して独断で言ってるんじゃない。君の提案は私が中止させた襲撃と全く同じだ アメリカ国民が パンアジアの人質である限り、我々は直接軍事行動をとれないのだ!内部から攻撃しようが、外部から攻撃しようが、何千、何百万という罪のない人たちが犠牲となるんだ」

 彼は非常に興奮していたが、自分の言葉がどんな影響を及ぼすのか、周囲を見渡す余裕はあった。彼は皆を取り戻した、あるいは数分後には取り戻そうとしていた。カルフーン以外は。彼らは動揺していた。

 「あなたが正しいとして」ブルックスが重々しく話してきた。「そのとおりだったらわれわれにできることがあるでしょうか」

 「それは前に一度説明したとおりだ。『第六列』と呼ぶものを形成し、身を潜め相手の弱点を研究し、それに取り組むのだ」

 「なるほど。それは必要なかもしれない。しかし、それは人間というより神々に近いある種の忍耐が必要です」

 その時、答えがそこまで来ていた。何だったっけ?

 「絵に描いた餅ですな」カルフーンの言葉だ。「あんたは牧師になるべきだったんだよ、アードモア少佐。我々は行動が好きなんだ」

 これだ!これだ!これだ!

 「ほぼ正しい」とアードモアは応じた。「トーマスの報告を聴いたか?」

 「プレイバックを聴きました」

 「白人が組織化するのを許されている場所を覚えているか?」

 「いや、一つもなかったと記憶していますが」

 「ないだって?集会が許可されているところがない?」

 「そうだ!」 トーマスが言い出した 「教会だ!」

 アードモアは、その言葉が理解できるまでしばらく待ってから、やさしくこう言った。

 「新しい宗教を立ち上げる可能性について考えたことはないか?」

 短い、驚きの沈黙があった。カルフーンがそれを破った。

 「この男は気が狂っている!」。

 「落ち着いてください、大佐」アードモアは穏やかに言った。「おかしくなったと思われても仕方がない。私たちが望んでいるのはパンアジアに対する軍事行動なのに、新興宗教を設立するというのは、確かに狂っているように思えるだろう。しかし、考えてみてください。私たちが必要としているのは、戦うための訓練と武装組織なのです。それと、活動全体を調整する通信システムです。そして

パンアジアに疑われないように、パンアジアの目の届かないところで、すべて行わなければなりません。宗教団体なら、すべてが可能となる」

 「そんなバカな!私は何もしません」

 「どうか大佐。あなたはとても必要なのです。通信システムですが、.想像してみてください。この国のすべての都市の寺院を通信システムで結び、すべてがここシタデルで接続される様子を想像してみてください。このシタデルで全部つなぐんです」。

 カルフーンは鼻で笑った。「そうだ、アジア人が君の言うことを全部聞いているんだ!」カルフーンは鼻で笑った。

 「だから大佐、あなたが必要なのです。ラジオのようなもので、追加スペクトル1つで動作し、あいつらの機器で検出できないようなものです。それとも、できないんですか?」

 カルフーンは再び鼻で笑ったが、イントネーションが前と違っていた。「もちろん、できますよ。初歩的なことです」

 「それこそが、あなたが必要な理由なのですよ、大佐」これは、広告コピーを書くよりもひどい。「しかし、他の人間には奇跡のようなものです。宗教には奇跡が必要です。あなたはパンアジア人が理解できないような、超常現象と思われるような、あなたの才能さえも蝕む効果を生み出すことを要求されることになる。超常現象だと思われるだろう」。カルフーンはまだためらっていたが、こう付け加えた。

 「確かにできます、親愛なる少佐」。

 「よろしい、傍受や発見されない通信手段はいつまでに作ってもらえますか?」

 「はっきり答えられませんが、そう長くかからないでしょう。少佐、私はまだあなたの計画に意味を見出せませんが、あなたの研究に目を向けます」。彼は立ち上がり、出ていった。

 「少佐?」 ウィルキーが注意を促した。

 「なにかな?ウィルキー」

 「そのような通信システムなら設計できます」

  「しかし、この仕事には、すべての才能をかき集めなくちゃね。君にもいろいろとやってもらうよ。さて、残りの計画だが、こんなことを考えている。この案は大まかなもので、完成度が高くなるまで、みんなで意見を出し合ってほしい。可能な限り完璧なものになるまで。

「『福音主義』宗教を立ち上げ、人々を集客するために、あらゆる手段を講じる。礼拝に来るようにする。そして、その中から信頼できる人を選び、軍隊に入れる。教会では助祭か何かにしておけばよい。慈善事業が中心だ。ウィルキーは変身プロセスで参入する 。君は貴金属を大量に生産するんだ 主に金だ。 すぐに現金になる。私たちは貧しい人々や飢えた人々を養う。パンアジア人がたくさん供給してくれた。すぐにでも、彼らが大挙してやってくる。

 「しかし、ここまではまだ半分だ。われわれは、奇跡を大々的に起こす。白人を感動させるだけでなく、主や支配層を混乱させるんだ。 あいつらが理解できないことをやって不安にさせるんだ。あいつらに敵対はしない。わかるかな?我々はあらゆる面で帝国の忠実な臣民でありながら、あいつらにできないことをして動揺させ、不安にさせるのだ」

 考え抜かれた広告キャンペーンのように、彼の頭の中で形作られていった。「総攻撃の準備が整う頃には、奴らは意気消沈し、我々を恐れ、半ばヒステリックになっているはずだ」

 熱意が伝わり始めていたが、この計画は皆の思考習慣と多かれ少なかれ異質な視点で考えられたものだった。「これはうまくいくかもしれません、隊長」。とトーマスは言った。「うまくいかないとは言わないけど、どうやって始めるんですか?アジア人行政官は、突然の新しい宗教の出現にネズミの臭いを感じませんかね?」

 「そうかもしれないが、私はそうは思わない。西洋の宗教はすべて、あいつらにとっては同じようにねじ曲がったものに見えるんだ。私たちが何十もの宗教を持っていることをあいつらは知っているが、ほとんど何もわかっていないのだ。この不干渉が私たちに役立つ。あいつらは私たちの制度についてあまり知りない。カルトは、半ダースほどあるが、そのうちの1つに過ぎない。南カリフォルニアに一夜にして湧き出たカルトのように見えるだろう」

 「でも、その『湧き出る』っていうのは......どうやって始めるんですか?シタデルを飛び出して黄色人種の少年に声をかけて、『私は洗礼者ヨハネです』なんて言えないでしょう」

 「うん、できないね。 その点は解決しなければ。誰かアイデアはないか?」

 この後の沈黙には、強烈な集中力が満ちていた。グラハムが言った。「ビジネスを始めて注目を浴びるまで待つんだ」

 「説明して」

「ここには、小規模な活動なら十分な人数がいます。もし寺院があれば一人が神父になり、他の人は弟子か何かになればいい。そうすれば、ただ注目されるのを待てばいい」 

 「ふーん、何か考えているな、グラハム。しかし、我々は最大限の努力をする。私達は全員司祭と祭壇係になる。そしてトーマスを外へ送り仲間を集める.. 巡礼者として送る。ホーボーたちに噂を流すんだ。『弟子が来る』とね」

 「どういう意味ですか?」シェーアが訊ねた。

 「まだ何もない。今は。その時が来れば、そうなる。いいか、グラハム、おまえは芸術家だ。数日間、左手で夕食をとれ。右手はローブや祭壇の小道具のアイデアのスケッチに忙しいぞ。神殿の内外装はほとんどおまえ次第だ」

 「神殿はどこにあるのですか?」

 「さて、これは問題だ。シタデルを完全に放棄しない限り、ここからそれほど遠くないところのはずだ。便利ではない。基地と研究所のため必要だが、寺院は近すぎてはいけないんだ、この山腹に特別な注意を引くわけにはいかないからだ」。アードモアはテーブルをたたいた。「難しい問題だ」。

 ブルックス博士が「ここを神殿にしたらどうでしょう」と提案した。

 「なんだって」

 「もちろんこの部屋ではないですよ。最初の神殿をシタデルのすぐ上に置くのはどうでしょう?そうすればとても便利でしょう」

 「そうだね、博士、でも不健康な注目を集めないかな。ちょっと待って!言いたいことがわかった」 彼はウィルキーに向き直った。「ボブ、シタデルの存在を隠すためにシタデルの上にマザー・テンプルがあるとして、レドベター効果でシタデルの存在を隠せせないか?そんなことができるのか?」

 ウィルキーはいつになく困惑し、コリー犬のような顔をした。「レドベター効果では無理です。レドベター効果を使いたいんですか?そうでないなら、磁力線の中にタイプ7のスクリーンを取り付ければ電磁計器が真っ白になるように、磁気重力スペクトルでタイプ7のスクリーンを装備するのは難しくないです。電磁波が完全に遮断されんですよ」

 「もちろん、何を使おうがかまわないさ。よし、それならおまえがやれ。自分たちはここで寺院を設計しすべての材料を揃えて、下で組み立てる準備をする。それから地上に出て、できるだけ早く完成させるんだ。どれくらいの時間がかかるかわかるか?自分の経験ではビル建設は無理だな」。

 ウィルキーとシェーアが小声で相談した。すると、ウィルキーが「大丈夫。チーフ、力仕事は心配しないでください。」。

 「どんな仕事だって?」

 「あなたの机の上に、その件のメモがありますよ。私たちが開発した牽引力と圧力制御です」

 「そうなんです、少佐」とシェーアは付け加えた。「それは大丈夫です。この仕事は私がやります"。トラクターとプレッサーで

アグレヴィティック・フィールドのトラクターとプレッサーがあれば、ダンボール模型を組み立てるより長くはかかりません。本番の前にダンボール模型で練習しておくんです」。

 「OK諸君」と、アードモアは微笑みながら同意した。かなりの重労働だ。「これが聞きたかった。パウワウ集会は一時休会とする。

今のところ。さあ始めてくれ。トーマス、こっちに来てくれ」

 「ちょっと待ってください」 ブルックスが立ち上がった。二人は話しながらドアを出た。

 シタデルの山上に神殿を建てるという仕事は、シェーアの楽観主義とは裏腹に、予想外の頭痛の種と判明した。この小集団で誰も大規模工事を経験したことがなかった。アードモア、グラハム、トーマスの3人に至っては、全く知らなかった。トーマスは、大工仕事など、手先の器用な仕事をたくさんしていた。カルフーンは数学者だ。そのような下働きには向かない気質なのだ。ブルックスは生物学者であって、技術者ではない。ウィルキーは専門に関連する分野では優秀な物理学者だった。

 しかし、ウィルキーは、橋をかけたこともなければ、ダムを設計したこともなく、汗を流す男たちを束ねたこともない。それでも、この仕事は彼に委ねられた。シェーアには、大きな建物を建てる能力はなかったが、彼は小さなもの、工具、型紙など、機械工場に必要なものを考えていた。大きな建物の模型を作ることはできても、重工業は分からない。

 ウィルキーに任せた。

 数日後、ロール状の図面を小脇に抱えてウィルキーがアードモアの事務所に現れた。

 「あの、隊長」

 「ああ、入ってくれ、ボブ。座ってくれ。なにかあったのか。神殿建設はいつから始めるんだ?ここを見てくれ、シタデルが寺院の下にある事実を隠すために他の方法を考えていたんだ。 祭壇をアレンジすれば...」

 「失礼します、隊長」

 「なに」

 「どんなしかけでもデザインに取り入れますが、まず設計について知る必要があります」

 「それは君の問題だろう。君とグラハムのね」

 「そうです。しかし、どれくらいの大きさにしたいんですか?」

 「大きさ?ああ、正確にはわからない。大きくなくちゃね」。アードモアは両手で床、壁、天井を一望した。「印象的でなければならない」

 「最大寸法で30フィートはどうでしょう?」

 「30フィート?そんなバカな! ソフトドリンク売り場じゃなくて、偉大な宗教の母なる寺院を建てるんだよ。もちろんそうではないけど、そういうふうに考えなければならない。目をつぶさせるんだ。何が問題なんだ?材料か?」

 ウィルキーは首を横に振った。「いいえ、レドベター型変成器なら材料は問題ではないんです。材料は山そのものを使えばいいんです」。

 「そうだと思ってた。花崗岩の大きな塊を切り出し、トラクターと加圧ビームを使って

巨大なレンガのように積み上げるんだ」。

 「ダメなんです」

 「ダメ? なぜ?」

 「まあ、できるけど、完成したらたいしたことなさそうですし、どうやって屋根にするのかわかりません。やろうとしたのは、レドベター効果を切断や採石に使うのではなく

欲しい材料を作る、つまり変換することです。花崗岩の主成分はケイ素酸化物です。

この2つの元素は周期表の下限に近いので、少々複雑なのです。よほど苦労して余分なエネルギーを取り除かない限り、その量は膨大なものになります。メンフィスパワーパイルとほぼ同じ量です。その電力をすべて抜き取る手配をしない限り、今のところ、どうすればいいのかわからないのですが......」

 「要点を言ってくれ」

 ウィルキーは傷ついた口調で答えた。「周期スケールの上か下か、あるいはそのどちらかの方向への変換がその逆に、エネルギーを吸収します。前世紀の中頃に、前者の方法が発見されました。原子爆弾はこの方法をベースにしています。しかし、建築材料の変換を行うには、原爆や原子爆弾のようにエネルギーを放出するんじゃなくて、エネルギーを収する必要があるんです。原爆やパワーパイルのようなエネルギーは出したくない。それは恥ずかしいことです」

 「ソルを考えるべきだろ」

 「だから2種類目のエネルギー吸収型を使います。バランスをとるんです。例えばマグネシウム。シリコンと酸素の間の結合エネルギーは...」

 「ウィルキー!」

 「何でしょう?」

 「俺は3年生までしかマスターしてない、 と思ってくれ。さて、必要な材料を作ることができるのか、できないのか?」

 「作れます」

 「じゃあ、どうしたら支援できる」

 「そこで隊長、屋根をどうやってつけるかの問題と大きさです。30フィートじゃだめだってっておっしゃいましたが......」。

 「全く駄目だ。北米博覧会を見たか?ジェネラル・アトミックスの展示を覚えている?」

 「写真で見ました」

 「あれと同じくらい派手で印象的なのがいい、ただ大きいだけだ。なぜ、30フィートにするんだ」

 「6×30パネルが最大で、通路の曲がり角を考慮してドアから押し出せます」

 「偵察車のリフトで上げるんだ」

 「それも考えました。幅13フィートのパネルが入るのはいいのですが、最大長は27フィートしかありません。格納庫とリフトの間に曲がり角があるんです」。

 「うーん、なら、その魔法のギミックで溶接できないか?下で神殿を分割して地上で組み立てては?」

 「それも考えました。お望みの大きさの壁を溶接することは可能でしょう。しかし、少佐、どの程度の大きさの建物が必要なんですか?」

 「出来るだけ大きく」

 「でも、どれくらいの大きさがいいんですか?」

アードモアが言うと、ウィルキーは口笛を吹いた。「それだけの壁を作るのは可能でしょうが、屋根をかけるのは無理そうです」。

 「そのくらいのスパンの建物を見たことがあるような気がするんだが」

 「そうです、もちろんです。建設技師や建築家、重工業の力を借りて、必要なトラスを作るれば、いくらでも大きな寺院を建ててあげますよ。しかし、私とシェーアだけでは、重機やトラクターを使っても無理だ。申し訳ないが答えが見当たりません」。

 アードモアは立ち上がり、ウィルキーの腕に手をかけた。「答えがまだ見えないということか。心配するな、ボブ。君が作ったものは何でも受け取る。だが、覚えておいてくれ......これが我々の最初の公開になるんだ。

多くのことがそれに左右されるんだ、ホットドッグ屋台じゃ君主の印象は悪くなる。 出来るだけ大きなもの大ピラミッド並の立派なものがいい、でもそんなに長くかけずにね」。

 ウィルキーは心配そうに言った。「やってみます。戻って考えてみます」。

 「よろしい」

 ウィルキーが去ると、アードモアはトーマスに向かった。「どう思う、ジェフ?要求がきつすぎるかな?」

 トーマスはゆっくり言った。「なぜ、少佐は神殿をそこまで重要視するんですか?」

 「第一にシタデルの完璧な隠れ蓑になるからだ。ここに座って老衰していくだけじゃないことをするんなら、多くの人がここに出入りすることになる そのような状況で場所を秘密にしておけないから、理由をつけて隠蔽しなければならない。教会の建物にはいつも人が出入りする。だから隠蔽したんだ」

 「それはわかります。でも最大寸法30フィートの建物でも秘密の階段を隠せます。

同じように展示場みたいなものも隠せますよ」。

 アードモアはもじもじしていた。くそっ、自分以外に広告の価値を見出せるものはいないのか?「いいかい。ジェフ、この取引は最初に正しい印象を与えるかどうかにかかっているんだ。もし、コロンブスが10セントを要求してきたら宮殿から放り出されていただろう。だが、彼は王冠の宝石を手に入れた。我々は、印象的なフロントを持つ必要があるんだ」。

 「そうですね」トーマスは納得せず答えた。

 数日後、ウィルキーがシェーアと外出の許可を求めてきた。遠くへ行くつもりはないとわかったので、アードモアは、細心の注意が必要だと強調した後、許可を出した。

 しばらくして、研究所に向かうメイン通路を歩いていると、ふたりに遭遇した。研究室に向かっていた。花崗岩の巨石を持っていた。シェーアがトラクターと、ポータブルのレドベター投射機が発生する圧力で、壁や床を支えており、投射機を肩に担いでいる。ウィルキーは岩にロープを巻きつけ、まるで牛のように誘導していた。

 「おんやもう」アードモアが言った。「それは何だ?」

 「えー、山の一部です」

 「なるほど。でも、どうして?」

 ウィルキーは神妙な顔つきになった。「少佐、後でお時間を頂けませんか?お見せしたいものがあるんです」

 「今は話したくないんだな。いいよ」

 ウィルキーから電話を入り、来るように頼まれ、トーマスにも来るよう勧めてきた。

工作室に到着すると、カルフーン以外の全員が揃っていた。ウィルキーは皆に挨拶して、「あなたの許可を得て、始めますよ、少佐 」と言った。

 「そんな堅苦しいこと言うな。カルフーン大佐を待たなくていいのかな」

 「招待したんですが、断られました」

 「なら進めなさい」

 「了解しました」。ウィルキーは皆に向かって 「この花崗岩の破片は頭上にある山の頂上の一部だ。どうぞ、シェーア 」

 ウィルキーはレドベター投射機に陣取った。シェーアは投影機の前にいた。アードモアが識別できないな照準器やその他の装置を特別に取り付けたもので、シェーアは2つのスタッドを押すと鉛筆のような光線が飛び出した。

 それをノコギリのように使い、岩のてっぺんを切り落とした。ウィルキーは、切り離された部分をトラクターとプレッサーの組み合わせでキャッチし、脇に移動させた。

 石は平らで、鏡のように光っていた。「これが神殿の土台」とウィルキーは言った。

シェーアは、ペンシルビームで彫り続け、必要に応じてプロジェクターを移動させた。その結果四角錐の頂上が完成した。「もういいよ、シェーア」。ウィルキーが言った。「壁を作ろう。表面を整えよう」。

シェーアは投射機で何かした。ビームは見えないが、平らな上面が黒くなった。「カーボンです」ウィルキーが告げた。「工業用ダイヤモンドだろう。あそこが作業台だ。OK、シェーア」。ウィルキーは切り離された塊を「作業台」の上に戻し、シェーアがそれを切り落とした。それは溶けて、平らな面に滴り落ち、端に広がって止まった。白い金属のような光沢がある。シェーアは、溶けた石を角の部分からつまんで、万力のように使って石に固定した。もう1つは動く楔(くさび)として使い、1つ1つの角を上に向けていった。すると2フィート四方、深さ1インチの浅く開いた箱になっていた。ウィルキーはそれを脇にそっと置いて、空中に吊るした。

 この作業を繰り返すと、今度は箱ではなく一枚のシートが出来上がった。ウィルキーはそれをどけて、箱を台座の上に戻した。「七面鳥の詰め物だ」と、ウィルキーは宣言した。彼は、切り落とした塊を、開いている箱の上の位置に戻した。シェーアは切り落とした塊を箱の中に入れて、ビームを照射した。それは溶けて、箱の底に広がった。「花崗岩は、実質的にはガラスなんです」。「成形ガラスがほしいので、発泡させるため気体を作りますが、ほんの少しの変成を除いては、何もしない。窒素を一杯やろうか。シェーア」。軍曹は頷き、一瞬だけ照射した。浅い箱の縁を埋め尽くすように泡立ち、固まった。

 ウィルキーは、空中にある簡単なシートを引っ張り出し、そのシートが満たされた箱の上に浮かんでいるのを確認した。やや不揃いだが、カバーとして敷き詰められるようになった。「アイロンをかけてくれ、シェーア」。

 シーツは赤く光り、見えない手で平らに押され、定位置に収まった。シェーアは、投射機を動かしながら箱の蓋と箱を溶接していく。それが終わると、ウィルキーは

台座の端に置いた。プロジェクターのコントロールは、A にセットしたまま、部屋の奥に行った。ベンチの上に何かあり、布で覆われている。

 「時間を節約するためと練習のために、先に4つ作っておきました」と説明し、布を剥がした。すると、先ほど作ったばかりのパネルと同じものが何枚も出てきた。彼はそれには触れず、投射機で1枚ずつ持ち上げ新しく作ったパネルを最初の面、台座を底にして立方体を作った。ウィルキーは自分の投射機に戻り

シェーアが継ぎ目を溶接する間、その構造体を支えていた。「シェーアは、私よりずっと正確です。難しいところは全部彼に任せているんです。よし、シェーア、ドアはどうだ?」

 「大きさは?」軍曹は初めて話すように唸った。

 「君の判断で決めてくれ。8インチの高さなら大丈夫だろう」。

 シェーアはまた唸りながら、先に階段を彫り始めた斜面の側面に長方形の開口部を彫った。

 それが終わると、ウィルキーは「ボス、これがあなたの神殿です」と言った。この巨石には、最初から最後まで人の手が入っていない。

 拍手喝采は5人分以上にも聞こえた。ウィルキーはピンク色になり、シェーアは顎の筋肉に力を入れた。全員が周りに群がった。ブルックスは「熱いか」と聞いた。

 ミツイは「いいや、触ったけど」と答えた。

 「そういう意味じゃないんだ」

 ウィルキーは、「レドベター法では、『熱い』とは言わない。全部が安定同位体なんだ」と言った。

 アードモアは、綿密な検分から立ち直った。「全部、屋外でやるんだよね?」

 「少佐、大丈夫ですか?もちろん、下で作業して、上で小さなパネルから組み立てることもできます。しかし、それでは、大きなパネルを一から作るのと同じように時間がかかってしまいます。小さなパネルで屋根を組み立てるのはどうでしょう。このようなサンドイッチパネルは、最も軽量で、最も強度があり、最も剛性の高い構造体です。大きな屋根のスパンという問題があったからこそ、このシステムを開発したのです」。

 「君のやり方でやってくれ。自分が何をやっているのか分かっているはずだ」

 「もちろん」、ウィルキーは認めた。「こんな短期間で完成させられません。これは殻に過ぎないんです。ドレスアップするのに何年かかるかわかりません」。

「ドレスアップだって」とグラハムは訊ねた。「せっかくシンプルな形なのに、なぜ飾り立てるのか。立方体は、最も純粋で美しい形のひとつだ」。

 「グラハムの意見に賛成だ」とアードモアはコメントした。「これこそ、君の神殿だ。これほど効果的なディスプレイはない。途切れることのない大きな塊が必要だ。シンプルで効果的なものを手に入れたらそれを汚してはいけない」。

 ウィルキーは肩をすくめた。「気づきませんでした。派手なのがいいんじゃないんですか?」

 「これは派手だよ。でもね、ボブ、ひとつだけ気になることがある。批判してるわけじゃないんだが教えてくれ、なぜ外に出るチャンスを使ったんだ? 使っていない部屋に入り、壁のコーティングを剥がし、その魔法のナイフで山の中心から花崗岩の塊を切り出せばよかったのに」。

 ウィルキーは雷に打たれたような顔をした。「それは思いつきませんでした」。


(第4章終わり)








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