Boom Supersonic
超音速旅客機「オーバーチュア」は、民間向けに構想されたものだが、ノースロップ・グラマンが軍事用途に注目している。
ノースロップ・グラマンとブーム・スーパーソニックは、将来の超音速旅客機「オーバチュア」の派生型を、米軍および同盟軍向けに開発するため協力すると発表した。契約合意は、英国で開催中のファーンボロ国際航空ショーで最終決定されたが、両社パートナーシップは、ブーム・スーパーソニックにとって民生・軍用ニーズの超音速飛行を進めるため米空軍と協力したことはあるが、防衛産業と直接つながる初めてのケースとなる。
ノースロップ・グラマンが発表した公式発表によると、今回の共同契約は、米軍と同盟国に新しい超音速航空機を提供することが目的とある。特殊任務用航空機は、ブームのオーバチュア機を出発点とし、ノースロップ・グラマン製の空中防衛システムを搭載する予定である。発表では、オーバーチュアは「即応性」のある任務で必要な速度を軍に提供できるとしている。
「特殊機能を備えたこの航空機は、医療品配送や緊急医療避難、あるいは従来機よりも速い広域監視に使用できるだろう」と発表されている。「また、特殊任務用のオーバチュアは、各種シナリオで他の航空機材や地上資産を調整するのに使用される可能性もあります」。
Breaking Defense誌もこの共同研究を報じており、ノースロップ・グラマンの航空システム担当社長であるトム・ジョーンズTom Jonesに取材している。ジョーンズは、オーバチュアの積載量が大幅増加を高く評価している。しかし、ジョーンズは、このようなプログラムの要件がまだ理解されていないことを自ら認めた上で、次のように述べた。
オーバーチュアの軍用任務は、広範囲に及ぶはずだ。このことは、ブーム・スーパーソニックと軍の関係がつい最近開花し始めたことも重要な点だ。コロラド州デンバーを拠点とする新興企業の同社は2014年に設立され、超音速飛行の研究開発を中心としており、オーバチュアのコンセプトは商業市場向けを主にに開発されている。「ベイビーブーム」と呼ばれる「オーバーチュア」の3分の1スケールの飛行プロトタイプ機が2020年10月には、初めて公開された。
「Overture」旅客型のレンダリング画像。Boom Supersonic
CEOのブレイク・ショールBlake Schollが設立したブームは、移動時間を実質的に半分にすることを目標としている。ファーンボロ国際航空ショーでのショールの発言によると、同社の旅客機コンセプト(65〜85人乗り)は、洋上でマッハ1.7、陸上でマッハ0.94で飛行し、航続距離は4,250カイリになる。しかし、今回のノースロップ・グラマンとの契約が成立する以前からオーバチュアには米空軍が関心を寄せていた。
Credit: Boom Supersonic
空軍はブーム社と2020年2月より提携し、特に政府の幹部飛行を目的としたオーバーチュアを検討していた。超音速機は、莫大な金額を支払ってプライベートフライトを利用している世界の富裕層にとって、時間を節約する点で非常に魅力的であるため、この提携は大きな驚きを呼ばなかった。空軍は、オーバーチュアを利用して、政府要人を現在使用中の既存旅客機型よりはるかに速く世界各地に移動させることができる。実際、空軍はこの潜在的な能力に非常に興味を持ち、エアフォース2後継機計画からこの研究に資金を振り向けた。
「Overture」の以前のレンダリング画像。Boom Supersonic
2017年、ロッキード・マーティンはエアリオン(当時はブームの競合企業と見られていた)と手を組み、超音速ビジネスジェット機「AS2」を開発した。その後、ロッキード・マーティンはエアリオンとの提携を更新しないことを決め、ボーイングがその座に就いた。
これらの提携には、現在のノースロップ・グラマン社とブームの提携を彷彿とさせるものがある。ロッキード・マーティン=エアリオン提携が発表されたとき、軍事的応用の可能性には、似たようなものがあったためだ。AS2を軍用化する計画はなかったが、マッハ1.4の速度と流線型の機体は、現在オーバチュアが潜在的に提示している速力と監視・電子戦能力の余地を軍に提供できたはずだった。しかし残念ながら、2021年、エアリオンはAS2計画を進める資金の調達に苦戦し、同社を清算することが発表された。
ロッキード・マーティンがエアリオンと協力すると発表されたとき、本誌は超音速輸送機の軍での活用で多くの方法を提示したが、ノースロップ・グラマンとブームの連合が提唱する潜在的用途と一致している。
今回の発表で示唆された軍用仕様「オーバーチュア」の高速輸送用途には、空軍の主要目標である貨物や人員の高速輸送が含まれる可能性がある。空軍は、有事の際に人員や貨物を世界中に素早く移動させる能力を実現するために、Space-X社の垂直離着陸型などのロケットに注目しているが、オーバチュアのような長距離超音速航空機は、需要の一部を、実現する可能性がある。
「Overture」の以前のレンダリング画像。Boom Supersonic
オーバチュア商用機は2024年に生産開始、2026年に飛行試験開始、2029年に乗客輸送開始の予定だが、特殊任務仕様のスケジュールは明らかにされていない。しかし、この分野の航空宇宙開発は、リスクと技術的なハードルが高く、極めて資本集約的であることを忘れてはならない。こうした要素のため、飛行テストはおろか、生産仕様のオーバーチュアが製造にさえたどり着いても、実戦配備のスケジュールに影響を与える可能性がある。ノースロップ・グラマンは、複雑な航空機を大量生産できるアメリカの大手航空機製造会社であるため、関係の進展次第では、より深いパートナーとなる可能性がある。
ブームによれば、民間旅客機は1機あたり約2億ドルで、これは楽観的な数字とも言われており、軍用機となればもっと高くなることは間違いない。また、ブームのショールCEOは、軍向けオーバーチュアは基本的に平和利用されると主張しており、現時点では兵器搭載の可能性は否定している。
ブームのXB-1実証機、初飛行に向け準備中。Boom Supersonic
オーバチュアの魅力は、航続距離、積載量、速度で、限りなく既存機材にちかくなることが防衛分野でのセールスポイントだ。ノースロップ・グラマンが加わるのは、野心的な新興企業にとって有望な兆しだが、同じことは、エアリオンにロッキード・マーチン、さらにボーイングが参加したときにも言われていた。コンコルド以来となれば20年不在だった超音速旅客輸送が実現し、そして既存機材では対応不能な任務を担う軍用機の可能性を再び享受できるよう、ブームには多くの点でうまくやってほしいものである。■
Boom's Overture Supersonic Airliner Gains Northrop Grumman As Military Partner
BYEMMA HELFRICHJUL 19, 2022 10:00 PM
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