スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナ戦でS-300防空ミサイルで対地攻撃をするロシアはミサイル在庫の減少に苦しんでいるのか

S300 ground targets ukraine

Russian MOD

 

ロシアの地対空ミサイルシステム「S-300」には、あまり知られていないが陸上目標への攻撃能力がついている。

 

シアが長距離地対空ミサイル「S-300」でウクライナの陸上目標を攻撃しているとウクライナが主張している。ウクライナ南部ミコライフ州知事の発言は、ロシアの陸上攻撃用スタンドオフ兵器が想像以上に不足していると示唆している。あまり知られていないが、S-300には対地対地攻撃能力があるようだ。

 

 

ミコライフ州のヴィタリー・キム知事Vitaly Kimは、インスタントメッセージサービス「テレグラム」で、S-300のバージョンを特定せず、この主張を紹介した。ロシアは、8x8車輪付きのS-300Pシリーズと、無限軌道を使用し、対弾道ミサイル能力を向上させたS-300Vの両方を運用している。S-300PとS-300Vの両シリーズは、ウクライナ戦争でロシア(およびウクライナ)が使用したことがある。各システムは、様々なミサイルを発射できる。

キム知事は、S-300がミコライフ州を狙い12発発射されたが、GPS誘導を後付けしたにもかかわらず、不正確なままとも述べている。

 

S-300の地上攻撃能力を欧米の資料ではほとんど報告していないが、ベラルーシのニュースサイト「Naviny」で2011年に発表した記事に詳細が記されている。

 

記事によると、ベラルーシ軍は同年の演習で、S-300防空システムを「敵領土内の重要な地上目標」に対してテストしたという。ベラルーシ当局は、これが同国初の実験であり、「S-300は、数十キロ離れた地上目標を破壊可能」と主張した。

 

 

ロシアとベラルーシの合同軍事演習「West-2009」で使用されたS-300Pシリーズ地対空ミサイルシステムとベラルーシ兵。VIKTOR DRACHEV/AFP via Getty Images

 

しかし、記事が指摘するように、「静止地上目標の攻撃は、開発者が1979年に採用したS-300防空システム、さらにその後のすべての修正版の機能に最初から取り入れていた 」。

 

当時、ベラルーシは、1980年代半ばに導入されたS-300PS(NATOコードネームSA-10 Grumble)を使用しているのが知られており、空中目標に対して最大交戦距離56マイルの5V55Rミサイルを搭載していた。前述Naviny記事によると、ベラルーシのS-300の地上目標にへの最大射程は75マイルで、誘導システムで制限されるとある。

 

 

ロシア極東のティクシに駐留する第3防空師団第414衛兵対空ミサイルブレスト赤旗連隊のS-300PS部隊。Russian Ministry of Defense

 

 

S-300Pシリーズで使用しているミサイルは、無線リンクで更新される慣性誘導システムで、終末期にはセミアクティブ・レーダー・ホーミングが使用される。しかし、慣性誘導と無線更新により、大きな面積の標的を攻撃するのに十分な精度が得られると思われる。これは前代未聞のことではない。米海軍の地対空ミサイル「タロス」も、二次的に陸上・地表攻撃能力を持っていたが、その用途には核弾頭を使用していた。

 

ロシアのS-300P防空隊員が空中目標へ発射練習をする。

さらに、このミサイルは高速で準弾道ミサイルの攻撃方法をとるため、防御は難しいだろう。

 

興味深いのは、Navinyの記事によると、かつてソ連時代も含め、S-300ミサイルは1発あたりのコストが高いため、地上目標への使用練習は法外に高価であったという。当時は、戦術的な地対地ミサイルがもっとたくさんあった。しかし、S-300PSは、高性能なS-400に置き換えられ、陸上攻撃用のミサイルとしてテストできるようになり、現在では実戦使用も報告されている。

 

なぜ今、ロシアがS-300でウクライナの地上目標を攻撃するのか、理由は不明だ。一方で、精密誘導式スタンドオフミサイルなど、適切な兵器の不足を指摘しているようにも思える。実際、ロシア軍が近年、陸上攻撃にS-300を使うようになった理由の1つとして、冷戦時代に比べて、戦術地対地ミサイルが不足していることがある。

 

一方、ウクライナ戦争の初期から、ロシアはスタンドオフミサイル、特に爆撃機や水上艦、潜水艦、地上発射機から発射する最新の対地巡航ミサイルが不足しつつあるのではないかという報告が、ペンタゴンを含めてなされている。

 

一方で、この種のミサイルの交換は難しくなっている。調達コストが高いだけでなく、対モスクワ制裁の影響で重要部品の入手が困難になっているのは間違いない。

 

また、冷戦時代のKh-22(現代のKh-32含む)空中発射型スタンドオフミサイルを陸上目標攻撃用に使用することにしたのも、こうした配慮からかもしれない。

 

S-300が陸上目標に使用されるようになったのは、少なくとも部分的には実用的な理由がある可能性がある。通常の砲兵隊の射程外でも、S-300の防空砲台がある場合、高価な巡航ミサイルによる攻撃を行うよりも、こうした手段で攻撃する方が理にかなっていると考えられる。陸上攻撃用の巡航ミサイルは、標的を攻撃するために遠くまで移動するだけでなく、飛翔速度が低いまま攻撃することになり、そもそも行動に移すまでに相当の時間がかかる。ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンダルM」も供給が減少している可能性が高く、最低限の備蓄を維持することが戦略的課題であり、重要度の高い兵器である。最も重要なのは、S-300も使用期間が長いため、老朽化した本体が余っている可能性が高く、静的な地上目標に使用した方が良いと思われているのではないか。

 

ロシアがGPS誘導搭載の兵器を改良したのであれば、準弾道ミサイルとして使用するため、さらに精巧で長期的な構想を示していることになる。そうであれば、精度はかなり向上するだろうが、専用システムほど確実な精度にはならないかもしれない。また、爆砕弾頭は、陸上目標攻撃ではなく、航空機の撃墜に最適化されている。

 

ロシアがS-300で陸上攻撃していると現段階で断定できないものの、可能性はあり、兵器の在庫が枯渇しているのを考慮すれば、理にかなった方法と思われる。■


Russia Now Firing S-300 Surface-To-Air Missiles At Land Targets In Ukraine: Official

.

BYTHOMAS NEWDICKJUL 8, 2022 8:36 PM

THE WAR ZONE


 

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...