ラピッドドラゴンのビデオからの画面キャプチャー
長距離攻撃ミサイルの空中発射でB-52はじめ古参機材に新たな意義が生まれたが、米空軍の「ラピッド・ドラゴン」プログラムは、このコンセプトを次のレベルへ引き上げる。「ラピッド・ドラゴン」は、重爆撃機や攻撃戦闘機だけに頼らず、輸送機もミサイル搭載機として戦いに参加できるようにする。太平洋で紛争が起これば、貨物機が強力な艦艇ハンターに変身する。
C-130ハーキュリーズやC-17グローブマスターのようなレーダー反射が大きい機体を、戦闘空域近くで飛ばし軍需品を搭載させるのは直感に反するように思えるかもしれないが、ラピッドドラゴンは大型機を戦闘投入する前提ではない。代わりに、AGM-158 JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)のような射程1000マイル超のスタンドオフ兵器をパレット上で活用し、敵防空網が届かない地点から輸送機で展開する。空軍によると、これにより比較的低コストかつ低リスクで、大量の低観測性巡航ミサイルで敵空域に飽和攻撃させる道が開かれる。
ラピッド・ドラゴンの名称は、紀元950年頃の古代中国にあった "Ji Long Che"(直訳すると "快速龍車")という攻城兵器へのオマージュだ。この武器は弩級カタパルトで、一人が引き金を引くと、12本もの矢を遠距離に同時発射できた。
空軍研究本部はこう述べている。
「Rapid Dragonコンセプトは、米空軍の兵器運搬システムとして、ゲームを変える。パレット化した弾薬は、遠方の敵に強力な一斉射撃を約束する」。
皮肉なことに、ラピッド・ドラゴン兵器システムは、名前の由来となった国との紛争で最も価値を発揮しそうだ。JASSM巡航ミサイルのような低視認性・長距離弾薬により、貨物機は敵空域をミサイルで飽和させたり、敵艦隊を全滅させたり、広大な海域に機雷を敷設するのが可能となり、しかも中国の航空防衛システムの射程内に入らない。
Air Mobile Feasibility Demonstrationプログラムでは、空中のC-5ギャラクシーからミニットマンI ICBMを発射する想定だった。 (U.S. Air Force photo)
ミサイルを輸送機に搭載するのは新しいコンセプトではない
民間機や貨物機を利用してミサイルを運搬・発射するコンセプトは以前からあったが、1970年代に注目された。1970年代初頭、戦略的軍備削減交渉に入る前に、ソ連に対する核優位性を取り戻そうとしたヘンリー・キッセンジャーの努力で、航空機動兵器実現可能性実証計画が生まれた。このタイトルは一見良さそうに見えるが、取り組みは決してそうではなかった。
1974年、わずか90日間で、このプログラムは、米国が実際に全長57フィート、87,000ポンドのLGM-30ミニットマン1核ICBMを、飛行中のC-5貨物機から、ほとんどどこからでも発射できると証明を狙った不活性ICBMの実射デモンストレーションで最高潮に達したが、この珍しい配備方法が可能なだけでなく、実現可能であると証明した後、米国はこの能力を棚上げする選択をした。
Air Mobile Feasibility Demonstrationプログラムでは、C-5ギャラクシーからミニットマンI ICBMを発射する想定だった。(U.S. Air Force photo)
米ソの軍事力拮抗の原動力として「相互確証破壊(Mutually Assured Destruction)」がよく挙げられるが、「航空機動実験計画」のようなコインの裏表のようなプログラムもある。このような計画や核搭載ミサイルSLAMは、ソ連が同技術を追求するのを防ぐため、あるいはソ連がその優位性を利用するのを防ぎ、核による先制攻撃を行うかもしれない懸念から、結局中止または無期限休止された。
貨物機を使うミサイル配備の構想は、1970年代後半、カーター政権が超音速重ペイロード爆撃機B-1B計画の中止を発表した後、再び浮上した。B-2の開発が機密扱いのため、米国には空からの兵器運搬能力に空白があるように見え、ボーイング社の747-200CにAGM-86空中発射巡航ミサイルを満載し、重武装機とする提案が生まれた。
ボーイング747CMCAは、空中発射巡航ミサイル70発以上を搭載する構想だった
B-52ストラトフォートレスが搭載可能な1,500マイル級のミサイルは20発程度だが、747CMCA(Cruise Missile Carrier Aircraft)提案は、72発を搭載するはずだった。同ミサイルは、あらかじめ目標データをプログラムし、機内のコマンドセンターで調整され、機体尾部付近のドアから1発ずつ連続発射される。
ラピッド・ドラゴンで貨物機が重武装機に変身するが、機体改修は不要
C-17AからのPalletized Munition Deployment Systemの標準的な貨物空輸の様子。デモ用に4パック構成で使用されている。
ラピッド・ドラゴン配備ボックスから発射される巡航ミサイル。 (U.S. Air Force)
747は広く運用され、生産ラインも稼働中だったため、この取り組みは有望かつ費用対効果に優れると思われた。747 CMCAはB-52の3倍近い本数の巡航ミサイルを搭載し、飛行時間あたりコストはほぼ1/3とされた。最終的にB-1Bランサーが復活し、B-2スピリットがその後に続いた。
Rapid Dragonコンセプトは、747 CMCAとまったく異なるものではない。CMCA計画と同様、ラピッド・ドラゴンは長距離空中発射巡航ミサイルを使用し、脆弱な重武装機を危険から遠ざける。巡航ミサイルも、ターゲットデータがインプットされた状態で持ち込まれるが、昨年末の飛行テストで実証されたように、ターゲットデータは飛行中に機内クルーが変更できる。
747CMCAのコンセプトが経済的に実現可能であったとしても、ラピッド・ドラゴンでは経済的効率性をさらに高める。
ラピッド・ドラゴンでは、特定の航空機を重武装機に専用改修するのではなく、C-130(ミサイル6発マガジン)またはC-17(ミサイル9発マガジン)各機に搭載できる「展開ボックス」と呼ぶパレット状の自己完結型弾薬を使用する。このモジュール式ボックスにより、配備する武器の種類と使用スペースに最大限のバリエーションを持たせ、製造コストを低く抑える。
展開ボックスは、他の空中投下用パレットと同様に積み込まれ、空中で展開するため、機体改修の必要がない。
展開の指示があれば、輸送機乗員は通常の空中投下と同じ作業を行い、パラシュートを展開し展開ボックスを安定させ、ミサイルを発射させる。準備が整うと、搭載するコントロールボックスから、AGM-158 JASSM巡航ミサイルが互いに衝突しないよう個別に放出され始める。各ミサイルは、小さな翼と制御面を展開し、エンジンを始動し、水平飛行経路に引き上げる。
パレット化弾薬のCONOPS。ラピッド・ドラゴン実験では、パレット化兵器の空中投下部分に焦点が当てた。 (U.S. Air Force)
AGM-158 JASSMは、1,000ポンド弾頭を230マイル先の目標に運ぶ、全長14フィート、重量2,251ポンドの兵器として就役したが、2006年までに空軍は、同じ外寸で射程を575マイル伸ばしたJASSM-ERの試験を行った。
2021年には、AGM-158D JASSM-XRと呼ばれる巡航ミサイルの最新型の少量生産が開始された。XRは1,000マイル超の射程距離を誇り、ラピッドドラゴンのコンセプトを伸ばす。さらに、同ミサイルは1発200万ドル(約3億円)という低価格であり、探知されにくく、迎撃されにくい利点もある。
AGM-158シリーズには、AGM-158C長距離対艦ミサイル(LRASM)も含まれ、ラピッドドラゴンは、広大な太平洋上で貨物機を本格的な艦船攻撃プラットフォームに変えることができる。実際、昨年12月、空軍は同プログラムの一環として、C-130からた巡航ミサイルを発射し「海上標的」に命中させたと発表している。
現在、ラピッド・ドラゴンはC-130用の6連装武器ボックスとC-17用の9連装武器ボックスに焦点を合わせているが、将来は、より多様な任務を可能にするため採用する武器の数と種類の双方を拡大する検討がすでに始まっている。これまで、MC-130J、EC-130SJ、C-17Aの3機種で実験に成功している。
装置全体を展開ボックス内に収めた結果、月曜日は施設間の貨物輸送、火曜日は敵空域をミサイルで制圧、水曜日は貨物輸送に戻るという運用が可能になった。
C-130に搭載されたラピッドドラゴンのテスト(U.S. Air Force)
ラピッド・ドラゴンはコストも優れている
747 CMCAコンセプトのように、ラピッド・ドラゴンは、アメリカの爆撃機部隊のお株を奪うように見える。そのため、B-21レイダーとラピッド・ドラゴン双方の開発に、価値があるのかと疑問を持つ人もいるだろう。しかし、コストや大規模紛争での機体の利用可能性など、考慮すべき重要な点がある。
米空軍は現在、約75機のB-52を保有している。大型爆撃機としてB-52は、米国の戦力構造でさまざまな役割を担っており、特に米国の核三原則の空中部隊で目立つ部分となっている。
空軍は、州兵と空軍予備軍を含めると、400機以上のC-130各種と、さらに220機ほどのC-17を戦場に持ち込める。つまり、潜在的な敵は何百もの配備システムを相手にすることになり、一度に半ダース以上のミサイルを発射可能な運用手段多数が世界中に展開することになる。
編隊飛行するC-130 (U.S. Air Force photo)
B-52の飛行コストは1時間あたり7万ドル程度だが、C-130は1万ドル以下で、爆撃機では考えられない荒涼とした滑走路で運用できる。
もちろん、これらの弾薬はその他プラットフォームでも使用できるが、それこそがラピッド・ドラゴンの価値の一部だ。アメリカの既存の低運用コストの貨物機群を空爆に活用して、爆撃機や戦闘機を解放し、専用能力を必要とする別の高価値作戦に集中できるようになる。
もちろん、運用する兵器は単価100万ドル以上と決して安くないが、中国の極超音速対艦ミサイル・システムや軍艦を破壊するため使用すれば、コストが大きな価値を生む。
プラグ・アンド・プレイで可能になるのは
空軍ラピッドドラゴンのビデオからのスクリーンキャプチャ
ラピッド・ドラゴンは、敵空域内のターゲットに巡航ミサイルを発射する能力で米国を大幅に向上させるが、技術を同盟国と共有すれば、価値はさらに高まる。同盟国の能力拡大がこのプログラムで最も輝く場所の1つになるかもしれない。
C-130は世界で最も広く運用中の軍用機
で、1950年代の製造開始以来、63カ国に2,500機以上が納入されている。ラピッド・ドラゴンの配備ボックスは、事前プログラムしたり、その場で調整できるターゲットデータを使い「ロールオン・ロールオフ」できる設計なので、米国はこのシステムを同盟国に提供すれば、各国の輸送機が船舶攻撃機になる。
大規模な戦闘をコストから考える場合、低視認性の長距離巡航ミサイルを多種多様な航空機から敵の空域に大量配備できることは良いことだ。しかし、同じ能力を、ほとんど訓練を必要とせず、既存の航空機とインフラを活用しながら、地域内の同盟軍に迅速に提供する能力は、前代未聞である。中国との紛争で、日本のC-130がアメリカの空輸機と一緒に巡航ミサイルや無人機を配備することも可能となれば、戦闘用機体やミサイルや無人機の数がさらに増える。
これらの兵器は、電子戦や敵の防空網制圧にも使用できる。大量の兵器を放出し防空システムの迎撃ミサイルを使い果たさせ、ラピッドドラゴンのミサイルに続くすべての同盟国の航空機に空域をより安全にすることができる。
このシステムでAGM-158C長距離対艦ミサイルを大量配備すれば、この能力はより顕著になる。同ミサイルの射程は、JASSM-ERの575マイルに匹敵する可能性がある。太平洋における中国海軍の存在は大きく、民兵や沿岸警備隊の艦船も考慮すると、米海軍を2対1以上で上回る。最新鋭の中国長距離防空システムは、約200マイル以上に対応できないため、射程500マイル以上のLRASMを満載したC-130は、太平洋の中国海軍に深刻な脅威となる。
LRASMは1個400万ドル弱と、JASSMシリーズより高価であるため、中国のアナリストは、ラピッドドラゴンは対艦戦の手段として持続可能でないとの見ている。しかし、中国の055型駆逐艦のような先進的な軍艦の建造コストと時間を考えれば、LRASMは費用対効果が高いと言えるかもしれない。
USSフォレスタルに海兵隊KC-130Fを着陸させたジェームズ・フラットレー (U.S. Navy photo)
そこで、伝説の海軍提督ジェームズ・フラットレーJames Flatleyが昨年筆者に語った内容に価値がある。提督はC-130を空母に着艦させた唯一の人物だが、単に着艦させただけでなく、実用的であると証明したのである。
フラットレーはC-130による空母への補給は当時は不要と思われ、海軍はその能力をポケットにしまっておいたのだ、と明言した。
興味深い話である。■
Rapid Dragon: Turning America's cargo planes in missile-packed arsenal ships - Sandboxx
Alex Hollings | June 28, 2022
Alex Hollings
Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.
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