第3章
トーマスが口笛でドアを開ける前に、アラームがアードモアを入り口まで導いた。アードモアは警備室からテレビジョンでドアを見ていた。親指で操作し、予期せぬ訪問者だったら焼き払おうとしていた。トーマスが入るのを見て、警戒心は緩んだ。しかし、連れてきた仲間を見ると、親指は再びきつくなった。パンアジア人だ。反射的に彼らを吹き飛ばすところだった。それは可能だった、かろうじて可能だった、トーマスが尋問のため捕虜を連れてきたのか.....。
「少佐!アードモア少佐!トーマスです」
「そこに立ってろ。二人ともだ」
「大丈夫です、少佐。 彼はアメリカ人です。 私が保証します」
「そうかもしれん」 アナウンス電話越しにトーマスに届いた声は、不気味なほど怪しかった。
「二人とも服を全部脱げ」。トーマスは屈辱に唇を噛み締め、ミツイは震えた。理解できず、追い詰められたように感じた。「さあ、ゆっくり後ろを向け、よく見てやる」と声がした。
アードモアは、彼らが非武装であることを確認すして安心すると、そこで待つよう指示した。
通信回線でグラハムを呼び出した。「グラハム!」。
「はい、閣下」
「ただちに警備室へ来い」
「しかし、少佐、できません。夕食は...」
「夕食など気にするな!来い!」
「了解しました!」
アードモアはスクリーンの中の彼に状況を指摘した。「そこに行き 両方に手錠をかけろ。アジア人が先だ。彼に背中を向けさせ、よく見張れ。飛びかかってお前を羽交い締めにするかもしれん」
「こんなの嫌です、少佐」グラハムは抗議した。「トーマスは大丈夫です。トーマスはそんなずるをするやつじゃないです」。
「確かに、大丈夫に見える。でも薬物を投与され、コントロールされている可能性がある。トロイの木馬かもしれない。言われた通りにしろ 」
グラハムは歓迎されない仕事をそつなくこなし、事実上、議会勲章を受ける資格を得たが、彼の芸術家としての想像力は、潜在的な危険性あまりにもはっきりと感じ取り、勇気を奮い起こすことを余儀なくされた。
「ドクター、今やっていることを止めてくれませんか」。
「ええ、止めますが、何があったんですか?」
「私のオフィスに来てください。トーマスが帰ってきました。彼が麻薬の影響下にあるか知りたいのです」
「しかし私は医者ではありません」
「それは分かっているが、最も近い存在だ」
「わかりました」
ブルックスはトーマスの瞳孔を調べ、膝を曲げ脈拍と呼吸をチェックした。「完全に正常です。しかし疲労と興奮状態です。当然ですが、これは正確な診断ではありません。もっと時間があれば」
「今はこれで十分だ。トーマス、アジア人の友達を診断するまでお前を監禁しておくが無茶しないでいてくれるか」
「少佐、そんなことはしませんよ」トーマスは不敵な笑みを浮かべながら、「どうせやるんだから」と言った。
ブルックスが皮下注射器を刺すと、フランク・ミツイの肉体は震え、顔から汗が滴り落ちたが、やがて抑制を解除する薬物の影響でリラックスし、顔は穏やかになった。
しかし、数分後、尋問を始めると、表情は平穏でなくなった。彼らの顔にも平和はなかった。これは、どんな人間にも耐えられないほど生々しく、あまりにも残酷な真実だった。アードモアの鼻からあごにかけ深いしわが刻まれ、小男の哀れな話を聞いていた。どの話でも、死んだ子供たち、崩壊した家庭の光景に立ち戻るのだった。ついにアードモアは止めを刺した。
「解毒剤を与えろ、これ以上耐えられない。必要なことはすべてわかった」
意識が戻った彼と、アードモアは厳かに握手を交わした。「ミスターミツイ、ご一緒できてうれしいです。仕事してもらいますよ。今すぐブルックス博士に鎮静剤を投与してもらい、16時間眠れるんだ。それから宣誓して、どんな仕事をするかを考えよう」。
「睡眠は必要ありません、ミスター...少佐」
「いいから少し眠るんだ。トーマスもだぞ。報告があり次第....」少佐は、一見無表情に見えるトーマスの顔を観察し、言った。「毎晩、睡眠薬を飲め。これは命令だ。私の目の前で飲んでくれ」。軍事的絶対主義には、ある種のボーナス的な利点がある。アードモアは小柄な黄色い男が起きて天井を見つめていることに我慢がならなかった。
ブルックスとグラハムは残ってトーマスの報告を聞きたかっただろうが、アードモアは二人を追い出した。
彼はまず自分でデータを評価したかったのだ。
「中尉、戻ってこれて本当にうれしい」
「自分も戻ってこれて嬉しいです。中尉と言いましたか?階級は元に戻るんですよね」
「なぜそうする必要があるんだ?実のところ、私はグラハムとシェアーを任務に就かせるもっともらしい理由を考えているんだ。社会的な違いをなくせば、この辺りは単純になると思う。副次的な問題だ。何をしてきたのか、聞かせてくれ。我々の問題をすべて解決して戻ってきたんだよね?」
「でもないんです」トーマスはにっこり笑ってリラックスした。
「それは予想外だ。しかし、真剣に、帽子から何かを引き出す必要があり、良いものでなければならない。科学スタッフ、特にカルフーン大佐が私に詰め寄り始めている。研究室で奇跡を起こしても意味がない。奇跡を戦略や戦術に応用する方法を編み出さない限り、実験室で奇跡を起こしても意味がないんだ」。
「そこまで進んでいるのですか」
「びっくりするよ。連中はいわゆる『レドベター効果』で、テリアがネズミを揺するように揺さぶっている。ジャガイモの皮を剥いたり、猫を追い出したり、何でもできるんだ」。
「本当に?」
「本当さ 」
「どんなことができんですか」
「うん」アードモアは深呼吸をした。「正直なところ、どこから手をつけていいのかわからない。ウィルキーは簡単に説明してくれたが、ここだけの話、理解できなかった。原子核の制御を発見した、という言い方もできるかもしれない。空間と時間と物質について話している」
「アインシュタインの時空概念がありますね」
「もちろん 時空は最近の高校では標準的な内容だ。でも、連中は本当にそう思っているんだ。
空間、時間、質量、エネルギー、放射線、重力はすべて、同じものなのに別の形で考えているのに過ぎないというのが連中の真意だ。そのうちの1つでも理解できれば、すべての鍵を握ることになる。ウィルキーによれば、原爆が開発された後も、物理学者たちは、統一場理論を、端っこでごまかしていたにすぎないというのだ。
「レドベターは放射線の本当の意味を突き止め、それがカルフーンやウィルキーに他のすべての鍵を与えたようだ。ここまでついてこられたかな」と言い笑みを浮かべた。
トーマスは「十分ではありませんが」と言った。「それで何ができるんですか」。
「そうだね、まず最初に、オリジナルのレドベター効果だ、ここの人員のほとんどを殺したものだよ。ウィルキーは偶発的な副次的問題と言っている。ブルックスによれば、基本的な放射線が生体組織のコロイド分散に影響を及ぼして死亡した人たちの体は凝固したという。表面張力を解放するように設定したのかもしれない。実際、先日もビフテキの半分をダイナマイトのように爆発させた。ダイナマイトみたいにね」
「え?」
「どうやったかは聞かないでくれ。重要なのは、物質を動かすものを発見したようだということだ。爆発させることができ、動力源にもなる。どんな元素にも変化させられる。重力がどのように作用するかがわかって、電気と同じように重力を扱えるようになると確信したようだ」
「現代の概念では、重力は力として考えられていないのでは?」
「そうなんだが、統一場理論では、地獄の鐘だ。というわけで、『力』は『力』ではない。ウィルキーは、数学がここで使える唯一の言語だと言っている」
「まあ、理解できなくてもやっていくしかないでしょう。でも、率直に言って、どうしてこんなに早くここまで来たんですか。知っていると思っていたことすべてが変わりますよ。ニュートンからエジソンまで150年かかったのに数週間で結果を出せたんですか?」
「自分でもよくわからない。実は同じことを思い、カルフーンに聞いてみたんだ。彼はそれは、先駆者たちが、テンソル計算やベクトル解析や行列代数、そのような技術がなかったからだ、と校長先生風に教えてくれた」
トーマスは、「わかりません」と言った。「法学部ではそんなことは教えてくれませんしね」。
「自分もだ」とアードモアは認めた。「というのも、連中のワークシートに目を通してみたんだ。簡単な代数ならできるし、微積分は何年も使っていないけど、理解できなかったよ。サンスクリット語みたいだった。ほとんどの記号が違っていて、古い記号でさえも同じ意味には見えない。ほら、aのb倍は常にbのa倍と同じだと思ってたんだ」。
「ちがうんですか?」
「連中が蹴散らしてるうちは違うよ。しかし主題から大きく外れている。最新の情報をくれ」
「了解しました」 ジェフ・トーマスは長い時間かけて話し続けた。見たこと、聞いたこと、感じたことすべて詳しく描写しようと必死だった。アードモアは、ポイントを明確にする質問以外は、話を遮らなかった。話が終わると、短い沈黙が訪れた。ついにアードモアはこう言った。
「君が何か情報を持って帰ってきて、教えてくれると、潜在意識で信じていた。でも、教えてくれた内容からは、あまり希望が持てない。君が言うように完全に麻痺している国を取り戻すにはどうしたらいいのか?どうすれば奪回できるのか?」
「もちろん、自分は国全体を見たわけではありません。ここから200マイルくらい先を見ただけです」。
「そうだ、ホーボーたちから国中を網羅した報告を聞いたんだろう」
「そうです」
「そして、君が見聞きしたことを総合すると真実の姿と言えるだろう。電信で得た情報はどの程度新しいものだったのだろうか?」
「まあ、東海岸からは3、4日前のニュース以外はないでしょう」
「それはありえるね。ニュースは常に最速のルートで伝わる。確かにあまり心強くはない。でも......」と、彼は困惑したように顔をしかめた。「でもね、何か重要なことを君が言ったような気がするんだ。それがどれかわからない。話しを聞きながら思いついたんだが、どこかで見失った」
「最初からやり直したらどうでしょう」トーマスは提案した。
「その必要はない、明日にでも録音を一枚一枚再生してみよう。それまでに思いつかなければね」
その時、ドアを激しくノックする音が聞こえた。 アードモアは 「どうぞ」と声をかけた。
カルフーン大佐が入ってきた。
「アードモア少佐、パンアジア人の捕虜とはどういうことだ?」
「そうではないんです、大佐、しかし、そうアジア人がいます。でも彼はアメリカ生まれです」。
カルフーンはその区別を脇に追いやった。「なぜ知らせてくれなかったのですか? モンゴル人の血を引く者を実験用に緊急に必要としているとお伝えしてましたよね」。
「博士、今いるぎりぎりの人員では、軍人礼儀作法を守るのは難しいのです。博士、何らかの形で知ったようだね」。
カルフーンは鼻で笑った。「部下のゴシップですよ!」。
「申し訳ありません、大佐、しかし、それは仕方がありません。ちょうど今、トーマスの偵察報告を受け取ろうとしているところです」。
「かしこまりました、閣下」カルフーンは冷ややかに応対した。「アジア人をすぐに自分のところに出頭させてもらえませんか」
「それは無理だ。眠っていて、薬漬けで、明日までは無理です。それに、彼は有用な実験には全面的に協力すると確信していますが、彼はアメリカ市民であり、囚人ではなく、我々の保護下にある民間人です。我々は彼と一緒に考えなければなりません」。
カルフーンは、来たときと同じように突然去っていった。「ジェフ」とアードモアは彼の後をちらりと見てつぶやいた。
「厳密にオフレコで言うと、ああ、厳密にね。軍のしきたりがなかったらあのおいぼれをいますぐにもお仕置きしたい」
「なぜ取り締まらないんですか」
「できないよ。貴重で不可欠だ。研究のためにあの頭脳は絶対必要なんだ。でもね、優秀だけど、時々、頭がおかしいと思うことがある」
「意外じゃないですね。フランク・ミツイをあんなに欲しがるのはなぜなんでしょう」。
「まあ、多少は関係があるね。連中は、オリジナルのレドベター効果が、生命体の特性、固有周波数と呼んでもよい、に依存すると証明したんだよ。誰でも自分の波長を持っているようだ。こう聞くと、私には占星術のように思えた。しかし、ブルックス博士によれば、この考え方は正しいだけでなく、新しいものでもないらしい。ロンドン大学のフォックスという人の論文を見せてもらった。フォックスは、ウサギのヘモグロビンが個体ごとに異なることを証明した。ヘモグロビンは固有の波長を持っていて、分光分析でその波長だけを吸収し、他の波長は吸収しない。これで二羽のウサギを見分けられるし、犬とウサギも見分けられる。
「フォックス博士は人間で同じことをやってみたが、うまくいかなかった。波長に違いがないんだ。しかし、カルフーンとウィルキーは、レドベターが遊んでいたスペクトル分光器を使ってみたところ、人間の血液のサンプルにはっきりと別々の波長を示した。逆に、もし調整されたレドベター投影機を設置し、君の周波数でスケールを下げたり上げたりし始めたらどうなる。赤血球がエネルギーを吸収し始め、ヘモグロビンのタンパク質が破壊される。
君は死んでしまうよ。俺は君の横に立っているが
傷つかない。俺の周波数には来ないのだ。ブルックスは、周波数は人種でグループ化されていることに着目した。調整で人種を区別できると考えている。アジア系は倒しても白人は倒さないとか、その逆とかね」。
トーマスは震え上がった。「ふー! これは武器になる」
「そうなんだ。今のところ紙の上だけだが、ミツイに試したいと言っているけど、殺すつもりはないだろうが、本人にとっては危険極まりない」。
トーマスは「フランクは危険を顧みないでしょ う」とコメントした。
「いや、そんなことはないだろう」と。ミツイに潔白を示すことが、おそらく本人の好意になるようにアードモアには思えた。研究室で苦痛のないきれいな死を迎えることは、ミツイにとって好都合に思われた。「さて、もう一つの問題だ。どうやらホーボー仲間とその情報源を利用すれば、ある種の永久的なシークレットサービスを作れそうだ。それについて話そう」。
アードモアは、数日間の休息を得て、自由に使える兵器の軍事利用をさらに検討できた。
その間に、研究スタッフは、人種と改良型レドベター効果の相互関係に関する理論を検証した。強力な武器を入手した。というのも、新しい原理は、電気と同じくらい変幻自在の可能性を持っているように思えたからだ。もし、アメリカ国防軍が1年前に、このシタデルで使える道具を持っていたなら、アメリカは決して陥落しなかっただろう。
とはいえ、6人では帝国を打ち負かせない。皇帝は、必要であれば、6人を倒すため600万人を投入できる。帝国の大軍は、素手でも勝てる。雪崩のように、死体の山の下に埋もれるまで、その上を移動することができる。
アードモアには、素晴らしい新兵器で戦う軍隊が必要だ。問題は、そのような軍隊をどう集め、訓練するかだ。
軍隊を編成する間、パンアジア軍がじっとしていないのは確かであった。
パンアジアが警察を組織し、全住民を監視する徹底ぶりから、革命の危険を痛感し危険な規模に達する前に、食い止めようとする意思がわかる。
残るはホーボーという秘密集団だ。
彼は、トーマスに、ホーボー集団を軍事目的で組織化する可能性について相談した。トーマスはその考えに首をかしげた。
「浮浪者の気質が理解できていませんね。この事業で必要な厳格な自己規律が守れるのは、100人に1人もいないんです。仮に彼ら全員に投影機を持たせても......それが可能とは言いませんが、できたとしたら......それでも軍隊になりません。規律なき暴徒になるだけです」。
「戦わないのだろうか」
「ああ、もちろん戦いますよ。個人として戦い、平たい顔族が不意打ちを食らうまで虐殺を続けるでしょう」
「情報源として 当てにできるかな」
「それは別問題です。ほとんどの放浪者は、自分たちが軍事情報収集に利用されているとは思いもしないでしょう。十数人選んで私のリポーターとして働かせます。知らなくていいことは一切教えない」。
どう考えても、新兵器を単純明快に軍事利用するのは得策ではない。残忍な正面攻撃は、兵力を持つ指揮官のものだ。グラント将軍には、「夏の間じゅうかかっても、この線で戦い抜くぞ」と言う余裕があった。なぜなら、敵の1人に対し3人の兵士を失っても、まだ勝つことができたからだ。このような戦術は、部下を失う余裕のない指揮官には向かない。欺瞞と誤誘導、つまりフェイントと斬撃、そして逃亡が必要だ。「また明日も戦えるように」 童謡は彼の頭の中で完結していた。そうだ。そうだ。パンアジアが圧倒されるまで、戦争だと気づかれない、まったく予想外のものでなければならない。
それは、ヨーロッパの民主主義を内側から破壊した「第五列」みたいでなければならない。しかし、自由な国を麻痺させようとする裏切り者の第五列ではなく、その対極の愛国者の第六列だ。その特権は、侵略者の士気をくじき、恐れさせ、自信を失わせることだ。
そして、その鍵はミスディレクション、騙す技術にあった。
その結論に達して、アードモアは少し気が楽になった。それは、彼でも理解できることだった。
広告マンに向いている仕事だ。彼はこれを軍事問題として解明しようとしていた。しかし、彼は野戦司令官ではないし、野戦司令官のように騒ぐのは愚かなことだった。彼の心はそのように動かなかった。かつての上司が「ちゃんとした予算と自由裁量があれば、死んだ猫を保健所に売りつけてみせる」と言ってったけ。
彼は自由裁量権を持ち、予算も問題なかった。もちろん、新聞や旧来の販路は使えないが方法はあるはずだ。問題はパンアジアの弱点を把握し、その弱点を突くためにカルフーンの小道具をどう使うかだ。
まだ、計画はない。作戦に行き詰まったとき、男は普通、会議を開く。アードモアもそうした。
彼は、トーマスが学んだこと、征服者たちの「教育」放送の「テレビジョン」から入ってきたことを含め、今日までの状況を説明した。そして、研究スタッフが利用できるようになった力と、それを軍事兵器として応用する様々な方法について説明し、兵器を効果的に使うため必要な人員を強調した。
「少佐、私は理解しているのでしょうか」カルフーンが話し始めた。「軍事的なことはすべて自分で決めると言ったくせに、今度は我々に決めてくれと言うんですか?」
「そんなことはありませんよ、大佐。でもね、これは新しいタイプの軍事状況なんです。あらゆる情報源からの提案が貴重なものになるかもしれない。私は自分が常識や独創性を独占しているとは思いません。各自この問題に取り組み、他の人に批判してもらいたい」
「あなた自身は、何か案をお持ちなのですか?」
「皆さんが話すまで、意見は控えさせていただきます」
「よろしい」カルフーン博士は背筋を伸ばした。「聞かれたので、このような状況で何をすべきか,実際何ができるかをお話しします。
「私が使えるようにした力の大きさはご存知の通りです」。アードモアは気づいた。ウィルキーは口をとがらせたが、二人とも口を挟まなかった。「あなたの提案は過小評価しています。我々はここシタデルに12台の高速偵察車があります。それをカルフーン型のパワーユニットに換装すれば、敵のどんな機体より速くできます。これに大型投影機を搭載して攻撃する。圧倒的な兵器をもってすれば、パンアジア帝国を屈服させるのは時間の問題だ」
アードモアは、どうしてここまで盲目の男がいるのか不思議に思った。彼はカルフーンに反論するつもりはなかった。「ありがとうございます、大佐。計画を詳しく書面で提出してください。その間に誰か大佐の提案を補足したり批判したりしたい人はいますか?」と言った。彼は期待して待っていた。「さあさあ、どんな計画も完璧ではない。少なくとも、皆さんには、追加点があるはずです」。
グラハムが思い切ったことを言った。「どれくらいの頻度で食事をしに来るつもりなんだ?」
アードモアが声をかける前にカルフーンが切り出した。「いやはや、恐れ入るね。ふざけている余裕はないんだ」。
「ちょっと待てよ」とグラハムは抗議した。「冗談で言ったんじゃないんだ。真剣なんです。それが私の専門分野なんです。あの偵察車は、長時間機能できる装備ではありませんし、国を奪還するには相当の時間がかかると思います。たとえ偵察車を常時待機させる分の人員がいたとしてもです。つまり、食事は基地に戻ってからということですね」。
「そう、基地を攻撃から守られなければならないということだ」と、シャイアーが唐突に言い出した。
「基地は別の投影機で守れる」。カルフーンの口調は軽蔑的だった。「少佐、本当に
賢明な問題だけに限定して議論されるようお願いします」
アードモアは顎をこすりつつ何も言わなかった。
ランドル・ブルックスがポケットから紙を取り出し、スケッチを始めた。「シャイアーは何か知っているようです、カルフーン博士。ちょっとここを見てください。ここ、この地点が基地です。パンアジア軍は基地の投影機の範囲よりも遠くから基地を包囲できます。偵察車のスピードは重要ではありません。敵は、我々が封鎖を突破できないように、必要なだけ船を使う余裕があるからです。偵察車が投影機で戦うのは確かですが、一度に100隻の船と戦うことはできません。敵の武器も強力です」。
「その通り、強力だ!」ウィルキーが付け加えた。「基地が知られては困る。その通りだ。
ロケット弾を使えば、1,000マイル後ろから、この山全体を吹き飛ばせる。その下に我々がいるとわかれば、この山を全部吹き飛ばしてしまう」。
カルフーンは立ち上がった。「ここで情弱の愚か者の不安を聞くつもりはない。私の計画は、部下が実行することが前提です」。彼は硬直して部屋を出て行った。
アードモアは彼の退去を無視し、急いで続けた。
「カルフーン大佐の計画に対する反対意見は現時点の公開直接戦闘のあらゆる計画に当てはまるように思えます。私は各案を検討し、少なくとも兵站学、つまり補給品の問題のため却下します。しかし、思いつかなかった案があるかもしれません。どなたか直接的な戦法の提案、つまり人員を危険にさらすことのない戦法をお持ちの人はいないか」。
誰も答えない。「よろしい、後で思いついたら持ってきてほしい。どうやら私たちはミスディレクションで動くことになる。もし今、敵と直接戦えないのなら、戦えるようになるまで敵を欺かなければならない」。
「なるほど」ブルックス博士も同意見だ。「牛はマントで消耗し、剣を見ることはない」。
「そうだ、その通りだ。さて、今あるものをどう使うか、誰かアイデアはないかな?私たちが誰で、どこにいて、何人いるかを知られずに、今あるものをどう使えばいいのか。どうすればいい?タバコを吸うから、その間に考えておいてくれ」。
と言いながら、「今の私たちには2つの利点がある。敵はわれわれの存在をまったく知らないし、われわれの武器は敵にとって奇妙であり、神秘的でさえある。ウィルキー、君はレドベター効果を魔法に例えたよね?」。
「隊長、叫びたいくらいです。研究室にある装置を除けば、今使っている力を検出する方法は存在しないと言っていい。存在に気づかないのです。素手でラジオを聞くようなものです」。
「それを聞きたかった。神秘的だ。インディアンは白人の火器に初めて出会って、死んだが、理由は理解できなかった。考えてみてくれ。自分はこれ以上話さず、君たちに任せる」。
グラハムが最初の提案をした。「少佐?」
「はい?」
「なぜ誘拐できないんでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「あなたの考えは、あいつらに恐怖を与えることでしょう?奇襲作戦はどうでしょう?レドベター効果で夜間に偵察車に乗り込み大物を探し出すんです。 投影機で 全員殺し、すぐ突入し 捕らえるんです」
「それについて何か意見はないか?」
アードモアは自分の意見を保留して言った。
「何かありそうですね」ブルックスがコメントした。「投影機で何時間も意識を失わせるよう設定することを提案します。殺傷より何時間か意識を失わせる設定にしたほうが、心理的な効果が高いのではないでしょうか。目を覚ますと大物がいない、というのは心理的な効果が大きいと思います。ウィルキーや、ミツイが証言しているように、何が起こったか覚えていないのです」
「なぜ皇太子だけで止めるんだ」ウィルキーは言った。「襲撃隊4つを作れます。一台に二人乗せて
一晩で12回くらいはできるだろう。そうすれば
そうすれば、彼らのナンバーワンを倒して、混乱させることができます」。
「それはいい考えだ」とアードモアは同意した。「この襲撃を何度も成功させることはできないかもしれない。一度だけでは無理だろう。一撃でトップに十分なダメージを与えることができれば、あいつらの士気を低下させることができ、戦意を喪失させ、反乱を起こさせるかもしれない。あれミツイ、どうしたんだ?」
東洋人が不機嫌そうな顔をしているのに気づいた。ミツイは渋々ながら口を開いた。「残念ながら、うまくいきません」。
「その方法では誘拐できないと言うのか?方法を知っているのか?」
「いいえ、だめです。壁を通り抜けて、気づかれないうちに倒せるような力なら、捕獲できると思います。しかし、結果は予想通りにはならないでしょう」
「なぜだい」
「何の利点も得られないからです。あいつらは、こちらが重要な部下を捕虜として拘束しているとは思わないでしょう。全員自殺したと思うでしょう。その結果は恐ろしいものになるでしょう」
それは、純粋に心理的な点であり、意見が分かれる余地があった。しかし、その場の白人には神聖な指導者が死んだのではなく、捕虜だとはっきりと知らされたあとで、パンアジア人に報復する勇気があるとは思えなかった。その上、この計画は即座に行動できるものであった。彼らはそれを切望していた。そのため、アードモアは最終的にこの作戦を採用することにした。
しかし、彼は不安な気持ちを抑えていた。それから数日間は、偵察車の準備に全力を注いだ。シャイアーは、毎日18時間から20時間も働いて、大変な機械仕事をこなし、他のものも彼の監督の下で楽しく働いていた。カルフーンは高みの見物を決め込んで、「下働き」こそしなかったが、襲撃に参加することに同意した。トーマスは早速偵察に出かけパンアジア政庁12箇所の位置を確かめた。
作戦の計画づくり、その結果でもたらされた精神の浮揚の中でもアードモアは、必要なのは第6列、つまり地下、少なくとも宙に浮かない列であるという自らの決断を忘れてはいなかった。地下組織、少なくとも、敵を内部から戦意喪失させるような、疑われない組織が必要だったのだ。今回の計画は、そのようなものではなく、本質的に軍事的な計画であった。彼は、自分のことを、ナポレオンとまでは言わないまでも、少なくとも現代のスワンプラット、あるいはサンディーノとして、夜襲し消え去るプロの兵士と考えるようになった。
しかし、ミツイの言う通りであった。
テレビジョン受像機は定期的に使われ、完全録画で、支配者が奴隷に放送する内容を拾っていた。夜8時に談話室に集合して新しい命令を告げる定時放送を聴くのが習慣になった。アードモアはそれを奨励していた。刺激となる「ヘイトセッション」は、士気を高めると彼は信じていた。憎まれ口を叩けば、士気を高めると信じていた。
強襲実行の2日前の夜、全員がいつものように集まった。いつものプロパガンダ・アーティストの醜く広い顔は、すぐに別の年配のパンアジア人に変わり、彼は「平和の天の管理人」と自分を紹介した。その年配者は、すぐに核心を突いた。
ある地方政府のアメリカ人使用人が、賢明なる支配者に反抗するという恐ろしい罪を犯し、神聖なる知事を捕らえ、宮殿に監禁したのだ。天帝の兵士たちは、狂気の冒涜者たちを一蹴し、その過程で知事は最も残念なことに祖先のもとに帰った。
この時、服喪期間が宣言され、直ちに実行に移され、同地の住民は罪を購うこととなった。映像が切り替わり、有刺鉄線の向こうにうずくまる大勢の、男、女、子供たちをとらえた。
シタデルにいるものにも見えるほど近くが写った。群衆の顔に浮かぶ惨めさ、泣きじゃくる子供たち、赤ん坊を抱いた母親たち、無力な父親たち。
しかし、表情を長く見る必要はなかった。ピックアップは満員の群衆の上にパンした。
そして、ある部分のクローズアップに戻った。
癲癇(てんかん)誘発光線が照射された。もはや人間とは似ても似つかない。そうだ。まるで、何万羽ものニワトリが一斉に首を絞められ、同じ檻に放り込まれ、死の痙攣を起こしたかのようだ。死体が空中に舞い上がり、骨が折れ、背骨が砕け散った。母親は赤ん坊を投げ飛ばし、あるいは押し潰した。
画面はアジア人の高官の穏やかな表情に切り替わった。彼は残念そうに言った。懺悔だけでは十分でない、教育も必要だ。この場合、千人に一人の割合で教育が必要だ。
アードモアは頭の中で素早く計算した。十五万人!?信じられない。
しかし、すぐに信じられるようになった。今度はアメリカのある都市の住宅街だ。パンアジア部隊を追って、ある家庭のリビングルームに入った。彼らはテレビジョン受像機を囲んで呆然としている。母親は幼い女の子を肩に抱きかかえヒステリーを抑えようとしている。呆然としている。兵士が家に入っても怖がるどころか、呆然としていた。父親が何の反論もなく名刺を出した。班長がリストと照合し、兵隊が父親を連れて行った。
兵士たちは、明らかに、きれいごとではない殺し方をするよう指示されていた。
アードモアは受像機を止めた。「襲撃は中止だ」と告げた。「全員、寝ろ。各自今夜は睡眠薬を飲むこと。これは命令だ!」。
皆すぐに立ち去った。誰も何も言わなかった。ひとりになってから、アードモアは受像機をつけ直し、最後まで見た。それから長い間一人で座って、自分を取り戻そうとした。お蔵入りの原稿を注文する人は、受け取ることはない。
(第3章おわり)
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