近い将来の海軍航空戦力はこのように戦う、はず、という米海軍協会の紹介記事です。やや長文ですが。F-35Cに期待されている役割が興味深いところですが、航空戦力の運用にはネットワークコンピュータ通信体系がいよいよ重要になりますね。
Inside the Navy’s Next Air War
Published: January 23, 2014 12:35 PM
Updated: January 23, 2014 12:52 PM
EA-18G Growler assigned to the Zappers of Electronic Attack Squadron (VAQ) 130 lands on the flight deck of the aircraft carrier USS Harry S. Truman (CVN-75) on Aug. 15, 2013. US Navy Photo
米海軍の将来の航空戦想定では戦場は本国から遠く離れた場所、敵は高性能の装備を有し、応戦準備がよくできているというもの。戦いの帰趨は情報工学に大きく依存するとしている。実際に海軍はこの想定だと準備ができていないことになる。
ジョナサン・グリーナート大将 Adm. Jonathan Greenertが海軍作戦部長の現職に就いたのが2011年だったが、「戦闘、前線運用、準備態勢」の三つを叩き込んできた。
その意味するところは明らか。海軍は10年にわたりアフガニスタン、イラクの作戦を支援してきたが、海上および空中でハイエンド型の戦闘を実施する能力は後退してしまっている。
米空母部隊でタリバン兵の頭上に爆弾を投下するなど高度技術を駆使した対空兵器の威力を使うまでもなかった。
米国は簡単に戦場の主導権を握れたが、ここにきて次の戦場ではこんなに簡単にはいかないと実感させられている。
「陸上で兵力が必要なら、海軍が兵力を提供できる」とトーマス・ラウデン少将(海軍作戦部長付水上戦担当部長)Rear Adm. Thomas Rowden, director of surface warfare (N96) for the Office of the Chief of Naval Operations (OPNAV)がUSNIニュースの取材に答えている。「潜在敵国は我が国の自由な兵力移動能力を意識しており、最近になり接近阻止領域拒否[A2/AD]の概念が目立ってきている」
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A2/ADは敵を自国領土に近づけない古来の戦略を現代的にひねったものだ。濠や城壁で始まった戦術が現在では安価になる一方の誘導兵器を使う戦略に変化しており、敵を遠くでくぎ付けにできる。
そこで将来のA2/ADの脅威に対抗すべく海軍は航空戦の新しい形式を模索しており、そのためにも通信ネットワークや高性能兵装への依存が増える。
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そのためマイク・マナジル少将(海軍作戦部長付航空戦担当部長)Rear Adm. Mike Manazir, OPNAV’s director of air warfare (N98)が2020年代の海軍航空戦力で必要な性能をまとめようとしている。
Rear Adm. Michael C. Manazir in 2009, as commanding officer of the aircraft carrier USS Nimitz (CVN-68). US Navy Photo
新構想の中核は海軍統合火器管制ー対空対応手段Naval Integrated Fire Control-Counter Air—NIFC-CA(ニフカ)である。
NIFC-CAの中核技術は状況把握能力 situational awareness および射程延長協調型目標捕捉技術extended-range cooperative targeting。
空母打撃群の各構成部隊は空中、水上、水中でネットワーク化され、データリンクにより空母打撃群司令官が戦闘空域を明確に把握できるようになる。
NIFC-CAで想定する能力の多くはすでに海軍の航空母艦で利用可能だとマナジル少将は説明する。ただし現存するとは言っても2020年代にかけて改良していくことではじめてシームレスなネットワークとなり、現在より高度な状況把握能力が実現するのであり、数百マイルを超えた指揮命令統制が正確にできるようになる。.
NIFC-CAにより海軍は空母航空部隊や空母打撃群の各装備の能力活用を柔軟に考えることを求められる。NIFC-CAは打撃群の有する火力の一体運用を可能とする。
The systems the Navy will rely on for its planned Naval Integrated Fire Control-Counter Air (NIFC-CA) concept. US Naval Institute Graphic
例としてF-35C、E-2D高性能ホークアイISR機材がとらえた数百マイル先の目標群を戦闘機に割り振ると、F-35CやF/A18-E/Fスーパーホーネットあるいは将来の無人機が協調しながら対応することになる。攻撃に向かう機材はアーレイ・バーク級(DDG-51)駆逐艦や潜水艦と協調しつつデータリンクで結ばれ、NIFC-CAの全体構成を形成する。
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データを共有しつつ各構成単位の威力はNIFC-CAのネットワークで最大限発揮される。
「従来は各装備をその有する能力を使うために調達してきましたが、現在では統合能力により効果を実現させるための調達を意識しています。」(マナジル)
マナジル少将が示す例では空母打撃群が接近を拒む水域内で敵の強固に防御された領土をどのように攻撃するかを示している。NIFC-CAにより空母の航空隊は全機を発進させる。ステルス機のF-35Cの役割は敵領土奥深くまで飛行してISRデータを収集することになる。
F-35C支援にはスタンドオフジャミング能力があるEA-18Gグラウラーがあてられ、次世代ジャマーが使われて敵の低周波数早期警戒レーダーを妨害し、ISRミッションが侵入することが可能となる。
X-47B Unmanned Combat Air System (UCAS) demonstrator is towed into the hangar bay of the aircraft carrier USS George H.W. Bush (CVN-77) on May, 13 1980. US Navy Photo
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将来配備される予定の無人空母発進空中偵察攻撃 (UCLASS) 機が空中給油によりF-35Cの有効飛行距離を伸ばすことに活用されるだろう。
ただし中核はF-35Cで敵目標を把握探知することだ。E-2Dホークアイは空母航空部隊と協力しつつF-35Cが得たデータをスーパーホーネット戦闘機部隊に送信する。
武装を満載したF/A-18E/Fが敵の領空の奥深くに入り、スタンドオフ兵器を発射する。またF-35Cと同様にスーパーホーネットもUCLASSから給油を受けることが可能だろう。
「F/A-18E/Fは第四世代戦闘機だと考える向きがあり、ステルス機には追い付かないとみる人がいますが正しくありません。同機はパックス(パタクセントリバー基地)でF-35Cに匹敵する効果を上げることが可能と判明しています」(マナジル)
つまり海軍の長距離兵器で有効射程を最大限に伸ばすことが可能だが。マナジル少将は海軍がさらに長距離射程で生存性が高くなる兵器を開発中と発言。「今よりも厳しい状況でも生き残り射程の長い兵器が必要であり、このすべてを実現する兵器を手に入れつつあります」
The Navy’s Naval Integrated Fire Control-Counter Air (NIFC-CA) will link aircraft and ships with high-bandwidth data connections — like the emerging TTNT capability. Those big data pipes will work with smaller bandwidth connections — like the standard Link 16 data-link. The information from the NIFC-CA network will be routed to the strike group commander aboard the strike group’s carrier. US Naval Institute Graphic
スーパーホーネット隊が長距離スタンドオフ兵器を発射すると、各ミサイルはE-2Dが出すデータストリームにより誘導される。ミサイルは飛行の最終段階でF-35Cが誘導を引き継ぎ、目標に向かう。
そこでNIFC-CAの課題はデータリンクだ。空母航空部隊の各機はお互いにE-2Dを介して接続される。E-2Dが中央接点の役割を果たす。E-2Dも空母他艦艇と結ばれるので、同機は重要な存在になる。NIFC-CAにより空母打撃群は数百マイルに及ぶ領域を作戦対象にできる。
海軍は大胆なNIFC-CA構想の実現に不可欠なデータリンク技術の開発に努力を払ってきた。
「この5年でやっと技術をものにできました」とマナジル少将は明らかにする。「これまでは利用できなかったものであり、だからこそ高性能兵器システムとしてのF/A-18E/FブロックIIでAESAレーダーを搭載し各システムを融合させて活用できるようになります」
ロックウェルコリンズによる戦術目標捕捉ネットワーク技術 tactical targeting network technology(TTNT) の開発により、各構成機材が自分で電波を発信する必要が不要になる。「TTNTをMIDS-JITRS(multifunctional information distribution system joint tactical radio system 多機能情報分散システム共用戦術通信システム)の通信機に入れることで、データを自由に動かすことが可能」とマナジルは説明する。
TTNT波形により大量のデータを待ち時間を大幅に短縮して送信できるので、長距離間での大量データ共有には理想的な手段となる。これは2008年にネリス空軍基地(ネヴァダ州)で共用派遣部隊実証実験で確認されている。NIFC-CAのためにTTNTは空母部隊のE-2D、EA-18Gと空母をつなぎ、将来はUCLASSとのリンクにも使われる。「E-2D2機がTTNTネットワークを利用すれば空域の全体像を共有することが可能」(マナジル)
E-2D Hawkeye from the Pioneers of Air Test and Evaluation Squadron (VX) 1 on Aug. 27, 2013. US Navy Photo
E-2D部隊は個別具体的なデータをEA-18グラウラー部隊と共有し、後者はさらにTTNTネットワークとリンクされるか、Link-16の改良型とリンクされるだろうとマナジルは見る。EA-18Gはさらに高性能の並行複数接続ー4 (CMN-4)を使うことになろう。これはLink-16を重ねた構造だという。
グラウラー各機は連絡しあいながらデータリンクにより正確に敵のレーダー波発信元を特定し、陸上あるいは海上の敵レーダーに対応する。これは着信時間距離time distance of arrival.と呼ばれる技術を応用するもの。
さらにデータリンクされたグラウラー部隊はこの技術で出来の電子戦施設を排除することが可能で、NIFC-CA戦闘ネットワークへの妨害を未然に防ぐことができる。「センサー搭載機を広く分散させれば妨害は不可能となります。仮に一機にきわめて有効な妨害があっても、残る一機があればどこからそのエネルギーが放射されているのかがわかり標的に指定することが可能です」(マナジル)
いったん目標を捕捉すればグラウラーやE-2DがデータをLink-16経由で中継し、スーパーホーネットが攻撃を実施する。「F/A-18E/FやF-35Cは自機のレーダーを作動させる必要がありません。データを受け取るだけでいいのです」
さらにF/A-18E/F は自機から発射した兵器を誘導する必要がない。自分で引き金をひくのではなく、E-2DやEA-18GあるいはほかのホーネットやF-35Cが誘導を担当するのだという。
NIFC-CA 構想ではネットワークが大きな威力になるが、同時に弱点にもなる。とくにF-35Cは海軍が長距離侵入ISR機材としての活用を想定しているが、情報を後方の部隊に送信するには安全かつ妨害の可能性が低いデータリンクが必須となる。
The Navy’s first two test F-35C Lighting II Joint Strike Fighter in 2012.
「敵が探知不可能で妨害も不可能なリンク性能が必要です。リンクがアキレスの健にもなりかねません。そこでリンク防御が必須です」
NIFC-CAには冗長性が持たせてあり艦隊部隊は敵の電子攻撃あるいはサイバー攻撃を受けても運用を継続することが可能。
「実はリンクの妨害を広域で実施するのはとても困難なんです。こちらの目をつぶそうとすればこちらの支配する空域全体を取らないと不可能でしょう」
中国は軌道上の衛星を攻撃する能力を実証しており、独自にサイバー戦電子戦能力を整備している。仮にその種の攻撃が実施される可能性を覚悟して、海軍は宇宙配備の通信手段が喪失した場合の対応策をすでに確保している。
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ただし、NIFC-CA構想は極度に野心的な内容であり、まだ欠点が残っている。ひとつにはネットワークへの依存が高すぎることが現場のパイロットから指摘されている。
EA-18G Growler assigned to the Electronic Attack Squadron 141 (VAQ) flies over the Arleigh Burke-class guided-missile destroyer USS McCampbell (DDG-85) on Sept. 3, 2012
その中でも特に経験の長いパイロットからもしNIFC-CAネットワークが大規模になり全体のシステムを一度で妨害できなくなっても、個別のウェブが切断されることがないとは言い切れないという。
NIFC-CAの個別構成要素が妨害を受ければ、データ分散が深刻な影響を受けるとの心配もある。
他のパイロットからもNIFC-CAが全体像を共有させてくれると多くの利点もあるが、上層部が戦術作戦上で「細かい指示を出してくる」可能性も生まれると指摘する。上層部は戦術作戦の実施には立ち入るべきではないとし、「それが航空戦の現実」とあるパイロットは言い切る。
米空軍関係者はNIFC-CA構想を高く評価しているが海軍がA2/AD対策で空軍に協力をする姿勢を表明していないことに懸念を示している。海軍と空軍はペンタゴンのエアシーバトル構想では密接に協力し合う想定なのだが。
空軍との協力はNIFC-CA構想が成熟すると実現するかもしれない。NIFC-CA自体はより大きなNIFC構想の一部分にすぎない。海軍には海上艦艇と陸上装備を一体化した戦闘ネットワークを形成する案がある。NIFC構想も今後発展すれば次の戦闘で海軍の準備が正しかったのか判明するだろう。■
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