スキップしてメイン コンテンツに移動

米海軍の新戦略の概要が明らかになりました


現CNOグリナート提督の置き土産になりそうな海軍新戦略の概要が明らかになりました。全体としては攻撃力を重視する方向のようで、誠に健全な方向に思えます。


Winning The War Of Electrons: Inside The New Maritime Strategy

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on March 13, 2015 at 2:51 PM
WASHINGTON:.米海軍、海兵隊、沿岸警備隊が共同発表した新海洋戦略で強調しているのは危険度がましつつある世界で電子戦に勝利をおさめることの必要性だ。
  1. 「今回発表の文書では攻撃的な論調がめだち、米国の権益がからむ場所へのアクセスを確保する必要を強調している」と海兵隊総司令官ジョセフ・ダンフォード大将Gen. Joseph Dunford,が戦略国際問題研究所Center for Strategic and International Studiesで講演した。ただし対戦相手は従来を上回る高度装備を有しているはずで、これまで米軍が優位性を確保できていたサイバー空間や電子電磁の世界での優位性確保で真剣にならざるを得ない。
  2. 戦略案の表題は「21世紀のシーパワー確立のための協調的戦略」 “A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower” と無難なものになっているが、明らかな違いが組み込まれている。2007年版と比較してみると、前回は脅威となりうる国名を明記していなかったが、今回は中国、ロシア、北朝鮮、イランを名指ししている。また伝統的な海軍の基本政策から脱却し、従来の艦隊任務(抑止、制海、兵力投射、海上保安)に加え、5番めの「全方位アクセス」 “all-domain access” を加えているのが特徴だ。
  3. 冷戦終結後の米軍各部隊は世界のあらゆる場所に移動することを当たり前にしてきた。だが潜在敵国のロシアや中国のみならずテロリスト集団さえも高度技術を入手しており、これが安全理に実施できなくなった。「接近阻止領域拒否(A2/AD)」への対抗手段の議論が続く中、新戦略構想ではこの課題を核抑止力とほぼ同等の重要問題に位置づけている。
  4. 「兵力投射が抑止のためにも必要だが、進出したい場所に移動ができなくなっている。洋上、水中、宇宙空間に加えサイバー含むすべての空間で効果をあげにくくなっている」と海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将も同じ講演で持論を述べている。「アクセスが確保できないと任務実施は不可能だ」
  5. 全方位アクセスを5番目の中核的ミッションに追加することは単なる言葉上のあやではない。「中核的任務はなにか」とウィリアム・マキキン少将Rear Adm. William McQuilkin が戦略案紹介の記者会見で発言している。「人員確保、訓練、装備の3つは法律の上でも軍の基本機能と定義付けられている」 全方位アクセスをここに加えることは「従来からの中核的機能と同等に扱うことになる」と少将は言う。
  6. ただしグリナート大将は2017年度予算案提出時点で現職にはとどまれず、今年末で作戦部長(CNO)の任期が切れ本人は退役するはずだ。だが、戦略案はグリナートが3年の任期中一貫して求めてきた構想、特に電子サイバー戦の拡充を形にして残すものだ。
  7. 「今回の戦略案でグリナート提督がCNOとして求めてきた方向性が制度化される。そこに新戦略の意義がある」と解説するのはブライアン・クラーク(退役海軍士官でグリナートの補佐を努め、戦略案作成に関与)だ。グリナートは「電子戦をその他従来の海軍作戦と同じ位置づけに引き上げようと骨を折った。統合EMスペクトラム作戦構想 Joint Concept for EM Spectrum Operations (JCEMSO)として国防総省の研究がはじまったことで機運が高まっており、EWやC4ISRも予算減少の中で重要性を高めている。だがなんといってもCNO本人がその先導役だ」
  8. 「この文書は本人の功績として記憶されるだろう」とランディ・フォーブス下院議員Rep. Randy Forbes(下院軍事委員会シーパワー小委員会委員長)も見る。「本人は主張だけにとどまらず、これから必要な兵装の検討に身を入れてきた。その一つが電子戦分野だ」
  9. 高性能装備を有する敵の打破が中心になれば、戦略案は高性能装備の整備に走ることになる。フォーブス議員は記者に戦略案では空母から運用するUCLASS無人機には戦闘能力が必要と語った。単なる偵察機にはさせないという。予算強制削減をめぐり、「歳入委員会がこの戦略案をこの週末に読み終えるとは思えない」というものの「この文書で関係者はなぜ今までの方向性を変える必要があるのか理解するはず」という。
  10. ただしクラークは議会への影響度に懐疑的だ。「この戦略案では高度装備中心を強調し、ロシア、中国と地政学的争いに勝てると主張しているが、地政学的傾向と構想上の必要点、装備能力が組み合わさっていない。これでは決定権を持つ人達にはどれを優先順位で高くしたらいいのか見えてこない。議会関係者は全体像を理解されていないままだ。『中国あるいはロシアがXをするから、当方にはYあるいはZの能力が必要だ』と説明しないと議会も優先順位がつけにくい」と解説する。
  11. 新戦略中の重要事項のでも最大のものは全方位アクセスの確保で海、空、宇宙、サイバー空間、電子電磁空間のすべてで行動の自由を確保する新構想だ。クラークによれば全方位アクセスこそ中核的任務の中心に位置すべき存在だという。
  12. 「海軍がいおうとしているのはアクセスこそ海軍機能の中心だということだ」
  13. 「海軍の戦略方針も大きく変化する」とクラークは続ける。「アクセス確保はこれまでも海軍の役割だったが、ここまで明確にまとめた例はない」 さらにソ連崩壊後はアクセスはわざわざ戦わなくても確保できると考えられてきた。しかし、今や「新戦略案で再びアクセス確保が中心に返り咲いた」という。
  14. 全方位アクセスの本質は何なのか。公文書の常として戦略案の記述は課題の列挙に終わっている。「全方位アクセスの実現には非常に多くの要素がからみあっているようだ」とクラークも認める。ただし各要素をつなぐのは電子だ。
  15. 戦略案では全方位アクセスを5つの観点で包括しており、すべてでサイバーあるいは電子戦が関係している。
Battlespace awareness 戦闘空間認識には「常時監視偵察」が物理的な空間だけでなくサイバー空間や電磁スペクトルでも必要だ。
Assured command and control 指揮命令機能の確保には米軍通信ネットワークが安全かつ高い信頼性で機能することが必要で敵の妨害やハッキングに対抗する必要がある。ダンフォード大将は海軍・海兵隊の使っている通信ネットワークでは分散作戦 dispersed operations の統合調整に適していないため新たな整備が必要と発言している。
Cyberspace operations サイバー空間内の作戦には攻撃、防衛両面の対処を含む。
Electromagnetic Maneuver Warfare 電子電磁操作戦とは海軍の新しいコンセプトで友軍の発信を隠し、敵を欺瞞あるいは妨害することだ。
Integrated fires 統合火器運用では高価だが在庫が限定されるミサイルを発射する代わりにジャミング、ハッキング、レーザー発射やレイルガンの使用で対応する
  1. 新兵器や新戦術の説明はあえて省かれているが、「今回の戦略案には非公開の付属文書が2ないし3つあり、世界的規模での作戦対応方針を述べている」とグリナートが発言している。非公表の戦略案について講演の席上で記者が質問してみたところ、グリナートは「まだコンセプト段階だが、これまでエアシーバトル構想で展開してきた内容を引き継いでいる」と答えてくれた。
  2. エアシーバトルが物議を呼んだのはハイテク、高密度長距離戦を空軍と海軍が高度な防衛体制を持つ敵国対象に実施する内容だったからだ。その後、海兵隊と陸軍も加わり、コンセプト名称はグローバルコモンズへのアクセス、作戦展開構想Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commonsと変更されている。ただし、その中心的問題提起は米軍に空、海、サイバー空間のいずれでも米国に挑戦できる能力を有する敵と戦うというもので、今回の新戦略でもこれを重視している。■

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...