AviationWeekではときおり実機の操縦レポートがあり、自動車雑誌のドライブレポートのようなものなのですが、民間機の例がほとんどです。今回はA400Mをパイロット席で実際に操縦してみた、とのレポートです。羨ましい体験ですね。
Pilot Report Proves A400M’s Capabilities
By Fred George
Source: Aviation Week & Space Technology
June 10, 2013
Credit: Mark Wagner/Aviation-images.com
Fred George Toulouse
構想段階から30年かけてまだ就役していないエアバスミリタリーのA400Mアトラスの登場でヨーロッパ独自の大型輸送機が利用可能となり、米露以外の機種の選択肢が生まれる。.
- 開発・生産準備に投じられたのは300億ドルを優に超え、それだけに共同開発各国からの期待には高いものがある。今回本誌Aviation WeekはA400Mを操縦する機会を与えられた。
- A400Mの機体外寸はロッキード・マーティンC-130JとボーイングC-17の中間に位置する。西側世界ではもっとも高性能なターボプロップ機でフライバイワイヤ(FBW)飛行制御を有し、短い未整地滑走路からの運航が可能だ。
- 同 機の歴史は長い。概念を最初に提示したのは1982年で、要求性能をまとめたのは1996年。エアバスミリタリーが設立されたのが1999年でA400M に専念することとなり、固定価格による開発生産する契約が発効した。引渡し開始の2009年予定が遅れ再契約交渉となり、やっと初号機をこの7月にフラン ス空軍に引き渡すところまでこぎつけた。
- 同機は3月にヨーロッパ型式証明を得ており、兵站ミッションでの初期作戦能力獲得を経て就航する。「標準作戦能力」機の引渡しが今年末に予定され、2014年末までにアトラスに空中給油受入能力、機体防御能力、空中給油タンカー能力が加えられる。.
- エ アバスミリタリーによるとA400Mの性能はペイロード33トンで2,450 nm 、最大等裁量40トンで1,780 nm.で通常巡航速度はマッハ0.68あるいは390ノット(真対気速度)(KTAS)が高度37,000 ft.(通常の軍用作戦最大高度)で出せるという。高度31,000 ft.ではマッハ0.72あるいは422KTASになる。一般的な運用では降下部隊116名あるいは傷病兵66名を搭載する。または463L貨物パレット 最大9個、ユーロコプター・タイガー攻撃ヘリ2機、あるいは装甲兵員輸送車3両を搭載する。
- オ プションの空中給油パッケージでヘリコプターへ表示対気速度KIAS)105 kt.で給油を行える他、戦闘機に300 kt.での給油が可能。主翼左右に2,650-lb./min.で給油できるホース・ドローグ方式ポッドを装着するか貨物室後部に4,000-lb. /minのホース・ドラム式装備を取り付ければ合計三機へ空中給油ができる。オプションの貨物室内燃料タンクも入れるとさらに25,000 lb.を搭載できる。最大99,000 lb. 搭載の場合は250 nm、51,000 lb だと1,250 nmになる。
- 機体は通常の金属製で7.8 psi に加圧し、貨物室床面はトラック・ローラー方式なので貨物の取り扱いを楽にしている。主翼はカーボンファイバー製で15度まで湾曲する。T字尾翼も複合材を多く使いっており、水平安定板としての機能から形状を選んでいる。.
- シ ステムはA380を模範としているものの、軍用ミッションを考慮した手直しもしている。油圧は3,000-psiの二系統として飛行制御,着陸装置作動、 ブレーキ、貨物室ドア開閉、空中給油装置を作動させる。三番目の系統がないのもA380と同じだが、電動装置は二系統あり、ひとつが油圧系統の作動用に、 もうひとつを電動油圧ハイブリッド作動装置である。この冗長性は戦闘時の損傷を想定したもの。
- 着陸装置は14輪で非整地滑走路への着陸が可能る。車輪はタンデム独立方式で機体姿勢を未整地滑走路の地表形状にあわせ調整できる。
- Aviation Weekはエアバス主力工場のあるツールーズに赴きA400M操縦を試みた。MSN6号機の左側操縦席でベルトを締めると同社の主任テストパイロット、エ ド・ストロングマンEd Strongmanがインストラクターとして右座席にすわった。ストロングマンは2000年からA400Mに携わり2009年の初飛行も実施している。テ ストパイロットのマルコム・リドリーMalcolm Ridleyとフライトテストエンジニアのジャンポール・ランベールJean-Paul Lambertとティエリ・リュワンドウスキThierry Lewandowskiも搭乗した。
- MSN6 の運用空虚重量は177,250-lb. で量産型より850 lb. 重い。ペイロード882-lb. で無燃料重量は178,132 lb.だ。燃料は最大55,115 lb. 搭載できるが、今回は一部のみ充填し、ランプ重量は233,247 lbで計算上の離陸重量は232,365 lb.だ。軍用輸送ミッションでの最大離陸重量は310,851 lb.になる。
- 今 回はTP400エンジンの離陸性能を全開とし11,065 shp. を各エンジンから引き出すこととした。フラップを1とし(約10度)、V速度は110 KIASでV1離陸判断速度、129 KIASがV2エンジン不調でも安全に離陸できる速度だ。フラップ引き戻しは148 KIASでV速度は今回はラップトップコンピュータで計算したが、量産型で飛行管理システム(FMS)で自動計算される。FMSでは機体重量と重心位置を 検算し、水平安定版の角度を調整して離陸することになる。
- 今 回の飛行計画はツールーズ14R滑走路を離陸し、 9.3 nm南東へ飛行し、ツールーズ・ブラニアック無線局方面へ向かう。次に地面高度500 ft.へ降下し、低高度のままギャロンヌ地点を通過後ピレネ山脈のふもとカゼールに向かう。天候条件がよければ低空飛行のまま東に向かい20マイル飛行し てから中高度そして高高度に移動し巡航飛行性能の点検をしてからツールーズに戻るというもの。
- 天候はデモ飛行にうってつけで、1,000 ft.以下で雲の層がはじまり25,000 ft.まで続いている。これにより同機の低視認性の評価が可能となる。
- ス トロングマンがモニターディスプレーで始動前チェックリストをした。エンジン始動は簡単で、燃料ポンプを始動し、エンジンスタートノブを回すとエンジンマ スタースイッチをオフから不フェザー位置にしただけだ。デジタルエンジン制御によりその他の始動手順はすべて完了した。
- プロップが80 rpmまで加速すると振動が感じられたが、エンジンが安定するとマスタースイッチをフェザーから作動に変更して振動は消え、650 rpm で地上アイドル状態になった。
- 駐 車ブレーキを解除するとアイドル回転で機体がわずかに動いたが、出力レバーをタキシー開始にセットした。ストロングマンから出力レバー操作で主翼内側の第 二第三エンジン調節でタキシー速度のコントロールができるとのアドバイスが出る。カーボン製のブレーキは滑らかで機首の前輪操作も同様だ。
- 14R 滑走路の中央に機体を合わせる。離陸許可が出たので、推力レバーを飛行アイドル状態から前進ストップまで一気に動かす。エンジンは滑らかに加速し、プロッ プは860 rpmで安定すると中程度のノイズがコックピットでも感じられる。ノイズ軽減型ヘッドセットの使用を指示したが、コックピット内のノイズレベルはC- 130他ターボプロップ機より相当低い。
- 重 量出力比が5.25:1の同機は加速がきびきびかつなめらかだ。ローテーション速度に達するとサイドスティックを半分ほど引き機首が20度ほどになってか ら離す。フライバイワイヤ方式の飛行コース安定機能によりピッチとバンク角度は一定のままで機体は加速し、着陸装置とフラップを戻した。
- 高 度警告装置が作動したのは3,000-ft. の承認済み高度に近づきつつあったためで、出力レバーを戻し、エンジンを自動スロットルシステムに任せる。これでプロップは730 rpm まで減速し、出力は9,460 shpに下がったままで上昇する。さらにプロップ速度が下がるとコックピット内の警告音量も下がる。
- エアバス社のジェット旅客機と同じくA400Mでも出力レバーは自然に元に戻らない設計で、安定出力で一度とまったままになる。出力レバーが動くと乗員は自動スロットルの作動状態を視覚的触覚的に把握できると思うのだが。
- 高度3,000 ft. 、250 KIAS で水平飛行に移りエンジンを低騒音作動モードにすると、プロップ速度は650 rpmまで下がる。敵地飛行の場合も飛行音は小さくなるだろう。ツールーズ住民にも騒音はかなり下がる効果がある。
- ヘッドアップディスプレイ上の飛行経路ベクターシンボルでFBW飛行安定機能の利点を活用しながら、手動操縦で簡単に高度方位角を維持できた。飛行経路の微調整のためにサイドスティックで入力をしただけだ。
- ツールーズ・ブラニャックに近づくと雲に切れ目が見つかったので、右方向に急角度のバンクで地面高度500 ft. まで降下し、280 KIASでガロンヌへ向かう。付近の悪天候により低高度で振動があるが、飛行経路安定機能により機体制御は容易にできた。
- 民 生用FBWを改良したA400Mでは機体寸法に似合わない機敏性がある。サイドスティックへの入力では反応レスポンスはきびきびしてる。飛行は安定してお りラダー操作は実質上不要だ。電波高度計に連動した合成音声が高度を読み上げてくれるので、500 ft.での巡航を維持するのも楽だ。
- 前方監視赤外線画像システム(EVS)のカメラを作動させた。ストロングマンが左側HUDの前にカードをかぶせ、筆者の視野から外部を遮断した。HUD上でEVS画像を低空飛行するのは容易だとわかり、夜間や曇天時の戦術飛行ミッションで有効だとわかった。
- カゼールに近づくと最大性能での上昇を試すべく、推力レバーをぎりぎりまで前に動かすと、40度ピッチになる。初期上昇率は7,000 fpmに達し、低い雲の層はあっという間に突破した。
- そ のまま230 KIASで上昇しフライトレベル310(3万1千フィート)に達したところで巡航性能をチェックすることになった。重量227,000 lb.の機体はマッハ0.68で巡航中で、燃料を一時間7,700 lb.消費する形で飛行する。ISA-5C条件での巡航速度は394 KTASだった。さらにマッハ0.72のレッドラインまで加速。燃料消費は9,100 lb./hrまで増加。巡航速度は417 KTASになった。
- 再び12,000-16,000 ft.まで降下し、標準的な機体操作を一通り実施したところ目を見張る結果が得られた。280 KIASで急角度バンクし、機体は3gでストレスなく急動作してくれる。FBWの飛行性能制御のおかげだ。
- 迎え角(AOA)を大きくした飛行でも目を見張る結果だ。フライバイワイヤは揚力による主翼の性能上の変化を検知でき、「アルファマックス」と呼ぶ最大角度のAOAもFBWの通常の動作範囲内だ。アルファマックスは失速につながるAOAの寸前にプログラムされている。
- ストロングマンが失速防止対策をもうひとつ見せてくれた。自動スロットルでもアルファマックスになる十分前に推力をふやし機体を保護する介入をしてくるのだ。
- そ こで危険低速防止機能を切り、アルファマックスでの機体性能を確かめることにした。機体重量225,000 lbでフラップを4に選択、推力レバーをアイドルにもどし、高度を維持し、減速させてみた。98 KIASでアルファマックスに達した。その時点でFBWによる低速防護機能が働き、機体制御を失う事態には至らなかった。機首を下げ推力を増した段階で回 復を迅速に行えた。
- パワーオンで失速を試みたところフラップ4で速度105-120 KIASで飛行可能とわかった。フラップ4はヘリコプター向け空中給油の設定。フラップ4のままで110 KIASで苦なく飛行できた。
- フ ライバイワイヤでエンジン不調の際にパイロット負担のほとんどを解消できることがわかった。高度13,000 ft.速度121 KIASでエンジン出力100%とした段階で第四エンジンをアイドルにしたところ、FBWがエルロン、ラダー双方へのインプットを補正して飛行バランスを 維持することが確認できた。そこで、右側の第三、第四エンジンをアイドルにし、左側エンジン二基を100%出力にしてみるとFBWが飛行バランスを維持す るのが確認できた。
- その後ツールーズ空港へ正常の3度のグライドパスで計器着陸システム(ILS)アプローチで14R滑走路に着陸した。フラップ4でのVREF着陸速度は機体重量222,000 lb.で120 KIASだった。
- 最初のアプローチでタッチアンドゴーをしてから有視界飛行追い風パターンに入った。滑走路端を通過してから3,000 ft. (空港上空2,500 ft.)とし、着陸装置を下ろし、フラップ4で高度を保ったまま148 KIAS を維持。
- そ の段階で出力を落とし、スピードブレーキを全開にして12度の強行着陸パターンをシミュレートした。機体は制御が楽で毎分3,000-ft.の降下は快適 に感じられた。500 ft.上空でスピードブレーキを格納し、出力を増加し、通常の3度ILSグライドパスに乗った。その時点で速度は125 KIASへ減速。タッチダウンは滑走路標識を越したすぐの地点で機首は滑走路に近づくほど下がり、推力レバーをいっぱいに戻しブレーキを強く踏んだ。機体 はおよそ1,600 ft.で停止した。練習をつめば着陸時の滑走距離はもっと短くなるだろう。
- 同 機のローンチカスタマーのベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルグ、スペイン、トルコ、英国にマレーシアが加わり、C-17より小さいというすきま規 模で運用される。戦略輸送機としてC-130Jに対し速度、航続距離、ペイロードですぐれているが、C-17より低い。戦術輸送機としてなら急角度で強襲 着陸する能力がある同機は西側輸送機の他機が追随できない性能を有する。簡素な空港施設でも運用が可能だ。
- 最 初の引渡しはフランス空軍向けでいよいよ来月に迫ってきた。フランス空軍は一号機を軍用型式証明に使う意向で、さらに2機が年末までに納入される。同時に トルコも1機を受領する。2014年には生産規模を拡大する予定だが、ヨーロッパ各国の防衛予算動向に左右される。ヨーロッパ航空安全庁による型式証明が 下りればA400Mは米国製あるいはロシア製品の導入が政治的に困難な国にとって魅力的な選択肢になる可能性がある。■
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