スキップしてメイン コンテンツに移動

中東の核バランスを守るのは強固なミサイル防衛体制だ

11月になりました。ハリケーンのため新規記事が不足しており、ちょっと古いネタをご紹介します。有効なミサイル防衛体制がその効果をあげている事例がイスラエルです。東アジアで、現実に冷戦時代並のの安全保障環境になっているわが国にも参考になりますね。

 

Defense Plays Key Role In Nuclear Balance

aviationweek.com October 22, 2012

もしイランがイスラエルに脅威感を持たせれば、真の脅威となるはずである。イラン指導部の最悪のシナリオは核攻撃が失敗し、同国が国際社会の笑いものになったあともたっぷりと武装をした敵対国の怒りを無視することだ。

  1. 核 脅威がどこまで信用性をもつかには兵器体系、運搬手段、防衛体制が関係する。核兵器を日本に対して使う決定をした際には多くの要素が絡み、現時点から見れ ば考慮の不要なものもあったのは事実だ。日本には報復手段が存在しておらず、大量破壊兵器使用に対する良心の咎めも連合国側にはそれまでの大量爆撃により とうに消失していた。その時点で運搬手段も利用可能となっており、B-29は昼間に日本上空に到達し、高い確率で任務に成功し無事帰還する見通しが立って いた。
  2. イ ランの場合では中距離ミサイルと核弾頭の同時開発で目的を実現できる。これまでのところ、この仕事を迅速かつ安価に完成させた国はない。通常弾頭を搭載し た非精密誘導ミサイルが地域を横断する距離で発射されても意図したとおりの目標に正確に到達することはできず、でたらめな地点が破壊されたり、大都市圏内 で破壊効果が薄く広がるだけだ。イランはこれにかわる核兵器運搬手段の実現ができる見通しが立っていない。
  3. 冷 戦時代に米ソ両国が核兵器運用体系としてミサイルと弾頭を生産している中で、双方ともに効果ある兵器の生産確保に時間がかかったという事実が特に初期段階 で存在したことがともすれば忘れられがちだ。目的達成には特別な技術が必要で、高温に耐える素材とか液体あるいは固体燃料の推進機や核分裂物質の起爆材料 が研究開発された。研究開発をさらに複雑にしたのは実験を行うことでそもそもの装置そのものが破壊されたことだ。
  4. . イランについていえば、複数の筋から同国が「数百基の」シャハブー3Shahab-3ミサミサイルを有していると見られている。シャハブ-3はロシア製 R-11/R-17スカッドを原型とし、北朝鮮製ノドンミサイルから開発されたものであるが、イランの有する発射台の数は少ない。同ミサイルはトラクター により道路上を牽引移動できるものの、液体燃料のため燃料運搬車が随走し、燃料充てん前に直立させる必要があるので、探知されやすく脆弱な目標になる。 (これが米国が液体燃料のレッドストーンミサイルを固体燃料のパーシングに置き換えた理由である) イランの固体燃料ミサイルであるセジルSejjilの 生産には本体、推進剤で新しい産業基盤が必要であり、いまだに試験段階のままだ。
  5. イ スラエルはイランが核兵器の各部品を同時並行で開発中と見ている。「そのため起爆メカニズムと爆発物特性を同時に研究開発しているのです」(エフレム・ア スチュレイEphraim Asculai,、テルアヴィヴ大学国家安全保障研究所上席研究員)「情報収集からこの研究はパルチンParchinの核研究施設で行っていることがわか りました。設計は完了し、金属容器内に起爆タイミングのメカニズムを収容しています。国際原子力エネルギー機関が同地の訪問を要請したがイラン側が拒絶し ています」
  6. 「イランはシャハブ3以外に固体推進剤の開発を進めています。そして弾頭を装着する動きが情報収集で判明しており、既に数発が準備完了していますが、核分裂物質は装填されていません」
  7. 「イ ランが手に入れた低濃縮度ウラニウムは5,000キログラムですが、原料ウラニウムは5,000トンしかありませんので原子力発電用には不十分ですが、核 兵器製造には十分な量です。この濃縮済みウラニウムから原爆3ないし5発の製造が可能です。最低でも4発が必要でしょう。一発は地下実験用、もう一発はそ の予備、残る2発は抑止兵器として保有します」
  8. 「工 程は後になるほど加速しますが、最初の段階では各種の遠心分離機をつくり、特別な収納容器も必要です。おそらくフォルドウFordowの地下濃縮プラント で作業しているのでしょう。これは2009年に同工場の存在が明らかになった段階で決定的証拠です。民生用ではありません。イランは隠蔽工作に長けてお り、フォルドウ施設の発表は偶然の結果ではありません」
  9. これとは別に国際安全保障科学研究所 Institute for Science and International Security (ISIS) から10月初めに発表された独自分析ではイランは「相当な量」 “significant quantity” (SQ) の兵器級ウラニウムweapons-grade uranium (WGU)25キログラムを入手しており、核爆弾一発を作成する最低量に匹敵し、突貫作業で2ないし4ヶ月で完成させられる、としている。
  10. ただし、その実行のためにはイランは現在貯蔵中の2%低濃縮ウラニウムを全部使い切る必要があり、そうなるとその後でSQを再び確保するのは時間が余分にかかることになる。濃縮原料がない状態から工程を再開するためだ。
  11. .ISIS の試算ではSQの二単位を4.6から8,3ヶ月でイランは確保できるとし、ナタンツNatanz施設の遠心分離設備のコンピュータシミュレーションによる ものだという。また濃縮工程に手を加えれば8.9から12.8ヶ月でSQを4単位確保できる。ただしこれでLEU在庫を使い切り、その後に爆弾用の原料を 確保するには9.5から17ヶ月必要となるという。これはナタンツ施設の場合で、より小規模のフォルドウでは一発分の原料確保に最低21ヶ月必要だとい う。
  12. イランが自国の立場を強化するには攻撃を延期し、LEU貯蔵量を増やせばよいのであるが、その間にイスラエルの防衛力整備が進むし、イランへの国際制裁は残ったままである。
  13. さ らにイランは「妨害活動」を受けていると引き続き抗議しており、IAEA査察官も関与しているといっているが、核開発が水面下で攻撃を受けていることを示 唆しているのだろう。最近は送電線が爆弾攻撃の対象となり、核開発を全体として管理しきっていないようだ。サイバー攻撃の影響もある。ISISが使ったモ デルではこういった阻害要因は考慮に入れていない。
  14. またWGUが25キログラムが爆弾一発に本当に相当するのか。ましてやミサイル弾頭になるのか。爆弾は技術開発の後で実験が必要だ。今までのところ、物理的な実験を経ずして核弾頭運用をしているのはフランスだけだ。そして弾頭は再突入機体 reentry vehicle (RV) に装填し、正確な高度で信頼度高い起爆ができるように保護、通電する必要があるのだ。 
  15. イ ランはイスラエル防衛網に対して有効な脅威策を検討する必要がありそうだ。攻撃と防衛のバランスが冷戦時代と逆になる。有効な防衛網突破手段として低視認 性遠隔操縦機や囮が利用可能になるまでは(実用化には相当の時間ががかると見られる。冷戦時代でも相当の技術難易度だったので)イランに残された唯一の戦 術は一斉発射でイスラエル防空体制に打ち勝つことだけだ。
  16. .イスラエルはまさにその脅威を想定して防空体制を整備している。迎撃ミサイルでは新型二種類を導入するほか、現有のアロー2ミサイルを改修する。この改修でアローはより高速の目標に長射程で対応できるようになる。
  17. その先にアロー3大気圏外迎撃ミサイルがあり、開発中だ。推力方向変更方式で目標に衝突し破壊する。アロー3ミサイルがイスラエル防空体制の最上部をうけもち、中間軌道で敵ミサイルに立ち向かう構想だ。
  18. . アロー2と比較するとアロー3の射程は二倍になったが、重量は半分だ。目標データは光センサーを通じて継続して受信し、第二段目の最終ブースターにも独自 のモーターがあり、運動性が増強されている。アロー3一基で30秒間にミサイル5基に対応できる設計で、発射後でも方向変更は可能だ。
  19. . もうひとつ2013年に登場するのがダビデのパチンコ David's Sling 迎撃ミサイルで、現在は最終開発テスト中で、来年に初期作戦能力を獲得する。アロー2やアイアンドームが対応目標を明確に想定している中、ダビデのパチン コは柔軟かつ多用途兵器システムとして航空機、巡航ミサイル、誘導ミサイル、長距離弾道ミサイルそれぞれに対応できるよう開発された。陸上、海上あるいは 空中から発射可能で、デュアルバンド(レーダーと赤外線画像)のシーカーと強力なマルチパルスロケット推進で最終段階の運動性が高い。
  20. . イスラエルのミサイル防衛部隊は棚上げになっていたミサイル最適化対弾道弾防衛構想を復活するだろう。同構想は1990年代に提唱されていた。その内容は 敵ミサイルを発射後の上昇段階で撃墜するもので、短距離射程のパイソンミサイルを高高度飛行中のUAVから発射するもの。提唱当時には長距離飛行が可能な 無人機がまだなかったが、現時点ではヘロン Heron TP HALE UAV とスタナー・ミサイルがあることから同構想が再度日の目を見ている。UAVにはミサイル迎撃以外に早期警戒と追跡の任務も期待できる。
  21. もうひとつイスラエルの防衛体制の鍵になるのが革新的無意思決定技術でラファエル Rafael  の関連企業 mPres tが開発し、アイアンドーム短距離ロケット防衛システムに採用された、ミサイルとセンサー類を組み合わせて複雑な交戦状態を管理する技術だ。
  22. そしてイスラエルは米国とミサイル防衛で密接に協力しており、有事の際には米部隊の地上あるいは海上配備で防衛体制を強化する期待が可能だ。
  23. イ ランはほかの妨害手段にも注意が必要だ。迅速な発射が可能な固形燃料ミサイルが運用可能になるまでは、現有のミサイルが地上では脆弱な存在であることも事 実だ。移動式兵器の指揮命令系統を電子攻撃の対象になりやすく、、ジャミングの影響も受けやすい。またサイバー攻撃でミサイルと発射制御の連動が妨害を受 ける可能性も高い。
  24. そ こでイスラエルの防衛装備の進展がイランの作戦立案上のジレンマになっている。「受け入れがたい損害」とするために一定数のミサイルが必要でイスラエルを 核のこう着状態に引きずり出すことが狙いだ。しかし、ミサイルの必要数は今後増加せざるを得ない。というのはダビデのパチンコとアロー3が配備されるため で、イランも情報収集活動でその数を推測できるに過ぎない。そうなるとイランは核開発を急ぎたくなる誘惑に駆られ、イスラエルは次の段階の装備改善に当て る時間がなくなる可能性も出る。
  25. そ の結果、イランの核開発はイスラエルの防衛体制整備との競争になり、もしイランが核開発を特急で開発しようとし、核実験を早期に実施したら、失敗の可能性 なく安心して使える核兵器開発の道が遠のくことになろう。同時に攻撃を招き、開発がさらに厳しくなる事態になるかもしれない。それでなくてもイランの経済 は制裁の効果で悪影響を受けており、実際に軍拡に専念できるだけの資源はなくなっているのだが。■

コメント イ ランは現時点で有効な核兵器運搬体系をもっていないということですか。その抑止力として強力なミサイル防衛網を整備するイスラエルにとっては今年はよくて も近い将来の安全の保証はありませんので、そうするとどこかでイスラエルがイラン攻撃のオプションを選択する可能性があるということ?

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...