ロシア、さらに中国との交戦を想定すると戦闘は長期化する、との予測でとりあえず新板の国家軍事戦略はできたが、中身はまだ未整備だというのが今回の指摘です。細部はともペンタゴンが現実の世界に対処する考え方をまとめはじめたということでしょうか。
New Military Strategy Shows A Dangerous World – But Not How To Deal With It
WASHINGTON: ペンタゴンは世界の変化を痛いほど認識しているが、対応方法の答えが見えていない。
新国家軍事戦略National Military Strategyから見えてくるのはこんな頼りない結論だ。そもそも官僚の作文には高い期待はできないものだが、今回の新戦略構想ではこれまで存在しなかった脅威をどうとらえているのかのヒントが含まれている点が救いだ。ただし、対策は普通の域を脱していない。.
「良い点は全体の状況把握は正確で、戦略環境を正しく捉えていること。では軍としてどう対応すべきかという点になると、やはり以前通りの直線的な解釈に終始している」というのが陸軍大学校准教授ネイサン・フライアNathan Freierの評だ。
戦略案を発表したデンプシー統合参謀本部議長は複雑な安全保障環境から「軍歴40年の中で最も予測が難しい」と評している。テロリストのみならずロシアや中国といった大国との開戦のリスクが「拡大中」である状況が同時並行しており、その中間に「ハイブリッド脅威対象」としてゲリラ勢力が国家並みの装備を展開しているという認識だ。ロシアによるウクライナ併合は現地勢力を活用しつつ、特殊部隊も展開した点でハイブリッド型の例で軍事大国がゲリラ戦術を活用している点に注意が必要だ。イスラム国が支配地域を確保し維持しているのもハイブリッド型で非正規部隊が限定的ながら国家のように振舞っている例だ。
ただし新戦略ではすべての脅威対象を同じ軸に配置している。非国家勢力による戦闘が発生する確率は高いが、危険度は低い。一方で大国との戦闘は可能性は低いが発生すれば極めて危険だ。このように考えるのは単純化しすぎだろう。
2015年版国家軍事戦略構想より 紛争の分類
ロシアのような大国は通常型軍備を使わずに大きな損害を与えることが可能だ。天然ガス価格の操作、ハッカーの活用も武器になる。逆に非国家勢力のイスラム国が世界規模のテロ破壊活動を展開することは可能で。これまでの指揮命令系統を使用せずにソーシャルメディアを使って実施できる。
「10年20年までは指導層がないままの抵抗活動が最新の形態だった」とフライアは語る。「ところが指導層が存在しない抵抗活動が現実のものとなっている。バラバラの個人が遠隔地の思想に従い行動している」 テロリスト組織と直接の接触がない戦闘員が実質的に動員されているという。
次の大戦が発生したら?
指導層がなくても自主的に組織されたテロリスト集団はローエンドの悪夢だが、大国との戦闘はハイエンドの悪夢と言えよう。デンプシー議長はアメリカの技術優位性が失われつつあるとを警告する。この危機意識はこの数年間でペンタゴンの優先事項で最上位になっている。またデンプシーは戦争が「長期化」する可能性を指摘している。
だが21世紀に大規模戦闘が長期化するだろうか。大国間では戦争のない状態が長く続き、軍事技術は急速に進歩しているので、結果の想像が難しい。デンプシーは明言を避けるが、米国のスマート兵器が使い果たされ在庫が空になる可能性は高い。
第一次大戦では両陣営は戦前に備蓄した兵器を開戦後10週間までは使っていたとジョン・スティリオン John Stillion (戦略予算研究センター)は指摘する。「弾薬不足と火力による甚大な損失で戦闘はむしろ長期化した」という。第二次大戦では日米海軍は真珠湾攻撃後12ヶ月でそれぞれ相手陣営の空母を標的とした結果、「両国が空母部隊を再編する19ヶ月にわたり大規模な空母対決は発生しなかった」(スティリオン)
米国の南北戦争を見てもわかるとスティリオンは続ける。初期のブルランの戦いで両陣営は長期戦体制に入った。「歴史が証明しているのは大国同士の戦争は長期化する傾向があるのは、相手に一方的に損害を与えられないためであり、開戦直後に敵を圧倒的に制圧できないことも理由だ」
もし大国間の戦争が今勃発するとアフガニスタンとは様相が異なっても、第二次大戦とも全く違う形になるだろうと、CSBA研究員ブライアン・クラーク Bryan Clark:がコメントした。「現在の産業基盤では最新の高性能装備や兵器を急には増産できない」ので初期の交戦で損耗した装備の補充はできない。
だが大規模かつ長期にわたる軍事衝突は未経験の課題を残すだろう。
「この戦略の欠陥は戦略として機能していないことです」とクラークは更に続けた。「文書の上では資源に限りがあると認めているが、それを前提に米軍部隊がどう対処するのかは触れていないですね。たとえば、『敵の全滅』は不可能かもしれないし、限られた資源で目的をどう貫徹するのか、これまでのやり方は通用しません」
「結局、文書は意向を示すことに終始しており、実施可能な戦略になっていません。本当の戦略なら立案上、開発上あるいは予算認可の各段階で国防総省の限られた資源をどこに使うべきかを決定するのに役立つものであるべきです」とクラークはコメントした。■
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