地球周回軌道上の安全保障の鍵をにぎる衛星群がまっさきに攻撃を受け、必要な情報が入手できなくなれば戦闘の指揮もままならない、そんな危険がすぐそこまでやってきている、というのが指揮命令系統を緊急時に誰が取るのが適切なのかという高級な議論の出発点のようです。共同宇宙作戦センターにはゆくゆくは自衛隊要員の出向も想定されており、日本にとっても関係のない話題ではなくなるのは必至ですよね。
Would Spies Command In A Space War? Dunford Says Maybe
PENTAGON: スパイ衛星が攻撃されたら誰がその対応を指揮するのか。戦略軍司令官なのか国家情報長官なのか。空軍所属の衛星が攻撃を受ければ、どうなるのか。このような疑問が熱く、だが静かに米政府の最上層で問いかけられている。
- スパイ衛星が攻撃を受けるとしたら交戦の初期段階で、軍と情報各機関による共同対応が不可欠だ。だが、軍上層部には国家情報長官や他の情報機関トップがスパイ衛星・軍事衛星の双方を指揮することを認めたくない傾向があると聞く。ただし、攻撃の最初の数分間あるいは数時間で情報機関は事態を把握し誰かが衛星の位置変更などの対応を決断しなければならない。また、攻撃が人為的なものなのか、自然現象なのか判断は困難かつ予測がむずかしい。
- 軍上層部が情報機関から指揮命令を受けることを快く思っていないということではない。米政府上層部はこれまで宇宙空間での交戦を想定しておらず、実際に攻撃が宇宙で発生した場合にどう対応すべきかを系統だって決めてこなかった。これが今変わりつつある。
- 情報各機関とペンタゴンが「情報機関と国防総省の合同宇宙作戦センター」を創設したとボブ・ワーク国防副長官が6月に発表し議論が始まっている。同センターの概要は極秘扱いだが、今年末に稼働を開始するとワーク副長官は発言している。ロシアと中国が衛星攻撃能力を整備しているため発足が急がれていた。
- 中国は過去10年間で少なくとも2回の衛星攻撃テストを行っており、ロシアも同様の整備を行っている。ジェイ・レイモンド空軍少将Lt. Gen. Jay Raymond (第14空軍司令官)は宇宙シンポジウムの席上で米国及び同盟国はもはや安全ではないと発言。「もうすぐ全衛星がリスクに直面する」という。
- 特に2013年5月の中国の「科学実験」が米政府上層部の懸念を招いた。関係者および外部専門家によれば地球静止軌道近くでのASATテストで、スパイ衛星が使う軌道に近い場所だった。「このとき情報各機関が戦慄を覚えました。なぜならそれまで衛星は比較的安全と考えられていたのは非常に高い軌道を飛んでいたからです。中国の実験でこの幻想が吹き飛びました」とテレサ・ヒッチンス Theresa Hitchens (メリーランド大学国際安全保障研究センター、元国連軍縮局局長)は言う。
- 中国は昨年7月に行ったテストをミサイル防衛が目的で実験では何も破壊されていないとしている。ただし2013年のテストが軍事目的に関連しているとは一回も認めていない。
- そこで中国とロシアでの進展を受けて、米軍は根本的な戦略方針の変換を図っている。ワーク副長官は今年始めの宇宙シンポジウムでこの変化の概要を語っている。講演は非公開だったが、その中で米軍は「統合かつ調整された形で」米国の衛星群に対する攻撃に対応すべきとし、「宇宙空間の支配」 “space control” の語句を使っている。つまり、宇宙空間はもはや戦争と無関係ではなく、次の大戦は宇宙から始まると見る専門家が多い。
- 「宇宙に配備した装備の機能に大きく依存しているのが現実で、宇宙空間の支配を今後も強調する必要がある。宇宙空間での優越性を維持するため極秘、公開問わずすべての宇宙装備をひとつの集合体として考えるべきだ。また敵側がわが方の機能を妨害しようとすれば、反応を統合されかつ調整された形で返す必要がある」
- ただしこれは今すぐ戦うことではない。事態は進展を続けており、戦略軍(STRATCOM) 司令官は空軍宇宙軍団隷下の合同宇宙作戦センター (JSPOC)を通じ軍事宇宙装備を指揮している。同センターには少数ながら同盟国側の宇宙関連要員が勤務しており、各国政府およびNATOとの調整連絡にあたっている。
- STRATCOMは「合同宇宙教義及び戦術フォーラム」を2月に発足しており、新しい軍事ドクトリンで、頭の痛い問題を解決しようとしている。
- 記者は情報機関筋と話す機会があり、この議論がはじまった当時から問いかけをしているが、誰も話そうとしてくれない。
- そこに次期統合参謀本部議長に内定しているジョセフ・ダンフォード大将が上院軍事委員会から以下の書面による質問を受けている。
米軍要員が合衆国憲法第50条に定める権限で任務を果たすことを認める合意内容および権限に対する貴殿の理解と見解はいかなるものか。この権現を修正する必要があると考えるか。
- それに対する回答ぶりから情報各機関に軍部隊の指揮を任せることをらダンフォード大将は必要な受け入れるようだ。「軍部隊は軍人の指揮命令系統に入ってこそ最高効率を示すが、この一般原則にも例外があり、そんな例外を許す状況がありその裏付けとなる権限や合意内容が存在する」と同委員会で語っている。
- 情報機関と国防総省間の議論に詳しい宇宙専門家数名にあたり、指揮命令権限の問題とダンフォード発言について尋ねてみた。ダンフォード大将の回答は憲法第50条の3038条項を引用している。情報機関の統制についての部分で宇宙空間での活動にあたる三機関を取り扱っている。国家偵察局(NRO)、国家安全保障局(NSA)および国家地理空間情報局(NGA)である。このうちスパイ衛星を運用するNROが指揮命令権限では中心となる。
- 宇宙専門家ブライアン・ウィーデン Brian Weeden (安全な世界を目指す財団)はJSPOC勤務経験がある元空軍将校であり、政府が言うような宇宙空間での脅威増大については懐疑的だ。
- 「軍が危機感を煽る背景に予算問題がどこまで関係しているのか見極めるのが大変むずかしいし、軍は強制予算削減を大変怖がっている。中国やロシアがASAT技術の開発をしているとの証拠があるが、どこまで脅威が現実的なのか判断が難しい。なぜなら米政府が詳細情報を公開していないからだ」
- ウィーデンは情報各機関が宇宙空間で何が起こっているのかを把握しつつSTRATCOMへ情報共有を拒むと考えるのは「馬鹿げている」という。「ただし不幸にもこれは今始まった話ではないし、宇宙空間だけの話でもない。たとえば、無人機による攻撃実績を巡っても同じように対立がある」
- また、空軍は宇宙空間で軍事衝突が発生すると長く考えており、米側が攻撃に対し脆弱になっているとの根本的変化が発生しているのは政策決定側の最近の発言から明らかだとする。
- 「政策決定者も宇宙空間がいかなる軍事衝突とも無関係な場所だとは考えていない。シャイアン山に勤務していた当時は宇宙戦闘統制官、宇宙防衛責任者、宇宙防衛アナリストの各専門職があった。これだけで米国家安全保障関連宇宙システムズへの脅威探知分類担当の半分を占める規模だった。当時から米宇宙装備への攻撃が発生した場合のTTP(戦術、技術、手続)が複数あった」
- ひとつ気になるのは基本的な政策関連の課題2つで情報各機関への法的課題だ。誰が宇宙空間の脅威対象を定義するのか、誰が脅威への対応策を決めるのかという点で、軍なのか情報各機関なのか。
- 「もうひとつ、攻撃の『警告』を誰がするのか、誰が対抗策を決めるのかという点もあります。このふたつで単独機関に権限を与えると、事態がエスカレーションする危険がある」とウィーデンは言う。「このためNORADは軍事組織で北米への攻撃を探知し警告する組織になっている。一方で、STRATCOMには対応策として核攻撃の実施をする任務が与えられています」■
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