スキップしてメイン コンテンツに移動

2016年度国防予算案の見どころはこれだ






Amy Butler は当方がいつも頼りにしているペンタゴン担当記者ですが、2016年度予算(2015年度予算は昨年12月に成立しています)での見どころを的確に以下まとめていますので覗いてみましょう。Aresは各記者が比較的自由に執筆しているコラムなのでこの通りにならなかったとしても怒らないでください!

ARES

10 Things To Watch In The 2016 Budget Request

Jan 22, 2015by Amy Butler in Ares

任期六年目でバラク・オバマ大統領は予算原案をはじめて時間内に議会へ提出するようだ。ことしは2月2日の週にあたる。任期中で最後となる予算原案は意味を有するはずで、国防関係者は予算強制削減の終了を期待する中、ペンタゴンは強制削減廃止の前提で2016年度以降の予算を組む。ただし廃止にならないといくつかの事業で大きな影響が出るだろう。
そこで予算審議では以下10項目に注目したい。
ただしあくまでも参考であり、全事業を取り上げられなかった。たとえばF-35開発は含まれていないが、ペンタゴンが同機の開発方針を撤回するとは考えにくいためだ。

2016年度国防予算は 総額5,000億ドル規模を超えるはずで、以下は予算規模、戦略上の重要度順に並べた。
1,新型ロケットエンジン  ロシアのクリミア併合を受けて米政府としてはロシア企業NPOエネルゴマシュに引き続きRD-180ロケットエンジン供給を依存することに警戒心を抱いている。ユナイテッドローンチアライアンス(ULA)製のアトラスVロケットに搭載されている。米空軍はエンジンを新開発する場合は少なくとも10億ドルかかると発言。これから提出される予算案では新型エンジン開発・調達の道筋を示すヒントが含まれる可能性が高い。

2. 打ち上げビジネス ULA社は今後5年間で28ミッションの受注を得ているが、新興企業の動きには注目が必要だ。Space Exploration Technologies (スペースX)は6月にも国家安全保障関連の打ち上げ資格を取得する見込みで、ペンタゴン、情報機関向けの業務を積極的に受注する構えだ。米空軍は競争入札を行うよう圧力を受けており、スペースXはULA向け5カ年契約は法に反するとの訴えも起こしている。

3. 無人艦載偵察攻撃機(Uclass) 米海軍がUclass開発をどう進めるかで今後の無人機技術に大きな影響が出る。海軍は無人機を空母に搭載し、長時間にわたる柔軟な作戦の実施を目指してきた。情報収集用途に少数の無人機を空母に搭載し、F/A-18E/FやF-35Cと一緒に運用したい意向だ。ステルス性、ペイロードノどちらを優先すべきかで海軍は悩んできたが、予算環境を考えてペンタゴンは無理やりUclass開発を進めるよりも果たして本当に同機が必要なのかを検討しているようだ。もし開発にゴーサインが出れば、ノースロップ・グラマンロッキード・マーティンジェネラル・アトミックスボーイングの各社が競合するとみられる。
 
4. 迎撃弾の見直し ミサイル防衛庁長官ジェイムズ・シリング海軍中将は信頼性を高めた新型迎撃体 kill vehicle の開発・調達戦略を発表する予定だ。これは地上配備中間段階ミサイル防衛 Ground-Based Midcourse Defense (GMD) のシステムとして2016年度予算に盛り込む。問題は現行の大気圏外迎撃体 Exoatmospheric Kill Vehicle (EKV)(レイセオン製)の実績がかんばしくないこと。EKVは試作型のまま北朝鮮の脅威に対抗すべく投入されている。ただしミサイル防衛手段の中でこの迎撃体が弱点だとペンタゴンは懸念を強めている。シリング長官は競作により改良手段を実用化した考えでレイセオンとロッキード・マーティンが入札する見込みだ。

5.エアフォースワン後継機 米大統領を乗せて最高司令官の役割を執行するのにふさわしい機材はどうしても高価になるため、専用機選定は再選ずみ大統領の二期目で行うのが正しいとされる。現在2機あるVC-25Aはボーイング747(484-200)が原型だが、ペンタゴンは747-8を選定するようだ。ただし次期機材の選定、調達に必要な作業量は不明で、空軍がまとめきり業界と一緒に業務を進められるかも不確かだ。

Air Force One
Credit: U.S. Defense Department

6.強制削減で消える機種 昨年のペンタゴンは予算案を2つ提出している。強制削減の継続、中止双方を想定していた。後者では次世代戦闘機のエンジン開発、F-35調達24機減、UH-72Aラコタヘリコプター調達削減を想定していた。さらに「基本予算」ではA-10とB-1の全廃を想定していた。強制削減の下で空軍はKC-10給油機の早期退役も検討した。A-10退役では議会に思わぬ反撥をまねいたこともあり、これは予算案では想定していない。空軍はかねてから余剰装備を抱え込むと重要な開発調達事業の予算が食われてしまうと訴えている。
7. U-2対グローバルホーク ペンタゴンはロッキード・マーティンのU-2運用を三年間継続する意向で、150百万ドルを投じて同機の改修を行う。これは同機を退役させ偵察機材はすべてノースロップ・グラマン製グローバルホークに統一する以前の決定に反するもの。ペンタゴンはこの問題で二転三転を重ねており、2016年度予算で情報収集・監視・偵察をどう扱うか注目される。もうひとつリーパー65機を原案どおり調達するのか、切り捨てるのかも注目される。イラク・アフガニスタンでの損耗分とUAV操作員の確保が関係してくる。

The U-2 "Dragon Lady"
Credit: U.S. Air Force

.F-35の整備員問題 F-35開発室長クリストファー・ボグデン空軍中将から2016年までに初期作戦能力獲得を実現しようとする米空軍の最大課題は整備員不足だと発言があった。空軍参謀総長マーク・ウェルシュ大将は日程変更の構えを見せていない。

9.第六世代戦闘機 ペンタゴンが次世代戦闘機とみなす機体の開発・概念設計に予算がついている。同機はロッキード・マーティンF-22とボーイングF/A-18E/Fの後継機となる見込みだが、ペンタゴンが空軍と海軍に共同開発を求めるのか見えてこない。両軍は共同開発案に消極的で、F-35の例でこりごりだとしている。ペンタゴンの調達トップ、フランク・ケンドール副長官によれば予算圧力で米国の技術優位性が危うくなっている。そこでオバマ大統領が退任する2年前に両軍が新型機開発構想を発表することになった。また2016年度予算案ではボーイングのF/A-18とEA-18G生産ライン(セントルイス)の閉鎖予定年賀明らかになる。ロッキード・マーティンのフォートワース工場がいよいよ米国唯一の戦闘機生産場所になる日が来る。

10.次世代衛星 ペンタゴンは非常に高価な高性能EHF衛星(AEHF)と宇宙配備赤外線探知システム(Sbirs)の後継機種を検討中。ともにロッキード・マーティンが生産したものだが、とくにAEHF衛星はペンタゴンが今後の衛星群を「分散」させる構想の先駆けといわれる。この構想は戦術用の高周波数通信を戦略用途の核強化型通信と分離し、攻撃を受けあ場合の被害軽減が目的だ。また空軍は次世代の早期ミサイル発射警告衛星では高性能焦点面アレイにより設計を簡略化し価格を引き下げられないか検討中。もう一つの見どころは新型気象衛星の開発が決定となるのか、現行の国防気象衛星のまま20号機を打ち上げるのかの決断だ。気象衛星を巡ってはオービタル・サイエンシズボール・エアロスペース、ロッキード・マーティン、ボーイング、ノースロップ・グラマンの各社が空軍の方針発表を待っている。■

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...