米海軍が隻数では中国にかなわないため、発想を転換し各艦船に攻撃力をもたせる新思考を開発中とわかりました。その要は新型対艦(対地?)ミサイルのようです。この積極姿勢には今後も注目していきましょう。それにしても米空軍の元気の無さとは対照的ですね。
‘If It Floats, It Fights': Navy Seeks ‘Distributed Lethality’
CRYSTAL CITY: 「海に浮かぶ艦すべてに戦闘能力を搭載するべき」とピーター・ファンタ少将 Rear Admiral Peter Fanta は考える。「分散武装‘distributed lethality'で巡洋艦、駆逐艦、揚陸艦、LCS(沿海戦闘艦)等、全艦がとげを有するべきだ」
- 「可能な装備はすべて導入する」とファンタ少将(水上戦部長)は言う。「威力」とは武装の強化であり、「分散」で各艦に武装を装備し、それぞれ単艦で戦いが可能になれば敵は広い大洋の中で同時対応を迫られ一度に処理しきれなくなる。
- この海軍の構想は予算の制約を受けつつも革新的発想になる可能性がある。これまで20年近くも防御任務についてきた海軍艦艇が単艦で威力を発揮できるようになる。この積極姿勢にリスクもあるのは事実で、中国のように武装を整備している敵対国がLCSのように中途半端な装備をした小型艦に立ち向かってきたらどうなるか、という疑問もある。
- 図上演習では「強力な武装を有する敵海軍によりLCS数隻の喪失可能性があると判明した。敵はあらゆる方向から出現し、対艦兵器を完備している」
- いいかえれば数の威力で単艦の戦闘能力は無効になるということか。
- なぜ米海軍は積極姿勢をとるのか。その答えはペンタゴン文民トップおよび議会筋が中国とロシアの脅威をこれまでになく感じているためだ。そこで米海軍もこれを意識し、クリスマス直前に海軍作戦部長が論議となっていた沿海戦闘艦の武装強化案を発表した。その手段は未選定の長距離対艦ミサイルによる武装だ。今週は水上艦協会の年次総会でファンタ少将他の提督からこの発想を艦隊全体に広げたい旨の発言が出ている。大統領が2016年度予算要求を来月に発表するまで詳細は見えないが、海軍は低コストで武装・センサー強化を図り、現行の各艦艇の攻撃能力強化を目指す。イージス駆逐艦、揚力強襲艦はもちろん、理論上は補給艦もその対象だ。
- トム・ロウデン中将Vice Adm. Tom Rowden(水上艦部隊司令官)は「補給艦に攻撃能力を付与していけない理由はない。攻撃能力にあふれた水上艦部隊の創設の構想だ」とする。米海軍が投入可能なのは空母一隻ないし二隻が関の山なので、ここにセンサーをあわせ、高性能兵器を投入するのが敵の想定だったが、駆逐艦、LCSその他すべてに対艦兵器を搭載するので敵も分散せざるを得なくなる。
- また新構想では現状の予算で最良の結果を得ようとする。海軍は新型長距離対艦ミサイルを開発しハープーン全廃をめざすが、その前に頼りになるのは現有のハードウェアの改良や既存ハードウェアの調達だ。その例としてLCSコロナドがノルウェーのコングスバーグ Kongsberg ミサイルの試射に成功している。
- 「予算は減る一方だ。分散武装なら予算内で海に浮かぶ艦全部に威力を与えられる」(ファンタ少将)
- 「建造艦数が減る中で、逆に各艦を完璧にすべきとの機運が高まっている」とファンタ少将は付け加え、行き着くとスター・ウォーズのデス・スターのような高性能艦をごく少数保有することになるとする。
- 海軍がそこそこの性能の艦を大量に調達すれば、調達ペースが加速して同時に新しい状況にも対応出来る武装の改装も早まるはずだ。「使い物になりそうな装備が今手に入れば、買ってとりつければいい」と少将は言う。
- 「すべての艦に最高性能のセンサーや長距離高性能ミサイルが搭載されているわけではない」とフィリップ・デイビッドソン大将 Adm. Philip Davidson(艦隊総司令部)は言う。兵力分散とともに「コストも分散しなければ。そうなるとハイエンド、ローエンド双方の艦艇を組み合わせることになる」とし、華やかなDDG-1000新型駆逐艦から見栄えの悪いLCSの双方を指している。
- 沿海戦闘艦に長距離攻撃手段を搭載する海軍の案は軽量艦に重量級の威力を与えるもので、攻撃が最良の防御との古くからの考えを実現するもの、あるいはファンタ少将がいうように「悪者をまず撃つというのが水上戦士官ならだれでも賛同できる選択肢」だという。
- ただしこの新構想は海軍の組織内にカルチャーショックや恐れを招くだろう。「ずっと海のどこにでも好きな場所に移動して兵力投射できたので防御のことは心配しなくてもよあかった」とデイビッドソンは語り、「接近阻止領域拒否」は黒海のような場所では成立することはないと見ていたという。「威力とは有効射程や火薬重量のことではない。部隊内文化や考え方にも言及しないといけない」
- 「たしかにミサイルやセンサーだけ論じてはいけない」とロウデンも発言。「遠隔地に送り込まれても怯まない新世代の乗組員をどう確保すべきか論じている。」とロウデンも同じ意見だ。
- 米海軍にとって小型艦による単独行動は創設期からの伝統だ。ジョン・ポール・ジョーンズのボノム・リシャールによる独立革命時の戦功や第二次英米戦争(1812年)でのフリゲート艦コンスティテューションの活躍がある。ただし第二次大戦後は水上艦に空母の護衛をさせることを優先し、単独長距離行動は原子力潜水艦の独壇場となった。ソ連崩壊と予算縮小で海軍はコストを意識して艦隊戦能力を段階的に縮小している。駆逐艦に対地攻撃をトマホークで実施させる、弾道ミサイル防衛に当たらせるなど新しい任務を想定した。全面戦争時には水上艦艇は空母と一緒に行動し、艦載機が防御するという前提だった。
- これに対して新構想では「対潜作戦水上アクショングループ」を3隻、4隻で構成し、空母の行動範囲の先に投入する。小部隊は海軍の新型長距離戦闘通信ネットワークで結び、敵の情報を海軍統合火器管制対空システム Naval Integrated Fire Control – Counter-Air (NIFC-CA)で共有する。しかし敵が電子戦やサイバー攻撃のジャミング、不正侵入能力を向上させていることに鑑み、仮に接続が不通となっても部隊は作戦を継続できるように心理的にも戦術的にも備えておく必要があるとロウデンも認める。
- そこで技術が関心の的となるが、「二又対応をとる」とロウデンは記者に発表しており、トップガンに似た「海軍水上戦開発センター」“Naval Surface Warfighting Development Center” (NSWDC) を新設し新戦術を練るほか、教官を各艦に派遣し、考え方を叩き込む方針だ。中将は「一世代かけて実施する業務規模」と認めている。
- この動きに賛同する国会議員もいる。「防衛第一の姿勢から水上艦艇が攻撃中心思考へ切り替われば歓迎」と海軍関連の業務につくある議員のスタッフは語る。
- 上記スタッフは「誘導ミサイルが発達する中で水上艦艇に未来がないという向きが多いが、ロウデン、ファンタ両提督はそんなことはないと主張している。多分に賛成だ。水上艦で新しい戦闘構想を作れば、今後の海上紛争を当方に有利な方向へ誘導できる。中国やイランにつくらせるのではなく、我が国が独自にルールを作るべきだ。」■
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