(やや長文なのでご注意ください)実際のミッションの様子がよくわかります。状況に応じて臨機応変に対応することは普段の訓練があってのことですが、戦闘空域で実にたくさんの情報が利用されていることがわかります。なお、Coalition partnersは協力国と訳しました。
With the Raptors Over Syria
FEBRUARY 2015
BY AMY MCCULLOUGH
NEWS EDITOR
F-22の初の実戦投入は予期しない形で夜間に実施された。2014年9月時点で名称非公開の南西アジアの基地にはF-15Eストライクイーグル編隊とF-22部隊が配備され駐機場に余裕がないほどだった。
- F-22部隊はラングレー・ユースティス共用基地(ヴァージニア州)の第一戦闘機団への帰国許可をその一週間前に受領しており、混雑の緩和を図る予定だった。各機は長い移動飛行の準備として燃料タンク2つを追加装備し、洋上飛行に備えていたが、そこに各機を戦闘投入する必要が生じたと合同航空作戦センターから連絡が入った。
- 整備部隊が直ちに作業を開始し、24時間以内に空軍兵員はデータをダウンロードし1,000ポンドの共用直接攻撃爆弾 Joint Direct Attack Munitions 他空対空、空対地の脅威に対応する装備を使用可能とした。
- これまでF-22は中東の抑止力形成のため駐留しておりISIS戦でデビューするとは誰も予想していなかった。ISISは空軍力を事実上有しておらず、ラプターが相手にする空対空戦が成立しないからだ。
- F-22はシリア国内のISIS勢力に対する米主導の作戦に投入された。作戦は三波構成だった。ただし米軍機が領空に侵入した場合にシリアがどんな反応を示すか米国に予測できなかった。ISISには空軍がないが、シリアにはあり、統合防空システムも作動していた。
- 飛行隊が標的情報を得たのは離陸24時間前のことで、アレッポから50マイル地点のISIS指揮所の攻撃が命令された。
- 「各目標を事前検討し、目標にふさわしい装備を投入した」とジェフリー・L・ハリジャン少将が回想している。F-22の投入が妥当と判断されたのは「防御が重装備で特に攻撃開始直後にシリアの統合防空体制がどう機能するかを確かめたかった」
- F-22は実戦投入の実績はなかったが、準備は怠っていなかったとパイロットの一人(氏名秘匿)は語る。
- 現地でF-22編隊はF-15Eストライクイーグルと共同訓練をしていた。8月早々にオバマ大統領がイラク国内のISISIへの空軍力投入を許可した時点でストライクイーグル部隊のテンポは早まっていく。
- 「8月から9月にかけてF-15E部隊は多忙になっていき、F-22は訓練を一緒にできなくなり単独訓練を実施していました」(先出パイロット)
- シリアの地対空ミサイルや防空戦闘機について研究していたという。「センサー各種をフルに使う想定で訓練は実践の可能性が高いイラク、シリアを想定した」
- 6月から7月にかけ「状況が進展した」ことでF-22訓練は昼間から夜間に変更され、「何が起こるのか不明なまま、準備だけは行っていた」という。
- 同基地のF-22は9月22日の東部標準時間午後9時に発進することになった。先導部隊はF-15E、第二波は協力国の各機、F-22は第三波になった。発進した各基地は非公表。それぞれ戦闘機4機と給油機1機で構成していた。
- 期待が高まり、歴史的なフライトに全員が参加を望んでいた。「兵装部門はF-22で実弾投下の機会はめったにないので大変興奮していましたね」(前出パイロット)
- 各波に5分間の間隔があるはずだったが、最初のF-15Eでエンジン故障が離陸時に発生し、高速で離陸中止をしたことで滑走路が20分ほど閉鎖されたと前出パイロットが明かした。
- 「目標地点まで1,200マイルあり、まっすぐ飛んでも2時間超かかりました。緊急事態も想定して30分予備燃料を搭載したため、離陸前には柔軟度がなくなっていたのですが、一番先に出発する機体でトラブルが発生したのでやきもきさせられたわけです」
- その間もF-22は待機し、結果4分から6分の遅れが発生した。ラプターが28,000フィートの巡航高度に到達すると、別の課題に直面する。予想よりも気流が「かなり強い」ことだったと前出パイロットが明かした。
- 「もう半年も現地で飛行していたが事実上その高度では無風状態だったのに、その時は60ノット80ノットの風が吹いていたんですよ。短距離なら大して気に留めないのですが、1,200マイで2時間のフライトですからね、フライトプランと大きく差が出ます」
- 予想外の気流で5ないし10分の誤差が生まれ、予定時間に目標に到達するのはますます困難になった。
- 「悪いことに」イラク航空管制が「シリアではなくイラン方面に飛行させようとした」と前出パイロットは語る。イラクは自国領空で同時に多数の機体をさばききれなかったのだ。
- そこで米軍パイロットたちは指示を無視することで国際問題とならない形で目標への道筋を考えだす必要に迫られた。
- 「幸いにも方向を正しく確保しつつ、指示を無視しなくても良くなりました。ただしここで1分ほど無駄が出来ましたが、遅れを最小限に出来たと思います」
- フライトプラン原案ではF-22は北部イラクを飛行し、そこで空中給油を受け、西に方向を変換し、シリア国境をめざすはずだった。ただし、バグダッド上空を通過した段階でその通りに実施できなくなった。
- 「目標まで直行してもこのままの速度では時間通りに到達できないとわかりました」
- F-22の4機編隊はイラク中部を旋回飛行するKC-10からできるだけ多くの燃料を受けでから高度を上げて目標地区に向かった。
- シリア国境からおよそ200マイル地点でアフターバーナーに点火し、マッハ1.5に加速、高度40,000フィートに上昇した。この高度で巡航すればシリアは15分の距離だ。
- 「出力を上げて1.5まで加速したのは時間通りに目標に到達するのに1.5が最適速度だったからです」
- 共同作戦センターとしてはF-22を予定時間より前に到着させたくなかった。各航空隊が同時に目標を攻撃することが「なんとしても必要」だったのは「求められる効果」を生むためだったと前出パイロットは説明。
- それ以前の遅れは今や回復しつつあり、このままだと予定通りでF-22も目標を攻撃してシリアを脱出する燃料は十分ある。その後給油機のところへ行けばよい。
- 原案ではラプター2機が敵の指揮命令所を料理し、残りの2機は防空を担当することになっていた。4機とも全く同じ装備を搭載しており役割を必要に応じて変更できる。
- F-22が搭載するエイビオニクスは高性能でパイロットは「非常に高い状況認識」が可能で「シリア空軍の攻撃は心配していなかった」と前出パイロットはいう。シリアの防空体制が稼働していない理由が不明だったが、参加各機は空中でも地上でも脅威になる動きは見つけていない。
- F-22は全時間通じ警戒を怠らず、僚機のF-15E、F-16、B-1に脅威が現れないか監視していた。
- 午前4時になり予定時間との誤差5秒以内でJDAMSが目標に命中した。F-22の実際の飛行距離を考えるとたいしたものだった。
- 9月23日にペンタゴンで開かれた記者会見でウィリアム・C・メイヴィル陸軍中将(統合参謀本部作戦部長)は指揮命令所の攻撃前、攻撃後の写真を示し、GPS誘導による攻撃で建物の右側だけを攻撃し、指揮命令所を直撃し完全に破壊したと説明。
- 航空戦の第一段階は大部分が無人攻撃手段を用い、USSアーレイ・バークとUSSフィリピンシーが40発もの対地攻撃仕様トマホークミサイルを発射し、アレッポ付近の各目標を攻撃した。F-22が加わったのはその後の第二次攻撃にあたる。
- 先の2機のF-22は急いでシリアを脱出し、空中給油機に向かった。残る2機は現地に一時間ほど残留し、攻撃部隊の防空援護にあたった。給油機まで距離が長いため、最初の2機は残りの2機の燃料がある間に現地を離脱し、給油機に向かうのはラプターの運用ではごくあたりまえのことだと前出パイロットは説明。
- 東から太陽が登り始めた頃、ラプター全機はシリア、イラクを脱しペルシア湾を目指し飛行中だった。そのときAWACSから無線呼び出しがあり、共用作戦センターから方向を戻す要請を受けた。
- その時点で知る由もなかったがB-1の一機が援護を必要としていたのだ。F-22には基地に戻る分の燃料しかなかった。
- 「いつも燃料が一番の問題です。燃料のプランを事前に検討し、緊急事態用の燃料を確保しますが、その時はもう余裕がありませんでしたし、給油機がどこにいるか不明でした」
- B-1援護には2機で十分と判断し、3号機4号機はそのまま帰還させることにした。
- 残る2機は念のため近隣の基地リストを検討したが、F-22着陸に十分な場所は多くないとわかった。主に保安上の問題だった。
- 「北に方向を変えた際にはこれが心配で、実際に向かう場所がどこかは心配していなかった。ミッションに必要な支援が受けられることがわかっていたからだ」
- 北に飛行すると10分ほどでAWACS管制官からKC-135が「イラン国境上空」にあり、十分な燃料を搭載していると知らせてきた。二機のパイロットが新しいミッションの内容を知らされたのは給油機に近づいたときで、B-1一機を護衛しシリア西部に飛び、初回攻撃に失敗した目標を再攻撃する際の援護とわかった。今度の目標はこれまででもっとも西側に位置する。
- 空母からの各機と協力国所属のF-16が第三次攻撃を形成し、「シリア東部の目標を狙い、ISIS訓練施設や戦闘車両をデラザワル付近で攻撃した」(メルヴィル中将)
- F-22の2機がKC-135から離れる時点で第三次攻撃が実施中だったと前出パイロットが語る
- 戦闘空域での空中衝突はF-22では心配の必要がない。他機より高高度に上昇できるからだが、B-1だとそうはいかない。
- そこでラプター編隊はB-1の援護を30分から45分実施してから三回目の空中給油を行い、基地に戻る空路をとった。
- 「これだけの時間内でたくさんのミッションがあり、多くの変更となったのは初めての経験となりました」と語る前出パイロットは以前はF-15を操縦していた。
- 2014年12月10日時点でF-22は合計で100回に満たないソーティーを非公開の作戦基地から実施している。そのうち10回ほどが数種類の武装による攻撃だったと空軍中央軍報道官が解説している。
- 実戦投入までほぼ10年かかった格好だが、前出パイロットは空軍がラプターをいきなり多用するとは思えないという。ラプターはあくまでも対空制圧任務機であり対地攻撃機の扱いではない。
- 「現状の区分が変わるとは思えません。必要となる脅威状況ならF-22は対空戦でも対地攻撃にも投入するでしょう。ただし、どんなミッションでもいいというわけではありませんし、今も状況に変化はないと思います」 ■
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。