国防総省の情報活動トップの安眠を妨げる原因はひとつではない。マイク・ヴィッカーズ国防次官(情報担当) Mike Vickers, under secretary for intelligence はテロリズム、サイバーセキュリティ、イラン、北朝鮮、ロシア、中国に対応を準備している。
マイク・ヴィッカーズ国防次官
ヴィッカーズ情報担当国防次官はNATO大西洋協議会の席上で「課題の合算が大きな課題」と発言。「一つひとつの課題が大したことなくても6つ重なりあうと脅威だ。それぞれ別の問題だが、一様に重要で、同様に持続しそうだ」
「冷戦まで一貫した大きな脅威は単一で、そのほかに一過性の脅威数件があっただけだった。だが現在は長引く脅威が複数になった」とし、「ここ数年前で状況が悪化している」と発言。
ジョン・マケイン上院議員
「ズビグネフ・ブレジンスキーZbigniew Brzezinski がいみじくも言ったように現在の国際状況は前例のない不安定なもの」(ヴィッカーズ)
危機感は共有されている。ブレジンスキーとブレント・スコウクラフトが上院軍事委員会で本日午前に証言した。これは新委員長ジョン・マケイン議員の初の采配となり、ふたりの長老政治家を冷徹なことばで歓迎した。
「リベラルな世界秩序の価値観が今までにない危機に直面している」とマケインはオバマ大統領の年頭教書演説は「非現実的な甘い考え」と一蹴、ヴィッカーズとほぼ同じ内容の脅威対象のリストを読み上げた。ロシア、中国、イラン、イスラム過激主義で、北朝鮮とサイバーセキュリティーの言及がない。
テロリズムに関し、マケインはイエメンに対する現政権の政策に触れている。イエメンではシーア派武装集団ホーシ Houthis が米国が支援する政府施設を占拠し、譲歩を引き出した。「イエメンはかつてオバマ大統領が対テロ成功例と持ち上げていた国だが、アルカイダは世界規模でテロ活動を活発化しており、パリでの残虐な襲撃を見たばかりで、今度はイラン支援のもとホーシ反乱勢力が同国を崩壊の一歩手前に追い込んでいる」と発言した。
シーア派で米国の影響が過大と声をあげる一方でアルカイダに対する嫌悪が強くなっていることは注目に値する。「ホーシは反アルカイダ勢力だ」とヴィッカーズは発言。「わが方はアルカイダに対する対テロ作戦をここ数ヶ月に渡り実施している」
「ホーシは確かにイエメンでは昨年9月以降影響力を強めており、ここ数日で大きく勢力を伸ばしている」とヴィッカーズは控えめに発言。「その目指すところはまだ見えず、同国を掌握し作り変えようとしているのか不明」
世界各地で暴力事件が起こっているのはアルカイダ(今や古手となった)とイスラム国の間でスンニ派過激主義者の獲得競争があるためと次官は解説。パリの新聞社シャルリー・エブド襲撃でイエメンのアルカイダ派が犯行を認めている。アフガニスタンのタリバン指導者反主流派はイスラム国に亡命したという。
一連の危機で共通事項はないのか。「テロリズムにサイバーが加わるのが緊急の脅威となる」(ヴィッカーズ)
国家による脅威で一番緊急度が高いのはサイバー空間だ。ロシア、中国、イラン、北朝鮮で過激なサイバー活動があり、ソニー・ピクチャーズ事例があったばかり、とヴィッカーズは指摘。
「この分野では国家活動が優勢」とヴィッカーズは言い、「サイバー野心」がある非国家組織は「限定的妨害活動」はできるが、サイバー空間の攻撃は不可能とする。「通信技術の進歩とソーシャルメディアがテロリストの能力向上に貢献している」が、サイバー攻撃そのものの実施能力はまだないというのだ。
とはいえ、技術発達の効果が世界に広がる一方でアメリカの優位または独占は消えつつある。衛星画像技術や高度な暗号技術は今や広く普及しているとヴィッカーズはいい、米国の行動が見られている反面米国が他国の情報を読み取ることは困難になっている。一方で生体識別技術 biometric technology の発達で特定の人物の追跡が容易になり、「同様にデジタル上の痕跡digital dust 」でも特定できるという。情報収集の面で米国にとって有利にも危険にもなることを意味する。
では変化しつつける世界においてどこに多重的な危機が一度に発生する可能性があるのか、ヴィッカーズはどう対応するつもりなのか。次官は焦らすように次のようなヒントを示した。「過去数十年で最大級の国防情報機能の変化...在任中に代表作といわれるもの...」になるという。
ヴィッカーズは衛星、暗号解読、人的情報活動、戦闘、対テロ作戦、サイバーセキュリテイの6分野を想定する。
1) 衛星では「この十年で大きく進歩したが、もっと大きな変化が実現する。詳しく言えないが従来より長く軌道にとどまり、システム統合度が進み、(脅威に対する)弾力性が増える」という。
2) 衛星に並ぶ米国の情報活動の大きな柱は暗号解読であるが、今や高度な暗号解読技術は国家、集団のみならず、個人レベルでも可能になっている。だが優位性を確保するため「今後も高性能暗号解読システムへの投資を継続」すべきだとする。
3) 衛星や信号といった「技術手段」の対極が人的情報活動(ヒューミント)で9・11の情報部の失態以降は予算が増えている。ヒューミント強化に10年以上予算を増額してきたアフガニスタンとイラクの戦術作戦レベルが一段落し、「世界規模で戦略能力を再整備中」という。
4) 高性能な「接近阻止領域拒否」の防衛体制を打ち破る方法としてヴィッカーズも国防総省の主流意見を支持する。中国と規模は小さいがイランが典型で、長距離ミサイル、航空機、艦艇、高性能レーダーの組み合わせで米軍の侵攻を食い止めようとする。ヴィッカーズは情報活動がこのような場所で軍の進出をどう助けるのかを明確に説明していないが、U-2を投入してソ連の対空防衛の有効射程の上空を飛翔した1950年代から情報法活動は一貫して有効性を発揮しているとだけ発言。
5) 戦闘形態として下位に位置づけられることが多い対テロ作戦だが、ヴィッカーズは「対テロ作戦能力はひきつづき拡大中」とし、ドローン無人機を指していると思われる。国防総省は飛行距離、センサー能力を向上しつつ、機数を増やしていると発言。米空軍が無人機操縦者の過労状態でテコ入れに動いたことは「非常に喜ばしい」という。
6) ヴィッカーズは国防総省による省内ネットワーク防衛をめざすサイバーミッション部隊新設の進捗度が「3分の2」だという。まだやり残しがあると指摘し、「情報インフラを整備し作戦部隊の支援が必要だ。また国防情報分野では「連続的評価」“continuous evaluation” により内部の機密漏洩の脅威への防護を固めねばならない。ブラドレー/チェルシー・マニングBradley/Chelsea Manningやエドワード・スノウデン Edward Snowdenの例を想定している。■
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