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在韓米軍の撤退、縮小は可能なのだろうか

日本にとっても状況に踊らされない冷徹な地政学的思考が必要です。冷戦が終わるのかどうかは別としていつも考えたくない事態も考えておく必要があり、北朝鮮が存続し続ける事態が現実になる可能性も受け入れなければなりません。(これは以前も指摘しています。悪の体制でも受け入れるかは道徳の問題ではありません)その一方で北朝鮮指導部はこうした思考を叩き込まれていますので平和ボケした日本がだまされないように思考を鍛える必要があると思いませんか。

 

Could America Pull Troops Out of South Korea If It Wanted? 在韓米軍の撤退は可能なのか



May 11, 2018


界はひたすら待ち続け見守ろうとしている。強硬な制裁措置、瀬戸際外交、核の「レッドボタン」の脅かしが金正恩による核兵器放棄につながるのかを。少なくともこうした米政策が金正恩とトランプ大統領の頂上会談に繋がったことは確かなようだ。
前例はある。核兵器開発を自主的に放棄した国がある。南アフリカ、ブラジルだがそれぞれ民主政体が生まれたのが核放棄の引き金となったのであり、外交包囲を受け制裁の恐怖から放棄したわけではない。ソ連解体でウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンも核兵器を放棄したが、すべてロシアへ返却している。(ウクライナはこの決定を今になって後悔しているはずだ)
一方でイランに対しては厳しい目が向けられている。合意事項では10年間凍結とあり、核兵器開発を永遠に断念させる内容ではない。米国が合意から脱退すると発表したことでイランが核兵器開発を目指すのか断念するかが見えにくくなっている。
開戦は選択肢に残ったままだが、いったん戦闘となれば壊滅的被害が発生すると承知する米政府があえてこの選択肢をとるとは思えない。歴史では戦闘で核兵器廃絶を目指した例は少ない。2002年に米国はサダム・フセインのイラクに核含む大量破壊兵器廃棄を求めたものの結局同国内に対象兵器はなかったと判明した。ただしイラク侵攻作戦で生まれた前向きな副産物はリビアのカダフィに核兵器の自主的放棄をさせたことでこれは米国の次の標的が自国だと恐れたためだ。この前例で生まれた効果も米国がカダフィ放逐を支援したことで肝心の核兵器自主廃絶が途中で止まり見えにくくなった。残る二例がイラクとシリアでともにイスラエル空軍が核施設を空爆したことで兵器開発に移ることができなくなった。
これらからわかるのは核兵器を自主的に廃絶させるよう独裁政権を説得するのは容易ではなく、開発が進行する前なら軍事攻撃も有効な手段であることだ。米国は北朝鮮に制裁措置をほぼ60年間にわたり課してきた。強硬外交、制裁の後で行う頂上会議は成功につながる可能性もあるが逆の側面も見ておく必要がある。
重要な問題が残ったままだ。これだけの外交圧力や制裁をものともせず金正恩が自信たっぷりだったり、頂上会談が不調に終わる場合、あるいは開戦以外の選択肢を迫られる事態になった場合、米国に何ができるのだろうか。
歴史をみれば1953年の朝鮮戦争休戦協定が重要だ。当時の韓国は世界有数の貧困国で国民所得は一人当たり64ドルでアフリカ最貧国並みだった。戦闘で経済は崩壊し、数百万人が死亡し家族は離散の辛苦を味わった。韓国軍の実力では北朝鮮の侵攻が再度あった場合に国土防衛は全く不可能だった。
米国が手を差し伸べ韓国を侵略から守る盾を提供する必要があった。68年にわたりこの盾は数世代にわたる米駐留軍により永続的存在となり、韓国軍も米軍組織と考え方に倣い整備されてきた。
ただし同時に韓国は経済上の奇跡を実現し、最貧国から世界有数の富裕国へ変身した。2017年の韓国経済は世界11位の規模でIMF調べではGDPは1.5兆ドルとある。北朝鮮経済は暗黒時代といってよくGDPは韓国よりはるかに小規模の250億ドル。人口でも北はかなわなず54百万人に対して韓国は二倍の人口だ。.
冷戦時代は在韓米軍は75千名から44千名の間を保っていた。今日の在韓米軍は司令部をDMZ近くにおき、23千名が韓国国内に常駐し強力な装備を誇る。米陸軍の第二歩兵師団の航空旅団はAH-64アパッチ・ロングボウヘリコプターがあり、北朝鮮侵攻に対し第一防衛線として砲兵旅団も待機している。米軍ではドイツに次いで世界三番目の戦力が韓国に駐留する。
経済同様に韓国軍も1953年から大変化を遂げてきた。常備軍は625千名をこえ、さらに高度訓練を受けた予備役が520万名ある。韓国軍は世界第七位の戦力と位置付けられ、韓国陸軍の56万名は米陸軍正規兵が合計475千名なので規模の上で凌駕している。
米陸軍が世界各地で任務にあたるのに対し韓国陸軍の対象は一か所に集中できる。北朝鮮侵攻を160マイルに及ぶ国境線で撃退することだ。このため韓国には400機におよぶ高性能戦闘機があり、F-15やF-16に加えF-35も加わる。さらに戦車2,600両、戦闘装甲車両3,400両、火砲5千門がある。韓国製のK-2黒豹戦車、K-21歩兵戦闘車両、K-9自走迫撃砲で構成する機械化歩兵もある。さらに韓国陸軍は厳しい訓練で北朝鮮の通常型奇襲攻撃に備えている。
では65年も経過した今、米軍23千名の韓国駐留で初期防衛にあたらせることは絶対必要なのだろうか。過去60年間で状況は大きく変化しているが、大規模軍事プレゼンスを韓国国内に維持するのは米安全保障政策上で不動の原則とされてきた。純粋に軍事的観点で韓国には米通常戦能力が必要と主張する向きがあるが、こうした能力は韓国軍に短期間で段階的に肩代わりさせるべきだ。
紙の上では北朝鮮の常備軍百万名は強力に見えるが、北が韓国を短期間で制圧できるかは仮に米軍が現行の軍事力を朝鮮半島に維持しなくても疑問だ。装備が旧式で補給能力も限定される中で北朝鮮軍内部にも飢餓状態があり、農家に押し入り食物を探すというのでは無敵軍の印象と程遠い。北朝鮮が1950年同様の侵攻作戦を再現できる可能性は限りなく低く、在韓米軍が現行の23千名体制を下回っても勝利を収められないだろう。
米軍のプレゼンスを維持する軍事上の必要性は十年前とはいかずも数年前に消滅していたのだろうが、米外交政策が半面でそれだけ進化しておらず力の均衡の現実を反映していない。皮肉にも米国は韓国に大規模通常兵力を維持することを当然と思い込んできたが、必ずしも軍事上の必要からそう思ってきたのではなく、むしろ自国の信用度の維持が目的となってしまっていたのだ。この場合は韓国に向けてというよりもアジア全体に対して太平洋国家として示してきたといってよい。
米国が孤立主義に回帰するのではと見られる中で在韓米軍が撤退すればアジアからの戦略的撤退と受け止められかねず、逆に北朝鮮外交の勝利とみなされる。米国は戦略上で動きがとれなくなっている。対立の構図が変化してしまった。北朝鮮と米国が核対決を経た中で韓国に米軍プレゼンスを置く理由が忘れられがちだ。もともとは北朝鮮による通常型攻撃に備えるのが目的だったはずだ。米政権は北に非核化を求め、従わない場合は「すべての選択肢」がテーブルの上にあると警告している。皮肉にも在韓米軍のプレゼンスの基礎条件が核対立の前にかすんでしまったのである。
ただし現在進行中の力学で朝鮮半島の意義について再評価する機会が米国に生まれ、従来より現実的に軍事バランスを見直すことが可能となっている。そこには韓国軍の実力向上と中国の台頭も変化の一部としてとらえるべきだ。  
中国が米国と連携して北朝鮮に核兵器を平和的に放棄させるべきと考える向きが多い。中国は静かに圧力をかけて北朝鮮向け制裁措置を課しているが、中国の協力は絶対条件ではない。中国が米国に外交圧力をかけているのは疑う余地がないものの、これは中国にとって米国が東アジアで最大の競合国だからだ。中国からすれば米国があまりにも各地に国力を割いている状況を利用しない手はないのであり、冷戦時代と比べても米国の経済、軍事影響力の低下を把握している。
中国からすれば現在の米国は戦略的に勢力を分散させすぎており、朝鮮半島以外でもアフガニスタンからイラン、ロシア、アフリカ、南シナ海・東シナ海と各地で軍事的挑戦に晒されていると映る。また米国の財政赤字が増える中で世界各地での軍事コミットメントが減っておらず、中国はこれを横目に朝鮮半島戦略では米国に圧力をかけ続け、米国に一層の負担をさせることをねらう。中国も朝鮮半島での核戦争は望まないものの、米国に朝鮮半島問題に当たらせることで中国の外交政策上の目標は達成できると見ている。
戦争一歩手前で、あるいは北朝鮮に核兵器開発の選択肢を断念させる圧力をかけるため、米国には北朝鮮と言う国を1950年代より広範囲の戦略課題として位置付ける現実的な見方の政策が必要だ。1950年代は通常戦侵攻シナリオが主流で以後これが維持されて相当の時間が経過している。核抑止力が北朝鮮に今後も有効に機能すると想定するが、これは中国やロシアに対しても同様であり、北朝鮮が未来永劫に米国への脅威のままであるはずがない。現行の政策は厳しい国連の貿易制裁と核抑止力が中心だが、このまま無期限に維持すれば財政負担を生み、米国の財源を使い切る事態にもなりかねない。
核の傘の下で米国は条約上の義務を履行しながらも強力で富裕国になった韓国に北朝鮮による通常攻撃を食い止める主力の座を期待し、自らは縮小した米軍司令部が後方支援する形でその後到着する米軍戦力の展開を調整すればよい。
この見方をすれば北朝鮮は直接の脅威というよりも戦略上の要注意対象と言った存在になるが、一連のもつれをほどくのは単純な作業ではない。とくに米国の信用度を維持する課題を考慮すれば。現政権が在韓米軍の見直しをしていることには戦略上の意味が大きいが実際に一部にせよ撤兵を実施すれば微妙な均衡の確保が必要となり、かつ米国力の退潮の現れ、アジアからの撤退と受け止められない工夫が必要だ。このため米韓両国政府では今後も米戦術核の朝鮮半島再配備問題が議題として残るはずで、実際に昨年北朝鮮が水爆実験をした直後に検討内容に取り上げられている。
米軍の韓国撤退は交渉材料となるのか、あるいは核をめぐる頂上会談で議題に上らないのかもしれないが、戦略上は大きな話題であることは間違いない。米陸軍は数十年に及ぶ朝鮮半島駐留を終えて第二歩兵師団を本国に送還することになるのかもしれない。利用可能となる重要装備は将来の緊急事態への対応で使えるはずで、これは朝鮮半島に限らず世界各地が対象となる。巧妙に取り扱えば、在韓米軍の撤退は孤立主義への回帰ではなく戦力配備の戦略的再検討として米軍が将来の地球大での課題に対応する能力の裏付けとなり、過去65年ずっと変わらなかった凍り付いたシナリオから解放されるのだ。■
Ramon Marks is a retired New York international lawyer.
This article originally appeared on Real Clear Defense.

Image: Wikimedia Commons

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