スキップしてメイン コンテンツに移動

主張 米陸軍は次世代ヘリ事業を真剣に考えぬいているのか


Opinion: Has The U.S. Army Thought Through Future Vertical Lift?

The coming rotorcraft non-revolution
aviationweek.com Jun 19, 2014Richard Aboulafia | Aviation Week & Space Technology
銀行や国防案件、さらには国家財政再建など「巨大だからこそ倒産させられない」と言う文言がまた出てくると、肩をすくめ、無力感にさいなまれることが多い。多くは巨大すぎるからではなく、行動をとるのが遅すぎたことが問題なのだ。
  1. 米陸軍の次期垂直輸送機 Future Vertical Lift (FVL) がこの例で誇大宣伝と裏腹にそもそもの目標がしっかりしていない。

  • まず、回転翼機の概念を再構築し、新型の推進手段を付与するコンセプトだ。
  • つぎに、陸軍航空部隊の再構築として、2千から4千機の生産規模でAH-64, UH-60, CH-47等のヘリコプターをすべて更新する。同時に海軍、海兵隊、空軍にも導入できる。
  • そして、FVLは垂直輸送機の産業基盤そのものを変革し、採択される一社あるいは二社が市場を取り、不採択企業はもう参入できなくなるだろう

  1. それでもFVLが次期戦闘航空システムズ Future Combat Systems につながる可能性は高い。同システムも過剰なほど野心的で巨大すぎてつぶせない陸軍の構想だ。まず、陸軍が飛行速度を上げるために多額の予算を支出する気があるのかが疑問だ。この半世紀でヘリコプターの最高巡航速度は 150 kt だが、FVLはその前身の共用多用途技術実証機 Joint Multi-Role Technology Demonstrator (JMR-TD) の競作を通じ、 230 kt で飛行可能な新しい回転翼機を生むことをめざしている。
.
  1. 残念なことに新技術により調達コスト運航コストは現在よりも 40から70%も高くなりそうだ。V-22ティルトローター機では現行機の2倍だ。海兵隊と特殊作戦本部がこれを無視できるのは特殊作戦に同機の飛行距離と速度が大きな効果を上げているからだ。

  1. だが陸軍はペイロード重視のはずだ。調達経費が固定と仮定し、陸軍が5割高くても高速な機材を調達すると、機数は現行の三分の二程度になる。

  1. 陸軍が高価格を許容しても、海外の顧客は同じだろうか。ハイエンド機に特化すれば回転翼機市場を失うことにならないか。

  1. 二番目に垂直輸送機そのものの改革に充てる時間が非現実的に短い。JMR-TDでは各種の技術応用を検討し、ティルトローター以外にも同軸ローターも試している。陸軍はJMR技術開発をベルヘリコプターシコルスキー航空機AVX航空機およびカレム航空機に委託している。これから数か月でこのうち2社2機種が選考に残り、試作機製作に移行する。フライトテストは2017年より開始となる。調達は2019年より開始見込みだ。

  1. だが過去40年で高速ヘリ開発で誤ったスタートが多く見られた。V-22は成功例としてももっと多くの失敗例がある。新型回転翼機を目指す正しい道筋が見えてくるのにまだあと5年はかかりそうだ。

  1. 三番目に現行各機種とFVLの間のギャップにより陸軍航空部隊へ、さらに産業基盤に大きな影響が出そうだ。現行各機種の生産はすでにピークを過ぎており、 AH-64E, CH-47F/G, UH-60M, MH-60R/S、V-22各機種の調達は2018年には2011年の半分程度になる見込みだ。2020年代には現行機種の大部分は生産終了となる。では陸軍はFVLが就役可能となるまでのつなぎをどの機種で行うのか。

  1. FVLはRAH-66偵察攻撃ヘリを思い起こさせる。陸軍は同機に数十億ドル単位で予算を投入したが、結局ものにならなかった。だが開発中止の余波で、既存機種の改良に力が入れられ、性能も向上してきた。この関係で1960年代70年代に軍が精力的に機材調達を行ってきた野はこれが理由だ。2020年代までに今よりも優れたターボシャフトエンジン、コックピット計器、センサー類、自己防衛システムが利用可能となっているはずだ。各要素を既存機種に盛り込めば最小の投資ではるかに優れた性能が手に入るので、FVLよりも効果が高い。

  1. JMR-TDで回転翼機の技術を進歩させるのは数億ドル単位の予算に見合っているとはいえ、FVLではさらに数十億ドルが必要となる。他の大きすぎて廃止できない構想と同様に、FVLでも代替策は想定していないので、FVLに投じる巨額の予算は無駄になってしまう。
.
本記事の著者リチャード・アバウラフィアはTeal Groupで分析担当の副社長。


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...