日本もいまやISIL(ISIS)との戦いに巻き込まれています。そこで空爆の途中結果から敵方の状況がどうなっているのか、どんな戦術が必要なのかを正しく理解することは重要と考えます。以下ご紹介する記事がその意味で参考になれば幸いです。
4,817 Targets: How Six Months Of Airstrikes Have Hurt ISIL (Or Not)
戦闘はエスカレートしてきたが、6ヶ月に及ぶ空爆で自称イスラム国へどれだけの被害を与えられたのだろうか。
- 先週ヨルダンは自国パイロット捕虜を焼き殺したイスラム国へ報復攻撃を敢行した。昨日はISILは別の捕虜カイラ・ミューラーを殺害したこともわかった。今朝はオバマ大統領は対ISILで軍事力行使の権限付与Authorization for the Use of Military Force(AUMF) を正式に議会に求めた。核心は今後米地上軍派遣の可能性だ。
- 米中央軍 (CENTCOM)から空爆戦術の効果で詳細データが発表された。2月4日現在の数字で合計4,817箇所の目標が損傷あるいは破壊された。リストは28分類となり、「戦闘地点」(つまりたこつぼ)752箇所から「通信装備」7組まで分かれている。
- 今回の作戦は近接地上支援攻撃であり、空軍の本来の目的である敵戦略拠点への局地攻撃ではない。対象の3分の2は戦闘員、抵抗拠点、車両で、残る3分の1が建物等固定目標だった。これだけでは実態が見えてこない。なぜなら建物と言っても前線近くで戦闘員が立てこもる拠点の場合もあるからだ。ただし、2対1で戦闘員への攻撃が突出しているのは明らかだ。
- イスラム国にはタリバンやイラクの反乱勢力と同様に戦略的な意味がある空爆対象は全く存在しない。ISILの石油関連施設攻撃で資金調達を困難にさせたが、この目標は130回分、わずか3%弱にしか相当しない。橋梁や道路の空爆も69箇所と1.4%しかなく、Dデイ直後に道路上で大軍を移動させ連合国空軍の格好の目標となったロンメルとISILの移動バターンは異なっている。
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- 米空軍は前身の陸軍航空隊時代から敵地奥深くへの攻撃を望み、蛇の頭を切り落せば良い、と考える。2003年の「衝撃と畏怖」空爆はこの考え方の絶頂だったといえる。ただしその後はゲリラには司令部、工場、インフラがなく爆撃の標的が成立しなかった。そこで米空軍は近接航空支援に切り替えた。
- ただし今回は空爆の支援対象は米地上軍ではなく、クルド人ゲリラ組織やイラク軍だ。ある意味で2001年時点の状況に戻ったといえる。当時は圧倒的な北方同盟がタリバンに立ち向かうのを米国は空軍力で支援していた。では2001年モデルがイスラム国にも有効だろうか。
- ISILは確かに失速気味だ。昨年は電光石火のごとく前進していたのが各地で行き詰まりを示しており、コバニではクルド人部隊を攻撃するISILは空中の米軍の格好の目標で、消耗戦が展開されている。空爆では395箇所のISIL戦闘員集合地点が攻撃の対象となった。
- ISILはイラク陸軍から相当数の高性能軍用車両を捕獲したものの、訓練不足と補給の不備で現在も車両の中心は武器を搭載したピックアップトラックで、空爆は396両もの「テクニカル」車両を破壊している。戦車62両が目標となった。目標リスト全体を俯瞰するとISILには戦闘員を支援する重武装がなく、装甲兵員輸送車、戦車の不足がわかる。戦闘意欲を喪失したイラク軍やシリア穏健派には勝るものの、頑強な抵抗にであうと第一次世界大戦の西部戦線と同じこう着戦になっている。
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- 行き詰まりの観があるISILは反撃から程遠い状態だ。防御は攻撃より容易だが、戦闘を終了させるのは攻撃だけだとクラウゼビッツがいみじくも言っている。ただし現在のイラク治安維持軍は戦意が不足し、クルド人部隊は大型兵器が不足している。シリア穏健派にはその両方が欠けている。それぞれ米軍による訓練、装備提供、航空支援がないと攻勢をとれない。やはり米軍地上部隊が必要なのか。
- 今のところ米軍地上部隊はイラク後方での訓練に限定されている。上院軍事委員会ジョン・マケイン委員長はこれまで数ヶ月に渡り「地上部隊増派が必要だ...前線航空統制官や特殊部隊などの増強が求められる」と発言している。少数の専門兵科隊員で空爆を正確に誘導し、効果の大幅増加が可能だ。これは9.11後に実施済みの北部同盟向け戦術であり、2001年のアフガニスタン空爆でも重要な役割を果たしているのに、今日の中東では実施されていない。
- オバマ大統領が求める軍事力行使権限申請(AUMF)では少規模地上部隊の投入は排除していない。報道発表では特殊部隊による急襲、墜落パイロットの捜索救難、その他支援任務を想定し、地上戦は意図しない、とする。AUMFで除外するのは「長期間の陸上攻勢作戦」だけだ。これは故意に不明瞭な言い回しだが、抜け道を残しており機甲一個師団なら投入は十分可能だ。
- マケイン委員長からAUMFのコメントは出ていない。ただ下院軍事委員会のマック・ソーンベリー委員長からは大統領の選択は「正しい方向性」をめざしたものと議会承認を求めたことを評価しているが、オバマ大統領の手法については「憂慮」を表明しており、「なぜ今も使える権限に制限をかけて自らの手を縛るのか」と発言。上下両院の軍事委員会での民主党議員トップ、ジャック・リード上院議員とアダム・スミス下院議員はともに大統領を支持するものの、リード議員は「遅すぎた」としている。「今後は議会で討論をし、内容を改善し、最終的には別のAMUFで議決する」と発言。政治上の現実を軍事上の状況に一致させるのが課題だ。■
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