高価な戦闘用航空機でこれも高価な弾薬類を投下してトラック一台を破壊する、という作戦が根本的におかしいのは明らかです。が、代替策がない、というのが偽らざるところなのでしょう。大規模な地上戦でCASが主体の作戦なら話は違ってくるのですが。面倒な相手を選んでしまったようですね。
Trench Warfare With Wings: Can ISIL Airstrikes Go Beyond Attrition?
航空戦力といえば高速で目標だけを正確に攻撃するイメージだが、実態は空の塹壕戦の様相を呈することもある。今週初めにティクリット奪回に成功した直後に米中央軍CENTCOM から詳細なデータで空爆作戦が自称イスラム国(ISISあるいはISIL)にどう展開されているかが示された。その内容を精査してみたところ、8ヶ月におよぶ空爆は消耗戦であるのが明らかになった。
一回の空爆で目標はトラック一台を目標、ときには戦闘員一名単位で、イラク部隊の近接航空支援が中心だ。空軍参謀総長マーク・ウェルシュ大将はF-22はCASに投入していないと言う。
2月発表の成果と比べると、戦略目標としての敵指揮官や石油関連施設が減っている。石油関連施設は合計151箇所で空爆対象5,457箇所の3%未満に相当するだけだ。
ISISに戦略級の目標そのものが少ないと思われがちだが、空軍力に深い知識を持つBreaking Defense 寄稿陣のひとりデイビッド・デプチュラ David Deptula退役空軍中将は空軍力を有効に使うべきなのに米国は機会を無駄にしていると主張。
「たいていのひとはこんな罠にひっかかる。『ここは工業化が進んでいないな』、確かにプロエスティ(ルーマニア、1943年に米軍が空爆)よりも精製施設の規模は小さいが、シリア国内の油田が連中の資金源になっているのだ」
これは反乱鎮圧作戦ではない。放置すれば国家を成立しそうで複雑なしくみを有する敵に対する戦いだ、とデプチュラは言う。「空爆作戦の立案に携わった関係にはイラク・アフガニスタンでHVIs(高付加価値目標人物)を狩り出した経験がたかが10年あるだけだ。ISIS指導層を麻痺させ、指揮命令系統を使えなくしないといけない」
ただしシリア国内の空爆は大部分がコバニ付近の前線に向けられており、ISIS指導層やその指揮命令系統は標的になっていないとデプチュラは指摘する。砂漠を横断するようなテロリスト集団の長い通信線を遮断していない。「ラッカ(ISISが首都と称するシリア国内の地点)とモスルを繋ぐ道はなぜいまでも通行可能なのか。双方の都市でまだ電気が供給されているのはなぜなのか」
では送電網の両端を攻撃すれば民間人にも被害が発生しないか。する、とデプチュラは認める。ただし、戦争の原則に反しない範囲なら許容できるという。「これまで付随的被害の回避に注意し、民間人の死傷を発生させないことに気を取られて、肝心なISISの壊滅は二の次だった」というのだ。事実、かつてのジュリオ・ドゥーエの空軍力理論を思わせる口調で敵領土内の一般市民を空爆対象にすればISISの統治下の住民も逃げ出すというのだ。
「モスル住民のうちISIS戦闘員は何人いるのか」とデプチュラは次の激戦地になりそうなモスルに焦点を合わせる。「どこかの段階で地元住民も立ち上がり、占拠してきた勢力を排除するはずだ」
これに対して地上戦の専門家はデプチュラの主張は疑わしいと考える。「たしかに発電施設ほかを使えなくできる」とディビッド・ジョンソンは言う。「だがそれだとモスル住民全員への宣戦布告になる」 150万人の住民には米国やイラク政府を憎むものがあり、成人男子なら全員が武器を入手できる国である。
「チクリット制圧にほぼ一ヶ月かかった」とジョンソンは言う。ジョンソンは陸軍参謀総長レイ・オディエルモの上級顧問をしていた。奪回したがイラク軍は市街地をほぼ全部破壊している。「モスルはもっと大きい都市で人口も多い」とジョンソンは警句を発する。市街地は高密度でISIS側は防御が楽であり、空爆対象は見つけにくい。ジョンソンはイラク軍(正規軍、米軍事顧問団、シーア派戦闘員とイラン人)に戦術技能が十分あり無傷でモスルを奪回できるとは見ていない。ただ米軍の航空戦力は精密攻撃で支援を提供するだろう。
図4. 攻撃対象のISIL車両種類別 上から、戦車、装甲車両、銃火器、ハンビー(イラクから捕獲)、テクニカルズ(武装ピックアップトラック)、自殺攻撃車両、その他(航空機、ボート含む)
ISIS指導部を標的にした場合に米空軍力は同じ予算で得られる効果は大きくなるのか。たしかに一部を殺戮することは可能だろうが、とジョンソンは言う、ただ指導層はゲリラ戦の経験が深い。「アメリカの航空戦力を目のあたりにし、自分の身を守る対策を持っている」という。頭の鈍いものはもうとっくに空爆で命を落としており、その当時はもっと多くの米軍機が投入されており、米地上軍も大規模に展開していたので該当人物を見つけるのは容易だった。
「敵は分散作戦を展開しており、統制がとれている」が、中央集中の構造ではないとジョンソンは指摘する。敵指導部を対象にした古典的な「断頭型」の空爆はISISには当てはまらないという。「頭はひとつだけなのかまだわかりません。」.
空爆対象に値する重要拠点が判明しないと長期の消耗戦を覚悟しなくてはならないだろう。■
注 2月4日以降の合計数はデータとして整合しない。なぜならCENTCOMが分類を途中で変更しており、とくに航空機を追加しながら「ISIS実効支配中の橋梁、道路」「その他装備」「訓練施設」を除外しているからだ。そこでCENTCOMと連絡してなるべく比較対象出来る数字をまとめてある。
Colin Clark contributed to this story.
- Topics: air force, airstrikes, CENTCOM, Central Command, counterterrorism, David Deptula, David Johnson, hybrid war, iraq, ISIL, ISIS, Islamic State, Mosul, Raqqa Syria, syria, Tikrit Iraq
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