一方が採択されれば他方は業界に生き残れないとは厳しい状況です。極秘予算の話も後半に出てきますがなんとか高度技術を散逸させない配慮が求められます。日本の産業政策をあれだけ批判していた米国が自ら防衛産業の基盤維持を図る政策を展開せざるを得ないとはなんとも皮肉な話です。LRS-Bという呼び方がLRSBに変わっていることに注目です。2020年というのはもうすぐですが、予算上は大変な時期になりそうです。
Tough Choices For DoD On Long Range Strike Bomber
WASHINGTON: でペンタゴンはあと数ヶ月で長距離打撃爆撃機(LRSB)の契約企業を選定するが、興味深い結果になるだろう。ボーイング=ロッキード・マーティンが選定されるとロッキードが高性能ステルス機の設計をほぼ独占することになる。逆の場合だとノースロップ・グラマンがステルス爆撃機を独占する。
- 結果は米国の産業基盤にも重大な影響を与えるが、問題が山積していた空中給油機選定の比ではない。
- 「この十年間で新型戦闘航空機の開発契約は皆無だったが、これからの十年も同様だろう」とリチャード・アボウラフィア( Teal Group の航空宇宙分野主任アナリスト)がフォーブス誌で解説している。「言い換えればLRS-Bに絡むは大手三社のうち、次の戦闘航空機開発に生き残れるのは二社だけだ。ロッキード・マーティンはF-35のおかげで心配の必要はない。残る二社は今回受注できなければ業界に残れなくなる。つまり2030年ごろに就役予定の次世代戦闘機開発の競合に参入できない。」
- ボーイング主導のチームの主張はボーイングがこれまで大型機多数を予定通りに生産しており納得の行く価格で実現した実績を基にしている。ただしKC-46では困難に直面しているが。
- 「ボーイングは大量の大型機生産でずばぬけた実績を持っています」とアボウラフィアは記者に語った。「ただし同社もつまづくことがあります」とウェッジテイルの例とやや規模は小さいがKC-46の例を示唆した。両機種とも民間商用機を軍用に改装して、軍用機を完全新設計した場合に発生する諸問題を回避するはずだった。
- もしボーイングチームが敗退すれば、米国は「重要な生産能力を失い」、雇用も喪失する。「反対にロッキード・マーティン=ボーイング案が採用となれば、ノースロップ・グラマンが軍用機から撤退しそれもつらい結果になる」
- ペンタゴン調達部門のトップ、フランク・ケンドールからは産業基盤の配慮は選定で大きな要素にならないと発言があった。採用企業はあくまでも提案内容により選定規程に従って決まるという。ケンドール副長官が設計チームの選定を今後も守るべき大切な存在と表現していることから意味深長ながらもあきらかに意図を伝えようとしている。
- 空軍は機体単価550百万ドルで100機調達にこだわっているが、これとは別に研究開発段階で200億ドルが必要であり、これを見るとボーイングに有利に働く。というのは機体生産では技術の革新性よりも現場の生産活動が重要に働くからだ。
- またボーイング、ロッキード組には議会からの支援も期待できる。というのは両社とも規模が大きな企業で倒産させるわけにいかないからだ。しかし両社は予算縮小の影響を受けやすい。2020年に予算不足が発生したらロッキードはF-35を諦めてLRSBに集中できるだろうか。ボーイングがKC-46で譲歩するだろうか。ともに実現の可能性は薄く、新型爆撃機だけに専念できるのはノースロップ・グラマンである。
- ノースロップのステルス機設計技術を維持してロッキードだけに独占させないためにもアボウラフィアは「設計能力を温存させてきた秘密予算の世界が存在してきた」と指摘する。ノースロップが契約受注に失敗すれば同社が爆撃機を組み立てることはないが、ペンタゴンとしては同社の高度技能を有し情報に通じた従業員を高度の秘匿事業に関与させたいと願うだろう。こういった事業は予算書には姿を見せない。
- アボウラフィアもB-2の製造、保守管理を通じて得た同社の技術水準が重要と考える。
- それでもアボウラフィアでさえどちらが受注するのか直感でもデータでも答えられないという。
- ボーイングが受注の場合はロッキードが重要な設計工程を受持つが知的財産をボーイングと共有することは皆無と言ってよい。ボーイング=ロッキードチームには航空機生産で信用実績があり、ロビースト多数を送り、豊富な資金で議会に影響を与え、予算危機が今後発生しても事業の温存を図るだろう。
- もしノースロップが受注すれば、米国にはステルス機設計能力を有する企業が二社となる。
- 宇宙分野は技術や産業基盤の議論とずれるが、高性能技術の要求で共通要素がある。ボーイングが自社では十分な技術的知見を有しない高性能情報集衛星の受注に成功したが、結果として事業費の超過日程も大幅に狂う損失が数年にわたりつづき、事業が終了された事例(将来画像アーキテクチャ事業)がある。選定委員会が正しい判断を下すことを祈ろう。■
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