シコースキーの "Raider
X" は米陸軍向けの
将来型高速武装偵察ヘリコプター構想への同社の提案だ
米陸軍がめざす残存性を備えた高速「ナイフファイター」ヘリコプターは激甚戦場への投入を目論む中、
レイダーXはこの任務に最適のよう

シコースキー
先週はベルから360インヴィクタス高速武装偵察ヘリコプターが発表された。米陸軍のめざす次世代偵察機材(FARA)への同社の提案で、今回はシコースキーが「レイダーX」を公表した。同機はS-97レイダー実証機が原型で、同じく同社のX2複合ヘリコプター技術も活用し高速飛行と操縦性を実現している。同社には大型のSB>1デファイアントもあり、こちらは共用多用途(JMR)競作への提案で、さらに将来型垂直離着陸中型機への採用をめざし、これも他に例のない構造となっている。シコースキーX2技術は自社開発で今まで10年以上にわたり開発されてきた。
S-97についてWar Zoneが同社X2チームと独占インタビューしているので参照されたい。

シコースキー
S-97 レイダー実証機がレイダーXの原型だが、一部が大きく変化している。
FARAはOH-58カイオワウォリアーとAH-64アパッチの後継機も同時にねらう。FARAでは、ベル、シコースキー以外にも受注を狙う企業がある。シコースキーも現在はロッキード・マーティンの子会社であり、ボーイング、AVX=L3連合の他ケイレム、ノースロップ・グラマン、レイセオンといった競争相手も存在する。ただボーイング含む残りの企業からFARA事業への提案内容は発表されていない。
シコースキーによればレイダーXは「迅速開発、迅速配備で様相を一変させる技術と性能を実現し、最も過酷な状況においても真価を発揮する機体。 レイダーXは将来の戦場で勝利をおさめるため必要な航続距離、防御能力、威力を備えた機体」とする。同社はさらに続ける。
-抜群の性能:X2.のリジッドローターにより性能が引き上げられる。操縦入力に敏感に対応し、低速ホバリング性能が向上し、軸を外したホバリングが可能であり、同じ加速率と減速を実現する。 Xは競合相手がないほどの性能を発揮する.
-アジャイルなデジタル設計。高性能デジタル技術による設計、製造はすでにロッキード・マーティン、シコースキーの他機種で実用に供されている。例としてCH-53K,CH-148、F-35の各機があり、これにより陸軍は調達経費を引き下げるにとどまらず迅速かつ安価な改修で今後も変化していく脅威に対応可能となる。
-適応性: 新しいオープンシステム・アーキテクチャア(MOSA)によるエイビオニクス、やミッションシステムが「プラグアンドプレイ」により高い演算能力、センサー、残存性を実現し、高い威力と生存性につながる
-維持保守について:機材の運用コストを引き下げるため新技術を利用し、通常の整備点検方式を自機診断および実際の状況に応じた保守管理に変える。これにより機材の稼働率が上がり、前線での運用を容易にし、整備実施も柔軟に行える。
-今後の発展性、柔軟性: 将来の変わり続ける脅威環境に着目し、X2複合同軸ヘリコプター技術から他に比類のない今後の性能向上の余地が生まれ、飛行速度、航続距離、ペイロードの発展が期待される。 この将来への発展性から作戦運用上の柔軟性が生まれ、多様な用途に投入する柔軟性につながる。各種仕様と運用形態が実現するはずだ。

シコースキー・レイダーの実証飛行.
レイダーに盛り込まれているX2技術のその他について同社は以下のように述べている。
X2ファミリー機材の最新版レイダーXをシコースキーが公表した。 これまでX2が達成した性能は以下の通り。
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250ノット超の最高速度
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最高高度9千フィート超
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低速高速での機体制御能力を生かして60度超の機体傾斜が可能
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ADS-33B (Aeronautical Design
Standard) レベル1の機体制御能力を複数パイロットで実現
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飛行制御を最適化し、振動も抑える
シコースキーのテストパイロット、ビル・フェルがレイダーのテスト飛行大部分を操縦しており、以下X2技術について述べている。
「X2のパワーでヘリコプターの常識が変わる。 高速ヘリコプターの性能と航空機の巡航飛行性能を両立している。
S-97レイダーからFARA試作機となるレイダーXのリスクが低減できた。
レイダーXのコンセプトはS-97に似通っているが一部に改良が見られる。 低視認性への配慮が機体設計の基本にあったようだ。構想図を見るとレーダー反射面がない機体になっており、センサー、パイロン、アンテナ、兵装がきれいに格納されている。 その例として20mm機関砲も使用していないときは機体内に格納されているようだ。ローダーヘッドシュラウドも角度がついており、V字型空気取り入れ口の形状からガスタービンエンジンは機体内部奥深くに装備されているようだ。
排気もテイルブーム内部を経由し、冷却のしかけは同社から以前発表され不採用になったRAH-66コマンチと同様なようだ。テイル下部の形状がこの機能のために設計されているのだろう。コマンチでは高温排気は低温外気と混ぜてからここから排出されていた。

シコースキー

さらに胴体部のエッジにもコマンチ同様の加工がされているようだ。
また忘れてはならないのは、同機のレーダー視認性を低くする工夫として機体のレーダー断面積や赤外線特徴を低くするべく、コマンチほどではないが高い残存性を実現していることだ 同機が高速性能とともに状況認識能力を引き上げるべくセンサーを活用し、機体防御対策も高度化しておりこれからの戦場でも高い残存性につながるだろう。

同様な設計上の特徴がFVL軽量版でも見られる。これはFARAより先に提案が募集されていた
レイダーXは同軸複合ヘリ仕様でFARA競合機の中では運動性能が一番上のはずだが、シコースキーからはX2技術を低リスクで実現できることを強調しているが、これは非常に主観的な意見だ。
同社がこの技術に賭け、10年余を費やしたのは事実である。だが量産機には応用されておらず、ベルよりリスクが高いのは事実だ。ベルはきわめて通常型のヘリコプターを提案している。複雑な機構を考えると、レイダーXの機体単価は相当高額になるのではないか。ただし、今の時点でこの点は明確にできない。すると、低コスト、低性能版のほうがFARAミッションに適していると言えないか。
高性能統合防空装備システム(IADS)と短距離防空装備の進歩に対し通常型ヘリコプターが高度防空体制を突破し残存できるのかとの疑問が生まれている。もうひとつが飛行距離の問題だ。接近阻止領域拒否の時代にヘリコプター運用基地が目標から150マイル以内にあるのでは現実的と言えるのか。
こうした問題については今後もご紹介していくが、飛行距離、速度、とくに残存性がFARAに数十億ドルを投じるにあたり重要な検討項目になるのではないか。または回転翼機による戦闘が過去のものとなっているのに無駄な検討項目になっているのかもしれない。

S-97の独特な機体構成を上から見るとびっくりする。
レイダーXは速度、飛行距離、操縦性でも優れているだろうが、残存性でもステルス特徴を生かし最新の防御策、センサー、兵装を実現する。これが実現しないと、開発リスクを抱えた複雑な機構のヘリコプターとして他社より機体価格が上昇しかねない。 だが再度、安価な競合作があるとしても、残存性が劣り将来のハイエンド戦に投入できない機体になればそれだけの高額を投じる価値があるのか。
その答えはFARAの考過程にあわせでてくるはずだが、現時点ではシコースキーの提案内容が判明したにすぎず、その内容は強い印象を与えてくれる。
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