どうも後日の歴史家はオバマ政権が明確な態度を示さなかったことが西太平洋のバランスを中国有利にした原因だと批判しそうな気がします。中国の既成事実の積み上げに対して米、および同盟国側の抑止力が全く働いていないとの愕然たる事実があります。しかしそれはそれとしても言葉と言葉、知性と理性が真っ向勝負する上院の討論の雰囲気にはスリルを覚えざるを得ません。なおリチャードソン大将は無事上院審査を通過し、海軍作戦部長に就任できるようになりました。
Adm. Richardson Dodges SASC Questions On China
CAPITOL HILL: ジョン・リチャードソン海軍大将は上院審査を本日乗り切った。しかし大きな2つの問題が浮上し、政権と議会共和党議員の間に中国への見方で意見対立が深まっていることをあらためて示した。
リチャードソン大将は潜水艦勤務出身で次期海軍作戦部長に推挙されているが、上院軍事委員会メンバー各議員からの難しい質問を手際よく回避していた。米中核協力は中国の軍拡に貢献しているか、米国は中国による南シナ海領有にどう立ち向かうべきか等々で、リチャードソンは中国と米議会からの圧力の中いつまでも逃げの答弁はできなくなる。
トム・コットン上院議員は単刀直入に「提督、中国は敵ですか」と尋ねた。
これに対しリチャードソンは「中国は複雑な構造の国家です。実行している内容の多くは自国国民自身に敵対的な内容です」と述べ、南シナ海で進めている人工島の問題に言及している。
上院議員は、ではなぜ核兵器を運用する艦隊の編成を我々が助けなければならないのか、と聞いた。.
米政府にはレーガン時代から『1.2,3合意』と呼ぶ中国との民間核共同開発があり、当時は中国をロシアへの対抗勢力として利用しようとしていたのだった。この合意が更改時期に来ているが、コットン議員と保守派マーク・ルビオ議員が反対している。民生原子炉が中国へ引き渡されれば軍の手に落ちる、というのが理由だ。カーティス・ライトのAP-1000型ポンプが実際にウェスティングハウスの中国側提携先に手渡されている。本来はウェスティングハウス製の原子炉冷却用のポンプがわたった提携先は中国の新型原子力弾道ミサイル潜水艦のポンプを製造している。原子力潜水艦でポンプが一番大きな騒音を発生するので、ポンプの性能が向上すればそれだけ潜水艦の探知が困難になる。”
「この点については注意深く観察しています」とリチャードソンは原子力潜水艦畑出身でもあり、回答している。詳細は極めて技術的かつ極秘内容だと提督は続けたが、海軍は民間の原子力開発を「注意深く」観察している。「合意を廃棄するよりも、更新した新規合意のほうがましだ」という。
コットン議員が更に追求した。「PLA海軍が民間向け原子力技術を海軍用のシステムに流用するとの疑いあるいは事実確認があってもそうなのか」
「自信を持って合意がないままよりあったほうがましだと言えます」
提督が書面で準備した答弁書はもう少し詳細に触れている。「リスク(民生技術が軍用に転用されること)が全くないと言い切れないが、米中原子力エネルギー法のセクション123合意では米国が中国の原子力施設に立ち入ることを認めており、核の保安と安全でベスト・プラクティスを尊重する考え方の醸成を認めるほか、中国の不拡散政策が国際社会の非拡散方針と首尾一貫していることを確実にしている」 また米国製原子炉を世界で一番エネルギーが不足している国に売りつけることには魅力がある。
本日午前の聴聞会と書面回答の両方でリチャードソン大将は中国が進める南シナ海での土木事業は「安定を損なう効果」があるとする。ただし現政権がこの状況にどう対応しようとしているかについて提督は明確にせず、委員会は提督に明確に述べるよう求めたがやはり変わらなかった。
ホワイトハウスと太平洋軍の間に重要な問題で意見の不一致があるとの噂がある。つまり新規中国基地の12カイリ以内で飛行あるいは航行を実施すべきかどうかという問題だ。中国の主張は建設中の基地は永続的な施設であり、各島に居住民があるので周囲の海域は中国の領海かつ領空で12カイリすべての方向に広がるというものだ。米国は島は全て人工建造物であり、一時的な建造物にすぎない。つまり国際法上では他国の海上及び上空の通行権への影響は全く有さないとする。 中国は各建造物の12カイリ以内を飛行あるいは航行すれば自国主権への明白な挑戦だと明言している。
「12カイリ以内を航行するのは航海の自由原則を掲げ中国の人工島主張を排除するための重要な要素だ」とある上院議員のスタッフが記者に語った。「カーター国防長官がシンガポールで行った演説はすばらしかったが、今やその強い語調の演説を目で見える行動で支えるべき時だ」
「わが国の政策に混乱が見られる」とダン・サリバン上院議員は公聴会で発言している。同議員はシンガポールのシャングリラ会議の席上でこう発言していた。『カーター長官は今後も飛行、航行、作戦展開を国際法が許す範囲であればどこでも行うと発言していた。これは海中の岩礁を飛行場に変えても主権の主張はできず、飛行・航行の自由を制限できないという意味だ。しかしPACOMハリー・ハリス司令官がわずか2週間前にアスペン安全保障フォーラムで米政策では12カイリの制約を南シナ海全体で認めており、島嶼に加えすべての地形が対象だとしていると指摘している。
「この地域に海軍がプレゼンスを維持することがどうしても必要」とリチャードソン大将は発言。「しかし、合法的に形成された領土境界線を尊重する必要もある」
「つまりこれを認めるということなのか」とサリバン議員はフィアリークロス礁の上に建設された中国の滑走路の写真を指さした。
「相手方の主張のどの部分に合法性があるのか正確に検討したい」とリチャードソンは留保しようとした。「状況はどんどん動いています。主張も対立しています。真実を現地で確認し、明らかにしなければなりません」
「委員長」とサリバン議員はジョン・マケイン議員(オバマ政権の外交方針には賛同していない)に向いた。「記録に残すため一連の質問を提出し、米国の政策をはっきりさせたいと思います」
委員長は不機嫌に「がんばってください」と唸るように言った。■
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