中国には技術を自国で物にするためには時間と労力が必要だとの認識が近代化開始からずっと欠けたままです。今回も金の力で苦境にあるウクライナから技術を獲得する良い取り引きができたと思っているのでしょうが、長い目で見ればどうなのでしょう。戦略では長期的な視点が目立つ中国が技術戦略ではどうして同じことができないのか。それは科学技術の意義が理解されていないためとズバリ指摘しておきます。An-225は確かに巨大ですが、あまり意味のない機体でしょう。
China to Build the World’s Largest Plane — With Ukraine’s Help
The An-225 could assist Beijing’s space program, or something else
- ウクライナの航空機メーカー、アントノフはソ連時代の伝説的企業でロシアのクリミア侵攻で存続が危うくななった。同社の主要顧客であるロシア政府が一夜にして望ましくない顧客に変身したためだ。
- 以前にも苦い経験はあった。ソ連時代の1980年代にアントノフは世界最大の輸送機An-225ムリヤ(「夢」)を企画し現在一機だけ飛行可能な状態にある。
- 今日ではこの唯一の機体が民生貨物輸送機として超重量級発電機、タービンブレイド、石油掘削装置まで運んでいる。興味深いことにアントノフはもともと同機をスペースシャトル搬送用に使おうとしていた。
- さこで中国が同型機をまず一機生産させようとしており、追加もありうる。
- 両国は協力取り決めに8月30日に調印し、未完成のままのAn-225二号機を完成させ中国航空工業集団に納入する。「第二段階でAn-225のライセンス生産を中国国内で認める」とアントノフは報道資料で説明。
- An-225ムリヤはNATO呼称コサックでAn-124ルスランを大幅に改造したものだ。An-124はロシア空軍で最大の輸送機として供用中で世界最大の軍用輸送機だ。だがAn-225は機体をさらに大きくしエンジン二基を追加し、貨物床を強化したうえ、主翼を延長し、尾翼もふたつになっている。このためムリヤは最大離陸重量が700トンと747より200トン多く、エアバスA380-800Fよりも50トン多い。An-225の翼幅は世界最大の290フィートで怪物航空機といってよい。ただし翼幅の最大記録はH-4ハーキュリーズが保持している。とはいえAn-225の機体重量は世界最大だ。
- 現在唯一のAn-225は初飛行が1988年だが、ブラン宇宙シャトル計画が1993年に打ち切られ、ウクライナは二番機を製作途中でモスボール状態にしていた。アントノフはこの二号機の生産を再開し中国へ納入する。
- 同社は二号機の機体状況を写したキエフ工場内写真を公開した。
The second, incomplete An-225. Antonov photos
- ミリヤはZMKBプログレスD-18ターボファン6基を搭載し、各51,600ポンドの水力を生む。車輪32個を搭載し(A380は22個)、巡航速度ほぼ500マイルで貨物満載して9,500マイルの飛行が可能だ。
- だがAn-225案件はウクライナ航空産業が深刻な状態にあり顧客がないことを示している。
- アントノフはソ連からウクライナが独立したためウクライナ企業とななったが、ソ連崩壊後も主にロシア向けに頑丈な輸送機を以前同様に設計していた。
- 同社は設計のみで生産していなかった。ただし2009年に製造部門に進出し、キューバや北朝鮮向け旅客機も製造したとニューヨーク・タイムズが報道している。
- だがアントノフは危うい状態にあった。ロシアのウクライナ東欧侵攻で環境が悪化し、ウクライナのロシアとの防衛関係は停止状態となった。
- 予想通りアントノフは苦境に立ち、危うくウクライナ航空産業を道連れにするところだった。「アントノフはウクライナの切り札だ。世界のどこにも負けない輸送機を産んだ企業だ」とウクライナの軍事アナリスト、ヴァレンチン・バドラクがNYタイムズに2014年語っていた。「同社の消滅は片腕を失うのと同じ」
- 同社はなんとか生き延び、2016年1月にウクライナはアントノフ資産を精算し、国営軍事複合企業体クラボロンプロム傘下に移した。
- そこで世界最大の航空機を入手する中国の意図が問題になる。詳細不明とはいえ、大型航空機案件では目に見えるものを信じろというのが鉄則だ。
- ロシアの航空専門家、ワシリー・カシンは中国にはAVIC中国航空宇宙工業という大企業があるが、今回の買い手AICCはずっと小規模の企業だと注意喚起している。
- 「今回の取引は中国がこれまで軍事用途の技術を入手してきたのと同じパターンで、ウクライナにとっては同社は貿易上の中間業者に過ぎない」とカシンはロシア国営報道機関スプートニクに述べている。
- An-225には戦略軍事輸送上の欠陥がある。機体が大きいため最大離陸重量では滑走路長が11,500フィート(約3,500メートル)必要で目的地も限られる。これでは戦略用途には不利だ。Popular Mechanicsによると軍事用途の輸送事例として2002年に米軍部隊をオマーンまで輸送している。
- 中国にも大型ジェット輸送機の必要があるだろうが、大量の機材が必要であり、運用確立のために今後数十年に渡り数百万人時間をかける必要がある。
- 高価かつ高度に特化した怪物超大型機がその目標に寄与できるのだろうか。中国空軍が大型機を生産運用する経験を必要としているのは事実だが。現在唯一の国産戦略級ジェット輸送機は西安Y-20で2013年に初飛行している。
- アントノフは知的所有権の譲渡は合意していない。中国にAn-225の知財は渡さないと説明している。
- だが中国版An-225では現在のウクライナ同様に世界各地への同機運行が発生するはずだ。このため同機運行に乗り気な民間会社が必要になる。現在An-225を運行するのはアントノフエアラインだけだが年間飛行回数は一回か2回しかない。
- もう一つの可能性はソ連がもともとAn-225に期待したのと同様のスペースシャトル搬送だ。
- 中国がソ連時代のブランやNASAスペースシャトル同様の高額で非効率な有人シャトル建造に乗り出す可能性は極めて低い。だがミリヤは中国の宇宙計画を小型宇宙機を搭載したロケットを空中発射することで支援できるはずだ。
- 中国が空中発射式の無人宇宙機神龍Shenlongを実験していることは知られている。西安H-6爆撃機が搭載するのがまず視認された。超大型支援機なら今後登場するはずの大型宇宙機を搭載できるだろう。
- ソ連がAn-225を打ち上げ母機として宇宙機MAKSを運用しよとしていたことを忘れてはならない。ミリヤでは再利用可能なロケット推進宇宙機を機体上部に搭載し、高度28,000フィートで降下し速度を稼いでからMAKSを切り離し滑空させる構想だった。
- だが端的に言って中国の意図がまったくわからない。また未完の二号機がウクライナを離れる日が本当に来るのかもわからない。■
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