スキップしてメイン コンテンツに移動

★歴史に残る機体10 Tu-95ベアはロシアのB-52,旧式化したとはいえ威力は十分




The National Interest

The Tu-95 Bear: Russia Has Its Very Own B-52 Bomber

She might be old but she packs a big punch.
An air-to-air overhead view of a Soviet Tu-95 Bear aircraft. Wikimedia Commons/U.S. Navy

September 3, 2016



ツボレフTu-95「ベア」ほど特徴的な機体は珍しい。四発の戦略爆撃機で哨戒機でもあり、一角獣のような空中給油管がついた形状はまるで前世紀から蘇った怪獣のようだが実際に第2次大戦直後に生まれて今日も運用されている。

ただし外見にだまされないように。60年に渡りTu-95が軍務についてこられたのは大ペイロードで長距離飛行できるからである。つまりTu-95はロシア版のB-52であり、洋上飛行を得意とし欧州、アジア、北米の防空体制に挑戦してきた。

冷戦時の核爆撃機として

  1. ベアは第二次大戦時の米国航空兵力に匹敵する戦略爆撃機を熱望した戦後のソ連で生まれた機体だ。ソ連立案部門は1950年に四発爆撃機で数千マイルを飛行して米国を爆弾12トンで攻撃できる機体を求めた。
  2. ただし当時のジェットエンジンは燃料消費が多すぎた。そのためアンドレイ・ツボレフ設計局はNK-12ターボプロップ4発に反転プロペラを選択した。
  3. NK-12にはプロペラ二基がつき、二番目のプロペラを逆回転させ第一プロペラが生むトルクを打ち消し、速力を確保する。反転プロペラは効率が高い反面、製作コスト維持コストが高くなるだけでなく信じられない程の高騒音を生むため、広く普及しなかった。Tu-95飛行中の騒音は潜水艦やジェットパイロットからわかるほどだといわれる。
  4. ただしTu-95ではこの選択が効果を上げた。巨大なTu-95は最速のプロペラ機であり、500マイル時巡航が可能だ。プロペラ直径は18フィートもあり、先端では音速をやや上回る速度になる。後退翼を採用したプロペラ機としても希少な存在だ。
  5. Tu-95は巨大な燃料搭載量があり、9,000マイルを機内燃料だけで飛べる。後期モデルでは特徴的な空中給油管を搭載してさらに飛行距離を伸ばした。冷戦時の警戒飛行は10時間におよんでいたが、実際はその二倍程度の飛行が可能だった。
  6. Tu-95の乗員は6名から8名と型式により異なる。パイロット2名、航法士2名のほかは機関銃やセンサーの操作員だ。原型ベアは23ミリ機関砲二基を搭載していた。だが長距離空対空ミサイルの登場でこの装備は陳腐化し後期型では尾部だけとなった。(尾部機関銃でB-52は2ないし3機をベトナム戦で撃墜している)
  7. ベアの当初想定ミッションは明白だった。冷戦が熱い戦争に発展した場合に数十機がばらばらに北極海を飛び越えて核爆弾を米国に投下するはずだった。途中でミサイルや防空網の犠牲となっても数機は突破できる想定だった。
  8. 米軍の作戦構想を真似てソ連も24時間滞空待機する核爆撃機を運用していた。
  9. 核実験にも投入された。Tu-95Vが投下したのは史上最大の核爆弾で1961年にセヴェルヌイ島で爆発した50メガトンの爆弾の王様Tsar Bombaだった。同爆弾は地表から4キロ上空で爆発し、きのこ雲を40マイル先まで送った。衝撃波で投下したベアも高度を数千メートル失ったが、パイロットは制御を取り戻し、基地に帰還している。乗員は生存可能性は50パーセントしかないと知らされていた。
洋上哨戒機として
  1. 1960年代に入るとソ連は米本土に爆撃機で核爆弾を投下する方式では戦果が望めないと賢明な判断をし、弾道ミサイルの費用にはかなわないことがわかった。そこでTu-95新型にはこれまでと異なるミッションが想定された。
  2. 同機を長距離巡航ミサイルの母機に使う構想が生まれた。Tu-95Kは大型のKh-20核巡航ミサイル(NATO名称AS-3カンガルー)を搭載した。同ミサイルの有効射程は300から600キロでMiG-19の胴体をモデルとし主翼を取り外した形状だった。
  3. もう一つのミッションが米空母打撃群の追尾飛行だった。探知船舶を広い海洋の各所に配備するのは難しい課題だった。だがもし米空母群の位置が判明すれば、陸上から爆撃機多数を飛ばし攻撃できる。ベアなら洋上を何時間も飛行して広大な海洋をカバーできるので米艦隊捜索用にうってつけの機材だった。
  4. Tu-95RT洋上偵察型はこのため専用に製造された機体で水上捜索レーダーを胴体下のポッドに搭載し、さらに捜索用のプリスター型観測窓を設けた。
  5. 有事になれば敵艦隊の位置を追跡することは有益であり、さらに米海軍には航空攻撃を受ける可能性という心理的圧迫をかけられる。米空母からはつきまとうベアを追い払おうと戦闘機を緊急発進させることがよくあった。ベアと戦闘機が一緒に収まる写真は冷戦時の象徴だった。
その他各型
  1. 試験機材のベアは多数あり、Tu-95LALは原子炉を搭載し推進動力とした。Tu-95KにMiG-19戦闘機を搭載し空中母艦としようとした。
  2. 量産型にはTu-95MR偵察機、改良型Tu-95K、KMがあり、後者はKh-22ミサイル運用能力がついた。
  3. ソ連は対潜哨戒偵察機をベアから専用機材Tu-142として製造している。この開発の背景にはポラリス潜水艦発射弾道ミサイルの恐怖があった。Tu-142はベルクート(ゴールデンイーグル)水上探索追跡レーダーで識別できる。尾部ブームにMAD磁気異常探知装置をつける。Tu-142は機体を若干延長してセンサー類を搭載している。
  4. 冷戦期に搭載システムを数回アップグレードしており、米潜水艦技術の進展に追随した。現在はTu-142MZがあり、RGB-16、RGB-26ソノブイを搭載しエンジン出力を強化している。数回に渡りTu-142は米潜水艦追跡に成功している。 二機のみ製造されたTu-142MRはロシア潜水艦との通信専用機材だ。
  5. ロシア海軍航空部隊が今日でもTu-142を15機運用している。そのうち一機がシリアで最近目撃されている。シリア反乱勢力の位置情報をつかもうとしたのか米艦隊を追尾したのだろう。
  6. 1988年からインド海軍はTu-142MK-Eを8機運用中で、近くP-8Iポセイドン12機に更改される。
  7. ベアはロシア初のAWACSたるTu-126となった他、Tu-114旅客機型はフルシチョフを無着陸11時間でモスクワからニューヨークへ運んだ。ただし今日では両機種とも飛行していない。
  8. Tu-95として今日も稼働中なのはTu-95MSが50機あり、Tu-142を元に開発し、Kh-55ミサイル(AS-15)を運用する。この機体は最近になり巡航ミサイル16発を搭載する改装を受け、新型航法目標捕捉システムを取り付けた。Kh-55は核、非核弾頭の双方あり射程も3千キロから300キロまで別れる。
  9. Tu-95MSMが発射するはKh-101および核Kh-102ステルスミサイルは低空飛行で低レーダー断面積を誇る。射程は5,500キロにまで及ぶ。
  10. これだけの威力を誇るものの、ベアも老朽化には勝てない。2015年夏には二年間で二機に喪失事故が発生したため全機飛行停止措置となった。
現在の状況
  1. 21世紀に入ってもベアは相変わらず太平洋大西洋上空を飛んでいる。主要任務は他国の偵察だ。
  2. Tu-95がイングランド沿岸沖、カリフォーニア沖50マイル地点、アラスカの防空識別圏内、日本の領空内を飛行する事案が発生している。接近飛行で相手国の迎撃戦闘機の出動を誘発させているが、他国領空の侵犯は通常は行っていない。
  3. 冷戦時にはこうした哨戒飛行は通常の事だったが、プーチンが2007年に再開させた。真意はロシアが今でも核搭載爆撃機を各国に飛ばす能力があると誇示するものだ。
  4. 米RC-135スパイ機の飛行で中国、ロシアの戦闘機も迎撃することがあるが、RC-135は非武装機だ。
  5. ベアはステルス性は皆無であり、最新鋭の防空体制では残存は期待できないが、巡航ミサイル発射により敵防空網に接近せず初回攻撃を実施できる。
  6. 2015年11月に就役後59年が経過してTu-95は爆撃機として初めて戦闘に投入された。ロシア国防省公表のビデオによれば巡航ミサイルを発射し、シリア反乱勢力の拠点を破壊している。ロシアが初めて巡航ミサイルを空中、海上双方で投入したことは自国軍事力を世界に世界に誇示する意味があったと解釈された。
  7. 今日のロシア軍には各種爆撃機がありペイロードも選択の幅が広く、Tu-95より高速飛行可能な機材もある。ただし、ベアは大型巡航ミサイルの運用に最適であり、太平洋大西洋で監視の目を提供しているのだ。■

Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
Image: An air-to-air overhead view of a Soviet Tu-95 Bear aircraft. Wikimedia Commons/U.S. Navy


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...