なるほど人工島嶼部分から12カイリ以内をそのまま通行すれば逆に中国の主権を認めることになるわけですか。思ったよりも複雑な事情ナ事情が見え隠れしますね。また航行は繰り返し実施することが必要なので、中国も都度対応せざるを得ず、不測の事態発生もありえるということでしょうか。二国間で緊急時の取扱合意ができているとのことですが、全体としては中国の想いのままに事態が進んでいっているような気がしてなりません。何しろ国際法に代表される常識には公然と立ち向かう国であり、国際社会より該当国同士の交渉を重視する姿勢がありますので、米国の挑戦そのものを認めないのではないでしょうか。それにしてもオバマ政権がいかに慎重のあまりとはいえ、事態を進展させて結果として中国の利にかなう選択をしたと後世に評価されても仕方ありませんね。
The Price of Delay: US Navy To Challenge Chinese Claims
WASHINGTON: 5ヶ月にわたり、示唆、宣言、混乱したメッセージ、優柔不断ぶりを見せてきた米国は南シナ海で中国が主張する主権に公然と挑戦する準備ができたと伝えられる。
ただし数ヶ月に渡り行動をとってこなかったつけは大きい。低姿勢な「航行の自由確保作戦」で航行、飛行あるいは演習を問題の海域で行い、もって接近の既成事実をつくろうとしても中国の建設活動の進展により状況が複雑化している。
ペンタゴンは取材問い合わせに対し確認を拒否してきた。上院のスタッフのひとりは「待つしかない。大幅に遅れている。この遅れが大きなつけになる」と語る。
「遅れた事の代償として航行の自由作戦を実施すべき理由で全員が混乱させられてしまいました」と語るのは戦略国際研究所でチャイナ・パワー・プロジェクトを統括するボニー・グレイサーで自らは中国出張から帰国したばかりだ。「中国で多数の人と話したが、中国の主権への挑戦だと異口同音でした」
「中国で公の場にいる人達が人民解放軍は米軍が南シナ海の人口島から12カイリ地点に侵入した時点で発砲すべきと公然と発言しているらしい」というのは海軍退役軍人ブライアン・クラーク(国際法上は人工建造物では主権の成立は認められていない)ただこれで第三次世界大戦が始まるわけではないとクラークは見ているが、相当の圧力を感じているからこそ中国指導部から好戦的な発言が出ているのだろう。
「オバマ政権は自ら戦略的に劣る立場に追い込んだ」とクラークは見ており、「全ては米国が行動を遅らせたためだ」と戦略予算評価センターに務めるクラークは述べた。通常の航行の自由確保作戦行動は物静かな演習の形を取ることが多く、法律上は前例がある。該当海域に航行したり、上空を飛行して作戦を実施するが、5ヶ月にわたる不作為が今回の自体を深刻にしてしまった、とクラークは言う。
「むしろ演習を着実に実施していればもっと簡単な話しだったはずで、中国もおそらく腰を低くして対応していたはず」とクラークは記者に語った。だが、今や「中国は面子にかけて対応せざるを得ず、自国民に対して事態を真剣に対処すると説明するはず」
中国と海上で国境線を共有する各国にも影響が出る。「各国は注視しています」とヘリテージ財団のディーン・チェンは言う。「おそらくカーター国防長官が5月のシャングリラ対話で強い口調で述べた際はショックが走ったのではないでしょうか」 だが、その後、ジョン・マケイン上院議員が詰問すると米国は中国が主張する地点の12カイリ以内の航行を2012年以来行っていないことが明らかになってしまった。
少なくとも一人の専門家がオバマ政権には事態を静観すべき正当な理由があると見る。これはパトリック・クローニン(新しいアメリカの安全保障を考えるセンターでアジア太平洋安全保障問題の責任者)だ。「ホワイトハウスはFONOP(航行の自由作戦)を承認しておくべきだったし、米国が同様の行動を通常どおり実施すると公表すべきだ」と記者に語った。「だがホワイトハウスはこの問題を静観しており、ペンタゴンからの情報を各種のレンズを通して理解している」という。
11月に航行の自由作戦を実施すると同月の大統領アジア歴訪にも微妙な影響が出るとクローニンは指摘する。また中国からサイバー諜報活動対策への協力を期待するのも困難になる。9月に12カイリ以内を航行あるいは飛行していたら同月の習近平主席の訪米が台無しになっていただろう。今夏は米政府はTPP交渉にかかりきりになっており、気候変動交渉にも時間を取られていた。ともに中国の感情を傷つける要素がある。米政権側には同盟各国への説明で時間が必要であり、地域大で支持を取り付ける必要があったとクローニンは指摘。航行の自由作戦の第一の目的は域内各国を勇気づけ、国際社会に中国の弱者いじめに反対姿勢をとらせることにある。
これに対し議会筋に反対意見がある。ここまで遅れたのは正直「困惑させられている」と上記上院スタッフは言う。
「ここまで遅れた事自体が政権が主張する法的な観点の重要性を弱体化させているのは疑いない」と下院議員のスタッフも言う。「疑う余地のなく法的な根拠のあるのに何週間何ヶ月も検討する必要があるのか、報道で事態の進展は都度あきらかにされていたではないか。政権側は作戦遂行上でギャップを作ってはいけない。艦船には無害通航を行わせ、2012年まで実施してたのと同じ作戦を行わせるべきだ」
無害航行と軍事行動の違い
ただ事態はプラスかマイナスかといった単純な構図ではない。「法的根拠を作るためには定期的に実施すべきあるいは十分な頻度を確保する必要がある」とクラークは指摘し、国連海洋法条約を米国はまだ批准していないが、国際海洋法が先例、慣習、規範の根拠であり、航行の自由作戦はまさしくこれの実現を目指すものだとする。”
「一回だけ進入しておしまいというわけにいかないだろう」とチェンは言う。「一貫した政策が背景にあるべきだ」クローニンも「米国は作戦を定期的に実施すべきだ」と意見を同じくする。
そこで作戦の内容について疑問が出てくる。航行の自由作戦で一番簡単な形態はA地点からB地点に直接航行することで、途中で航路を変更せず、いかなる軍事活動もとらないことだ。これは無害通航と呼ばれる。
中国側は「無害通航」が気に入らない。中国は外国船舶が国際公海から事前通告無しで領海に進入するたびに攻撃的な姿勢になる。ただし南シナ海では航行を宣言するだけでは足りないかもしれない。これは国際法により大多数の国家が同じ解釈で無害通航を各国の領海内で認めているためで、自国領土から12カイリ以内でも同様だ。そこでもし米国艦船が中国が構築した人工島嶼を単に通過するだけなら、主権の根拠たる領土であるとの中国の主張を完全に認めることになる。
「もし米艦船が無害通航としてそのまま航行しても、問題の島嶼が領土なのかどうかは明確にするわけではない」とクラークは言う。問題の島嶼が中国領土ではないと明確にするため、かつ周囲12カイリが中国の領海ではないとするため、米軍部隊は何らかの「無害」行動を実施する必要がある。
だからといって大規模な行動ではないとボニー・グレイサーは言う。「選択肢のひとつに12カイリ地点以内にしばらく停泊することがあります。これはA地点からB地点への単なる移動ではなく、一時間二時間停止するか、島嶼周囲を航行すればよいのです」
ただし実際に可能性があるのは明確な軍事行動だ。ロイターによれば米海軍駆逐艦1隻にP-8ポセイドン監視機をつけるという。「監視機を飛行させることは明らかな軍事行動そのものです」とグレイサーは言う。「P-8が随伴飛行すれば、相当の情報が入手でき、駆逐艦は別に何もしなくても良いでしょう」
もし航空機が随行しないと、たとえば駆逐艦が曳航アレイソナーを作動させて潜水艦掃討演習をするとかヘリコプターを発艦させるなど明確な軍事行動を示す必要が生まれるだろう。
中国はどう反応するか
地政学では行動のすべてに反応が生まれるが、かならずしも同等の反応にはならない。「中国にとっての選択肢は何だろうか」とチェンは問いかける。「黙殺からはじまり危険な操艦行為として米艦の直前で停止することがありうる」が発砲は選択肢に入っていないはずだ。
米軍を無視する選択肢が中国中央の関心を呼ぶのはオバマ政権には問題海域に二度以上の航行を試みる勇気はないと見ているためだ。「中国は『ほら、一回だけだよ』と言うだろう」とチェンは述べた。「お前たちを無視するのは、ここが我々の土地であることに変わりがないからだ」と言うだろうとする。
国際社会には自制を示す方が効果的で中国国内の民族派は二の次だろう。「米軍を脅かしに来るとは思えませんが、自国民向けには米国の挑発に反応をする様子を見せる必要があるでしょう」とクラークは言う。「火器管制レーダーを作動させるとか何らかの好戦的態度を見せるでしょう」
「少なくとも米艦船の追尾をするでしょう」とグレイサーも言う。「なんとか自国水域の外に追いだそうとするでしょうし、数年前には米艦インペッカブル事件もありましたが、危険度を高める行為であるのはあきらかで、海上衝突に繋がるかもしれません」
通常は中国海警の艦船が表に出て、人民解放軍海軍の軍艦は距離を保ち注視している。うわべだけ民間船の漁船が最も大胆な操艦をすることがあり、あきらかに愛国心からというより中央政府の指示があって初めて実施できる行動だ。この三段階の対応が意味するのは重装備のPLAN艦船はその場にいてもリスクが高い行動は取らないということであり、衝突や追突をすれば一気に事態がエスカレートしてしまうからだ。対照的に中国軍用機は米軍機に危険なまでの接近飛行を試みている。
「習近平は事故が発生しないよう極度に注意を払っていると見ています」とグレイサーは記者に語った。これから発生するはずの事態と過去の事例との大きな違いは米国と中国には正式な合意が形成されており、緊急時の取扱を安全に行えることだ。これは昨年11月に調印された予定外海上遭遇事態に関する条約the Convention on Unplanned Encounters at Sea (CUES)であり、習近平の9月訪米時にはあらたに空中遭遇事案の共同合意も調印されている。「中国はこれまで実に見事に対応して」CUESを順守しているとグレイサーは語った。ただし空中事故回避協定はまだ発足したばかりで評価できない。だが今や両方の協定の実効性が試されようとしている。■
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