これまで米海軍が進めてきた艦載機の機種整理は誤りだったのでしょうか。ハドソン研究所の提言はここにポイントがあります。UCLASSはちっとも先に進まず、F-35Cは空母運用テストが始まっていますが、航続距離が足りないと海軍航空部隊の将来はなかなか多難なようです。ただ第六世代機が制空任務を専用に作られるというのが救いでしょうか。問題は予算確保でしょうね。
Carriers Crucial In War With China – But Air Wing Is All Wrong: Hudson
WASHINGTON: 予算を47億ドル超過したフォード級航空母艦への議会の風当たりが強い。今朝は下院シーパワー小委員会で委員長が保守派のハドソン研究所による報告書を発表する。内容は同級空母建造の必要性を訴えるものだが、同時に運用する航空機について棘のあるくだりもある。同報告書は現行の多用途機で航続距離を伸ばす提言に加え専用任務機を複数準備するよう求めており、UCLASS無人機でも各種の仕様を提言している。
- 原子力推進の超大型空母は他に代えがたいと報告書の共著者ブライアン・マグラスは記者に語り、フォードの設計は優秀と述べた。だが、「航空部隊では考えなおす必要がある。負けるわけに行かない戦争に勝つ、あるいは抑止するためには」
- あえて想定したくないのが中国との戦争だ。「気になるのはどう見ても当たり前で高レベルの議論が海軍から出てこないこと」トマグラスは言う。「そのためハドソン研究所の同僚とともに『われわれがかわりに言わなくては』と考えた」
- ランディ・フォーブス下院議員(シーパワー小委委員長)はこれまで中国の脅威に煮え切らない態度を取る行政府を批判してきた。フォーブス議員は議会による監督を真剣に考え、ブッシュ政権時には中国の諜報活動が問題だと認めるよう政府側を22分間に渡り、しつこく求めたことがある。
- フォーブスが自主的な検閲を懸念する際によく出てくるのが「非常に親しい個人的知己」の前作戦部長ジョナサン・グリナート提督だ。「海軍大学校で一人の若い士官が立ち上がり提督に真摯な質問をした。中国の挑戦をどう受け止めるのか、と」 フォーブス議員はヘリテージ財団で昨日この話をしている。「すると提督は中国を挑戦相手と認めること自体が許される範囲を超えていると答えている」
- 今日の空母の投入先はイスラム国との戦争だ。有志連合各国が陸上基地の使用を認めるまでの54日間に渡り、空母艦載機だけでイラク、シリアを空爆している。しかしこの用途にフォード級は必要ないとマグラスは断言する。
- 「第三世界の国の沖合に留まり一日12時間目標を叩くことのに129億ドルの空母は不要です」「129億ドルも支出する理由として一番合理性のあるのは中国です」(マグラス)
- この主張は国家安全保障の専門家には相入れにくい。社会通念では空母はアメリカの航空兵力を世界各地に投射する手段であり、あくまでも艦が沈められたり艦載機は撃墜されない前提だ。敵側に長距離精密誘導方式の対艦、対空母兵器があり、目標を捕捉するセンサーやネットワークがあれば、これは接近阻止領域拒否(A2/AD)となり、空母に別れを告げる日となる。
- ただし、この考え方は全くの間違いだとマグラスは言う。A2/ADの脅威で逆に空母の意義が増大するという。「空母が弱体化していうより、むしろ危ないのは第一列島線上の各航空基地でしょう」と言い、つまり中国の射程範囲内にある各地のことだ。「基地は時速40マイルで移動しませんよね」 長距離ミサイルの一斉発射があれば陸上配備の機体は空軍戦闘機のように基地で攻撃を受けやすい。そのため、「戦術航空機に必要な仕事をしてもらいたいのなら」 つまり敵の戦闘機を蹴散らし、友軍の爆撃機を援護するなどだが、「利用できる唯一の選択肢は航空母艦からの運用です」
- (ここまで踏み込むと空軍への批判となることはマグラスも認めており、だからこそ海軍はこの考え方を公表していないのだ)
- 報告書も開戦初日に空母を東シナ海に進出させることは提言していない。逆に「直後に空母および水上艦艇はA2/ADで一番強い範囲外に後退させることになるでしょう」トマグラスは言う。「潜水艦も同行し、空軍の長距離爆撃機には長射程兵器を搭載し、敵のISR機能を排除することでリスクを減らし攻撃の機会となるポケットを作り出します」
- ここで「ポケット」と言っていることに注意が必要だ。A2/AD全部をダウンさせて空母を前進させ通常の警戒活動、艦載機の発進をする必要はない。代わりに報告書では「パルス」戦術を提唱している。別の部隊がA2/AD防衛体制に穴が開けば、空母数隻や護衛艦をそこに向かわせ、空爆部隊を発進させて、その場を立ち去る。報告書が言うようにこれは大規模なヒットアンドラン攻撃だ。
- この実施には海軍は新しい種類の訓練が必要だとマグラスは展開する。「記憶の範囲では海軍は複数の空母を同時に運用してきていません」 空母部隊は相互に運用し、目標も分けることがあるが、合同で航空部隊を同じ目標の攻撃に向かわせていない。
- 航空部隊こそ空母の攻撃手段であり報告書がもっとも力を入れている論点だ。最大の問題は航続距離の不足。空中給油を行えば、脆弱性の高い空軍給油機の助けを借りるが、F-18ホーネットがインド洋上の空母から発艦してアフガニスタンの目標を攻撃できる。ただし空中給油ができない可能性が高脅威度空域で想定され、「空母の有効攻撃射程は第二次大戦時と同等」とマグラスは指摘する。
- 空中給油がないとF-18ホーネットの実用攻撃範囲は空母から600マイルしかない。中国に対して到底足りない。中国の対艦ミサイルにはDF-21やDF-26があり射程は2,000から2,500マイルある。そのため「航空部隊が空母の弱点になる」とマグラスは言う。「航続距離が長い航空隊を編成できれば、空母はリスクが低い水域で活動できる」とし、遠距離で安全な地点からの攻撃が可能になるという。
- 将来の空母航空隊の中心と期待されるのがUCLASS(無人艦載航空偵察攻撃機)だ。UCLASSを長距離偵察任務に特化させ攻撃能力は二次的とする海軍案と長距離侵攻攻撃能力を重視し偵察を二次的とするフォーブス議員やジョン・マケイン上院議員の考えの間でしれつな意見対立が生まれている。マグラスは共著者とともに両方の機能が必要だと主張し、場合によってはUCLASSを二種類にすれば良いと考える。
- 「私は最も早くから攻撃能力を主体としたUCLASSを提唱してきました」とマグラスは言う。「偵察ならP-8ポセイドンやMQ-8Cトライトン別名BAMSがあります」 だが報告書を執筆する中でポセイドンやトライトンはステルス性がなく、機動性が欠け、脆弱な機体でA2/AD範囲で偵察活動を遠隔基地から行うのは無理だと気づいたという。そこで空母から運用可能で生存性が高い無人偵察機の重要度が高まる。
- UCLASSが二型式になるだけではない。海軍は専用機材を排除してきた。S-3ヴァイキング対潜哨戒機、F-14トムキャット迎撃戦闘機は多用途戦闘爆撃機F-18に取って代わられ ゆくゆくはF-35も加わる。だがもう一度専用機を復活させるべきだと報告書は提言する。例えば次世代海軍戦闘機となるまだ概念上のF/A-XXは戦闘爆撃機ではなく生粋の制空戦闘機にする必要がある。
- UCLASS、F/A-XXならびに「制海」対潜哨戒機とそろうと相当の買い物リストになる。とくに予算削減の時代には目立つ。予算が潤沢だった時代でさえ、航空兵力の更新には十年単位の時間がかかった。だが空母体制の立て直しには長い時間がかかることはよく知られていることだ。■
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