ここで言っているTR-XはU-2無人機版としてロッキードが提唱していたコンセプトの発展形でしょう。供用期間の途中で大幅にステルス性能などを引き上げていく(当然同社には改修費用が収入源となる)という同社にとって虫のいいお話になります。実現するか未定ですが、予算危機とはいえ、大事なISR機材を調達できないくらいアメリカは弱っているのでしょうか。短期的なつじつま合わせでなく情報収集手段として今後稼働できるのならいい買い物になるのですが。
Lockheed’s TR-X Reconnaissance Aircraft Will Have Stealthy Shape, Skin
Lockheed Martin is pitching TR-X, a stealthy, high-flying UAS, to replace U-2 and Global Hawk
- ロシア、中国がミサイルを高度化する中、米空軍のロッキード・マーティン有人U-2およびノースロップ・グラマンのグローバルホーク無人機は敵国境線へ接近が困難になりつつある。
- ロッキード・マーティンは自社のスカンクワークスならこの課題を解決できるとし、これまで公開していなかった無人TR-X提案のステルス性能を今回明らかにした。高高度飛行しステルス性の外装およびレーダー波吸収表面で敵領空深くへ侵入できるようになるとロッキードでU-2事業開発部長を務めるスコット・ウィンステッドが述べている。
ロッキードの考えるステルス偵察機開発案
- 初期型TR-XはU-2の高性能センサーを搭載した低視認性機体とする
- ステルス性能は機体のステルス形状とレーダー波吸収表皮で実現する。
- ロッキードが開発中の極超音速SR-72を補完する役割も期待
- 初期型30機を38億ドルで7年以内に稼働開始させる
- ロッキードはTR-Xコンセプトを昨年の空軍協会の年次総会で発表し、U-2とグローバルホークの後継機として今世紀一杯稼働できるとうたった。その際にTR-Xは低視認性機体だと述べていたがステルス性能の詳細には触れていなかった。
- 今後は相手領空上空への侵入が出来なくなるのが普通となり、高性能センサー、高高度飛行、長距離飛行性能にステルスを加えてISR情報収集監視偵察任務での優位性が実現するとウィンステッドは述べている。高性能センサーの例が電子スキャン方式アレイレーダーで、現行のU-2やグローバルホークに搭載すれば敵領土奥深くまで侵入できるが、機体表皮そのものを全く新しくしないとレーダー探知からは逃げられないとウィンステッドは指摘する。
ロッキードTR-X構想では最終的にステルス機体となりレーダー吸収被膜とすることで敵地億副区に侵入可能となる。Credit: Lockheed Martin Concept
- 「そうなると敵はレーダー出力を上げないと探知できなくなり、こちら側はそれだけ接近でき戦時に有利になります」
- TR-Xの空軍採用を期待するロッキード・マーティンは二段階の開発をする。第一段階は低視認性機体で当面の必要条件に答え、その後、ステルス性を高めた機体としてレーダー吸収表皮を追加する。
- TR-Xはノースロップの極秘RQ-180とロッキードが開発中の極超音速SR-72に加わり、空軍の求める侵攻型ISR機材の一角となる想定だ。一機種ですべてを実現するのではなく、複数要求に選択肢複数とし、脅威環境の変化に対応する考えだとレベッカ・グラントIRIS独立研究所の社長が解説。
- SR-72がマッハ6で飛行すれば速度と残存性が武器となる。理論上は同機は危険空域でも存分に活動でき、敵の地上移動目標が隠れる前に探知し、高速で帰還し、途中でネットワーク有効範囲に入れば情報を送信する。
- 将来において空軍はステルス高高度飛行のTR-Xと極超音速のSR-72双方を運用する必要に迫られるはずとグラントは言う。TR-Xは常時滞空する空の目となり、変化を見逃さず、現在のU-2の役割を果たすというのだ。何らかの変化の兆候が見つかれば、あるいは具体的な脅威の兆候が見つかれば、SR-72が出動し、データを迅速に収集する。
- TR-Xは当面はU-2と同じ非ステルス性機首に合成開口レーダーあるいは強力なSYERS-2電子光学赤外線(EO/IR)カメラを搭載して空軍にISRを提供するとウィンステッドは語り、初期機材のTR-Xはまっすぐな主翼構造でステルス機の特徴と反するが、機体構造は低視認性だという。
- 高高度飛行はU-2から、長時間飛行はグローバルホークから引き継ぎTR-Xは一つの機体にする。無人機であるためU-2より航続距離が延びる。24時間連続飛行が可能で、空中給油でさらに伸びる。グローバルホークは28から30時間連続飛行できる。U-2と同じ強力なジェネラルエレクトリック製F118エンジンを搭載し、高度70千フィート飛行が可能で、グローバルホークより10千フィート高く飛びながらペイロード5千ポンドを搭載する。
- 空軍の予算執行案ではU-2は2019年に退役し、グローバルホークにU-2のセンサーを搭載した改良型を後継機とする。だがTR-Xの方が短期ISR需要にはコストパフォーマンスが高いとウィンステッドは説明。ロッキード試算では初期30機の機材をそろえるのに38億ドルで、7年間で稼働開始できるという。これに対しグローバルホーク改修案では35億ドルで「U-2性能の80%相当にしかならない」という。
- TR-Xの初期機材は敵防空網の境界部分なら活動できるが、敵領土奥深くへ侵入できない。「それでも生き残り、気づかれない」とウィンステッドは以前述べていた。
- その先に来るのが最終案TR-Xでステルス性能を完全に実現するという。レーダー波吸収式の表皮塗膜と構造材料に加え、一体型ステルス設計の機体でレーダー波を反射する。
- ロッキードはTR-X最終型の費用、所要時間を確定していない。機体構造改修を行いステルス性能を実現する妥当な時期は機材の定期点検改修時だとウィンステッドは述べる。U-2の場合は6年周期で重点検を受ける。30機のTR-Xをすべて改修するのか一部にとどめるのかは空軍が判断すればよいというのがウィンステッドの言い分だ。
- ロッキードは空軍上層部にTR-Xおよび発展型を事前説明しており、新型機は来年再来年にも実現できると同社は述べ、ボブ・オットー少将(ISR担当副司令官)は同社構想に「興味をそそられた」というが、航空戦闘軍団はTR-X導入の予算はないとし、他に近代化の対象となる重要案件B-21爆撃機、F-35、KC-46給油機などがあるとする。
- だがウィンステッドに落胆の様子はなく、ステルス高高度ISR機材の必要性はすぐにでも明白になるという。「最大の障害は調達部門で新規事業が必要となるはずなのに構想を巡らす余裕がないこと」とし、「でも性能検討でニーズを見れば、ニーズが増える一方だと分かり優先順位も高くなるはずです」■
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