スキップしてメイン コンテンツに移動

即時全世界攻撃構想に対しロシアは核戦力増強に走るのか


日増しに米ロの対立緊張が高まっていく観がありますが、米軍の即時全世界攻撃構想にロシアは防御を固める構えです。これは80年代のスターウォーズ計画で当時のソ連が破たんしたのとはスケールが違いますが、どこか似た構図になっています。まずロシアの言い分を聞いてみましょう。


Russia Announces Plans To Upgrade Nuclear, Air Defense Forces

Sep. 10, 2014 - 02:38PM   |  
By AGENCE FRANCE-PRESSE   |   Comments

MOSCOW 任意の目標を一時間以内に攻撃できるとする合衆国の「即時全世界攻撃」構想に対抗し、ロシアは核部隊、防衛戦力を高性能化すると副首相が9月10日に発表している。
.
  1. 「即時全世界攻撃戦略には戦略核部隊や海軍部隊の能力向上で対抗する。同時に作成済みの計画に従って防空、宇宙防衛を進める」と副首相ドミトリ・ロゴジン(国防担当)Deputy Prime Minister Dmitry Rogozin が語ったとインターファックス通信が伝えている。

  1. 発言はウラジミール・プーチン大統領がロシア国防支出会議の席上で西側各国がウクライナ危機を契機にロシアに対する挑発に出ており、「NATOが復権しようとしている」と批判したのを受けた形。

  1. 冷戦時代と同じ話し方ででプーチン大統領は「新たな脅威があらわれつつある」とし、NATO軍が東欧で増強されていること、ヨーロッパとアラスカでの米軍のミサイル防衛体制、そして「即時全世界攻撃」を例に挙げた。「いわゆる全世界武装解除攻撃の理論が現実のものなろうとしている」とプーチン大統領は発言。

  1. 即時全世界攻撃構想は通常兵器により世界中どの目標も一時間以内に攻撃するものだ。

  1. 国防副大臣ユーリ・ボリソフDeputy Defence Minister Yury Borisov からは同じ10日にロシアも新兵器に対抗する技術開発を迫られるが防衛的な性質である旨強調する発言があったとRIAノヴォスティ通信が伝えている。■

ではその即時全世界攻撃構想とは何で、どこまで進んでいるのかを米議会調査局の報告書から見てみましょう。

Conventional Prompt Global Strike and Long-Range ballistic Missiles: Background and Issues

Congressional Research Service

通常型即時全世界攻撃手段と長距離弾道ミサイルに関する議会調査局報告書(2014年8月)

要約

通常弾頭即時全世界攻撃兵器 conventional prompt global strike (CPGS) により合衆国は地球上いかなる地点も一時間以内に攻撃する能力を手に入れる。紛争が発生しても初期段階から高価値の目標や急速移動中の目標を攻撃する能力を有すれば敵に対する抑止力・破壊力につながる。議会は即時全世界攻撃をおおむね支援してきたが、予算に制約を課し、CPGSが核兵器の代替ではなく合衆国保有の通常兵器能力の補完とするとことを条件に予算変更を加えてきた。CPGSは「すきま」能力であるが、ごく少数の同兵器を選択した重要目標にあてることができる。


ただし敵国が通常弾頭ミサイル発射を誤解し、核兵器搭載とみる可能性を指摘する専門家がいる。国防総省では長距離攻撃能力を実現するシステム数種を検討中である。空軍と海軍はともにそれぞれが運用中の長距離弾道ミサイルに通常弾頭を搭載する案を検討中である。

海軍はトライデントII潜水艦発射弾道ミサイルに通常弾頭を搭載しようとしてきた。2008年度に議会はこの予算を却下したが、海軍はその後も中距離弾道弾で即時攻撃の検討を続けている。

空軍は国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)とともに国超音速滑空搬送機の開発中で、同機は改造したピースキーパー陸上配備弾道ミサイルに搭載する通常型打撃ミサイルconventional strike missile (CSM)と呼ばれる。議会は2008年度にCPGSミッションの研究開発支援予算を創設しており、2014年度の計上額は65.4百万ドルである。オバマ政権は2015年度分として70.7百万ドルを要求している。


CPGS予算要求の審議では国防総省に対して同事業の意義を再度尋ね、合衆国が紛争開始直後あるいは途中で目標を即座に攻撃する必要があるのかを問いただす可能性がある。また前線配備陸上あるいは海上兵力があるのにさらに配備の必要があるのかも問われよう。議会ではこの兵器が実現した場合に核兵器への依存度が下がるのか、合衆国の攻撃が誤解され核の使用につながらないかも併せて検討されるだろう。後者では合衆国のPGS兵器発射を探知した国が弾頭が核非核の区別ができないことがリスクになるといわれる。

議会からはこの問題の可能性をすでに提起しており、空軍により極超音速搬送システムを改造した弾道ミサイルに搭載する開発の進展を期待する専門家がいる。これは通常型攻撃ミサイルconventional strike missile (CSM) として知られる構想で、HTV-2と呼称される極超音速飛翔体だが、テストはまだ成功していない。

それに代わる滑空機はAHWとして知られ、海上配備ミサイルに搭載されるだろう。議会はその他のCPGSを実現する手段も検討する予定で、爆撃機、巡航ミサイル、スクラムジェットあるいはその他高度技術を取り上げるだろう。打ち上げ後滑空するシステムで搭載する弾頭は2010年の新START条約では制限されない。それは新規の攻撃手段となるため。ただし既存型式で大気圏再突入する飛翔体を既存型式の弾道ミサイルに搭載すれば同条約に違反することになる。




コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...