西側との対決姿勢を示すロシアが軍事装備の拡充を図っているのは周知のとおりですが、伝統的な長距離航空戦力でも進展が生まれつつあるようです。中国はもっと秘密のベールに覆われていますが、空母と合わせ長距離爆撃機の開発を進めているのは間違いないようです。これに対し米空軍のLRS-Bが本当に開発できるのか、F-35で相当計画が狂っている各国の防空体制が中ロの新型機に対抗できるのか、今行われている投資が2020年代意向の航空戦力図を決定することになるのでしょうね。
Future Bombers Under Study In China And Russia
China may follow Russia in bomber developments
Sep 18, 2014Bill Sweetman and Richard D. Fisher | Aviation Week & Space Technology
Long-Range Plans
ラドゥガKh-101/-102ALCMは全長が大きく、Tu-95の爆弾倉に入りきらず主翼下パイロンに装着する。
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米空軍の長距離打撃爆撃機(LRS-B)開発が来年にも本格実施を目指す中、ロシア、中国も次期爆撃機を開発中。このうちロシアのPAK-DA(perspektivnyi aviatsionnyi kompleks dal’ney aviatsii、次期長距離航空システム)は1977年のツボレフTu-160以来となる新型爆撃機、他方、中国は初の国産爆撃機の実現を狙う。
- PAK-DAはユナイテッドエアクラフトUnited Aircraft Corp. (UAC) 傘下のツボレフが開発にあたる。ツボレフは第二次世界大戦終結後のロシア長距離爆撃機のほぼすべてを手がけてきた。開発の正式決定は2007年。新型爆撃機が登場するまで既存機種の改修が進められる。
- 亜音速全翼機あるいはブレンデッドウィング形式の機体にステルス性能を加えた案が2012年初頭に提出されている。実現すればロシア初の全方位高性能ステルス機となり、1997年就役のB-2と同等の基本性能を手に入れることになる。
- PAK-DA製造の最終決定は昨年末で、作業開始は2014年。UACにPAK-DAの設計、製造契約が交付され初飛行は2019年を予定。最終組み立てはUACのカザン Kazan 工場。2023年までに公試を終え、2023年から25年の間に就役、とロシア報道が伝える。エンジンはユナイテッドエンジンUnited Engine CorpのJSCクズネツォフ部門JSC KuznetsovがTu-160搭載のNK-32アフターバーナー付きターボファンを原型に開発する。
- それ以上のPAK-DA情報はほとんどないが、ロシア爆撃機部隊の構成やミッション内容から推測は可能だ。
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- 現有の長距離爆撃機部隊はTu-160(13機)、Tu-95MS(63機))と減衰中のTu-22Mバックファイヤーで構成。このうちTu-22M3は戦域レベルの陸上攻撃任務で小型だが使い勝手の良いスホイSu-34に切り替え中。
- Tu-160近代化改修を2020年までに完了しTu-160Mになるとロシア国防省が2012年に発表。Tu-95も改修を受けてTu-95MSM名称に変更している。ともに大規模な改修で新型レーダーや電子戦装備、計器・データ処理で改良を受けた。機体寿命の延長、エンジンの寿命も長くなった。2010年試算で80億ルーブル(220百万ドル)を2020年まで投入する。NK-32エンジンは2016年までに完成し、PAK-DAのエンジンの基礎となる。
- 両型とも長距離空中発射巡航ミサイル(ALCM)を搭載する。ロシアは二型式のALCMを開発中でタクティカルミサイル企業Tactical Missiles Corp.のラドゥガ事業部Raduga divisionが一手にとりくんでいる。このうちKh-555は通常弾頭だが80年代のKh-55核弾頭を改良し、慣性誘導、レーダー地形参照誘導、赤外線誘導を組み合わせる。
- これに対し新型で大型のKh-101/102(通常弾頭/核弾頭型)の生産が本格化しており、Tu-160は機体内部に12発、Tu-95MSは主翼下に計8発搭載する。ALCMでは最大で発射時重量は 5,300 lb.と推定。ターボファン動力であるのはKh-55と共通。ロシアの長距離巡航ミサイル在庫は850発。
- PAK-DA登場後も改修済み旧型爆撃機は10年ないし15年使用される見込みだ。一方PAK-DAは敵地侵攻任務に投入されるだろう。
- 新型爆撃機のエンジンをNK-32原型に開発するとの発表があったこと、ロシア爆撃機は空中給油への依存度が米国より低いことから、機体寸法は大型と推測できる。NK-32は3軸・低バイパス比エンジンでミリタリー推力は31,000-lb、アフターバーナー使用時55,000-lb.。PAK-DA用はアフターバーナーを省き、バイパス比をわずかに上げる。エンジン4発だと重量200トンとなり、B-2およびLRS-Bの推定寸法を上回り兵装搭載量と航続距離が大きくなるだろう。
- これに対して中国も新型爆撃機を開発中と伝えられている。人民解放軍空軍 (Plaaf) と海軍航空隊(PLAN-AF)が今でもソ連時代のTu-16を使用し続けているため中国は世界クラスの戦略爆撃機の製造に真剣でないと思われがちだ。Tu-16は中国には1959年から導入され西安航空機 Xian Aircraft Corp. (XAC) が轟炸六型(爆撃機6型、H-6)として製造。ただし改良を加えつつ製造継続していることから長距離空軍力への中国の関心度が推し量られる。
- 中国政府、人民解放軍(PLA)双方も今後の爆撃機開発について何も語っていないが、漏れ伝わる情報を総合すると新型爆撃機が開発中なのは明らかだ。H-20の名称で2025年までに登場するとのアジア某国政府の情報もある。
- H-20の登場時期は中国が目指す二つの戦略目標と一貫性がある。まず「第一列島線」と呼ぶ日本、台湾、フィリピンを結ぶ線に米国が接近するのを拒否する役目が新型爆撃機に期待できる。二番目に兵力投射の手段となり、中国空母部隊を補完し揚陸能力を整備する海軍を助ける事になる。
- これまでも次世代爆撃機の噂は非公式な筋から流れていたが、ノースロップ・グラマンB-2がベルグラードで中国大使館を誤爆した1999年5月が開発開始の契機といわれる。中国がB-2情報をノースロップ・グラマン技術者ノシル・ゴワディア Noshir Gowadia からどれだけ入手したか不明だ。ゴワディアは2011年に軍事機密を中国に渡した罪で刑期32年の有罪判決を受けた。
- この新型爆撃機でも西安航空機が主契約企業となっる可能性が高い。ロシア、米国の新型機と同様にH-20も亜音速低探知性の「全翼機」形状となるだろう。
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- 興味深い情報が人民解放軍の研究部門から出ている。中国報道ではPlaafのWu Guohui大佐(国防大学National Defense University 准教授)がステルス爆撃機が「国家の関心を再度呼び起こし」て「中国は爆撃機が弱体だったが今後は長距離打撃機開発をめざす」と発言しているのだ。
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- また同大学の准教授Fu Guangwenは2013年に中国の爆撃機開発の障害はエンジン、素材だという。一方で、新型機は第二列島線のグアム、南シナ海、インドを標的にし、ステルス性で侵入が容易になり、「情報対決」つまりサイバー電子戦に対応し、核・非核両用対応、と発言している。
- 新型爆撃機の設計は2008年に開始ずみとの報道が2014年1月にSina.comから出ている。報道では機体は全翼機形式で米西海岸が攻撃目標になる。
- 2013年にB-2に酷似した想像図が中国の技術報に出ている。2014年初めにはコウモリの翼形状のラジコン機がテストされている場面が流出している。中国が次世代軍用機の形式を真剣に検討中なのは明らかで、情報漏出は意図的な国内、海外向けだろう。
- このうち上記のラジコン機は長距離無人航空機 (UCAV) の想定かもしれず、中国が長距離無人攻撃機を開発している可能性を示す。メディアが大々的に全翼機「利剣」LiJian(瀋陽航空機 南昌Hongdu航空機共同開発)のデビューを2013年11月に報じている。ボーイングX-45Cと形状、寸法が酷似した利剣は両社から今後登場する大型UCAVの魁だろう。ロシア、米国に追随し西安航空機がH-20の無人機版を開発する可能性もある。
- また中国は超音速中距離爆撃機にも関心を示しているのが2013年に低視認性双発形状のモデル機が登場したことでうかがえる。実現すれば全長25メートルから30メートルで1950年代のコンヴェアB-58(西側では最大規模の超音速爆撃機)とほぼ同寸。しかし開発が進行中なのか不明で、過去の競作で不採択案なのか、予算がつかなかった案件なのか不詳。
- PAK-DAは合衆国内地点を目標とする戦略的野心作だが、中国の新型機が同様の想定とは考えにくい。とはいえ、長距離飛行し生存可能性高い機体で大量のミサイル搭載により中国の近隣地区の敵陸上基地や海軍部隊には大きな脅威になる。超音速ステルス戦闘機J-20の存在も考慮する必要がある。
- 一方でPLAはH-6新型の開発と既存各型改修も進めている。ロシアからTu-22M3購入を断られて、H-6の大幅改修に迫られた背景がある。
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- H-6Kはロシアが提供した推力26,500-lb.のUEC-サトゥルンD-30KP-2ターボファンを搭載し、1950年代のターボジェットから3割近く出力が増えている一方、高バイパス比 (2.24:1) で燃料消費効率が向上。戦闘行動半径は3,500 km と言われる。機首に新型レドームとし、電子光学式目標捕捉センサーを搭載。グラスコックピットに改装し、主翼下のパイロン6つは射程1,500-2,000-kmのCJ-10/KD-20 対地攻撃巡航ミサイルを搭載する。また精密誘導爆弾も中国国内企業4社が製造中で運用可能だ。
- 旧型H-6も改修中。空軍のH-6G三個連隊には新型超音速ラムジェット式YJ-12対艦ミサイルの配備が始まる。射程400 kmとみられる。さらに旧式のH-6MもCJ-10/KD-20 対地巡航ミサイル運用能力を付加されている。先出のアジア某国政府筋によるとPLAにはH-6が130機配備されているが、2020年には180機になるという。つまりH-6Kの生産が今後も続くということだ。
- PLA戦略爆撃部隊の将来は空中給油能力の整備に大きく左右される。今年3月から4月にかけてPlaafはイリューシンIl-76MD三機を取得してウクライナでIl-78給油機に改修している。各機には給油用ロシア製ドローグ・ホースシステム3組があり、旧式H-6U給油機(推定24機)は1組搭載で搭載燃料重量も小さいことから大きな進展になる。
- 将来は西安Y-20大型輸送機を改造した給油機も登場するだろう。ロシアとの間でワイドボディ輸送機開発の話もあり、この改装版になるかもしれない。
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- ただし今後の大型機へ対応するには給油効率を上げる必要があり、中国もフライングブーム給油方式の採用を検討するはずだ。2013年の学会発表として西工大 Northwest Polytechnical Universit yから北斗 Beidou 航法衛星の発信信号に光学システムを組み合わせホース・ドローグあるいはフライングブーム式の空中給油を自動制御する方法が提案されている。■
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