スキップしてメイン コンテンツに移動

★T-X競合の最新状況:ボーイングは受注失敗で勝つことになるのか



要はメーカーとしての旨味のない契約になるのなら最初から参入しないということでしょう。まだ残る各社も受注してもあとが大変と見ているかもしれません。これでは要求どおりの機体が実現しないではないでしょうか。どこか間違っていますね。まず、米空軍の要求内容が米国でしか通用しない、世界市場を意識していないこと。これは純粋のアメリカ製自動車にも通じますね。次に練習機、軽戦闘機、軽攻撃機、ISR機のわくぐみにとらわれない低価格、低運行費用をめざしグローバルに需要を喚起できる機体を想定していないのが問題ではないでしょうか。それをボーイングだけに期待できるかと言われば株主の手前、無理でしょう。したがってT-Xはだれも幸せにならない事業になりそうです。

Aviation Week & Space Technology

Opinion: T-X Is Lockheed’s To Lose, And Boeing’s To Win

Feb 14, 2017 Richard Aboulafia | Aviation Week & Space Technology


  1. 米空軍のT-X練習機受注を巡る競争でノースロップ・グラマンが完全新型試作機まで作りながら参入しないと先月に社内決定した。レイセオンレオナルドのM-346原型のT-100で競合する予定だったが共同事業から降りてしまい、レオナルドは単独で非米国企業として参入するとみられる。
  2. 1月1日には4社が競う形だったのに今や二社が残るのみだ。ロッキード・マーティン韓国航空宇宙工業(KAI)のT-50Aを、ボーイングSAABと共同で完全新型設計で臨む。シエラ・ネヴァダが加わるかもしれない。ボーイングとロッキード・マーティンで事情が異なる。
  3. 脱落組には理由がある。T-Xの提案要求(RFP)最終版は昨年12月に発表されたが、基本的に価格競争になり、KC-X給油機競合の際と大差ない構造だ。RFPでは性能が優れていれば価格調整が可能となっているが、最大でも400百万ドルしかなく、総額160億ドル以上といわれる契約規模に比してきわめて少額だ。整備費で改善効果があるといっても評価されにくい。ライフサイクルコストの最大値が明記されているが、それを下回っても評価されない。
  4. T-Xでは開発費が超過してもある程度までは契約企業の自己負担となる。KC-Xがこの方式を採用して結果はボーイングはKC-46で15億ドルの損失を計上している。
  5. この条件で受注を狙う企業は既存機種を使うか、戦略的な選択を迫られる。ロッキード・マーティンは前者で、ボーイングは後者だ。ノースロップ・グラマンは新型機を持ち出し、一方でB-21の重要な契約を抱えながrそのどちらでもなかった。レイセオンはホーカー・ビーチクラフトを10年以上前に吸収合併したものの新型機は製造しておらず、レオナルドの既存機M-346で参入を目論んだが、入札は無理と判断した。
  6. T-50とボーイングT-Xは優秀な機体になるが、性能上での差がつけにくい。RFP内容からは特にそうなる。両機種はGEのF404エンジンで共通し、ともに他の候補機に比べ性能上の差別化はむずかしい。ロッキード・KAI連合の優位性は開発費をまるまる入札価格に入れなくて良い点だ。T-50は既存機種でリスク関連での価格調整の恐れが少ない。
  7. ボーイングの場合は完全新型機の開発費用をどこまで償却できるかで決まり、需要がどこまで期待できるかが肝心な点となる。経常外費用はSaabと分担するはずだが、Saabもある程度の裁量はほしいだろう。
  8. 開発費用を15億ドルとすると、また調達規模が350機だとすると、一機あたり4.3百万ドルの追加費用に相当する。T-Xの機体単価自体は20百万ドル未満と見られ、この追加分は相当の規模となる。RFPで想定するリスク調整の糊代が小さいことが気になる。だがボーイングが総需要を1,000機と想定すれば超過分は1.5百万ドルの範囲に収まり、管理可能だ。
  9. 問題は1,000機需要が想定にすぎないことだ。ボーイングは機体をT-X事業に最適化しており、超音速高等練習機の世界需要は小さい。軽戦闘機の需要はたしかにあるが、機体構造と練習機としての特徴からボーイングT-Xが軽戦闘機として有効に機能できるか不明だ。T-50もFA-50軽戦闘機としての採用実績があるものの、需要が小さいことに苦労している。ボーイングがT-X650機を世界各地で販売できるかといわれればきわめて困難だろう。
  10. したがってボーイングに大きな疑問がついてまわる。同社が本当に米空軍契約の受注をめざすつもりなら、コストを非現実的な規模の機数に広く織り込む必要があり、将来的には欠損も覚悟しないといけない。これをしない場青、ロッキード=KAI連合が受注することになるが、同連合も相当の価格提示をしてくるはずだ。そうなるとロッキードが受注して損を覚悟し、ボーイングは受注しないことで勝つことになる。
  11. 米空軍の立場で見れば、T-XのRFPチームは当初の有力4社をすでに二社に絞り込んで着々と仕事をこなしている形だが、それでも残る二社による競合が期待できる。空軍は予想より見返りが少なくなりそうな案件の交渉を進めることになりそうだ。■
Contributing columnist Richard Aboulafia is vice president of analysis at Teal Group. He is based in Washington.
The views expressed are not necessarily those of Aviation Week. ​



コメント

  1. 記事の内容はとても共感できた。
    軍事予算(特にトランプ政権下で予算が厳しくなりそうな空軍)に対する圧力が増す一方、調達機器は高性能化し単価が高くなり、更に調達数が減って行く悪循環下では国際市場を意識せざるを得ない。

    が、記事への本ページのコメントである「国際市場を見据えた機体を想定(勝手に要約してます」という言い分は記事の真意を得ていないかもしれない。

    記事の内容と最も反する部分が本件において国際市場自体が大きくないという指摘についてだ。

    T-50は練習機のみならず途上国向けの軽攻撃機的な性格(正確にはFA-50)を売りにしている。
    生産数は予定では138機程度を見込む。
    一見輸出も視野に入れた意欲的かつ合理的な機体に見えるが実際の数字は違う。
    138機の内、実際にT-50シリーズ(FA-50含む)が韓国以外で獲得した契約機数は4カ国で56機。

    この数字を4カ国への輸出数を生産予定数比で見るのは間違いだ。
    なぜならこれは全て「国際市場の需要の数値」なのだ。

    つまり米国を主観にした場合、1000機近い国内需要に対して主要生産国である韓国を含めても5カ国で140機に満たない機数しか需要がないといこと。
    しかも文中で指摘されている通り、単価は非常に安く(※ただし練習機としては高価)利益が少ない事業だ。
    オマケに搭載される電子機器類の都合により米国議会の承認が得られる国にしか売ることが出来ない。

    国際市場で幅広く売り出すことを想定してまでアメリカ空軍が要求水準を下げるにはいささか材料不足と言わざるを得ない。
    もっと言えば、調達コストが下がることもない。
    (国際市場を見据えたと評されるT-50が高コストである点がそれを証明している)

    改めて書くが、本記事の指摘は正しいと感じる。
    水準を下げることで現状より調達コストが下がるという根拠が見当たらないならば、当然残るのは開発費の自社負担額による損失リスクと、調達数の減数という事業的なリスクだけだ。

    その上で、国際的な需要自体が小さい事業に対して何を根拠に参加するのか。
    これを解決できそうなのはトランプ大統領の「アメリカで使うものはアメリカで作る」という姿勢に協力することで、次の事業へ参加しやすくするという政治的判断くらいではなかろうか?

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...