スキップしてメイン コンテンツに移動

危機状態だからこそ朝鮮半島の今後を考える



今回の危機をどう見るかで戦略思考の有無、思考の時間軸の長さが露呈します。いたずらに危機を煽り立てる安っぽいジャーナリズムはごめんですが、50年100年先をデザインする能力が今圧倒的に欠けていることを痛感しています。フィンランド化は中国の思う壺ということですね。

The National Interest

How to Make the Korea Problem Worse: Unification

Worst fears realized: a unification in which neither North or South Korea has a vote.

北朝鮮問題よりは統一後が厄介 南北いずれも主導権を発揮できない朝鮮半島統一になりそうだ


April 13, 2017

  1. 朝鮮人は何世紀も大国の陰で暮らしてきた。周辺国に自らの運命が決められるのは恐ろしいことだ。19世紀末に日露中の帝国主義の覇権争いで日本が朝鮮を併合し占領した。第二次大戦が終わると米ソが38度線をはさみ占領地を決定し今日まで朝鮮は分断されたままだ。
  2. 第六回目の核実験のおそれがある中で核問題は米中合同で解決に当たるべきとの提言があり、米韓軍事同盟を終わらせ朝鮮半島を「フィンランド化」するとの内容がロバート・ケリーの主張だ。ケリーの考えは「金一族が大混乱を巻き起こす前に解決の出口をみつけ」る点で今や沸騰寸前の北朝鮮問題を巡るトランプ政権内の外交政策論争にも満足の行く対応策と言えよう。
  3. 北朝鮮問題の解決策は長年答えが見つからない難問だ。1990年の南北合意、1994年の枠組み合意、2005年の合意さらにオバマ政権の2012年合意もあった。平壌は非核化の代償にエネルギーや経済援助を求めて、米朝国交正常化と平和条約締結の保証を求めてきた。毎回のごとく平壌は一度「イエス」と述べてから「ノー」と言える道を見つけてきた。
  4. 先制攻撃が公然と話題になっているが、これも別の出口解決だ。だが攻撃の前に政策決定当事者は一般では考えもしない方法もいとわないはずだ。北朝鮮を攻撃すれば韓国駐留米軍部隊や米国市民が犠牲になるリスクのほうが大きくなる。ソウルは北朝鮮火砲ミサイルの標的であり、実施されれば韓国首都地域は壊滅的被害を被る。
  5. 現在進行中の議論に我慢ができない気持ちは理解できる。北朝鮮は外交上の「忌まわしい問題」であり、現在の複雑な条件では解決は困難であり不可能だからだ。ウォーレン・クリストファー元国務長官はボスニアを「地獄の問題」と述べていたが北朝鮮では選べる選択肢が最悪しかない。現時点では解決策に抵抗もあるが、一部の問題は解決策が完成するまでも制御可能になるものの、こと北朝鮮に関してはその段階に達していない。
  6. そこでケリー提案による外交方針だが、中国が北朝鮮に蓋を閉める想定になっている。その代償はどれくらいになるか。ケリーは「世界最悪の管理独裁政権を一刻も早く終わらせる道義的な責務がある」とし「半島統一で韓国が文句を言っても」耳を塞ぐという。
  7. 米外交政策では道徳が常に重要な要素だが、実際には欠点を露呈している。もし中国が食料、燃料の供給を止めれば、金正恩が黙ったままでいるだろうか。東ドイツと同様にソウル主導の統一が実現するだろうか。北のミサイルはどの方向にも発射できる。北朝鮮は40年かけて大量破壊兵器の実用化を進めて金一族の存続を図ってきた。黙ったままで居るはずがない。
  8. ケリー構想のもう一つの問題は米韓同盟の解体でこれが実現すれば中国が朝鮮半島を我が物顔で支配するだろう。最悪の状況と言える。統一しても北も南も主体性を発揮できない。韓国が同盟国であり強い民主主義態勢を勝ち取った国だからこそ朝鮮半島の将来に意見を反映させる必要があるとの見方は道義道徳からの観点である。
  9. 朝鮮が統一され非同盟国になれば中国が再び三千年の歴史を繰り返し表に躍り出る。韓国の教科書では中国の朝鮮侵攻が900回あったと教えている。もっとわるいのが米韓同盟廃棄により中国支配下の「フィンランド化」が出現することだ。その場合、米国が果たしてきたアジア等の平和の守り手という立場に朝鮮半島から波及効果が出るだろう。アジアでの同盟関係崩壊は中国が長年模索している目標でもある。
  10. 金大中大統領は2000年6月の平壌サミットのあと、朝鮮半島の戦略的位置にふれ、統一後も同盟関係を残すとしていた。理由を尋ねられ、大統領はこう答えた。「北には巨大な大陸国家がありその地理条件は変えられない。東には海洋大国がありやはり動かない。米国は大国で強力だがいかんせん遠すぎる」
  11. ケリーはこのような取り決めが実現した際の日本の反応を見落としている。日本からすれば北朝鮮消滅は安心材料だが、同盟国である日本の頭ごなしで合意が成立すれば不信感を持つはずだ。また日本は覇権主義の中国と共存できないと堅く信じ、米国のアジアでの立場や同盟関係は一気に過去の存在になってしまう。
  12. 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル開発に成功すれば抑止態勢が崩れケリーがいうような代償を払わされるのだろうか。平壌の唯一の美点は自殺攻撃は考えていないことだ。北は聖戦主義ではない。ジェイムズ・マティス国防長官も米国に大量破壊兵器を使えb、米国とその同盟国は一緒に「圧倒的かつ効果的な」対応をすると明言している。
  13. 北朝鮮がICBMを保有すると考えると気分が悪くなり、かつ危険な状況だが、(北が本当に実用化するまでには4、5年かかる)それで抑止態勢が劣化するとは認めたくない。平壌はスカッドやノドンミサイルの射程を延長して韓国や日本国内の米軍基地を核攻撃できる実力があることを忘れてはならない。北朝鮮がICBMを持てば「世界の終わり」とヒステリックな反応が出ているが1964年当時の論争を思い起こさせるものがある。当時は毛沢東が常軌を逸し核兵器取得に奔走していたがその後われわれはその態勢のもとで生活を送っている。
  14. では北朝鮮問題でわれわれはどうなるのか。オバマの「戦略的忍耐」政策は失策と言われている。欠点の一つがアメリカが全面的な制裁措置をイランで実施したのに北朝鮮にはとらなかったことがある。そこで意味のある次の策は二次制裁措置を実行に移すことだ。(中国の銀行やフロント企業への制裁を含む)これで北朝鮮の国際金融制度へのアクセスを完全に絶ち、ハードカレンシーを枯渇させる。平壌はインフォーマルな現金経済で生き残っているに過ぎない。金正恩一族は贅沢品を手に入れている。そこで現金がなくなればどうなるか。防衛体制強化を組合せ、プーチン流のサイバー攻撃、フェイクニュース(暗殺準備が進んでいる、金正恩は性的不能者だ、など)をその他有効策と合わせ実施すればトランプ政権の北朝鮮政策としてはかなりのものになると思うがどうだろうか。■
Robert A Manning is a Senior Fellow at the Atlantic Council and its Foresight, Strategy and Risks Initiative. James J. Przystup is a Senior Fellow at the Institute for National Strategic Studies at the National Defense University. The views represented in this article are theirs alone and do not represent the views or policies of the Atlantic Council or the National Defense University.

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...