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★日本の空母保有の是非を冷静に考えよう

今回の論文の筆者はRAND で日本の安全保障、海洋安全保障を専門とする研究員です。いずもを空母にしても費用対効果が薄い、というのが筆者の主張ですが、空母保有を主張する方には神経を逆なでする内容かもしれませんが、非常にバランスの取れた分析であると感じました。これまで無人機分野をないがしろにしてきたつけを払わなくてはいけません。MQ-25には今後日本からも注目が集まるでしょう。なお、当ブログでは海上自衛隊の護衛艦は駆逐艦としています。理由はDDとdestroyerであるためです。黒は黒、白は白という考え方ですのでご容赦ください。

Does Japan Need an Aircraft Carrier? 

日本に空母は本当に必要なのか

Japan's Izumo helicopter carrier, pierside at Yokosuka naval port in Toyko, Japan, in May 2015.
OCTOBER 5, 2018


1983年、中曽根康弘首相はロナルド・レーガン大統領に日本を「不沈空母」にすると約した。ただし日本は空母を70年超も保有していない。だがこれも間もなく変わる。日本政府は保有する駆逐艦の空母改装案を検討中だ。憲法違反になるのかという議論はさておき、実現すれば日本に大きな負担になるの必至だ。


日本は空母運用では世界の先端国だった。だが敗戦で日本の空母は姿を消し、平和主義と憲法の制約の中で日本は空母を「攻撃」兵器とみなし保有を断念してきた。


自衛隊が1954年生まれたが、海上部隊の海上自衛隊(mSDF)は帝国海軍の艦艇に匹敵する規模の建艦を行っている。最新のヘリコプター駆逐艦である24千トンのいずも級は戦後最大の日本艦艇となった。全長248メートルの上部甲板、艦橋、昇降機付き格納庫のため一見空母に見えるが、イタリアのジュセッペ・ガリバルディより大きく、スペインの新造フアン・カルロスを全長で上回る。


二隻あるいずも級は対潜戦を念頭に建造され、搭載航空兵力はヘリコプター14機だ。だが同時に指揮統制艦としても理想的であり、人命救難や災害救難支援任務に使え、V-22オスプレイの運用能力があるので強襲揚陸艦にもなる。いずも級一番艦が就役した2013年からいつの日にか空母に改装されると噂されてきた。


噂が現実になろうとしている。防衛省は国防大綱と中期防衛計画を共に改訂中で、日本の長期防衛体制とならび今後五カ年の具体的行動を決める。その過程で漏れ伝わる内容から噂は本当だったとわかった。F-35B導入の可否を政府は検討中だ。さらに、いずも級改装でF-35B運用が可能かも検討している。5月には与党自民党が「多機能空母」導入を大綱の一部に盛り込むよう要求した。


日本では新装備は必ず憲法問題に直面する。憲法が「戦争の可能性」を有する装備を禁じているためだ。このため歴代の政府は自衛に「最小限必要」なレベルを超えた装備の保有をしてこなかった。日本が空母取得を選択した場合、たちまち批判の嵐が赤旗とともに巻き起こり防衛政策の急展開を企んだ層への糾弾がはじまるだろう。


だが中国の挑発にさらされる各国同様に日本でも国防の最善策を追求した上で国防の優先順位を決める必要がある。とくに中国の準軍事組織所属が頻繁に尖閣諸島に侵入し日本の実効支配を弱体化させようとするグレイゾーンで抑止策が必要だ。南西諸島では中国航空機の活動も増えており、日本側はスクランブルで中国の戦闘機、爆撃機を相手にしている。中国軍は増加の一途だが小規模の日本部隊にとって時間は有利に働いていない。このことも空母論議に影響している。


憲法問題は別として日本が空母を保有した場合、安全保障上の要点は以下の二つに絞られる。


作戦面


尖閣諸島はその他南西島しょ部同様に中国の挑発行為に弱く、特に自衛隊部隊の配備から遠距離にあるのが問題だ。一番近い航空自衛隊基地は沖縄本島で第9航空団がある。中国が尖閣諸島上空に大規模展開した場合、第9航空団が最初の標的となる。航空自衛隊の機材はさらに遠い九州、本州にあるが空中給油機がないと防空の役目が果たせない。空母があればこの弱点を減らせる。防空上のギャップを減らし、攻撃に弱い陸上基地のカバーができるからだ。このため空母保有に意味があり、防空範囲を拡大し、一定の回復力も実現する。日米同盟の作戦価値を高める役目も担うだろう。


資源


いずも級を空母に転用するとF-35Bは10機程度搭載できるとみられる。改装経費は5億ドル程度と見られるが別途F-35Bの10機程度調達に14億ドルが必要だ。つまりいずも級二隻にF-35Bを各10機搭載すれば40億ドルが必要となる。2019年度の防衛予算要求が480億ドルであるので改装、調達経費だけで総予算の8パーセントが必要となる。F-35B用の移動飛行基地を実現すると相当の予算圧迫となる。また艦と機材のライフサイクル経費も考慮する必要がある。あわせると他の装備を犠牲にしてしまい、自衛隊の戦力水準で危険な事態を招き兼ねない。こうした資源面の懸念は人員にも及ぶ。日本の人口が減少する方向の中、人員を大量に必要とするとなれば今でも人員不足の自衛隊で大変な事態となる。


そうなると結論は


作戦上の要求と資源面での制約を考えると日本が空母を保有することに意味があるのだろうか。資源面の圧力のため、日本防衛では島しょ部の防衛強化と奪還用の揚陸部隊整備に重点投資するのが効率が高い。自衛隊三軍の統合運営司令部を確立するのも中国の野望に対抗する上で自衛隊の実効性を高める結果につながる。


航空優勢を重要視するのであれば航空自衛隊に無人給油機を導入するのが有効だろう。尖閣諸島付近の無人島にこうした機材を展開すれば、日本の弱みを補強するプレゼンスとなるばかりか、安価で投入人員も少ない運用となり日本の広い領土に適度な部隊分散が実現する。


しかし現在の日本に無人機での航空優勢確立に必要な技術が欠けている。この技術整備に向かう決定をすれば相当の投資が必要で実現に長い年数が必要となる。このため、いずも級改装は短期解決手段に写る。ただしその負担はばかにならない。防衛予算で数年度にわたり相当の部分が使えなくなる一方、人員面でも負担増となる。仮にこの能力が実現したとしてもF-35Bが20機で大規模な中国空軍力への航空優勢が実現するのかという大きな問題もある。

現在の日本は中国の脅威の高まりに直面しており、空母があれば航空優勢ミッションが成功する可能性が高まる。だが空母取得は極めて高額の支出となりその他の選択肢から予算等資源を奪うことになる。日本は決断を迫られており、時間はなくなりつつある。■

コメント

  1. 予算・人員に関する指摘は肯定出来ますが、自分は今後F-35+SM-6による超水平線迎撃能力は必須になると予想しており記事中にある既存の概念の空母運用そのものを否定します。
    既存の艦載航空戦力であれば「たった10機で何が出来るのか」となるのは必然でしょうが、F-35を『発見され難く自衛戦闘能力を持ち超音速で離脱する能力を有する前進センサー』と考えるならばほんの数機で必要十分。
    前衛のF-35からもたらされる情報により艦隊の交戦可能圏は大幅に拡大し、記事にある「大規模な中国空軍力への航空優勢が実現」可能になります。
    問題はやはり予算と人的リソースで、現実的な解決策は空自にB型を導入してそれを派遣するという形になるのではと予想します。
    計画中の多目的輸送艦を含め洋上での補給拠点が使用出来ることは空自にとってもメリットでしょう。

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  2. 日本の空母保有は、憲法問題を抜きにして、航空勢力に縦深を与えることに価値があります。沖縄、及び本土に損害があった場合、一時期にせよ南西諸島の制空権を完全に奪われないことが肝心です。

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  3. 例え8機程度でも艦載運用できるのは大きい。
    小さいが敵基地攻撃能力を持てる。
    攻撃能力があるから、中国はその防衛に大きな戦力を向けなければならない。
    それが抑止力にもなる。
    戦略原潜の海南島防衛や、基地、重要施設、重要な橋等の防衛に神経をとがらせなればならない。
    現状では日本から攻撃を受ける心配が少ないので、やろうと思えばやりたい放題でしょう。

    優秀なステルスF-35B戦闘機を艦載できるのが大きい。
    もちろん艦隊防空にも使える。
    敵基地のステルス偵察にも有効。

    いずも型もさることながら、
    多目的空母2~3隻程度で本格運用を望みます。
    合計50機程度をF-35B配備願いたいですね。

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    1. B型はA型に比べて性能比で8割しかないのに価格は1.5倍です。コスパでは半分しかないのです。
      つまり50機程度のB型を入れるコストでA型は75機導入出来ますし、50機のB型と75機のA型では出来ることが倍も違うということですよ。
      B型など無駄な装備を入れるくらいならA型を増やす方がマシです。

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  4. いずも改装は無駄・無理・無謀だからやらない方がいい。
    いずも改装の理由がミサイルの目とするならば、そもそもミサイルの目は別にF-35Bに頼らなくてもE-2Dで賄えばいい。
    満載排水量がワスプの基準排水量レベルの容積がない船を空母にしたところで中途半端すぎて何も出来ない船が出来上がる。
    おまけに、改装して、艦載機パイロットの教育をして、離発着訓練できるレベルに育てて、かつそれで飛行隊作れる数まで教育して、とかやってたら、新しい船作れてる。
    いずも型をベースに排水量を拡大した航空母艦を研究するなら分かるけど、いずも型を改装するのは不合理。

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  5. 空母など必要ないし、お金の無駄遣いだ。陸自の水陸機動団編成などその典型
    通常攻撃側は3倍の戦力が必要で離島など一度取られたら自衛隊の戦力では奪回など無理
    日本の防衛費、人材(人員)などを考えれば空母より、長射程ミサイル、陸海空のコミニケション能力(情報共有など)、サイバー、宇宙などを優先すべき
    具体的にはE2DにCEC搭載、F15にAESAレーダー搭載、F35とF15、F2などとの通信能力の獲得(リンク16以外の探知されにくい方法)、陸海空に長射程ミサイル配備、サイバー防御の研究、偵察警戒衛星などお金や人材がいくらあっても足りない状態である
    海自は今でさえ人員が不足して定員不足で護衛艦を運用している
    もっと身の丈にあった防衛思想を取るべき

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    1. 離島盗られたら周り囲んで干乾しにするという戦法もあるんですよ。
      あと、奪回戦力があるのと米軍だのみだけだと、国内的にも国際的にも話変わりますし

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  6. F-35のEO-DASが弾道ミサイルの赤外線を追尾出来るって話があって、それはE-2Dにはないセンサーとして貴重なのは確か。
    ただそれはB型じゃなくてもA型で十分だし航続距離の面で考えればむしろA型の方が向いてる。
    常時監視することになるんだから。
    B型は航続距離はA型の8割しかないんだよ。

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  7. 記事中に『攻撃に弱い陸上基地のカバーができるからだ』とあるが。
    どう考えても空母の方が脆弱。
    仮に空港へミサイルが一発飛来し、滑走路に穴が開いても埋めたら済む話しだが。
    空母に着弾した場合、一発で行動不能に陥る可能性が高い。
    そもそも空母の防衛能力は随伴艦に依存するので、出撃の度に護衛艦を多数稼働させる事になる。
    尖閣諸島のみで言うなら、新石垣島空港や下地島空港の基地化の方が費用効果が高い。
    無論、反対運動により一朝一夕には進まないが、空母と艦載機を導入する方が遥かにハードルが高い。

    現状で空母が必須な状況は、海外紛争による船団護衛やシーレーン防衛くらいしか思い付かない。
    他にあるとしたら、国連要請による海外派兵くらいだと思う。

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