外交関係の断絶は戦争をするという意思表示で新年早々騒がしいことになってきました。原油価格の低下で一番苦しいのは大盤振る舞いの国家財政を維持してきたサウジアラビアであり、制裁解除で今年にも実現するというイラン原油の参入はこれ以上の価格低下を好まない同国にとっては見たくない事態なのでしょう。手を出すことはお互いに自生するのではないかと思いますが、原油価格は今のところ最低値に近い水準で張り付いたままで国際社会もこれで即座に需給が逼迫するとは見ていない証拠ですね。スンニ派シーア派といいいますが、サウジ、イラン両国でも両派は交じり合って暮らしているので簡単に区分できるものでもないと思いますが。
Analysis: Saudi Arabia, Iran and Middle East Brinksmanship
By: Cmdr. Daniel Dolan, USN (Retired)
January 4, 2016 1:16 PM • Updated: January 4, 2016 1:55 PM
この週末にサウジアラビアが著名な宗教指導者ニムル・アルニムルを処刑したことでイランはじめ世界各地のシーア派宗徒がサウジアラビアへ怒りをぶつけていることほどイスラム教宗派間の共存が難しいことを改めて示すものはない。
- アルニマル師はサウジアラビアのシーア少数派でサウジ現体制へ歯に衣着せぬ批判を繰り替えしていた。政権に暴力で手向かうよう扇動した罪で処刑された。
- 他の46名とともに断頭一斉処刑を行われたのは、急進思想タクフィンが理由で訴追されたもののはシーア派スンニ派双方にあった。イラン政府は以前からサウジ政府に著名な師の処刑は深刻な結果をもたらすと再考を求めていたが、警告を振りきった形のサウジが予定通り処刑をとりおこなったことで即座に反応が発生した。
- 在テヘランのサウジアラビア大使館が怒り狂う群衆に放火されたのは処刑数時間後のことで、4日には両国間の関係が険悪になり、双方が外交団の国外移動を求めている。シーア派が主流のイラク政府もサウジとの関係断絶をほのめかしている。
- 外交団追放および武力による脅かしは冷戦時の米ソを想起させる動きで、イスラム教の二大宗派間の不和は冷戦に匹敵する。スンニとシーア双方の教義上の対立はイスラムの価値観の根源から発生している。その両宗派の宗主たる存在がサウジアラビアとイランだ。両派の対立が代理戦争をレバノン、イエメン、シリア、イラクの各地で発生させている。
- 各地の紛争はもっと大規模で悲惨な結果をもたらす二大国間の戦闘を回避する役割もある。冷戦と同様に一つひとつの行動とその対応には思想上の意味があり、冷戦同様に偶発事故がエスカレートする危険がある。
- このような比較対照は世界各地で注視しているだろうが、興味をそそられるのは米政権が両派の対立から落ち穂拾いする可能性があることで、これは軽視できないし、無視するべきでもない。
- 米国の政策上の権益を考慮してジョン・ケリー国務長官はダーシュ(ISISI)のイラク・シリア内勢力との戦闘にサウジとイランが集中するよう求めている。先週もシーア派のイラク軍がダーシュが占拠していたラマディを奪還したが西側ではシーア派が中心のイラク陸軍がスンニ派が多数のラマディを解放するか関心を呼んでいた。ラマディでシーア派のイラク正規軍は外国軍隊以上に歓迎されない。穏健なスンニ派部隊を求める動きが出ている。ラマディを引き続き保持し再建できるか深刻な課題だ。
- スンニ派部隊に治安維持にあたらせラマディ再建を助けることが米政府の目下の課題だ。地域内の大国間でこれ以上の大規模対立が生まれればこの課題の実現は難しくなるはずだが、本当にそうなるだろうか。
- サウジアラビアの宿敵への制裁措置と軍事攻撃の警告が解除となりつつある中で、力のバランスが移動しつつある。サウジアラビアは明白なメッセージを送っているのであり、自国権益はあくまでも守るが、イランの警告や西側友邦国の外交上の求めには動じないというのだ。今回の断頭処刑で交渉が有利になるのか、世界各地のイスラム教徒に自国の教義上の優位性を訴えることになれば最良の結果となる。
- 逆にサウジがイランとの直接対決に踏み出せば最悪だ。歴史を見れば、相手方の国力増進を見て今こそ開戦すべきだと考える例が存在している。日本帝国が開戦を決意したのは1941年12月のことで、当時の日本は米国の造船台に新造艦多数があるのを知り回避できない戦争ならこれ以上敵国が強大になる前にたたくべきだと考えたのである。
- イランが段階的に核開発事業を解体していることで核兵器生産の発生を大幅に遅らせている。さらに世界各国の銀行が凍結イラン資金を解除すればイランの通常兵器購入に結びつくのは必至だ。サウジアラビアはこの状況を開戦時期ととらえているのだろうか。専門家の大部分はサウジアラビアとイランのエスカレーションは起こりえないと見ている。そうであれば安心だが、西側各国はこの地域で発生した直近の大国間戦争を覚えているはずだ。イラン・イラク戦争(1980年)とイラクのクウェート侵攻(1990年)で世界は驚かされた。
- サウジアラビアがアルニムル師を断頭処刑した動機がなんであれ、一つ確かなのはただでさえ不安定な地域で炎がかきたてられたことだ。これ以上燃え上がらないよう祈るばかりだ。■
原注 ドーラン中佐は戦略戦争論を海軍大学校の遠隔教育で教えるととtもにメイン大学で歴史学の非常勤教授を務める。EP-3E特殊用途機の飛行士官を以前勤めており、USNI NewsおよびProceedings誌にたびたび寄稿している。
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