インド太平洋軍の爆撃機連続プレゼンス作戦の一環でB-52が二機太平洋上空に展開した。Photo: A1C Gerald Willis
B-52の最終号機がラインオフしたのは1962年だった。米空軍は2050年まで同機を供用する。そのため空軍はB-52のエンジン換装で整備性にすぐれ運用効率を高くする改修をめざしている。
同時にB-52エンジン換装事業は契約交付の短縮化を図る最初の事例ともなる。これまで綿密に細部まで打ち合わせ、書類多数を作成し各候補を比較してきたが、今回は「デジタルフライオフ」でエンジン候補をコンピュータ・シミュレーションにかける。比較項目は燃料消費効率、整備面の必要条件、各種条件での性能に絞る。
「この事業で学ぶべき点は多い」と空軍の調達トップ、ウィリアム・ローパーが述べていた。「デジタルエンジニアリングは紙の上の検討より優れた評価方法となり、システムのシミュレーションで採択案に絞っていきたい」
ローパーによれば契約事務工程が合理化され、さらにデジタルフライオフの採用で当初の工期10年を3.5年短くできる。
USAFは現在のプラット&ホイットニーTF33エンジンの代替候補を2018年10月に検討開始していた。
「既存エンジン改修は最初から検討対象から外した」とグローバル打撃軍団(AFGSC)広報官がAir Force Magazineに語っている。プラット&ホイットニーは既存エンジン改修を売り込んで新技術で効率の改良が実現し、整備時間も短縮化でき新規エンジン採用よりコストが低くなると訴えていた。
ただし、「空軍は既存エンジンのこれ以上の使用は無理と判断ずみ」とし、今のエンジンでは90年の稼働は不可能と考えている。
エンジン換装事業には後年度国防事業制度を使い15億ドルを投じる。だが総費用は公表されていない。2017年3月時点では70億ドルとの試算があった。
B-52は当初J57エンジンを搭載していた。写真は1950年代末のオファットAFBでの整備の様子。1961年にTF-33エンジンが導入された。Photo: USAF/AFA Library
USAFが2018年に作成した「爆撃機ベクトル」案ではB-52の供用期間延長事業はエンジン換装他も含め220億ドルとしていた。検討案では削減効果を100億ドルとはじき、「燃料費、整備費、整備人件費を2040年代まで積算した」との記述が文書にある。
公式にはB-52民生エンジン交換事業(CERP)の名称がつき、空軍は産業界と意見交換をしてきた。目標は「民生用の既成製品で生産中のエンジンを選定すること」と電子調達サイトにある。
76機あるB-52各機のTF-33エンジン8基の交換となると合計608基(さらに予備エンジンが加わる)となる。現行の双発用ポッドに格納する。
空軍は燃料消費効率で25ないし30%向上を期待し、航続距離が40パーセント伸びると期待する。また温室効果ガスの発生も減らせると期待している。
燃費効率が3割伸びる効果は「莫大」とローパーは述べ、コスト面に加え、航続距離や現場滞空できる時間が伸びる効果は大きいという。
コンピュータモデルによりコスト、性能の相互関係を比較できるとローパーは期待する。「ある企業から燃費3割改善だが価格が高い提案が出てきても他社案で効率はそこまで良くないが低価格提示があれば、選択は興味深い作業となる」
B-52エンジン換装は2007年に浮上。当時は同機を戦域大の電子戦に投入する構想で、スタンドオフジャマー(SOJ)としてでスタンドオフ兵器の発射後に機体を現場に残し、広域ジャミングを行わせ、海軍のEA-6やEA-8の投入を不要にする構想だった。新エンジンは航続距離とともにジャミング装備用の発電容量の確保で必要とされた。だがSOJ構想は結局実現されなかった。
2014年末に民生エンジンに換装すれば整備時間と燃料費を節約できるとわかり、空軍参謀副議長だったスティーブン・ウィルソン中将、AFGSC司令のロビン・ランド大将からエンジンのリース案が出てきた。
空軍はB-52のエンジン8基を大型ターボファン4基にする検討もしたが、技術面で課題がわかった。フラップや制御面との干渉、地上高の確保等の他、フライトテストも大々的に行う必要があり、兵装運用テストも必要となり、コックピットやスロットルが大幅改修され、ラダーも再設計対象となる。そこで8基のまま大型ビジネスジェット用のエンジンを選ぶことになった。
現在のエンジンは信頼性でTF-33よりはるかに優れ、一回搭載されれば途中で取り替える必要はない。対象となる規模のエンジンでは重整備平均時間は30千時間近くで、B-52に残る耐用期間を上回っている。
ルイジアナ州バークスデイルAFBでB-52エンジンを点検中。January 2018. Photo: A1C Sydney Campbell
長期間供用中のB-52では任務実施率は高く、各種兵装を搭載し高い効果を実現している。ただし、敵側に高性能防空体制がない場合には。ハイエンド戦でもB-52は敵の防空圏外からミサイル発射すればよい。また同機は核巡航ミサイル運用が可能な唯一の爆撃機であり、長距離スタンドオフ(LRSO)ミサイルの搭載も当面同機に限られる。
B-1、B-2はそれぞれ22年、30年も若い機体だがB-52より先に廃止される。それには以下の理由があると爆撃機ベクトル研究がまとめた。
- B-52のミッション実行率は60パーセントだが、B-1、B-2ではそれぞれ40パーセント、35パーセントにとどまる。
- B-52の時間あたり運航経費は70千ドルだが、B-2はほぼ2倍になる。ただしB-52のエンジン換装前の数字だ。
- B-52Hは供用時間の大半を核運用の地上警戒待機ですごしており、機体構造は堅牢で数千時間の飛行が可能。
ただしB-52改修費用のすべてが予算化されていない。AFGSCでは上層部と予算折衝を続けている。
だがB-52は2050年でも飛行可能なのだろうか。機体表面や構造部品が50年経っても堅牢なことに驚くとAFGSCは言っており、エンジンとレーダーの更新があれば十分実用に耐えるという。
レーダー換装について「防御装備はいつも高性能にしておきたい」とし、その他エイビオニクスでも対応が必要だ。
B-52の改修作業は以前からあり、 Link 16 の搭載が完了しつつあり、CONECT「デジタルバックボーン」も完了に近づいている。VLF、AEHF通信装置も搭載され、機体内部兵装庫の改修は終わっているし、その他の改修予定もめどがついているという。
Sources: Rolls-Royce, Pratt & Whitney, and General Electric. Graphic by Mike Tsukamoto
エンジンの選択
製造メーカーで長年機体整備を支援してきたボーイングが新エンジン搭載作業をまとめるが、エンジン選択は空軍が行い、ボーイングは飛行性能や兵装搭載への影響で助言を与える。
プラット&ホイットニーは空軍がTF-33以外のエンジンで「最良の選択」は同社のPW815改修型という。ガルフストリームG600ビジネスジェットに搭載実績がある。
「当社は同機のエンジン、出力要求を知り尽くしており、他社の追随を許しません」と同社はAir Force Magazineに語っている。「当社の提案内容は推進力、燃料消費、発電容量の要求内容すべて実現可能です」
GEエイビエーションからはCF34-10と新型「パスポート」エンジンのニ案がある。最終要求内容から絞り込みたいという。.
「CF34の信頼性が実証済み」とし、26百万時間の稼働実績を誇る。パスポートでは「燃料効率、航続距離、滞空時間」で前例のない性能が実現するとする。USAFの要求内容を見て一形式にするという。
ロールスロイスはエンジン換装案の発表前から手を上げており、BR725(軍用型はF130)が理想的な選択肢になると2017年にはやくも売り込んでいた。同社はガ
ス排気を95パーセント削減しながらUSAFの求める航続距離と燃料消費効率が実現できると述べている。
F130はRQ-4グローバルホーク、E-11 BACN,新型コンパスコール機にも搭載されており、後者はガルフストリーム650の特殊作戦用機材で空軍が供用中だ。
噂とは裏腹に、空軍は性能のみでエンジン選定しないという。逆にコスト面で各種の比較検討で選定するという。問題は「どのくらいの頻度で主翼から外す必要があるのか。補給処に予備を置いておく必要があるのか」だという。
TF-33の補給処はオクラホマ州のティンカーAFBで同エンジンの整備保守経費はここ11年で急上昇している。■
この記事は以下を再構成したものです。
Jan. 21, 2019
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