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重武装機構想を巡り意見がまとまらない米空軍




palletized munitions exiting aircraft今年1月にユタ試験場でMC-130JからのCleaver弾薬投下実験は成功した。Credit: U.S. Air Force



空軍の短期優先事項として「重武装機」が急浮上しているが、機材選定で結論がまとまらず、このままだと指揮命令系統やノースロップ・グラマンB-21事業にも影響が出てくる恐れがある。

  • 空軍研究本部が新型Cleaver弾薬の実証実験に成功
  • 「重武装機」試作作業の予算を検討中

ロッキードC-130、ボーイングC-17の母機から新型長距離弾を発射する案を空軍戦闘統合能力実現事業 (AFWIC) 室が短期解決策として提示している。

一方、空軍グローバル打撃軍団 (AFGSC)はミッションに最適化させた新型機の開発を主張している。

空軍協会のシンクタンク、ミッチェル研究所はともに支持しない。このたびAviation Weekは公表前の同研究所による資料を入手した。次期航空宇宙コンセプト性能評価部長のマーク・ガンジンガー退役大佐が編纂し、費用対効果が一番高いのはB-21の調達増と主張している。

B-21の最低100機調達では長距離打撃手段が不足するとの見解で関係部署すべてが一致している。B-21はノースロップB-2(20機)とロックウェルB-1B(62機)と交代し、ボーイングB-52(75機)と併用する。

「爆撃機部隊の規模をどこまで拡大しても、統合軍が必要する規模に達しないことはわかっている」とクリントン・ハイノート少将(AFWIC
副司令)は述べている。

空軍最新の爆撃機必要機数は最低220機の推定とAFGSC司令官ティモシー・レイ大将は4月に報道陣に語っていた。

ミッチェル研究所による分析では空軍の爆撃機数はB-2とB-1B退役に伴い、2032年に120機程度まで縮小となる。

元爆撃機パイロットのガンジンガーはB-21の発注規模は2040年までに120機と予測。75機のB-52とあわせても空軍が求める最小規模に30機不足する。この差を埋める策として現行輸送機に長距離弾を搭載する、新型機を開発する、あるいはB-21を追加発注するの各案があり、意見がまとまらないまま内部議論が続いている。

根底に費用対効果と能力のふたつがある。ステルス爆撃機のB-21Aは重武装機より高価格だが、敵目標に接近できるので攻撃には安価な無動力兵器が使える。反面、B-21Aは開発初期段階にあり、ノースロップがまとまった機数の納入に10年以上かかる恐れもある。

重武装機構想は1970年代以降、各種が検討されてきた。ジミー・カーター政権時代にロックウェルB-1Aが候補となり、国防総省は巡航ミサイル母機としてボーイング747改装案を検討した。

同構想が30年後に再浮上した。2006年に議会予算局がボーイングC-17に超音速巡航ミサイルを搭載する案を検討したが、敵地侵攻が可能な爆撃機より低効果の上、C-17の追加発注で35億ドルが必要とわかった。

その四年後にB-21Aの要求水準が定まると、空軍はRand社に研究委託し、侵攻型爆撃機と重武装機構想の費用比較を行った。侵攻型爆撃機導入のほうが重武装機へ予算投入するより安上がりになるという結論だった。

空軍がノースロップにB-21Aの開発契約を交付したのは2015年10月だったが、議論は未決着だ。ウィル・ローパーは国防長官付き戦略戦力開発室長として2016年2月に重武装機構想を発表し、ロッキードC-130に似た機体がパレットに載せた弾薬を展開する様子を示していた。

翌年ローパーは調達・技術・兵站担当の空軍次官補に就任し、重武装機構想は空軍研究本部(AFRL)に渡された。1月に、AFRLはパレット化した弾薬の投下試験をMC-130Jで初めて実施した。拡大距離貨物投下消耗扱い空中装備Cargo Launch Expendable Air Vehicles with Extended Range (Cleaver)としてパレット6枚に異なる弾薬を乗せた。その後のテストでC-17からの投下が試された。

MC-130J air-drop test2006年のテストでC-17から重量50千ポンドのロケットを投下する能力が実証された。このロケットは極超音速滑空体の空中発射に使われる。Credit: Steve Zapka/U.S. Air Force

Cleaverテストの結果からAFRLはC-130、C-17ともに投入可能と結論づけ、C-17でロケット空中発射も実証した。2006年にC-17から極超音速加速滑空体用のミサイルも空中投下した。同機はミサイル防衛庁でも中距離弾道ミサイル想定の標的投下に使われ、ミサイル迎撃テストで役目を果たした。

AFWICはC-130やC-17へ長距離兵器を搭載するのが望ましいとしており、その理由に攻撃性能を飛躍的に伸ばせるからとする。
「性能がすべてであり、長距離攻撃能力に実効性を持たせるよう配慮が必要だ。輸送機の活用で攻撃力の強化が実現できると確信している」(ハイノート)

この考え方に全員が賛同しているわけではない。レイ大将は爆撃機部隊総司令官としてC-17を攻撃用それとも輸送用に選択する場面を司令官に与えたくないと報道陣に述べた。

「輸送機をここで使えば輸送任務と競合になる。重武装機は完全新設計で経済合理性をもたせ開発して爆撃機不足を解消する方がよい」(レイ)

ハイノート、レイの両名で既存機、新型機で意見が割れるが、ステルス性能がない機材は不適だと主張する向きもある。

長距離ミサイル導入を進めるよりB-21なら標的に接近でき、短距離射程で直接攻撃手段を使える。その場合の攻撃弾には推進用の燃料も機構も不要なので小型化できる。

「サイズが重要だ。出撃規模が縮小しており運べる兵器の数も減っている」とガンジンガーはミッチェル研究所報告書で指摘。

ガンジンガーは重武装機で搭載する長距離弾と爆撃機で運用するより安価かつ精密誘導可能な爆弾の比較もしている。中国やロシアと開戦となれば標的リストは長大となる。

「一発百万ドル超の長距離スタンドオフミサイルを何万発も発射する負担に耐えきれない」とガンジンガーは報告書で指摘している。■

この記事は以下を再構成したものです。


Steve Trimble June 02, 2020

コメント

  1. >この考え方に全員が賛同しているわけではない。レイ大将は爆撃機部隊総司令官としてC-17を攻撃用
    >それとも輸送用に選択する場面を司令官に与えたくないと報道陣に述べた。

    ま、そりゃそうだよね。
    輸送機への兵器搭載にどのくらい時間を要するのか、どのくらいサブシステムが必要なのか不明だが。
    いくら「パレット化」された兵器とはいえ、五分や十分で積めるとは思えないし。
    まして、大型の長射程兵器を積むとなれば、貨物室に相応のサブシステム構築が必要になるだろうし。
    攻撃任務に備えて待機し、兵器を積み込み、攻撃任務に従事している間は輸送任務に従事することは
    不可能。となると、「攻撃用輸送機」と「輸送用輸送機」にわけて管理する必要が出てくるわけで…

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