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USAF: 戦闘機パイロット養成期間の大幅短縮に向けた改革案出る

空軍は新しい戦闘機パイロット養成課程をテストし、パイロット学生から戦闘機パイロットへの養成期間を現状の40ヶ月から22ヶ月に短縮したいとする。
新運用コンセプト(CONOPS)では新練習機ボーイングT-7レッドホークを仮想現実や人工知能を導入したシミュレーションと組み合わせ期間短縮をめざす。
「鍛錬再構築」を短く “Reforge”と呼ぶCONOPSは6月2日に航空戦闘軍団司令マイク・ホームズ大将が署名し、好結果と確認されれば、戦闘機パイロット養成で1950年代以降最大規模の変革となる。1980年代に導入した専門パイロット学生養成訓練課程Specialized Undergraduate Pilot Training(SUPT)もここまで大きな変革ではなかった。
新制度では戦闘機材パイロット誕生までの期間を将来は18ヶ月まで短縮するねらいがある。
上)ボーイングT-7レッドホークの「グラスコックピット」では表示設定が変更可能で実際と同じセンサー操作や兵装投下を訓練できる。下)T-38Cでもデジタル改修が進んだが、アナログ計器が多数残り、高度な訓練は実施できない。Boeing video screenshot and USAF photo.
現行の教育科目構成は60年供用中のT-38が前提のため、新制度では不足部分を補うことに加え、第一線機材を使った飛行時間を可能とし、現実世界に対応させる。新CONOPSでは仮想現実、シミュレーション技術に加え、T-7レッドホーク高等練習機が有するインフライトシミュレーション機能も活用する。ボーイングは機体製造以外に教材となるコースウェアとシミュレーターも製造する。
新CONPSではT-7の追加引き渡しを前提とている。現行契約ではオプション調達100機が想定され、341機の契約規模を増やせる。Reforgeで必要なT-7はパイロット学生訓練用の機材と別の制式名称TF-7(例)となり、エンジニアリング開発で別の存在となろう。 
専門パイロット学生養成課程の所要期間は現在12ヶ月。その後、戦闘機パイロットをめざすものは戦闘機基礎コースFighter Fundamentalsに進み、T-38操縦後に正式訓練部隊Formal Training Unit (FTU)で戦闘機を操縦する。全体で40ヶ月かけて配属場所を異動しながら戦闘機パイロット資格を得る。新規CONOPSでは初期戦術訓練コース Initial Tactical Training Course(ITT)として現行2課程を統合し、約1年分を短縮する。
ITT修了生の戦闘機パイロット資格取得は「半分の時間で可能」とACCは見ている。正式訓練部隊への配属時点で「戦術技量は高くなっており」高価格ハイエンド戦闘機で教えるべき内容を大幅に減らせるという。
新構想での経費節減効果は未実証だが、費用削減が目標ではないとACCでCONOPSを共同執筆したデイヴィッド・ティムは述べている。.”
「F-22部隊では飛行回数の6割7割を新人パイロットへの基本技量や能力向上訓練に使っている」とティムは指摘。「同じ内容を早期に教えれば、高度内容の訓練を50%減らせるし、F-22の飛行回数の6割をFTU訓練に使い、浮いた時間を戦闘訓練に使える」
新CONOPSではFTU訓練時間を半減し、パイロット養成規模を2倍にする。これで空軍のパイロット不足を解消したいとティムは述べる。
「時間短縮が狙いではない。有効活用が狙いだ」とルーク・シュナイダー中佐もCONOPS共同執筆者として述べている。「時間を削っても、稼働体制がそのまま増加するわけではない」(シュナイダー)狙いは浮いた時間の有効活用で、「離着陸の仕方」を教えるかわりに、機体の性能をフルに発揮する方法をパイロットに教える。
今回のCONOPSは戦闘機パイロット養成再構築の第一歩であり、現行課程が「現在の状況に適合しておらず将来も同様」の状況だとティムは説明。戦闘機部隊が基本技能訓練に時間を取られると超大国間戦に向けた準備ができず実戦で機能しなくなると言う。
ITT課程では拡張現実、仮想現実、人工知能を応用した内容を加え、パイロットが最適な内容を学ぶ機会を増やす。シュナイダー中佐はAIで個人別教程が実現し、習得済みの学生には飛行回数やシミュレーター使用を減らし、かわりに必要分野の時間数を増やせると見ている。シミュレーションで現実を忠実に再現しているため、実機使用よりずっと安価に進められる。
技術の進歩によりセンサー信号多数を合成して単純な戦術表示が実用化され、操縦は簡単になったとCONOPSは指摘。シュナイダー中佐はT-7は各種機材を「模倣」できると発言している。パイロット学生は電子装置で訓練を受け快適に学習しながら高度技術を体得でき、ここでも訓練時間短縮が可能となる。これに対しT-38では「大量の時間をかけ学生が死なないよう指導している」という。
空軍は Reforge Proof of Concept (RFX) でCONOPSを試す。3月にはロッキード/韓国航空宇宙工業T-50高等練習機あるいはレオナードM346練習機をリースし、5年の予定でCONOPSのテスト・実証をを開始した。機材選定は現在進行中だがReforge のテスト基地は未定だ。まず教官パイロットを対象にモデルを仕上げていく。
ホームズ大将は「T-7量産が始まるまで実証を待てない」様子だとシュナイダー中佐は述べており、「8機の借り上げ....はPOMで想定外の出費」と予算関連文書の計画目的覚書rogram Objective Memorandaに言及している。契約を成立させRFXを実施に移すのがReforgeの「次の段階」だという。
戦闘機パイロット養成時間の大幅短縮以外に訓練期間中の配属基地異動を減らしパイロット学生が安定感を得られる。飛行資格の取得後に異動し、ITTは飛行隊基地で行う。
ACCが求める稼働率並びにパイロット養成目標の達成に直結するのはReforgeしかないと同文書にある。
共同執筆者は新技術の利用に加え、深刻になってきたパイロット不足も解決できるとする。「戦闘機パイロット養成に長時間かかっているだけでなく、定着も十分でないのが現状」と見ている。
パイロット不足には養成、吸収、定着の「3つの観点がある」とシュナイダー中佐は説明。Reforgeは各解決策として新規パイロット数を増加し、短時間で経験値を高め、配属異動頻度を減らし、生活の質を高めて定着を図る。
今日のパイロットは15年前と同等の飛行時間を計上できず、「戦闘部隊に配属された時点で飛行時間も経験値も十分でない」という。これがその後の制約となる。「編隊長を未経験だと、次の任務が大きく制約される」ので、Reforgeでこの問題に取り組み、解決できれば空軍に定着し、キャリア上の不満も減るはずとする。
パイロット次期訓練PTNの一環でパイロット学生が仮想現実技術を応用したフライトシミュレーターで訓練中。2020年3月5日。テキサス州サンアントニオ-ランドルフ共用基地にて。PTNは空軍教育訓練軍団の進める訓練再構築の一部である。Photo: Sarayuth Pinthong/USAF
今回のCONOPSは戦闘機パイロット養成だけに焦点を当てている。空軍教育訓練軍団(AETC)の養成課程の変更や中止は求めていない。ただし、シュナイダー中佐は「AETCと9ヶ月共同作業し....ACC限定の構想ではなく、AETCでT-7運用をする際の全般で関係する。AETCの邪魔をするつもりはない」と述べている。AETC司令ブラッド・ウェブ中将もReforge案を「前向きに支持」しているという。AETCも初等パイロット訓練全体の改正に取り組んでおり、やはり新技術を利用したいとする。
空軍参謀長デイヴィッド・ゴールドフェイン大将はAir Force Magazineの7月/8月号で2020年に除隊予定だったパイロット多数が除隊を撤回する意向を示しており、民間エアライン各社の採用停止が理由とする。ただし、新型コロナウィルスの大量流行が原因であり、パイロット不足の恒久的解決策にならないと認識している。
「人員規模を十分に維持する必要がある」とし、「能力あるパイロットには空軍に残ってもらいたい。経験値が有益だからだが...それで全て解決にならず、年齢構成のバランスが悪く、年長組が多く、新規パイロット養成が継続していない」と指摘。
大量流行を受けパイロット養成は半分程度に削減されたが、USAFでは6月末で流行前の8割程度に戻す予定だ。
新制度で空軍はパイロット数の増加が期待できる。各パイロットの最初の10年間勤務で養成期間の短縮化により、戦闘任務時間を10パーセント増加できるとシュナイダー中佐が説明。さらに基本技能訓練では第一線機材各機で年間300時間短縮できる。そのため戦闘機部隊全体での稼働率向上効果は「莫大」だという。
Reforgeによる大幅改良が必要な理由として、新技術に「現行の戦術訓練が対応していない」と同文書に記載がある。
戦闘機パイロット養成で以下の2点が大きな「ギャップ」とCONOPSは指摘する。
  1. 旧式化したT-38を基礎パイロット訓練に使っており、戦闘機パイロットが操縦する機体との差が大きく、突如として「複雑さが変更される」こと
  2. FTUから実戦部隊で複雑度が急激に増えること。この原因に敵性勢力の実力の急増がある。戦闘機パイロットが制空能力を維持するため今以上に早く、かつ楽に学習内容を消化する必要がある。
ホームズ大将からはT-7は本土防衛任務でアグレッサー機材として活用でき、その他同盟国等でも運用できる機材になるとの期待も出ている。
「T-7は今後の改良と柔軟性を最初から想定した設計となっている」とボーイング広報は述べている。「航空戦闘軍団のReforge事業で追加性能が必要と結論が出れば、当社はその要望に応えていきます」■

この記事は以下を再構成したものです。

ACC Aims to Cut Pilot Training Time By Up to Half


June 18, 2020 | By John A. Tirpak

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