米国はステルス戦闘機、ステルス爆撃機、ステルスミサイル、ステルススパイ無人機に巨額予算を投じ整備してきた。ステルス給油機となるとやりすぎだろうか。
ステルス給油機構想は奇想天外と呼べない。F-35、F-22のステルス戦闘機の航続距離が短いためだ。
F-35の戦闘行動半径600から800マイルは通常型戦闘機のスーパーホーネットやF-16に比べ悪くない。だが非ステルス機は燃料増槽を付け飛ぶが、F-35にステルス性能を損なう外部タンクは搭載できない。
ステルス、非ステルス戦闘機の航続距離が短く問題となるのは空母や航空基地が敵の弾道/巡航ミサイルの射程内に入る場合だ。高性能戦闘機が脆弱性を露呈するのは地上(あるいは艦上)であり、超大国間戦闘となれば、ミサイルの雨が前方基地に降るのは必至で、地上で機体が損傷を受けるのは簡単に想像できよう。
幸い米軍戦闘機は空中給油が使える。だが給油機は遠く離れた地点にとどまる必要があるし、超長距離空対空ミサイルによる撃墜リスクも増えてきた。ロシアのR-37の有効射程は250マイルだ。ロシア、中国のステルス機が給油機やレーダー機材を標的にするはずだ。給油機を排除すれば、太平洋戦域で戦闘機の有効性を否定できる。
敵防空網の突破を狙うステルス戦闘機でこのジレンマは深刻だ。敵防空圏から数百マイル離れた地点で通常型給油機を待機させても、レーダー探知され敵戦闘機の餌食になる。
そこで給油機でもレーダー断面積を減らせば問題が解決される。とはいえ、ステルス戦闘機並みの低視認性は必要ない。
米空軍は新型KC-46Aペガサス給油機(原型ボーイング767)の179機調達を進め、KC-135、KC-10給油機合計400機は順次退役させる。航空機動軍団の当初案は通常型に近い給油機KC-Yを2024年ごろ、その後ステルス給油機KC-Zを取得するものだった。
だが空軍はKC-Yのかわりに性能向上型KC-46を取得し、KC-Zの調達開始を2035年に前倒しすることとした。
KC-Z提案は数案あり、各案ともに相当奇抜な機体形状を示してる。ロッキードは他社よりステルス性能を重視する姿勢を示していた。同社は高バイパス比ターボファンを主翼上に搭載し、レーダー断面積を減らすねらいも示した。
ただし、提案は完全な全翼機形状ではなく、「ブレンデッドウィンボディ」に近く、「ハイブリッドウィングボディ」形状で、純粋な全翼機形状ではないが、胴体部分を大きく確保することができる。
全翼機だと主翼曲面形状で揚力発生が有利となり、「無限面」特徴でレーダー波を反射する鋭角がないためレーダー断面積が低くなる。ただし、給油機は貨物輸送にも投入されるので、ステルス給油機でも貨物搭載部分を確保する必要があるし、貨物取扱用の扉も必要だ。純粋な全翼機形状ではこの機能が確保できずハイブリッドとなったわけだ。
ステルス輸送機として特殊部隊を敵後方に送り込む役目も期待できる。また敵の長距離対空ミサイル射程内の前方基地へ物資補給にも使える。ただし、貨物輸送にも投入可能なステルス給油機では空中給油専用の全翼機形状なみのステルス性能は期待できない。
ステルス給油機運用を経済的に実現する際でレーダー波吸収剤(RAM)の表面処理が障害となる。戦闘機のRAMは運航経費を大幅に増やし、整備面でも負担だ。給油機の場合は年間飛行時間が長く、経費負担増になるのは必至だ。そのため経済合理性の高いRAMが必要とされる。B-2ステルス爆撃機では毎時169千ドルの経費が発生している。
空軍には将来の給油機で生存性を高める着想があり、アクティブ防御手段として飛来するミサイルを撃破するためレーザー利用も提案されている。次世代レーダー妨害装置では認知知能技術の応用で敵レーダー周波数に合わせ、給油機の所在を判別できなくする。また次世代給油機に自動化を広く採用し、乗員数を減らし給油スピードを高める構想もある。
ただし、航空機動軍団には海軍の艦載無人給油機MQ-25を参考に小型無人かつ自律運航の機体を使う抜本的に新しい構想もある。
ステルス無人給油機は「分散型」給油構想にぴったりで、無人機多数が大型の通常型給油機「母機」から給油を受けてから制空権を未確保の空域に移動してステルス戦闘機向けの給油を行う。ただし、この構想は非ステルス母機が敵に排除されれば破綻する。そのためステルス、非ステルスの給油機多数を多層構造にする提案がある。
もっと単純かつ安価な解決策がでてきた。短距離運用の制約がある戦闘機のかわりに、長距離性能を有するB-21ステルス爆撃機あるいは将来登場する侵攻制空戦闘機を投入し、スタンドオフミサイルの利用を増やす、長距離無人UCAVステルス戦闘機材を投入することである。■
この記事は以下を再構成したものです。
June 6, 2020 Topic: Technology Region: Americas Blog Brand: The Reboot Tags: KC-ZStealthStealth TankerTankersU.S. Air ForceF-22F-35
この記事には欺瞞がある。給油機は不可欠であり、「F-35にステルス性能を損なう外部タンクは搭載できない」と書いてあるが本当にそうか? 高価でリスクの高い多数の給油機の配備が必要なのだろうか?
返信削除外部増槽をリスクの低い空域で使用し、リスクの高い空域で増槽を落として、機内タンクを使用すれば長大な航続距離と戦闘行動半径を得られるはずである。問題が増槽のステルス性や懸架装置のステルス性であれば、工夫はできるはずである。給油機の多大な費用と増々大きくなる撃墜リスクを考えれば、何をすべきか明快だろう。
また、コンフォーマル・フューエル・タンクが取付できれば外部増槽と同様の効果が得られるはずであり、さらにこのタンクは武器庫に改造できるかもしれない。
これらの増槽検討の費用は、給油機数機程度だろう。なぜいい加減な(失礼!)理由で増槽の検討を放棄するか理解できない。
F-3も同様の問題に直面するだろう。その際に是非とも増槽取付の標準化検討を同時進行で行ってほしいものだ。