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主張 技術だけで戦闘の構図は変えられない。有望な新技術はこれだ。

資金が潤沢で、未来志向の考え方の軍組織なら戦闘の様相を一変しそうな技術に投資する余裕があるが、当然とはいえ新技術すべてが期待通りの効果を上げるわけではない。
2018年4月、S・ラジャラトナム国際研究スクールの客員研究員リチャード・ビツィンガー Richard Bitzinger がエイシアタイムズ紙上に寄稿し、画期的軍事技術の概念そのものを批判した。驚異的なまでの威力の装備以外の要素のほうが影響力があるというのだ。例として2017年11月に筆者が発表した中国のJ-16Dが敵レーダーを妨害し防空網を突破する性能を有するとの記事を取り上げた。

ビツィンガーが筆者も同意できる点を取り上げていると素直に認める。軍事史を通じ、経験則や物資面の要素ならびに組織力が技術面での優位性を上回る効果を示している。

ただし筆者にJ-16Dを革新的兵器とする意図はない。戦闘の様相を一変させる装備とは性能であれ、効率であれ、過去からの延長線を一気に突破した存在のことであり、従来の装備品と一線を画する存在だ。

筆者はJ-16Dを中国がめざす米装備品の一部性能を模し特殊機能を実現する一例とみており、中国側のいうようなイージス艦への「悪夢」にはならないと自信を持って言える。ロシアのメディアもSu-24がUSSドナルド・クック上空を通過飛行した2014年に同じような言い方をしていた。ただし、中国がその方向に向け技術開発中であることに要注意だ。

ビツィンガーと大きく意見が異なるのは「戦闘の様相を一変させる」問題で、ビツィンガーはこれに大いに懐疑的で、技術そのもので軍事対決の構図が変わることはめったにない、技術に戦術、教義や物資面の支援があってこそだとする。

確かにそうだ。F-35ステルス戦闘機、V-2弾道ミサイルや戦闘員の即席爆発装置(IED)も突き詰めれば金属の塊に過ぎない。戦闘の様相を一変させるのは技術そのものではなく、技術要素を運用可能なシステムに洗練させ、性能を発揮できるよう配備することだ。例として対ゲリラ戦でIEDは画期的な兵器かもしれないが、F-35は違う。装備を有効に活用するための作戦構想がその上にある。

技術要素のフル活用には数年どころか数十年かかることがある。ただし、いったん活用できれば文字通り「構図を一変させる」効果が猛烈な速度で生まれる。

戦艦と空母が好例だ。20世紀初頭に強力な装甲を施し巨大な主砲を備えた戦艦は海軍力の究極の存在と思われていた。空母は1910年代に登場したが即席仕立てで搭載機材も布張り複葉機だった。空母が初めて実戦投入された1918年に7機が発進したが着艦できたのは1機のみだった。浮かぶ飛行場に脆弱な機体多数がちっぽけな爆弾を抱える構図は戦艦に真剣に挑戦する存在には映らず冷笑を買ったはずだ。

だがその後二十年で英国、日本、米国が空母運用の経験を積み、戦術を編み出し空母の性能をフル活用しはじめた。機材も速力、航続距離、ペイロードいずれも進歩した。日本が第二次大戦緒戦で戦艦巡洋戦艦五隻を空から攻撃し排除したが空母は一隻も沈めていない。航空機を搭載し、遠方の敵艦を壊滅させる能力を有する空母に対し戦艦はわずか15マイルしかその威力を発揮できなかった。

未来志向で潤沢な資源がある軍組織が画期的な効果を生みそうな装備に予算を投入しても、もちろんのことすべての技術が期待通りの効果を生むわけではない。発展を続け実用上の意味をうむものがあるが、あまりにもニッチな効果しかあげなかったり、低性能のままで終わる装備品もある。中にはさらに上の技術や対抗措置で簡単に圧倒されてる技術要素もある。米海軍は空母開発と並行し、航空機搭載可能な硬式飛行船二機も試験運用したが、ともに墜落してしまった。

「適正」技術開発に成功した軍組織がかならずしもその正しい稼働方法を編み出す保証はない。フランス、ドイツ、ソ連、英国の各国が機械化部隊を大戦間に編成した。しかし、ずっと後に整備を開始したドイツが偶然というべき下達で電撃戦戦術を唯一開発し、西欧を席巻したのは事実だ。英仏両国は戦車を無意味に分散させて戦力を制限してしまい、設計構想でも誤りがあった。ソ連は優秀性能の戦車を設計したがその稼働の前に革新的な発想を有する将官多数を処刑していた。

「新規手段」が旧来の秩序の中でしばしば冷遇され、新しい投入方法を試されて真価を発揮すること、あるいは必要に迫られ新しく活用されてきたことに注目すべきだ。軍も人間が作った組織であり事なかれ主義や特定の活用方法にのめりこむことがある一方で、新規の手法に抵抗を示す。パットンも戦車が騎兵部隊に代わる存在になると当初は見ていなかった。技術から生まれる劇的なほどの初期の優位性は短命に終わる。ただし戦場を一変させる奇襲効果が迅速かつ圧倒的な効果を生めば話は別だ。ドイツ機械化部隊がフランスを席巻した1940年の事例がここにあてはまる。

ビツィンガーは中国の中距離弾道ミサイルDF-21D「東風」を西側が不安視しているとする。同ミサイルの最終誘導シーカーは最大900マイル先を航行する艦艇を沈める性能があるといわれる。ビツィンガーは不安感はPLAがDF-21を真の「空母キラー」にするには標的補足以外に戦術や技術で課題が多数あることを失念していると考えている。懐疑的にさせているも一つの要素はDF-21Dが移動目標を相手に試射された事例が公式にはないことだ。

とはいえ空母に搭載された軍用機が急速に発展したように対艦弾道ミサイル技術が必要な支援戦術や支援にあたる情報収集監視偵察技術、監視機材、衛星、潜水艦とともに成熟度を高める可能性もある。東風が優秀な対艦兵器になれば、アジア太平洋全域が前例のない海上全体にわたる接近阻止バブルに覆われ、空母兵力は深刻な事態に直面するだろう。

そこで21世紀の戦闘の様相を一変しかねない技術で以下を選んでおきたい。

無人機の戦い:長期的にはジェット戦闘機、潜水艦、戦車は無人戦闘装備に発展しそうだ。短期的には低性能ながら多数の無人装備で高性能装備を飽和圧倒する事態が生まれそうだ。防御は攻撃より高価につくことが経験則でわかっているが、消耗品扱いの無人装備が将来の戦闘に投入される事態が発生してもおかしくない。カギを握るのは生産費用が十分に下がるかどうかだ。
サイバー・電子戦: 安全と思われたコンピュータネットワークが破られたとのニュースがない日はない。各国の軍部がコンピュータネットワーク依存を深めている。弾道ミサイル迎撃手段のような戦術レベルでも同様で、イージスミサイル防衛装備やF-35のセンサーやALIS補給ネットワークも同様だ。中国やロシアが通信活動やセンサー、データリンクを寸断し米軍活動を妨害するジャマーを開発し、電磁機能で送信元の探知と攻撃を狙っている。
ステルス機はどうか:ステルスジェット機は敵の領空に侵入し遠距離から探知されずに活動できると広く信じられ、21世紀の戦闘形式を形成したといわれる。たしかに、ステルスジェット機はテストを繰り返し効果を引き上げているが、最新の防空網や装備品を相手に性能を試したことはない。
ミサイルの拡散と領域拒否戦略: 巡航ミサイルの普及で海上艦艇には海面が危険な場になっている。GPS誘導のロケット弾で陸上部隊にも空爆同様の攻撃手段が手に入った。短距離から中距離の弾道ミサイルが従来型の戦略兵器に匹敵する威力を上げるようになり、航空優勢の維持が困難になっている。ここでも中国やロシアが空母から航空基地に至る軍事拠点を迅速かつ精密な攻撃の脅威にさらしている。

こうした技術の中には限定的効果しかないものや、これ以上の発展はのぞめないものもある。だがその他は未経験の効果を生み、既存ルールを破る効果もある。そう、技術自体が戦闘の様相を一変させることはない。だが強力な軍事力に組み込まれ、運用戦術や教義が生み出され、試行されれば実戦で威力を生む存在になる。歴史では迅速とはいかなくても戦闘の構図が変わった例がみられる。

組織内の維持勢力に抵抗し時代を先取りする思考の知恵を引き継けば戦闘の様相を一変させることは可能だ。これは健全かつ不可欠な動きだ。このため必要なのは競合相手を悪の存在だと警句をいいふらすことでも恐怖をあおることでもない。ただし、技術、経済、社会、軍組織の進化にあわせ既存の関係や「ルール」、さらにハードソフト両面の国力がどう変化するかを考え、先取りで企画計画していく必要がある。■

この記事は以下を再構成したものです。

What New Technologies Will Change Warfare Forever?

July 22, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWorldF-22V-2ChinaRussia



Sébastien Roblin holds a master’s degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. This first appeared two years ago.

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