歴史に残らなかった機体19
奇抜な形状のXP-55アセンダーには解決できない問題があった。
米陸軍は1939年に既存機種より速力とパイロット視界の双方で優れる機体の提案募集を航空機メーカーに求めた。同時に画期的かつ通例にとらわれない設計を許容すると明示し、カーティス-ライトはXP-55アセンダーでこれに答えた。
アセンダーはプロペラを後部に搭載する「プッシュ」型で通常の「プル」型機と異なっていた。さらにコックピットにプロペラ投棄用のレバーがつく点がユニークで、これはパイロットが機外脱出する際に使用した。
推進式の機体構造は既存機と比べ奇異な形状となった。エンジンが後部にあるため、課題は冷却だった。離陸前に長くタキシングするとエンジンのオーバーヒートが深刻となるのは明らかだった。
機体操縦性も問題だった。いきなり失速する特徴があり、制御をとりもどすのに相当の高度が必要だった。初飛行では10千フィートも降下しやっと制御可能となったほどだ。
同機は一種の全翼機と言える。主翼上には最小限の垂直翼をつけ、機体後部にも制御用に小さな垂直翼があったのみだ。
テストでは離陸に相当の滑走路長が必要と判明した。機首につけた小型カナード翼は離陸を助ける意図でつけたのだが。
方向舵はパイロット後方に格納し、機体制御が難しいため必要に応じ出入りさせた。
性能に目をみはるものはなかった。高速かつ操縦性がすぐれた機種は他に出現していた。ジェットエンジンの登場もあった。XP-55アセンダーがテスト中の1944年、ジェットエンジン搭載機これからの主力と認識されていた。
ターボプロップの性能も有望だったが、ジェットエンジンがターボプロップの性能を上回るのは確実だった。ターボプロップではマッハ1到達が困難だったが、ジェットエンジンはマッハ2まで出せる。XP-55のプロペラ推進は時代遅れになっていた。
XP-55アセンダーには光るものがなかったが機体形状には興味をそそるものがあった。ただし、飛行性能は別だ。量産しなくて良かったと言える。■
この記事は以下を再構成したものです。
The XP-55 Ascender: This Crazy Looking Plane Had Problems
by Caleb Larson
Caleb Larson holds a Master of Public Policy degree from the Willy Brandt School of Public Policy. He lives in Berlin and writes on U.S. and Russian foreign and defense policy, German politics, and culture.
Image: Wikipedia.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。