スキップしてメイン コンテンツに移動

主張 核兵器誕生75周年にペリー元国防長官が核兵器使用権限について懸念を示す


The world's first nuclear explosion on July 16, 1945, in New Mexico.


1945年7月16日午前5時30分。史上初の核のきのこ雲が閃光とともにニューメキシコの砂漠に出現した。ハリー・トルーマン大統領は広島、長崎へ初の原子爆弾投下を命じ、200千名の生命が瞬時に消えた。

だが、それで最後だった。米国、ロシアは核兵器数万発の整備に数兆ドルを使ったが、核兵器は一回も戦闘投入されていない。その理由は幸運がすべてで政策決定はわずかな役目しか果たしていない。

我々が共著した新刊The Buttonであきらかにしたようにトルーマンは軍将官から核爆弾使用を取り上げ、文官に使用をまかせる構想だった。トルーマンは100千人もの生命を奪うのは「考えるだけで恐ろしい」と思った。このため三発目以降の投入は中止されたのだろう。ただトルーマン構想では原爆使用の権限を与える文官は大統領一人だった。その後の米大統領は全員が核戦争を開始する権限を有していることになる。

話は一気に2020年に飛ぶ。米国民の大多数はこの権限について知らない、または意識していない。これまでは。ドナルド・トランプ大統領の不安定な気性と権利濫用傾向のためこの大統領権限が懸念されている。ただし、核のボタンに指を置きそうな精神状態の大統領はトランプが初めてではない。リチャード・ニクソンも退陣前数か月は大量飲酒していた。また今後の大統領に無謀な動きに出るものがいないと断定できない。

トランプが大統領の座にあるかぎり普段なら話題にならない疑問が出てくる。大統領にここまでの権限を与えてよいのか。そもそも必要なのか。冷戦時の残滓なのか。

この形でよいはずがなかった。ジョン・ケネディ大統領は1962年に「論理的に言って合衆国大統領が核兵器投入の決定に動く理由がない。歴史の必然でこの権限が与えられているのである」と書いた。ま神話の正当性はずっと前から誇張されたままだ。

神話その1:米国は数分で核兵器を発射する体制にある。

トルーマン以降、大統領に権限を認める理由は核戦争の予防から逆に核兵器使用の促進に代わってきた。ロシアの核ミサイル攻撃は米国本土に30分未満で到達する。実現すれば核の真珠湾攻撃となり、瞬時に大破壊となる脅威のもとで生活しているのが現実だ。これは1960年代から変わらない。こうした攻撃の可能性がごく少ない、あるいは米国は即座に反応すべきと考える理由がない。ともに危険な仮定であり、大統領が時間の重圧の中で最悪の破滅的決定を下してしまうかもしれない。核戦争勃発を防ぐには大統領に考える時間をもっと与える必要がある。

たとえば、米国の大陸間弾道ミサイルICBMは脆弱な装備で、大量攻撃の到達前に発射しないと、格納サイロ内で破壊される。だからといって即座の発射を正当化できない。米国には他に核兵器数百発が潜水艦に残り、爆撃機も発進できる。このためロシアが先制攻撃に乗り出せば自殺行為となる。ロシア指導部がいかに無慈悲でも自殺行為には走らないはずだ。

さらに攻撃警報で即座にICBMを発射すれば極度なまでの危険行為となる。「攻撃」が誤報の場合があり、実際に過去発生している。ペリー元長官も在任中に誤報の警告を二回経験した。誤報で核兵器を使用すれば、誤って核戦争を勃発させる究極の悪夢となる。

神話その2: 大統領は過ちを冒さない

もちろんこれは誤りである。核戦争の迅速決定となると、大統領は不十分な情報のまま判断の可能性があり、感情が不安定となったり、飲酒の影響下の場合もある。あるいは誤報に反応する可能性もある。

ロナルド・レーガン大統領は核兵器使用の決定は6分間で下す必要があると述べ、「すべてが素早く展開する危機状況ではじっくり検討したり理由を考える余裕がない」と述べていた。

神話その3:核兵器はサイバー攻撃に脆弱ではない

サイバー攻撃がコンピューター、配電網、通信設備にどこまで被害を与えるかを考えることが多い。事実はわが方のネットワーク対応システムは核兵器の指揮統制用装備も含めすべてサイバー攻撃の前に脆弱である。敵がコンピュータを乗っ取り米国に核攻撃が迫っていると誤報を与えたとしよう。実際には何もないのに攻撃の接近を「見る」ことになる。サイバー脅威は偶発核戦争の危険を大幅に引き上げる。

こうしたリスクを減らすべく次期大統領は核政策そのものを変更する必要に迫られる。大統領の専権事項たる核兵器使用権限も含み核兵器の先制使用を禁じ、陸上配備ミサイルは段階的に廃止すべきだ。ICBMの抑止力は機能せず、逆に核戦争による破壊の可能性を高める。偶発事故が発生すればそれでおしまいだ。

危険なほど無責任な政策が続いてきたが、75年間を核兵器となんとか共存できた。だがこれは単純に幸運のたまものであり、考え抜かれた末の結果ではない。核の惨状を回避するには、大統領に核のボタンを押させてはならない。だれが大統領になっても一人で人類の運命を支配するのはあまりにも危険だからだ。■

この記事は以下を再構成したものです。

ペリー元国防長官他が核兵器管理の現状について警句を鳴らしているのは多分にトランプ大統領を危険視しているからでしょうね。


JULY 16, 2020


  • William J. Perry served as the 19th U.S. Secretary of Defense. He is a co-author of the just-released book “The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.” FULL BIO
  • Tom Collina is director of policy at Ploughshares Fund and co-author, with former Defense Secretary William Perry, of the just-released book "The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.”

コメント

  1. コロナウイルスの影響でSSBNの展開に不安要素が増えています。クルーに感染者が出たら、艦内に持ち込まれる物資にウイルスが付いていたら、といったものです。冷蔵庫の低温の中では数週間感染力を持つとする説もあります。
    逆にICBMの方がコロナ時代に適していると言えますが、コロナ時代も何年続くかわかりません。数年で終わるなら数十年使う核戦力をコロナ対策に最適化するのは非効率でしょう。

    返信削除
  2. ぼたんのちから2020年7月20日 16:00

    トランプは、米ソ冷戦後の米大統領の中で最も敵兵を殺さなかった大統領である。シリアに巡航ミサイルを撃ち込んだくらいで、巧妙に軍事行動を回避してきた。そうであるにも関わらず、トランプは、精神が不安定で気まぐれで無責任な狂気の判断により戦争を引き起こしかねない大統領なのか。
    確かにツイッターを見ると、正気かと思えるものもあるが、これはトランプのマッドマン戦略の煙幕でなかろうか。この煙幕を広げるのが米国の反トランプの大手メディアであり、トランプは何をするか分からないと、トランプ自身は思わせたいのだろう。
    実際にトランプが行った政策は、気まぐれでなく、選挙公約と米国の目的を達成する現実的なものであるように思える。このようなトランプにとって核兵器の使用など考慮すべきものでなく、核兵器を弄ぶことさえ考えてもいないだろう。つまりこの記事は反トランプのプロパガンダでしかない。
    次の米大統領はバイデンである可能性が高いと報道されているが、個人的にはトランプ再選を支持したい。「平和主義者」トランプが再選されれば、中国の暴走を抑制し、世界はより平和になると期待する。
    ところで、トランプは安倍首相と友達であるとの報道が多いが、国際政治の世界で友情などあり得ない。日米の緊密化は、対中抑制に不可欠であり、それはとりもなおさず米国の世界覇権にとっても不可欠なものである。トランプはしたたかなのだ。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...