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海自を追い越したPLANへ日本はこう対抗する

国は海軍力整備を加速し、日本は追いつく側になった。

長年の友人であり共著者のトシ・ヨシハラが共産中国の戦略思考家・実行者が日本の海軍力をどう見ているかを紹介するレポートを発表した。見通しは暗い。人民解放軍海軍(PLAN)はここ十年で海上自衛隊(JMSDF)を多くの面で追い越した。日本は真剣に追いつく必要がある。米国も手助けすべきだ。

ヨシハラはレポートの題名を「太陽に挑む巨龍」とし、第二次大戦の太平洋方面を扱った軍事歴史家ロナルド・スペクターの「太陽に挑む鷲」を意識している。スペクターが80年前の日本の台頭に苦慮する米国を描いたのに対し今回のレポートは中国の台頭に苦慮する日本を描く。当時の日本帝国は太平洋の反対側の敵と対峙し、この敵は経済規模がはるかに大きく、日本の勢力圏周辺部のフィリピンに拠点を置いていた。今日の民主国家日本に立ちふさがるのは日本の経済規模を上回る規模に成長して10年が経過した敵だ。長距離精密攻撃手段が登場してきたこの時代に両国は狭い区域を占拠し合っている。

PLANとJMSDFを艦艇だけで比較すれば結論を誤る。1941年の日本帝国海軍の機動部隊は今日の空母打撃軍に相当し、悪天候の中で遠距離を航行し真珠湾攻撃を敢行した。燃料その他補給品のため機動部隊は攻撃が継続できなかった。中国から見れば真珠湾は横須賀あるいは佐世保だが容易に到達可能だ。PLAロケット軍は日本国内の基地や艦艇をボタン一つで攻撃できる。

日中の海軍力の比較では沿岸配備ミサイルや航空機も勘定に入れる必要がある。その結果、日本はさらに不利となる。

ヨシハラはPLANは驚くべき速度で成長してきた存在として描く。20年前の西側にはPLANを嘲笑する傾向が強く、中国が外洋海軍を構築するのに長期間が必要とみていた。そもそも実現不可能な構想とみる向きもあった。だが中国の海軍力整備が現実とわかると懐疑派は今度はPLANが対艦弾道ミサイルや最新鋭誘導ミサイル駆逐艦さらに空母を建造できるはずがないと言い始めた。だが中国技術陣はこうした見方をひとつずつ否定していった。

過去の海洋対決での挑戦者の実績を調べると、ゼロから域内海軍力の整備を始めると15年かかっているのがわかる。外洋海軍の整備が完了するにはさらに15年かかっている。合計30年だ。共産中国の指導部はPLANを世界に通用する兵力に育てる決定を25年前に下した。こうしてみると世界史の通例通りの展開だ。

歴史の教訓はそこまでだ。ヨシハラは一次資料を調査し、中国にある海洋紛争を宿命とみる見方が、戦略的目標を推進する過剰自信と表裏一体だと発見した。「中国の視点では、日中間の海軍対決は運命の定め」とし、同時にヨシハラは中国専門家に勝利の確信が共通し、PLAはJMSDFに楽勝すると考えていると見出した。

著作物に見られる宿命論と虚栄心をごっちゃにする見方が中国共産党上層部の考え方そのものだったらどうなるか。数量面で有利な状況に加え、エリートのみならず一般の風潮は強硬策に走りやすくなるだろう。PLAに有利な状況になれば、危機が来た、好機が来たと習金平が判断すれば攻撃命令をちゅうちょなく下すだろう。

中国著作物に別のパターンもある。中国の戦略思想家に興味深い側面があり、危機が現実になれば米国は日本への条約義務を回避するとみている。「中国が仮定する作戦勝利は米国の介入がないことが条件」(ヨシハラ)で、言い換えれば、中国戦略では将来の海上対決で中国が相手にするのは孤立無援の日本となる。一対一の対決に米国の海軍、海兵隊、空軍が不在なら中国の作戦展開や戦術は容易になる。

この仮定が誤りである可能性が高い。だが誤った仮定をもとに行動に入り失敗になった事例は多い。

戦力が願望に追いつきつつあるのが中国の現在だ。このためPLAは攻撃作戦に目が移りやすくなっている。「決定的交戦こそ中国の戦闘勝利を目指す戦略の核心部分」とヨシハラは記している。海上では従来の「積極防衛」戦略を攻撃的な姿勢に変えてきた。ただその場合、PLANは開戦時に弱い立場になる。そうなると中国は戦略的防御に身を任すしかない。強力な敵を粉砕し戦略的攻勢をかけ、その後の勝利に至るまでは。

ただし中国軍事戦略の立案者はずっと前から防御策から攻勢に移る策を想定してきた。2004年白書は攻撃的性格を示し、軍事課題への対応策を述べ、PLAに「制海権制空権双方」の獲得に向けた戦力の準備を命じていた。制海制空はマハン流の言い方だ。中国の海軍戦略家はアルフレッド・セイヤー・マハン大佐の「制海権」概念を忠実に信奉している。海洋支配を確立するためには敵部隊を敗退させるかほぼ永久に海域から追い出す必要がある。つまるところ勝利側が海空を支配し思いの通りにするのだ。

5年前に初めて発表された海洋戦略関連文書で中国は積極防衛は意味がないばかりか軍事行動の「本質」でもあると記していた。かなり強い表現だ。だがPLAとその前身の紅軍は日本との戦いや国内内戦を経て大規模だが不釣り合いな組織に肥大していたのが事実だ。PLAが緒戦で攻勢に出て勝利を収める可能性が高いと判断すれば、これまでの戦闘方法を捨てることが意味を持ってくる。習得するなら早いほうがいい。

ではどうしたらよいのか。事態はそこまで進んでいるがヨシハラは希望はあるとする。まず、地理条件が日本に有利だ。日本が第一列島線の北側で弧を描く形になっていることで西太平洋の交通を制することが可能だ。日本が海空地の兵力を適正配置すればPLAの艦船航空機を封じ込めつつ輸出入に依存する中国の生命線たる海上交通も止められる。日本は数の上で不利だが中国に相当の苦痛を与えることができる。この能力が抑止力になる。

次にPLANに中国の威信をかけることが習金平の誤りにつながる。習は海軍に中国の再興をめざす「中国の夢」を重ねる。それはよいとしても、中国の夢を追求して大打撃を受ければどうなるか。日本帝国海軍は清朝の北洋艦隊を日清戦争(1894-95年)で撃破した。手痛い歴史の記憶だが北洋艦隊の後継者たるPLAN水上艦部隊がこれも明治時代の後を引き継いだJMSDFに敗退したらどうなるか。

敗退あるいは勝利するとしても相当の代償を払えば習は国民の前で威信を失う。周辺国にも同様だ。中国の夢にハッピーエンドはなくなる。習は自身の政治生命を考え、行動を控えるだろう。日本が創造力あふれた戦略や軍事力整備に走れば習金平は一層不安に駆られるはずだ。

海上戦闘で日本は「損害を与える」ことを希求すべきだ。PLANを撃破し、中国指導部に恥辱を与えることこそ目標だ。

日本の指導層は米国指導部と協力し両国の戦力を一貫維持すべきだ。両国は海上防衛へ「自己投資」する姿を共産中国の指導部にも見せつけるべきだ。目標を共有するとの文書を公表するのはよいとしても両国の課題はほかにある。厳しい状況でも両国が一緒に対応すると各国に信じさせるのもそのひとつだ。たとえば、統合部隊を編成し、指揮命令系統を統合し、両国の人員が同じ艦艇や航空機を運用すれば有事でも相手国を放置はないと示せよう。

日米同盟の課題の一部は軍事力そのものである。ヨシハラが記しているが、中国専門家にはJMSDFはバランスが劣ると見る傾向があり、このため日本独力では戦力に限界があるとする。これはある程度正しい。創設期以来のJMSDFは日本に母港を置く第七艦隊に不足する戦力を補完してきた。水中戦や掃海任務が例だ。さらにJMSDFは米空母や揚陸艦の護衛部隊としての兵力編成になっている。日本が「大金を払って」自国艦艇を米海軍作戦の穴を埋める存在にしているとまで豪語する中国評論家もいる。揚陸戦、兵站補給、有効射程さらに空母の欠如を指摘する向きもある。

そこでヨシハラは以下提言する。「日本には戦力バランスの変更が必要だ」とし、「小型、安価かつ多数の装備」を海上展開すべきとする。たとえば重武装ミサイル艦艇をイージス駆逐艦や軽空母のような「優雅な装備」と並行整備する。バランスを変更し、隻数を増やした部隊構成なら中国が望む一対一の対決となっても弾力的運用できる。中国も手が出せなくなる。だがここでも日米の政府首脳に仕事が残る。戦火を開けば日米両国が中国軍を撃破する事態になると中国に理解させることだ。
日米両国に政治面で意見を異にする余裕はない。龍には太陽・鷲の連合軍が立ち向かうと知らせよう。

最後だが、急ぐ必要がある。今後は中国に有利な状況となりそうだ。日米両国がこの勢いを削ごうとすれば決意だけでは足りない。物資資源も投入すべきだ。これで有利な状況に戻せる。無為に時間を過ごす余裕はもうないのだ。■

この記事は以下は再構成したものです。


July 24, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Unfortunately, this has been the case for a while now.


James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and coauthor of Red Star over the Pacific. The views voiced here are his alone.
This first appeared earlier in 2020 and is being reposted due to reader interest.

コメント

  1. ぼたんのちから2020年7月27日 1:08

    米国を代表する(と個人的に考える)トシ・ヨシハラとホームズ教授たちは、なぜ日本の海軍力に悲観的なのか、また危機感を覚えるのか理解に苦しむ。
    日本の何倍もの軍事費を費やす中国の海軍力が、数的に日本を越えるのは当たり前であろう。中国専門家が勝利を確信し、PLAはJMSDFに楽勝すると考えているのなら、そう思わせておけばよい。日本は、将来を見据えて対策を建てるだけだ。
    本ブログの「中国を制圧する海軍力のカギは各国が運用するF-35B空母だ(5月24日)」にもコメントしたが、今もってPLANは基本的に沿岸海軍である。外洋海軍になるためには様々な時間のかかる克服しなければならぬ大きな問題点がいくつもある。
    そして何よりもPLA、特にPLANにとっての問題は、地政学的な中国の閉鎖性であり、第1列島線を突破することの困難さが付きまとうことである。日本がこの中国の弱点を継続的に突く限り、米国が介入しなくても日本の敗北は考え難いものになる。中国が日本に勝利することは、日本が中国を追い込むよりはるかに困難である。

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