ロッキード・マーティンF-35にはこれからの10年で以下が期待されている。
- 世界各地で2千機超が供用され、さらに増える。機体販売単価、運航費用双方で第四世代機をわずかに上回る程度になれば販売に拍車がかかる。最新のブロック4仕様では現行型のコンピュータ処理能力の25倍になり、機内のデータ融合エンジンでアクティブ、パッシブ双方のセンサーのデータが有効活用可能となる。
- コックピットの状況認識機能が向上し、パイロットは各種兵装を選択可能となる。ロッキード・マーティンAIM-260あるいはレイセオンAIM-120高性能中距離空対空ミサイル6本を機内搭載する、洋上標的攻撃に共用打撃ミサイル、新型長距離打撃ミサイルのスタンドイン攻撃兵器 (SiAW) を機外に搭載する。極超音速巡航ミサイルの外部搭載の可能性もある。ロット22機材がロッキード組立ラインを離れる2030年には新型空中発射回収式装備により探知能力が向上し、兵装搭載量もミッション内容により倍増する。
- F-35の役割も制空攻撃任務から広がる。陸軍、海軍ともにF-35のセンサーデータで迎撃ミサイルを遠隔制御している。空軍の分散型指揮統制体制ではF-35の処理能力、センサーデータや通信能力で各ドメインで広範な攻撃効果を上げるのが狙いだ。F-35は空軍が通常使用する範囲を超えた役割を果たしそうだ。
米空軍のF-35Aが5月にネリスAFBで飛行テストに供されたが、GBU-49レーザー誘導爆弾を搭載していた。性能改修でレイセオンGBU-53/Bストームブレイカーの運用が可能となる。Credit: Airman 1st Class Bryan Guthrie/U.S. Air Force
10年先といっても決して遠い先のことではなく、実現は大いに可能だろう。10年前のF-35は危機的状況にあった。飛行テストは2009年に停止され、サプライチェーンは混乱していいた。当時国防総省で調達・技術導入の責任者だったアシュトン・カーターは状況説明を受け事業中止を提案していた。
ロッキードはF-35の500機超を9か国に引き渡しずみで、さらに三カ国が導入を決めた。2022年にロット14生産が始まると機材単価は77.9百万ドルまで低下する。
ただし同機開発のこれからの10年では、初期と同様の苦しい状況が予想される。
F-35共用開発室(JPO)はブロック4追加改修策でハードウェア・ソフトウェア66点の改修が必要と把握し、2019年5月に議会に報告していた。まず改修8点が2019年中に実施の予定だったが、実現したのは自動地上衝突回避システム一点のみだった。フルモーションヴィデオ機能を海兵隊向けF-35Bに搭載する構想もハードウェア面で予定より遅れていると会計監査院(GAO)が報告している。
JPOではブロック4開発の迅速化対策も採用した。性能改修は4回の主要改訂で実現するべく、ブロック4.1、4.2、4.3、4.4と六か月間隔で性能向上をめざすとし、継続性能開発提供 Continuous Capability Development and Delivery (C2D2)と呼ぶ。ロッキードでは30P5ソフトウエア開発が今年第三四半期内に完成する予定だ。この後、30P6が2021年第一四半期に登場する。この迅速開発体制は遅延の影響を縮小するのが狙いで、従来は大型ソフトウエア改修が二年おきにリリースされ都度遅延が発生していた。だがC2D2がテストに入ると、新たな問題がみつかった。たとえばブロック4のソフトウェアコードでブロック3Fで問題なく作動した機能が「問題」になったとGAOは指摘している。
ブロック4で次の大型改訂は2023年の予定で、ブロック4.2では Technical Refresh 3 (TR-3)ハードウェアがはじめて扱えるようになる。ここでは新型統合コアプロセッサ、機内記憶装置、パノラマコックピット表示が含まれる。ブロック3i(2016年)以来初のコックピット内演算処理となるTR-3でセンサー能力は一気に向上し、とくにBAEシステムズ製ASQ-239電子戦装備の利用が注目される。
F-35ではパノラマコックピット表示に加え、TR-3で新型統合コアプロセッサが導入され、処理能力が一気に25倍に増強される。Credit: U.S. Air Force
ただしTR-3改修にも開発面で課題がある。JPOは2021年度に42百万ドルを追加投入しTR-3の「技術的複雑性」の打開を目指すとしている。
「ハードウェア-ソフトウェアをひとつにとらえた開発日程の課題にサプライヤー各社が苦労している。このためハードウェアの暫定発表によりリスクを減らしつつソフトウェアを並行開発する」と空軍は2021年度予算説明書で述べていた。
F-35の特定調達報告書selected acquisition report (SAR)最新版を国防総省は7月初めに公表し、TR-3について同様の記述があり、とくに新型プロセッサ用のゲートウェイで課題の複雑さのため追加支援がサプライヤー一社で必要となったためのコスト上昇に触れている。コアプロセッサと機内記憶装置の開発も遅延中と同SARにある。
TR-3を搭載したブロック4.2仕様が配備されればF-35のパッシブセンサー能力は大きく向上する。またこの性能向上でBAEの電子戦装備特にジャミング発生装置がラック2A、2Bを有するASQ-239で使用可能となる。主翼前縁部に搭載の帯域2、3、4向け受信機、また帯域5用受信機により低周波から超高周波に至る無線信号受信を可能とする向上策もBAEが検討している。TR-3の強力な処理能力が加わればF-35は未遭遇の信号に対しても有効なジャミングが可能となる。敵対勢力がソフトウェア依存の無線交信や周波数変更方式のレーダー装置に切り替える中で認知電子戦cognitive electronic warfareといわれる分野が重要性を増している。
現行日程のままならTR-3とブロック4.2改修はロット15機材で間に合う。ロッキードは機内兵装庫改修に取り組んでおり、レイセオンAIM-120ミサイル搭載量を6発に増やす。ロッキードのAIM-260が実用化されれば外寸が同じなため6発搭載できながら射程は大幅に伸びる。
兵装庫改修で空軍の新型SiAWミサイル運用も可能となる。これは海軍の高性能対放射線誘導ミサイル射程向上型に新弾頭をつけるものだ。イスラエル資金を導入し主翼に燃料タンクを追加すれば有効距離は25%増加する。ただし、これは機体のレーダー探知特性を重視しなくてもよいミッションの場合だ。
2020年代末までにF-35の運用実態は1990年代末の設計段階と大きく異なるはずだ。空軍のスカイボーグ事業は地上及び空中から発射する各種無人機開発で、自律飛行可能なウィングマンの実現を目指している。F-35パイロットにはスカイボーグ自律装備の運用技量の訓練を意味し、各種ミッションを実施させることにつながる。米空軍はF-35パイロットにスカイボーグを再利用可能装備として運用させたいとする。いいかえればいったん発射したミサイルを標的が無価値と判明すれば回収して再利用するのと同じだ。
20年前に設計陣が想定したF-35は当初予定より遅れ調達運用経費は上昇しととはいえ、実戦機材として利用可能となった。次の10年でJPOとロッキードは利用可能となった新たな性能を追加し、さらにスカイボーグやSiAWといった最新技術の導入も図る。F-35の歴史を特徴づけるのは過大な期待と開発期間中の低い実績だ。ブロック4開発が構想段階から現実に移行する中でこれまでの過ちの繰り返しは避けるべきだろう。
【これからどうなる】
楽観視だと
- 一時的に停滞したものの世界各国の防衛支出は拡大に戻り、ロッキードは4千機の販売に成功する
- 懸念は残るもののロッキードはブロック4改修化を予定通り予算内で実現する
中立的見方
- 各国の防衛支出は2040年まで増加せず、事業には逆風となる
- ブロック4近代化改修は遅延し予算超過するものの調達に悪影響は出ない
悲観視すれば
- 各国の国防支出は減少を長期間続け、戦闘機分野は1990年代同様の「調達閑散期」に入る。
- TR-3リフレッシュとブロック4は大幅に遅れ、大幅予算超過で調達予算がさらに削減される。
この記事は以下を再構成したものです。
Lengthy F-35 Upgrade List To Transform Strike Fighter's Future Role
Steve Trimble July 20、 2020
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