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50年も主力戦車の座を守るM1エイブラムズ戦車はこうして生まれた

M1エイブラムズ主力戦車は米陸軍装甲部隊で半世紀にわたり主役の座を守っている。強力な装甲、ガスタービンエンジン、120ミリ主砲を搭載したM1はドイツ南部の丘陵地帯からイラクの砂漠まで各地で実力を発揮してきた。とはいえ、当初は失敗作とされ、利害対立の構図に巻き込まれ一時は消滅の危機もあった。

1960年代末、米陸軍は次期主力戦車を模索していた。M48/M60各型は設計上の限界に達しており、陸軍は完全新設計の戦車に新技術を盛り込もうとした。ペンタゴンは当初西ドイツとの協力で新型戦車MBT-70の実現を目指していたが、技術上の課題と予算超過で頓挫した。

陸軍は新型戦車開発を再始動し、これがXM-1となりその後M1になった。新型戦車は火力、防御、移動力のすべてで大きく優位性を発揮するはずだったが、激しい内部の争いの結果、いずれでも妥協を許す結果となった。

戦車の攻撃力の中心は主砲だ。MBT-70では152ミリ戦車砲で通常砲弾以外にシレーラ対戦車ミサイルも運用する構想だった。残念ながらシレーラは信頼性が期待以下で陸軍も従来型の戦車砲に戻らざるを得ないと悟った。

ソ連の主力戦車T-62はU-5TS115ミリ砲を採用し、米陸軍のM60はM68105ミリ砲だった。スペック上はソ連の主砲が優れていたが、米陸軍はXM-1に105ミリ砲をあえて使った。陸軍の言い分は105の装甲貫通性能は有効であり、各戦車に55発もの砲弾を搭載できる。陸軍の優先事項では主砲は三番目で、装甲、標的捕捉の次だった。

皮肉なことにペンタゴンの文官は大型主砲を好み、西ドイツ開発のラインメタル120ミリ砲を一押しした。同砲だと搭載砲弾数は50発と減るが、将来登場する敵装備に十分対抗できるとされた。ペンタゴンはソ連新型戦車のT-64(120ミリ砲搭載)に懸念を示し、XM-1は対抗できなくなると見ていた。

結局、両派は妥協した。初期生産型のM1は105ミリを搭載し将来ラインメタル120ミリ砲に性能向上することした。次の生産型M1A1は1980年代中ごろより生産開始され、1991年までに各部隊に広く配備されたため、砂漠の嵐作戦ではイラク陸軍の「バビロンのライオン」と呼ぶソ連製T-72主力戦車と対決することになった。

将官クラスは小口径主砲で満足したが装甲では妥協の余地はなかった。陸軍関係者は英国で開発された画期的な装甲技術「バーリントン」のことを耳にしていた。これはその後、英国の国立武器研究開発センターから近い村落「チョバム」の名で知られることになった。

同センターの研究はRPG-7ロケット推進手りゅう弾発射装置やソ連の対戦車誘導ミサイルに対応するため各種の鉄鋼素材やセラミクスで試験していた。ポリプロピレンによる防御も検討された。残念ながら同じ重量のポリプロピレンは鉄鋼よりはるかに体積が増して運用に耐えられないと判定された。

「チョバム」は鉄鋼とセラミクスの複合材料でハニカム構造に似ており、敵弾の爆発エナジーを吸収するものだった。

陸軍関係者は新型装甲に熱狂したものの懐疑心にさいなまれた。「米国外の発明品」として斥けようとする勢力の存在が多かった。だがその効果が明らかになると反対勢力は声を静めた。これと別に新型装甲の重量が技術面で深刻な問題になった。

チョバム装甲は効果を発揮したが、砲塔まわりに配備すれば砲塔はM60の鋳造から鋼鉄溶接に切り替える必要が生まれた。これが逆にエイブラムズ戦車の外形を未来型にした。問題はXM-1に十分な装甲を与えると重量は当初の35トンが40トン、さらに52トンへ増加していったことだ。これでは機動性が犠牲になる。陸軍が夢見た軽量高機動戦車は装甲要求のため消えたのだった。

一方で陸軍は1,500馬力エンジンとM60の倍の出力を求めた。まずダイムラー・ベンツがレパード2に供給していたエンジンとテレダイン・コンティネンタル製国産エンジンのディーゼルエンジン二型式を試した。だが三番目のエンジン、航空機用ガスタービンエンジンが試され、想定外の高評価を与えられた。ガスタービンは起動が早く、加速性能が優れ、排煙なしの走行が可能で、最も重要なのはほかのエンジンより小型で3トンも軽量なことだった。ガスタービン用に大量の燃料の備蓄が最前線で必要だが、欠点も帳消しになる効果が得られた。

M1エイブラムズの開発事例は高い要求内容がほかの要素とぶつかる典型例といえる。戦車の走行性能、火力、防御、機動性を追い求めると一定の妥協が必要となる。米陸軍は潔く重量で目をつぶり、完璧な戦車の代わりに実用上十分な戦力を有する戦車が生まれた。その結果は戦場の試練で真価を最大限まで発揮する主力戦車として結実し、数々の改良を経て、時の経過に逆らい続ける装備となっている。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 15, 2020  Topic: History  Region: Americas  Blog Brand: The Reboot  Tags: TechnologyMilitaryTanksTankU.S. ArmyArmyM1 Army



Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009, he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami. This first appeared several years ago and is being republished due to reader interest. 


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