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メタマテリアルで非ステルス機がステルスになる? 中国の言い分はどこまで本当なのか

ウスチャイナ・モーニング・ポスト紙が中国が旧型機をステルスに変える技術実験に取り組んでいると昨年伝えている。記事では「何層にも織り込んだ微小構造を集積回路のようにした『メタマテリアル』を使う。無線波をメタマテリアル表面で反射させ、多重像を作る、あるいはレーダー反射を最小にし、機体の探知を避ける」とあった。

このメタマテリアルは南東大学のミリ波国家中核研究所で開発され、瀋陽(遼寧省)で試験中だ。サウスチャイナ・モーニング・ポストはメタマテリアルを導入した機種を確認できていないが、瀋陽航空機がJ-11、J-15を生産しており、ともにステルス性能がない旧型機だ。

国家中核研究所ではメタマテリアル以外にもレーダー探知回避に有効な技術を模索している。同紙記事では「多重像錯覚装置」をチームが検討したとある。これは「機体の一部をレーダー上で金属ではなくプラスチックとして表示させ、1機を3機に見せる」ねらいがあるという。

非ステルス機をステルスに変える技術が実用化されれば中国空軍力に朗報となる。中国のステルス機J-20は20機たらず、その他機種が合計1,500機ある。記事にあるようにJ-20も中国が言うようなステルス性能はないのかもしれない。2月には「中国は予定より早くステルス高性能機の第一線配備に踏み切ったのは域内の安全保障情勢が悪化しているためもあるが、予定していたW-15エンジンがテスト中に爆発した事故も影響している。中国はこの問題を単独で解決できず、初期生産型のJ-20はWS-10Bエンジンを搭載している。同エンジンは既存のJ-10、J-11戦闘機に採用されたものの改修型。WS-10Bの性能ではJ-20はアフターバーナーでやっと超音速が出せる程度で、その速度域ではステルス性能はない」と記事にある。

メタマテリアルを中国の非ステルス機材の解決策に採用すれば別の問題が出る。ステルス技術の初期段階で関係者が述べたように、ステルスでいちばん重要な要素は「形状と素材」に尽きる。Wired誌が取り上げているが、ステルスを生む要素には「存在を消す化学品、高性能かつ格納式のセンサーや通信装置、特殊設計の探知しにくいエンジン空気取入口、レーダー波を反射しにくい塗料、熱特徴を減らす冷却装置」がある。素材ではメタマテリアルがある程度までならレーダー波吸収素材(RAM)と同等の効果がありそうだが、その他の非ステルス特性の解決策になるのか不明だ。たとえば低性能エンジンを搭載するその他機材でもメタマテリアルで排気熱を隠す効果が生まれるのか。西安電子科技大の応用物理研究所長Han Yipingはその効果に疑いを感じ、信頼性を十分確保しようとすれば他の点で犠牲が生まれるとサウスチャイナ・モーニング・ポスト取材に語っている。

Hanによればメタマテリアルには欠点があるという。まず、現在のメタマテリアルが効果を発揮するのは特定の無線帯域のみだという。ただし、どの帯域かはHanは述べていない。同時にメタマテリアルは大量生産が極度にまで困難だ。

メタマテリアル研究に取り組むのは中国だけではない。フィナンシャル・タイムズには「メタマテリアルがはじめて一般の関心を呼んだのは2006年だった。英国インペリアルカレッジのジョン・ペンドリーが論文2点を発表し、ハリー・ポッター式の透明化装置を特別開発の素材で実現できると主張した」と伝えている。その後、企業多数が民生用途で開発し、衛星アンテナやセンサーの軽量化・小型化をめざした。その他企業も太陽光パネルやレーダーを無人機に一体化させるべく開発中とFT記事が伝えている。

当然ながらこの技術に軍も注目しており、米陸軍では「カメレオンのように背景にあわせ変化する」技術の実現をめざしている。だがどこまで実用化に近づいているのか不明だ。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 8, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: ChinaJ-20MilitaryTechnologyWorldStealth
Zachary Keck (@ZacharyKeck) is a former managing editor of the National Interest.
Image: Reuters

コメント

  1. 先日,三菱電機から漏洩した防衛技術とは、これだったのかもしれませんね。

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  2. この素材でできた機体を量子レーダーで照射したらどうなるんでしょうね?
    反射しなければ量子も反応しないのでしょうか

    返信削除

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