日本にとっては共和党政権のほうが望ましい場合が多いのですが、今回はその共和党が分裂してしまうかもしれません。その原因がトランプ氏なのは明白で、保守派良識派が流れを変えようと躍起になってきましたが、時すでに遅しかもしれません。クリントン当選だけは阻止していただきたいものですが。
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Lunacy, Bluster & Unanswered Questions: Trump On Defense
国防力整備で断固たる姿勢の共和党ジョン・マケイン上院議員は同党大統領候補としてのドナルド・トランプに反対姿勢を表明し、前回の大統領候補ミット・ロムニーはじめ国防で指導的立場にある共和党所属議員65名とともに、「トランプ氏の国家安全保障観は無知かつ危険極まりない」と非難している。
「現在の世界情勢がこれまでにない複雑かつ危険を示す中、新帝国主義ロシア、強圧的な中国、拡張主義のイラン、狂気の北朝鮮指導者、さらにテロ活動の中東アフリカでの広がりを見るにつけ、くれぐれも共和党有権者には尊敬を集め知識も豊富な党指導層ならびに安全保障専門家がトランプ氏をどう評しているか注意をはらっていただき、じっくり考えてもらいたい。次期の最高司令官ならびに自由世界の指導者としてだれが適任かという点だ」とマケイン議員は声明を発表。
トランプは再び討論会でアメリカの将来と自身の役割を表明する予定であるため前OMBで国防関連の専門家だったマーク・カンシアン(戦略国際研究センター)による分析と主張の掲載に絶好のタイミングになったといえる。国の将来を祈ってもらいたい。編集部
トランプ候補の選挙運動から分析できるデータはほぼ皆無とはいえ、その国防構想を検分すべき時が来た。同氏が共和党大統領候補になる可能性が増えているためだ。トランプは既成の政策方針をすべて否定しており、国防政策でも同様の発言を繰り返している。共和党内の国防安全保障関係者に同候補へ不快感が高まっている。
トランプ陣営のウェブサイトに情報は少ない。わずか23秒で国防観を語っており、その要約は「わが軍を大規模で強力にし、どんな相手にも見下されない威力を実現する。退役軍人は大切にする。ISISは撲滅すべく迅速に排除する」というもの。トランプはインタビューや討論会で持論を展開しているので、合わせて分析してみよう。
そこでわかるのは本流たる共和党としての政策目標(本人は一応共和党の指名を狙っている)、大げさな大言壮語、全くの狂気、さらに対応できていない質問の山である。トランプ自身が取り上げている四分野(国防予算、退役軍人、、ISIS、同盟国との負担分担)で見ていく。
1. 国防予算の増額
主流派共和党政治家の言い分:アメリカの国防力増強は全員が共通で認識。共和党候補全員がこれを支持。
トランプの大言壮語:「誰にもバカにされない」とは言いえて妙だが、これが達成できないのは皆が知っている。歴史には強大国家が攻撃を受けた例がたくさんある。あらゆる面で優越性を永続的に維持できた国家はない。
トランプの狂気: トランプは2015年度の予算交渉は「予算管理の基本がまったくない」と否定し、「子々孫々に負担できない借金を負わせる」ので反対という。だがこの予算交渉があったから国防予算の大幅削減を回避できた。反対だったら国防強化の目標自体が危機に瀕していただろう。
トランプが回答しきれていない質問。どこまでの規模の軍を想定するのか。テッド・クルーズ上院議員の場合は年1,400億ドルの国防予算増額の前提で提言している。冷戦たけなわのころに軍に「低リスク部隊」で国防目標達成が可能かと問いかけがあったが、前提は第二次大戦規模の想定だった。トランプ候補もこれを念頭にしているのか。
2. 退役軍人の処遇改善
共和党主流派の主張: 退役軍人向け支援は党を超えた目標として政界は認識している。退役軍人問題はトランプが唯一政策案を展開している領域だ。トランプの考えは「無能な」幹部を解雇して運営効率をあげることだが、議会も退役軍人行政の強化を図っており考え方が一致する。
トランプの大言壮語。「退役軍人行政は悲惨な状態...汚職と無能な局幹部のせいで退役軍人が迷惑している。解雇せよ」
トランプの狂気: トランプ陣営資料によれば「退役軍人が必要な支援をいつでもどこでも得られる保障をする。もう遠隔地に出かけ長く待たされることはない」ようにするという。こんな誇張が基本線となると、退役軍人支援事業は政策目標に到達できず、退役軍人はさらに高い負担を強いられ失望感にさいなまれるだろう。
トランプが回答しきれていない質問。オバマ政権が任命したのは民間で実績を示したプロクターアンドギャンブル元CEOのロバート・マクドナルドだった。トランプはこれ以上のトップ人事があると考えているのか。退役軍人行政を民間ビジネスと同様に考えて退役軍人に選択肢を広く与えれば、退役軍人は当然今より好待遇を望むはずで行政経費が増大するが、これをどう処理するのか。まだ機能していない退役軍人局の一部業務を閉鎖できるのか。
3. ダーシュ(ISIL)に勝利をおさめる
共和党主流派の主張: ダーシュを敗北させる目標は広く共有されている。共和党候補者全員が同じ考えだ。オバマ大統領でさえダーシュの「撃滅」を表明している。
トランプの大言壮語:ダーシュを「早期に」排除するのは不可能。ゲリラ活動を短期に破った事例はない。
トランプの狂気: トランプはダーシュの収入源を断ち切るため、イラクの石油関連施設への空爆を主張しているが、これではイラク政府が離反してしまい、せっかく後押ししている現在の努力が水の泡となり、戦後の国土再建が困難になる。
トランプが回答しきれていない質問:どうやって早期に勝利を収めるつもりなのか。オバマ政権の方策は空爆と小規模地上部隊で現地同盟各国を支援するものだが、一定の成果を示しつつある。ラマディは奪回できたし、モスル攻略も始まっている。だが全体に非常に時間がかかっている。トランプは米軍を投入して短期のうちに勝利できると考えているのか。たしかに実施すれば迅速な効果を上げそうな唯一の選択肢ではあるが、繰り返し海外介入に慎重な姿勢を示してきたトランプの考え方と矛盾しそうだ。さらにシリア国内のダーシュはどうするのか。米軍を派遣し内戦に介入させるのか。
4. 同盟国にもっと負担させる
共和党主流派の主張:同盟各国に共通防衛の負担増を求めていくのは超党派で共通した政策目標でNATO創設時から不変。GDP比率で見ると米国は一貫して大幅負担をしているが、安全保障の効率は維持できるよう同盟各国に負担させる道を求めている。
トランプの大言壮語: 同盟各国に国防負担の「請求書」を送付する。
トランプの狂気:トランプ候補はイラクの原油1.5兆ドル相当を接収し米軍経費にあてると発言。現時点の原油価格だとイラクの石油収入全額を30年間にわたり召し上げることになる。イラクが同意するはずもなく、イラク原油を物理的に占拠するしかなくなり、実施は受容できないはずだ。
トランプが回答しきれていない質問: 有名なトランプの交渉力がここで発揮されるのではないか。冷戦後25年にわたり米国が交渉してもヨーロッパ各国はたいして変わっていない。NATOでの米国負担は2001年の50%が75%まで膨れ上がっている。日本(および韓国)では大きく負担比率が下がっている。もし相手側が今後は自国で防衛体制を整備して核兵力も視野に入れると申し入れてきたらどうするのか。日本が独自に大規模な軍事力を整備し多結果大きな被害が生じた前例はいまだに記憶に新しい。トランプは同盟各国を疎遠にさせずにいられるのか。
大統領選挙の公約ではあいまいな発言に終始するのは普通のことだ。クリントン陣営もルビオ陣営も詳細な国防安全保障の内容を発表していないので、トランプだけというわけではない。ただし、同候補の大げさな主張や無遠慮で過激な主張が感情から出ていることや回答できていない課題が多く残っているのは事実だ。■
マーク・カンシアンはオバマ政権の予算管理局で国防分野のトップ予算アナリストを務めた後、現在は戦略国際問題研究センターで国防アナリスト。
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