今回ご紹介する退役空軍大将のエッセイが意外な波紋を呼んでいるのは米空軍内部でステルス万能、スタンドオフ兵器絶対の思想があまりにも強いためでしょう。予算状況は厳しく米空軍はどんどん機材を整理していきますが、このエッセイを見れば各種機材の超呂を活かした作戦展開のためにはやみくもな機材の用途廃止はおかしいこと、ステルスは切り込み隊であり、F-15等のレガシー機材が攻撃の柱になって航空優勢が確保できることがわかります。では北朝鮮を攻撃する場合はどうなる(どうなっていた)でしょうか。
Defeating modern air defenses is achievable with smart strategies, not only stealth and standoff高度防空体制の撃破は賢い戦略で可能、ステルスやスタンドオフは万能ではない
Senior Airman Klynne Pearl Serrano/Air National Guard)
2019年度国防予算認可法案で議会は空軍に有人版JSTARS新型機の調達を断念し、かわりに大型宇宙配備装備の高性能戦闘管理システム(ABMS)を調達したいとする空軍の言い分を認めた。ABMSは定義もできておらず、経費も配備予定も未定だ。一方で空軍の意向に反して議会は17機残る旧型JSTARSのE-8C廃止を認めなかった。各機は広範囲地区の偵察や小型移動車両の追跡の他戦闘管理に投入されている。
だが今回の決定でもっと大きな意味があるのは空軍内部で高度統合防空網(IADS)の突破で考え方が明らかに変化していることだ。航空戦闘軍団司令官はJSTARS新型機調達中止を支持し、同機が高性能防空体制の厳しい空域では運用不可能なことが理由だという。
ただしこの考え方は古典的空軍戦術を無視しており、「厳しい」空域を「厳しくない」空域に変えるためには圧倒的兵力を投入すれば、空海陸の各部隊に敵空軍力の脅威を感じさせずに運用が可能なはずだ。こうした敵防空体制の制圧破壊は「ロールバック」と呼ばれ敵側装備が近代化されており耐えられない損耗が生まれる予測に反して、これまで数々の効果を上げてきた。
ただし今や空軍の立案部門ではロシア、中国の防空体制は相当整備されており、新型ステルス戦闘機や長距離巡航ミサイルでないと対応できないと見ているようだ。そのためJSTARS、AWACS、RC-135リヴェットジョイント、MC-130コンパスコール、B-2含む既存機種では相当の損失を覚悟したうえでないと投入できないと見ている。航空作戦の新指針では各部隊は一貫して厳しい防空体制の下で作戦展開するとあり、ロールバック戦略はみられず、制空権を短期間で確保しその後維持する構想は見えない。
ではこれまでの高度IADS相手の航空作戦を概観し、ロールバック戦略で総合的かつ永続可能な航空優勢の確保が可能であるか検証してみよう。その典型が砂漠の嵐作戦だ。
バグダッド並びにイラク各地の軍事施設はフランス製KARI防空ネットワークで防衛体制を整えていた。当時の防衛「専門家」からイラク攻撃に踏みきれば15から20%の損耗率を覚悟すべきとの意見があった。実態はどうだったか。イラクIADSを相手にロールバックを行ったが昼夜通した攻撃でイラク上空の航空優勢を3日で確保し、損耗率は1%未満だった。同様のロールバックはイラクの自由作戦(2003年)でも成功を収めている。
1982年6月にイスラエル空軍はシリア・ベカー渓谷でソ連供与のIADSへ対処を迫られた。予想ではイスラエルのF-15、F-16で相当の損耗が発生すると見られたが、イスラエル空軍はUSAFのロールバック戦術を採用し、敵脅威を排除しながら味方損耗は2日でゼロという戦績を上げ、その後の航空優勢を維持した。
損耗予想が過剰になる傾向があるのは予想モデルが現実と乖離しているため実際には対抗策、おとり、攻撃側の戦力規模、現場で優れた決断をする優秀な乗員が状況の変化に応じ戦術を切り替えるのが通例だ。
確かにステルス戦闘機・爆撃機やスタンドオフ兵器が今後の航空作戦の鍵をにぎる。だがステルスやスタンドオフ兵器だけに依存していては効果的なロールバックができない。それは砂漠の嵐作戦、イラクの自由作戦、べカー渓谷の戦闘事例から明らかだ。さらにステルス機材やスタンドオフ兵器で数量は多数確保できない。だが敵防空網をロールバックできれば非ステルス機や支援機も敵の抵抗が時として見られても自由に行動できる。厳しいと思われた空域が厳しくない空域になるのだ。
USAFには時代を見通した指導者がこれまで現れており、過去の戦闘事例から学び、IADSの限界をつく戦術を採用し、紙の上の損耗率試算と実際の戦闘との違いを理解し維持可能な戦力を整備し、迅速なロールバックで永続的に航空優勢を確保する意味を理解できる人員のことだ。今日の米空軍もこれまでの米空軍がしてきたのと同じ仕事が可能となる。すなわち迅速かつ決定的に航空優勢を確保し維持することだ。■
マイケル・ロー大将は米空軍参謀次長のほか航空戦闘軍団の司令官も経験している。
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