Dassault Aviation
新契約は、有人戦闘機含む欧州三国の空戦プログラムの実現に向けた次のステップとなる
フランス、ドイツ、スペインの3カ国政府は、有人型新世代戦闘機(NGF)を含む将来型戦闘航空システム(FCAS)で飛行実証機の開発契約を産業界に発注した。契約は32億ユーロ(現在の為替レートで約34億ドル)相当で、イギリス、日本、イタリアがグローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)で新型戦闘機を共同開発すると発表して1週間後のことである。
FCASの契約発表で重要なのは、「飛行実証」が2028年または2029年までに達成される見込みだ。しかし、FCASで開発される飛行実証機がどのようなものかは、まだ不明である。NGFで代表される有人戦闘機プロトタイプが含まれるかもしれないが、FCASの多面的な性質から、ドローンや空中発射兵器、その他の空中プラットフォームが含まれる可能性もある。
一方、GCAPプロジェクトでは、2027年までにデモ機を飛行させることが目標だ。
本日の契約は、フランス政府の防衛調達・技術機関であるフランス軍備総局(DGA)が、3カ国政府を代表し締結した。作業は、フランスのダッソー・アビアション、エアバスのドイツ部門、スペインのインドラ、含む産業パートナーが担当する。もう一つの主要な産業プレーヤーは、ドイツに本社を置く欧州軍事エンジンチーム(ユーメット Eumet)で、パワープラントを担当する。
欧州軍用エンジンチームが開発中のNGF用エンジン。 Eumet
「ダッソー・アビアシオン、エアバス、インドラ、ユーメットは、フランス、ドイツ、スペイン各国軍の運用ニーズに対応した強力かつ革新的な全欧州兵器システムを開発する決意を反映する今回の大きな前進を歓迎します」と共同声明で宣言した。
契約は、FCASのフェーズ1Bを対象としている。約3年半に及ぶこのフェーズには、より広範な研究・技術(R&T)要素と、飛行実証機そのものおよび関連サブシステムが含まれる。
FCASにはさまざまな頭文字が混在しており、混乱する可能性があることは留意しておく必要がある。また、イギリスには別のFCASがあり、テンペストがそこに含まれ、現在はGCAP(Global Combat Air Program)に組み込まれている。
フランス、ドイツ、スペインのFCASは、2040年頃にこれらの国々が導入する「システム・オブ・システム」を指すとエアバスは、説明している。これには、新規開発技術と、タイフーンやラファール戦闘機、エアバスA330 MRTT給油タンカーなど既存装備との接続が含まれる。フランス語では、FCASはSystème de Combat Aérien Futur(SCAF)とも呼ばれる。
エアバスのコンセプトでは、NGFが衛星ベースのコンバットクラウドを介しリモートキャリアや各種レガシー戦闘およびサポートプラットフォームと接続されている。 Airbus
FCASの最終的構想につながる作業は、次世代兵器システム(NGWS)プログラムでカバーされる。同プログラムでは、新世代戦闘機(NGF)をはじめとする新しい技術が採用される。有人戦闘機は、陸上と空母での運用が可能な戦闘機となる。
NGFはFCASの中核をなすが、具体的にどのような形になるかは未知数だ。2019年のパリ航空ショーで実物大モックアップが公開されたが、これはコンセプトのひとつを示したものに過ぎないと思われ、現在では複数が登場しており、ダッソーとエアバスで構成が違う。
2019年パリ航空ショーの初日に、ダッソー・アヴィアションが発表した「未来の戦闘航空システム」としての「NGF」の実物大模型。ERIC PIERMONT/AFP via Getty Images
ドイツ国防省によると、NGFは特に敵空域での探知可能性を減らすために、ステルス特性を取り入れる計画という。また、同省はNGWSの説明の中で、「高いステルス性能と可能な限りの空力性能のバランスを取る」と述べており、低観測性だけでなく、操縦性や運動性能のトレードオフを示唆している。
FCASが低観測性技術の恩恵を受けることは、2019年にエアバスが初めて公開した極秘事業「低観測性UAVテストベッド(LOUT)」プログラムでテストされたものであることから分かっている。LOUTは、さまざまな異なる低観測性構成を検討し、空力および無響室試験に使用される4トンモデルも含まれていた。現時点でこのプログラムについてわかっていることは、LOUTで飛行する機体が作られたりテストされていない、ということだ。もちろん、FCASではNGFと同様に、よりステルス性の高い様々な無人システムが開発される予定で、LOUT実験が活用される可能性は大いにある。
NGFは、フランス海軍の空母から運用が想定されているため、着艦を可能にする着陸装置や、カタパルト発射装置、アレスター装置など、設計にさらなる課題が加わる。また、空母運用のために機体を強化する必要があり、質量が加わる。さらに、空母運用に最適化するため、飛行翼と制御面の設計に海軍の要求を反映させる必要がある。少なくとも、空母運用型が必要になり、コストとスケジュールが増加する。海軍用NGFは、最終的には2038年に就役予定のフランスの原子力空母「新世代空母」に搭載される予定だ。
ただし、NGFは大きすぎ、フランス海軍の空母シャルル・ド・ゴールに搭載できないと報告されている。新型戦闘機の重量は、フル装備のラファールが約27トンであるのに対し、33トン程度になるようだ。より大きな機体は、かなりの航続距離と、かなりの積載量を内蔵する。
フランス海軍の未来型空母「PANG」の公式レンダリング、航空団にはNGFとラファール双方が搭載されている。 Naval Group.
NGWSには、NGFと一緒に働くように調整された他のシステムも含まれる。リモートキャリア(RC)は、他の有人機と密接に協力して飛行し、さまざまなミッションをサポートする。現段階では、A400M輸送機の母艦に小型RCを最大50機、大型RCを最大12機搭載する想定だ。エアバスによれば、「常にパイロットの制御下にあるものの、高度に自動化された状態で」運用される。
NGF有人戦闘機がリモートキャリアの共同「チーム」と協働する様子を描いたMBDAコンセプトアートワーク。MBDA
NGFジェット機、「忠実なウィングマン」として共同行動するRC、その他の資産はすべて、同じくNGWSの下で開発されているコンバットクラウド(CC)情報ネットワークを通じ連携される。
今月初め、エアバスはA400Mからリモートキャリアの飛行試験機(エアバスのDo-DT25ドローンの代用品)を初めて発進させ、運用を実証した。また、今夏には、戦闘機2機、ヘリコプター1機、リモートキャリア5機が連携して任務を遂行する大規模なマルチドメイン飛行実証実験を行った。いずれも、コンバットクラウドを介し有人機とリモートキャリアなどのアセットをシームレスに統合するFCA構想で、非常に意義のある実験となった。
先日行われたリモートキャリアプログラムのテスト飛行では、A400Mがエアバス社のDo-DT25を改造したRC実証機を発進さた。その後、地上のオペレーターに制御を委ね、オペレーターがドローンに安全にコマンドを送り、着陸させた。Airbus
また、主要3社が「ナショナルコーディネーター」として、各社でワークシェアを分担する方法も、だいぶ見えてきた。フェーズ1Bでは、以下のような領域が割り当てられている。
次世代兵器システム(NGWS)の整合性、実証、統合:エアバス、ダッソー・アビアション、インドラが共同契約パートナーとなる。
新世代戦闘機(NGF):ダッソー・アビアシヨンが主契約者となり、エアバスがドイツとスペインで主要パートナーとなる。
NGFエンジン:ユーメットが主契約者となる。同社は、フランスのSafran Aircraft EnginesとドイツのMTU Aero Enginesが50%ずつ出資する共同事業。スペインのITP Aeroがユーメットの主要パートナーになる。
無人機、リモートキャリア(RC):ドイツのエアバスが主契約者、フランスのMBDA、スペインのSatnusが協力するする。
コンバットクラウド(CC):ドイツのエアバスが主契約者、フランスのタレス、スペインのインドラ・システマスが主契約者となる。
シミュレーション:エアバス、ダッソー・アビアション、インドラ・システマスの3社が共同契約パートナーとして担当
センサー: スペインのインドラ・システマスを主契約者とし、フランスのタレス、ドイツのFCMSを主契約者とする。
低観測性強化(ステルス):スペインのエアバスが主契約者、フランスのダッソー・アビション、ドイツのエアバスが主契約者となる。
共通作業環境:エアバス、ダッソー・アビアション、インドラ・システマス、エウメットの4社の共同契約パートナーとなる。
知的財産権やワークシェアで内紛に阻まれてきたこのプログラムにおいて、各パートナーの産業上の取り決めが決まったことは大きな意味を持つ。
エアバスは、「過去数カ月にわたる話し合いの結果、産業界と3カ国政府協力の基盤を強固に構築できた」と述べており、これらの問題は現在解決されたようだ。
今月初めには、主契約者であるエアバス、ダッソー・アビアション、インドラ、ユーメットが、フェーズ1Bの契約締結への道を開く、全体的な産業合意に達したと報告された。
これまでFCASの作業は、2020年初頭に開始されたフェーズ1Aで実施され、主にR&Tと開発の取り組みとして、FCASの目標を達成するため必要な主要技術の特定が目的で、次はフェーズ1Bで飛行実証機や関連技術として完全に実現される。
フェーズ1Bでは、飛行実証機の実現まで、まだ多くの開発作業が残っている。実証機のうち1機は、NGFの飛行プロトタイプになるのが筋だが、それも確実ではない。GCAPプログラムのデモンストレーターと同様に、米国の次世代航空支配(NGAD)プログラムでも、少なくとも2020年9月以降、実証機が飛行している。
フェーズ1B契約は、FCASにとって正しい方向への大きな一歩だが、その先には深刻な課題も多数ある。
ステルス戦闘機の計画は、その性質上、開発期間が非常に長く、コストも非常に高くなる。GCAPと同様に、3カ国がコストと産業能力を提供することで、スケジュールとコストを管理しやすくなる。しかし同時に、プログラムでは、異なる(相反する可能性のある)国の要求が満たされ、産業パートナーがワークシェアと技術アクセスに満足し続けるようにする必要がある。過去には、これらがFCASの障害となった。また、GCAPで日本が参加したことで、東京資金力を活用するのは非常に賢明な行動に思われる。GCAPに参加する前、日本はすでに新型戦闘機の開発に約400億ドルを投じる想定だった。
イギリス、日本、イタリアが参加するGCAP(Global Combat Air Program)の発表に合わせ公開された公式コンセプトアート。MHI
一方、欧州の空軍指導者には、ライバル関係にある2つのFCASの取り組み(英国主導、独仏スペイン)を融合させるべきとの声もある。
エアバス・ディフェンス・アンド・スペースの前CEOダーク・ホークは、ヨーロッパに2つのFCASを導入する余裕はないと主張しているが、英国は統合の可能性に抵抗があるようだ。
昨年、英国国防省の未来型戦闘航空プログラム・ディレクターであるジョニー・モートン空軍准将は、シェパード・ニュースのティム・マーティンに次のよう語っていた。「フランス、ドイツ、スペインの未来型戦闘航空システム計画に参加するつもりは全くない」。
全体として、ホーク発言は真実だと証明されるかもしれない。ヨーロッパの大国が、競合する2つのステルスジェットプログラムに資金を投入できるか懸念が消えない。
おそらく、多くの野心と技術的なクロスオーバーを共有しているので、少なくとも2つのプログラムのいくつかの要素、例えば武器とセンサーは、最終的に融合するかもしれない。
少なくとも当面は、ヨーロッパで並行して野心的な次世代戦闘機計画が2つ進行する。どちらも、10年以内に飛行実証機を飛行させようとカウントダウンが始まった。■
European Future Combat Air Program Wants Demonstrators Flying By 2029
BYTHOMAS NEWDICK|PUBLISHED DEC 16, 2022 3:35 PM
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