USN
退役タイコンデロガ級巡洋艦をグアム周辺に配備すれば効率よくグアムのミサイル防衛の傘を拡げる効果が生まれるのではないか。
米陸軍がイスラエル製アイアンドーム装備をグアムに配備し始めているが、数ある脅威の中でも巡航ミサイル相手に同装備が使えるかが焦点だ。同時に米軍にとってはさらに広範かつ多層構造のミサイル防衛の盾を戦略上重要なグアム島に展開することが課題だ。しかも迅速かつ安価に。そこでこの難題の解決策としてタイコンデロガ級巡洋艦を再活用できないか。米海軍は同級を退役させたいとしている。
現時点でグアムに展開中のミサイル防衛装備には陸軍のTHAADもあり、弾道ミサイルを最終段階で迎撃する。また前述のアイアンドームもある。陸軍は今回のアイアンドーム展開は短期間に限定し、実弾発射の予定もないとしている。
グアムに固定式イージスアショア施設を構築する案が昨年浮上してきた。米海軍はルーマニアで同様の施設を運用中だ。提案の背景には中国の航空部隊やミサイルの脅威がハイエンド戦にいったん発展すれば現実のものとなることもあり悠長なことは言ってられない事情がある。ただし、今年三月にミサイル防衛庁長官ジョン・ヒル海軍中将は地上配備装備では対航空機、ミサイル防衛の必要に対応できないと発言し、分散型防衛システムを提案し、地下施設や移動式装備の採用を提言した。
10月にMDAは議会に極秘扱いの報告書を送付し、グアム防衛システムの選択肢を提示した。本稿執筆時点で公になっているのは「装備構造研究」の部分のみで、かつ内容はごく少ないものの、機密解除版は非公開のままだ。
「追加研究の提言として、移動式装備に限った要求内容の検討があり、国際日付線以西の脅威に前方配備マルチドメイン指揮統制機能が対応する際の複雑性と緊急性はあえて無視している」とフィリップ・デイヴィッドソン海軍大将(インド太平洋軍INDOPACOM)司令官が退役前の3月に議会にて発言していた。デイヴィッドソンはイージスアショアのグアム配備を強く主張し、2026年以前に展開を完了し、太平洋での中国の動きを抑止すべきと口に衣着せず発言していた。
そこでタイコンデロガ級巡洋艦がからんでくる。現在同級は21隻が海軍にあるが、2022年度予算要求案では最古参の7隻を退役させるとある。各艦にはイージス戦闘システムが搭載され、強力な AN/SPY-1A/B多機能レーダーとMk 41垂直発射システム(VLS)122セルで各種ミサイルに対応する。SM-2、SM-6の対空ミサイル、SM-3弾道ミサイル迎撃ミサイルなどだ。このうちSM-2、SM-6は水上艦艇も二次攻撃対象とする。海軍はSM-6の大型派生型の開発も進めており、Mk41VLSで運用可能となり、MDAは対極超音速兵器の迎撃手段としてテストしたいとしている。
現在の標準型イージスアショア施設に同様の装備品が使われており、フライトIIAアーレイ・バーク級駆逐艦並みの機能を陸上に展開している。アーレイ・バーク級のイージス戦闘システムにはAN/SPY-1Dが採用されMk 41VLSは96セルになっている。
MDA
MDAの説明資料ではフライトIIA仕様のアーレイバーク級駆逐艦と陸上配備のイージスアショアの共通点を示している。
であれば、退役タイコンデロガ級巡洋艦を固定停泊させればイージスアショアと同様の有効範囲と性能が実現するはずだ。二隻以上定置させればさらに大きな防衛力が低コストで実現しそうだ。
今年八月にはヘリテージ財団がワシントンDCで海軍戦と高度技術が専門の主任研究員ブレント・サドラーがまとめた白書を公開し、まさしく同じ構想を展開した。サドラーは海軍が退役しようとするタイコンデロガ級7隻のうち3隻、すなわちUSSシャイロー、USSエリー、USSポートロイヤルにはイージス弾道ミサイル防衛装備が搭載されており、SM-3迎撃ミサイル他との組み合わせICBM含む大型ミサイル対応が可能と主張し、中間飛翔段階の大気圏外で迎撃できるとある。
「BMD対応の巡洋艦を退役させようという海軍の根拠は外洋運航するとこれまで保守管理をあとまわしにしてきたため高コストとなるからというものだ。とくに燃料タンクで漏れが発生している」(サドラー)「グアムには係留地が数か所ありBMD対応巡洋艦が短時間で場所を移動できるし、外洋では曳航移動も可能だろう。そのため艦の推進機関への高度対応体制は不要となり、乗組員削減も可能だ」
サドラーは自力移動力を限定しても曳航して移動でき、各艦の乗組員は最小限に絞ったまま、域内を移動しながら各種兵器を発射できると主張。
HERITAGE FOUNDATION
ヘリテージ財団による地図ではタイコンデロガ級巡洋艦三隻をグアムや米領サイパン付近や独立国パラオに配備した場合のミサイル防衛範囲を示している。
さらにグアムには戦略上重要な航空基地海軍施設があり、太平洋における米国の軍事力投射の中心地とされるので、同島への脅威を受け、近隣のティニアン島でも施設拡張の作業が必要となっている。また島しょ国のパラオとは防衛安全保障面での協力の仕組みづくりが進んでいる。退役後のタイコンデロガ級はこうした島しょ部の防衛にも役立つ。
ただし実施には費用とともに困難なハードルが立ちふさがる。「一部艦にはSPY-1Aレーダーが搭載されているが、アナログ装備だ」と海軍作戦部長マイケル・ギルディ大将が7月の海軍連盟イベントで述べており、「その他艦のレーダーも初期型SPY-1Bだ」と指摘した。
U.S. NAVY
タイコンデロガ級巡洋艦USSチャンセラーヴィルが2016年グアムに寄港した。
「こうした装備品は老朽化しており、敵ミサイルの速力に対応できず探知できなくなる事態が想定される」「巡洋艦自体の近代化改修は数千万ドルと当初想定を上回る額になっており、とくに供用開始後三十年が経過した艦体補修が大きな要素だ」(ギルディー作戦部長)
海軍では各種艦艇向けに新型かつミサイル防衛対応レーダーの導入を進めており、イージス戦闘システムも新しいバージョンに発展している。イージスのメーカーはロッキード・マーティンでAN/SPY-7(V)1長距離識別レーダー(LRDR) をタイコンデロガ級の AN/SPY-1 の後継装備として提案している。
係留状態のタイコンデロガ級ではかつての運用要求は不要となり、艦内センサーだけに依存しなくても脅威に対応できる。洋上展開する他艦や地上、空中、宇宙とネットワーク接続すればよい。ペンタゴンはすでにLRDRをハワイに設置する企画に取り組んでおり、戦術複合ミッション用水平線越えレーダーを独立国パラオに設置し、空中及びミサイルの脅威の探知能力向上をめざしている。これと別にグアムにも設置の話がある。衛星ベースのレーダー探知網を太平洋に実現する構想もある。
このからみでタイコンデロガ級が武装バージとしてVLSを活用し多層構造のミサイル防衛の一部になりうる。艦を不定期に移動すれば敵軍は位置把握に苦労するだろう。
「レーダーと兵装類の一体化の解除は前からある考え方だ」とMDAのヒル長官は3月にグアム防衛手段としてイージスアショア以外の可能性に触れていた。「リモート交戦」や「リモート発射」のコンセプトがミサイル防衛にあり、追尾照準データは外部から迎撃ミサイル発射装備に伝えられる。この考え方は確立済みだ。またネットワーク化センサー構造により標的の捕捉追尾が迅速になり、迎撃手段を確実に脅威に振り向けられる。
艦のレーダー他ミッション支援装備、主エンジンなど重整備が必要となる装備システムは除去するか廃棄する。指揮統制機能や主要センサー類は遠隔から行う。これで各艦を島しょ部防衛に投入しながら費用面で大きな訴求力が生まれる。
このような形でタイコンデロガ級を使用する承認を議会が出すかも落とし穴だ。議員連はいかなる理由にせよ巡洋艦退役に今後も反対し、各艦の能力とともに当面代替となる艦の出現が見えないのを理由とするはずだ。下院軍事委員会シーパワー及び兵力投射小委員会は今年始めにこうした反対意見が勢いを失いつつある兆候があるとしたが、下院上院ともに巡洋艦退役で生まれる穴を埋める海軍の案に懐疑的だ。
下院歳出委員会では別個に今後のグアム防衛システム予算を2022年度国防予算案から削除する動議を出している。ペンタゴンが正確な支出規模を伝えられないためとする。10月のMDA報告書では1.183億ドルでグアム向け新型防空ミサイル防衛体制の開発を開始するとあるが議員連が同じ要求を出していた。
老朽化してきたタイコンデロガ級巡洋艦群を再使用すれば、海軍としては装備品の整理にもなり、係留したまま防空ミサイル防衛拠点となりグアム周辺の防衛の傘を大きく広げる効果が生まれ、新しい解決策として関係者全員に魅力に映るはずなのだが。■
Decommissioned Navy Cruisers Could Be The Answer To Guam's Missile Defense Needs
BY JOSEPH TREVITHICK NOVEMBER 10, 2021
>新しい解決策として関係者全員に魅力に映るはずなのだが。
返信削除魅力的ですかねえ?
要は、退役艦で劣化版のアーセナル・シップを作ろう、ってことですよね。
まともに自力移動出来ないようなら、始末に負えない代物になりそうですし。
移動できる発射管と連接システムだけ期待するなら、新造の方が安そうですし。
船としての整備と乗員の船乗りとしての訓練をどこまで省略できるのかがカギですね
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